★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
SF、ミステリーから現代物まで何でも書いてます。
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彗星の時(20)

2011年10月26日 | 短編小説「彗星の時」
 すると、三人の体から薄皮がはがれるように透き通った人型が離れていき、影の薄い三人がもう一組出来上がった。ヤーコンはもう一回杖を鳴らした。その音と同時に、影が薄かった新しい三人組の姿が徐々にはっきりしていき、その分本物の三人は影が薄くなっていった。
「こんなものかな」
 ヤーコンが杖を横に振ると、まるで本物の人間のようになった影三人組みは、音もなくするすると動き出した。
「あれは、覇道39番で作り出した影法師です。よーく見ると判りますが、普通に見ただけでは人間そのものです。サルサが遠方から探っても我々本体の気配を薄くしたので、だまされるはずです」
 ヤーコンはそう言うと、杖を左右に少し傾けた。影三人組は杖の動きに応じて左右に蛇行する。
「よし、いいだろう」ヤーコンは、杖を大きめに傾けた。
 影の三人組はまるで歩くように(足は動いていないが)移動していき、門の中に進みこんだ。
 と、その時、一番手前の建物の影から、鎧を着た数人の兵士が飛び出してきて剣の柄に手をかけたまま叫んだ。
「『天の国』のケイン殿一行とお見受けいたす。ご同行願いたい」
 影三人組は一瞬立ち止まったが、そのまま音もなく兵士たちと反対側に動き出した。
 兵士たちはあわてて影三人組を追いかけ始めた。しかし、影三人組の動きは尋常ではない。
 音もなく、一糸乱れずすごいいきおいで滑っていく。

彗星の時(19)

2011年10月23日 | 短編小説「彗星の時」
三人がシアークにたどり着いたのは、陽の出の少し前だった。
 まだ街は目覚めていなかったが、パン屋や早出客が多い宿屋等、朝が早い商売家の煙突からはすでに白い煙が上がっていた。道路には人影は見えず静まり返っている。
 ヤーコンは、町にはまだ入らず、ケインとシャインを町を一望できる小高い岩山に導いた。
 町の周りは人の背丈の倍ほどある壁でぐるりと囲んである。この辺りの町に多い造りで、野生動物や野党を防ぐためのものだ。入り口は東西南北に一箇所ずつ、門が設置されており、夜間は閉じられているが、日の出が近い今は開いたばかりだった。
「ケイン様、この町シアークでは、サルサから連絡を受けた『地の国』の兵士たちが私たちを待ち受けているでしょう。たぶん、あの門の辺りだと思います。サルサの力を持ってすれば、我々が今どこにいるか判っているはずです。ですので、ここで覇道を使います。兵士たちの目を少しだけ欺いて町にさえ入ってしまえば何とかなるでしょう」 
 そう言うと、ヤーコンは呪文を唱え、杖の輪を一回打ち鳴らした。

彗星の時(18)

2011年10月16日 | 短編小説「彗星の時」
「映身の術・・か」
ヤーコンはそう言いながら、サルサが消えた場所に行き、杖の先で地面を穿ってみると、黒光りする平らな石が出てきた。
「それは、、黒魔石ですね」
ケインが聞いた。
「そうです。『地の国』の鬼道でよく使われる石です。魔力を蓄える性質があるので、さまざまな術に使われます。サルサ導師はここにはいなかったようです。映身の術で、遠い場所からこの黒魔石を通して姿を表していただけですね」
ヤーコンはそう言うと、杖の先で黒魔石を突き割り、シャインたちを振り返った。
「サルサ導師が追っ手ということはかなりやっかいですね。先を急ぎましょう」
割れた黒魔石を見ながらケインが質問した。
「サルサとは何者なのですか」
「『地の国』の鬼道の達人ですが、表の世界にはあまりでてきませんのでケイン様もご存じないでしょう。しかし魔道の世界では闇の実力者、魔人とも言われるほどかなり有名です。その力は鬼道の第一人者ジゼル大導師に勝るとも劣らないとも言われています」
「そんなすごい魔導師が・・」
「ケイン様を襲い、シャイン殿が追い払ってくださった巨大ゾンデも、ヤツが仕掛けたとなれば納得がいきます。とにかく急ぎましょう」
ヤーコンは言い終わらないうちに、かなたに輝く町の灯り目指して歩き始めていた。

彗星の時(17)

2011年10月10日 | 短編小説「彗星の時」
 ヤーコンは、そのフードの奥を見透かすかのように言った。
「お互い、手の内を知りつくしているのですから、無駄な争いはやめて我々を無事『天の国』へ帰れるようにはしていただけぬものですか」
 サルサは、フードごと頭を左右に振り、地の底から響くような低い声で反論する。
「できればわしもそうしたいところじゃが、そうも行かぬ。そこな王族のご子息には今しばらく我が『地の国』に滞在していただかなくてはならぬ。そのことは貴殿も重々承知しておろう」
 ヤーコンは、サルサの言葉を聴きながら、ケインたちのそばに近づいた。
「人間を超えているといえば、その男。いったい何者じゃ」
サルサは、ヤーコンが近づいていった二人、特にシャインの方を見ながら言った。
「とても人間には思えぬ・・・・が、さりとて魔道の波力も感じられぬ。そのような者見たこともない」
ヤーコンは、一瞬困った様な感じに少しだけ唇を歪めたが、すぐにニヤリと笑みに変えて言った。
「このお方は、われらの用心棒、未知の力を使いこなす超戦士なり。サルサ殿とて重々ご用心めされよ」
 サルサはしばらくシャインを見つめていたが、見ているだけでは埒が明かないと思ったようで、
「多勢に無勢じゃな。ここはひとまず退散するとしよう」
と言うと、手に持った杖を地面に刺すように突いた。杖の上先端には、ヤーコンのそれと同じように金属の輪が付いて、地面を突いた拍子に「シャリーン」という音が響いた。土くれの兵士が出てきた時と同じ響きだった。
 だが今度は、土くれ兵士が出てくる代わりに、サルサの姿が徐々に薄くなっていき、やがてすっかり消えてしまった。