★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
SF、ミステリーから現代物まで何でも書いてます。
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移民船ブルードリーム(10)

2010年08月25日 | 短編小説「移民船ブルードリーム」
 航海も折り返し点が近づいてきた。「ブルードリーム」が肉眼でも見えてきたのである。はじめは小さな星々と同じような光点だったが、近づくにつれ長細い銀色のピンのような形になってきた。さらに近づいていくとピンどころか巨大な銀色の竜のように見えてくる。
 5000人乗りの移民船「ブルードリーム」は全長2000メートルの大型船で、細長い形をしている。無重力の宇宙空間だからこそ維持できる船体の形なのだろう。
 基本的な構造は、おおまかに分けると移民収容区と運行区に区分される。移民収容区は、50人が収容できるコールドスリープ装置ユニットがひとつの単位になっていて、5000人分、100ユニットがつながっている。これだけで、船体の80%を占めている。
 残りの20%は運行区となっており、この移民船を「ガイア」まで到着させるための機関部や操縦室、クルーの居住区・コールドスリープ装置管理部などクルー約20人が交代で起きて仕事をしているところだ。
「まずは、船体の破損箇所の船外チェックね。計画通り飛んでちょうだい」
 事故調査委員のマリーが「マゼラン」キャプテンのスミスに言った。
「OK」
 スミスは「マゼラン」の操縦桿を握っている副キャプテンのケンジになにやら指示を出した。
 ここは、「マゼラン」の操縦室。本来、パイロットと関係者以外は入れないことになっているが、僕は宇宙船操縦C級ライセンス取得のための勉強ということで許可をもらい特別に操縦室に入らせてもらっている。意外と広い室内には、キャプテン、副キャプテン、ナビゲータ、事故調査委員のマリー、それに宇宙船製造メーカーの2人が同席していた。
 「マゼラン」は「ブルードリーム」の細長い船体の外周を螺旋を描くようにして飛行し始めた。「ブルードリーム」の外装全体を目視できる範囲で記録するためだ。
 操縦室の上部と前部、それに左右の壁面は全面モニターになっており、僕たちはガラスのコクピットにいるような感じで「ブルードリーム」を見ることが出来る。
 出航して約3年、「ガイア」を目指して飛行を続けてきた船体だが、目だった汚れも無くピカピカに輝いていた。

移民線ブルードリーム(9)

2010年08月23日 | 短編小説「移民船ブルードリーム」
「サブローも知っていると思うけど、現代の宇宙飛行は光並の速度で飛んでいるわよね。ほとんど真空に近い宇宙空間だから実現可能なんだけど、実際宇宙空間には小惑星とか宇宙のチリとか結構浮いているのね。でも高速で飛ぶ宇宙船にとって、そんなチリのような小さな物体でも、ぶつかればすごい衝撃を受け、大事故につながるわけ」
 確か大学の基礎講座『人類が宇宙進出する上での問題点』とかいうお題目で習ったような気がする。
 マリーは続けた。
「そこで、どうしたかというと、長年かけて「ガイア」までの宇宙空間を徹底的に調査し、チリのサイズまで障害物の位置を把握したの。そして国連にあるスーパーコンピュータにあらゆる物体の軌道を入力し、航路上の障害物を全て取り除いて、やっと今のような亜光速まで出せるようになったのよ。でも障害物を全て取り除いたつもりでも、こういう衝突事故は時々起きるのよね。なぜだか判る?」
「さあ、コンピューターへの入力漏れとか・・あ、わかった。他の船の落し物とかかな」
「そうね。そのケースも結構あるようなんだけど、今まで起きた事故を調査すると、本来そこにあるはずがない物体が軌道計算外の動きをして存在したり、はるかかなたの調査対象外区域から超高速で移動してきていたり不思議なことも多いのよ。つまり、宇宙は常に動いている。生きているのね。私の仕事は、その衝突物はいったい何でできていてどこから来たのかを調べ、同じようなケースが二度と起きないようにすることなのよ。」
 なるほど、宇宙は生きているか・・僕達人間は、宇宙という大きな生物の中に存在する微生物のようなものかもしれないな・・と思いながら、ふたたび窓のほうに目をやった。相変わらず青みを帯びた星々が大量に見えるが、先程よりもなにかしら生っぽい感じがした。

移民船ブルードリーム(8)

2010年08月12日 | 短編小説「移民船ブルードリーム」
「どう?勉強は進んでる?」
 窓の外の星々をぼーっと見ていた僕に話し掛けたのは、連邦政府から派遣された事故調査委員マリーだった。年の頃は35歳くらいか、さっぱりした性格であまりお役人という感じはしない女性だ。
「はい、出港してからもう半年にもなるんで、見えるところは、ボルトの一本一本まで覚えちゃいました。そろそろキャプテンに言って、操船の方も教えてもらおうかと思ってます」
「そっか、もう半年にもなるんだ。宇宙にいると季節がないから、時間の経過がわからなくなっちゃうわね」
 宇宙船の中では、出発した宇宙港の地球時間に合わせ、昼と夜を人工的に作って明るくしたり暗くしたりしているが、季節の移り変わりまでは計算に入れていない。
「マリーさんの方はどうですか」
 マリーの仕事は、事故を起こした移民船の事故原因の究明と、再発防止に向けた対処策を検討し連邦政府に報告することだ。
「そうね、出港前に届いた報告書が最新の事故状況だから、もう半年間も情報がないのよ。手持ちの資料のデータ分析はとっくに終わっちゃってるし、事故原因の分析も何も到着してみなくちゃ始まらないってとこね」


 僕達が向かっている事故船は「ブルードリーム」という名前の移民船だ。青い空間の先の夢とでも思って名づけたのかもしれない。事故にはあったものの、「ブルードリーム」は、夢の星「ガイア」に向かってまだ飛び続けている。
 移民船「ブルードリーム」は、全長約2000m、収容人員数5000人、の大型船だ。
 5000人といっても、大半はコールドスリープで眠っており、操船は乗組員数人が交代でコールドスリープから覚醒し行うことになっている。
 今回の事故は、浮遊物との接触による船体破損ということらしい。
 報告書によると、予定外の浮遊物が航路に存在し接触、右舷前方を破損。その影響により、50人分のコールドスリープ機器に故障が発生、かろうじて45人は覚醒し助かったものの残り5人はコールドスリープのまま死亡、当直の乗組員も一人死亡した、というのが概要だ。

移民船ブルードリーム(7)

2010年08月03日 | 短編小説「移民船ブルードリーム」
 そして、僕は今、こうして中古旅客船「マゼラン」に乗船し、宇宙船体管理の勉強の一環として、船体設計図を片手に客室に来ている訳である。
 地球を出発してから半年が過ぎた。僕は毎日のように船体図を参考に船内を回り、「マゼラン」の構造から部品の形まで、見えるものはもうほとんど覚えてしまった。今は、電子システム装置の勉強をしており、客室にあるサーバーの設定内容を確認しに来た。
 客室はこの船の中で一番広い空間をとっている。席数は70。元々120席セットできるスペースだが、今回の乗客は約50名、しかも2年間過ごすということで大きめのスーパーシートに交換し、仕切りをして個室化しているため、レンタルルームのような雰囲気になっている。
 通路には小さな窓があり宇宙空間が見える。星の数がすごい。地球上では大気の層があるので天気によって星の見える数は限られるが、宇宙空間では遮るものがないので本当にたくさんの星が見える。宇宙とは意外と明るいものだ。全体的に青っぽく見えるのは亜光速で飛行しているためらしいが、詳しいところはよく判らない。

移民船ブルードリーム(6)

2010年08月02日 | 短編小説「移民船ブルードリーム」
 ちなみに、この船のクルーはキャプテン以下7名の小世帯である。
 キャプテンは元宇宙軍で軍艦のパイロットをしていたスミス、副キャプテンは前歴不明の片腕ケンジ、ナビゲータのベン、機関士のビル、ロック、パーサーのチャン、一番下っ端で一番若い僕サブロー。
 それに、今回は、宇宙船の事故ということで、連邦政府の事故調査委員会から一人と宇宙船製造メーカーから二人が乗客として乗っている。つまり、クルー7人と乗客3人計10人とだけ2年間顔をつき合わせて過ごし、帰りはこの人数に50人を足して地球に戻るということになる。
 実は、僕はアルバイトである。僕の仕事は、帰りに増える50人の乗客の世話係、パーサーの助手ということで雇われた。いつもは僕以外の6人で仕事をこなしていたらしいが、50人を2年間運ぶとなると人手が足りないらしい。
 僕は、昨年かろうじて大学を卒業したが、昨今の不況のせいでなかなか希望の職業に就くことができないのを口実に、ふらふらフリーターを続けていた。
 その頃、この仕事の話が舞い込んできた。先に声をかけられた友人達は相次いで断ったらしい。アルバイト期間4年(しかも途中解約できず)というのがネックだったそうだ。確かに若い身空で4年間の空白を作るのもちょっと抵抗があったが、僕の場合は単純に報酬に惹かれてあっさり引き受けてしまった(これじゃキャプテンと同じだ)。
 金額もなかなか良かったが、一番魅力的だったのは、この航海中に宇宙船操縦・船体管理のC級ライセンスと宇宙空間遊泳B級ライセンスが取得できるということだ。
 僕の希望する職種は、宇宙とはあまり関係ない仕事だが、「ガイア」が見つかってから宇宙関係は花形の職種になっており、宇宙系の資格をとっておくことは就職の際とても有利になるはずだ。
 資格取得の勉強は、主に往路に行われることになっている。復路は僕の本来の仕事であるパーサー助手をしなくてはいけないためなかなか時間が取れなくなるためだ。