★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
SF、ミステリーから現代物まで何でも書いてます。
良かったら感想をお聞かせください。

義腕の男2(48)

2016年02月29日 | 短編小説「義腕の男2」
 ジェイの名前が出たことで、クリス博士は何かに気がついたらしい。
「・・・あ、そうか。ジェファーソン博士の研究には・・」
 クリス博士がそこまで言った時、ズーンという腹に響く音と、地鳴りが響き渡った。何か爆発したような音だ。
 引き続き、ジェファーソン博士がでていったドアの外からなにか凶悪な音が聞こえてくる。
 銃声だ。
 その音に恐怖を感じたのか、クリス博士は怯えた目つきで、俺のベッドの影に隠れた。
 再び腹の底を揺するような重低音が響くと、ドアがいきなり開いて黒煙とともに人影が部屋に入ってきた。
 かなりでかい。
 煙が収まって姿が顕わになってきた。迷彩服を着た大きな男だ。だが、よく見るとその顔は金髪で体の割りに妙に華奢な感じがするほど小さい。
 その巨漢は、さっき出て行ったばかりのジェファーソン博士を左腕一本で後ろから羽交い絞めにし、右手で鋼色の小型マシンガンを構えたまま、部屋の中に無造作に歩み入ってきた。かなりの怪力の持ち主だ。
「さて・・と、ジェファーソン博士、どの端末からなら全データをダウンロードできるのかな?」
 怪力の巨人は、片目に特殊なレンズをつけ部屋の中を見渡し、捕われの身の博士に尋ねた。
 よく見ると、ジェファーソン博士の額には、幾筋か血が流れており、蝋のような蒼白な顔をしている。頭部に怪我をしているよう だが、意識はあるらしく口を食いしばり必死で抵抗している。
 しかし、迷彩服の男は顔色ひとつ変えずジェファーソン博士を後ろからさらに締め上げ、全く力の抜けた言い方で聞き直した。
「博士、ジタバタしても始まらないよ。ここには私たちを止められる人間なんていないからね。早いとこ協力したほうが利口だと思うけどねぇ」
 金髪のその男は、癪に障る言い回しに、いやらしい笑いを浮かべ部屋の中を見渡した。
 ジェファーソン博士は、その言葉と締め付けの力の強さに諦めたのか、顔から必死さが消え、なんとか逃れようともがいていた腕から力も抜け、振るえる指で一方の壁際にあるパソコンを指差した。
「ほう、博士、あれだね。マスターDBからデータがダウンロードできる端末は」
 その男は、博士を抱え、銃をかまえたまま、示されたパソコンに向かい大股で歩き始めた。博士を締め付けている腕は万力のように微動だにせず、博士をそのまま引きずっていく。

義腕の男2(47)

2016年02月26日 | 短編小説「義腕の男2」
 一旦自分の世界に没すると、周りが見えなくなる科学者の典型のような男だ。
 それに比べ、この少女はどういう人物なのだろう。
 クリス博士に視線を移すと、その少女は回りに聞こえないような小声でため息をついた。
「ふーー。せっかく予告空爆をしてもらったのに・・・まあ仕方ないか」
「予告空爆をしてもらった?・・それは、いったいどういう・・」
 クリス少女は、俺の耳元に近づき、他人には聞こえないように説明を始めた。
「私がやらされていた究極の戦士を作るという研究は、初めのうちはすごく面白くて夢中で自分から進んでやってたんだけど、完成に近づけば近づくほど、軍事的にいかに危険かということが判ってきて怖くなったのよ。それでノスリルのエージェントを通じてこの研究自体を消し去るため、私が予告空爆を依頼したの。だから、Nビルに機器からデータ、果ては私のアバターまで残して爆撃してもらったのに・・、まさかあのジェファーソン博士がここまで研究を進めていたとは・・予想外だったわ」
「ふーん。やはり、今の時代でも究極の兵士というのは脅威なのかな」
「確かに、兵器の性能というのも大きいけど、そうね、ジェイを思い出してみて。あの廃村でジェイが獣人化した後、アスランの追手はジェイ一人に全滅したのよ。ジェイを止められたのは、加速剤を使ったあなただけだったわよね。研究していた究極の戦士というのは、確実にジェイより強いのよ」
「なるほど。Mr.Jのような戦士が大量にいたら、まさに脅威だな」
 獣人化したジェイの姿を思い出し、あれが一個師団そろった姿を想像しただけで寒気がしそうだ。

義腕の男2(46)

2016年02月22日 | 短編小説「義腕の男2」
「験体は目を覚ましたのですか?クリス博士」
「ええ、今しがた覚醒しました。ジェファーソン博士」
ジェファーソンと呼ばれた男は、いかにも研究者といった感じの色の白いやせた男で、銀縁のメガネの奥の細い目で、俺の左足を嘗め回すように見つめた後、手元にある書類に目を通した。
「接合部分に若干の段差がありますが、異常値までとはいかないですね。確かにこの方法でも癒着は可能だが、僕の方法でもさほど差はないとおもうのだが・・」
かなり不満そうな口調でクリス博士に聞いた。
「そう、実は私も最初は博士と同じ考えで開発を進めていたんですが、拒否反応と精神的影響、つまり大脳皮質への影響がわかってきたのです。拒否反応は他の薬品でも対処できるんですけど、脳へのダメージを払拭するには、根本的に変えないとだめなことが判明しました」
「脳へのダメージ?」
「はい、この有機型人工肢は、ご存知のとおり我々の目的である究極の戦士のためのボディとして開発された技術を使っています。パワー・スピード、操作性などすべてが本来の肉体よりも優れています。ところが、この人工肢は、人体と融合するとVR235という物質を微量ながら生成してしまうということが判りました。この物質は通常は全く人体に影響ないのですが、長時間脳に留まっていると、精神的疾患が発生し特異的な行動に走りやすくなります」
「・・・つまり・・狂うと・・いうことか?」
「はい、論理的な思考は失われ狂人に近い状態になります。ですので、私はジェファーソン博士の理論のその部分を訂正するために博士の研究所にお邪魔したわけです」
なるほど、美少女クリス博士が突然戻り出ると言い出した理由はそういうことだったのか。
「そうか・・、なるほど、確かに私が行っている実験でも、そのような兆候が現れ始めていた。VR235とは気がつかなかった。この資料がそのデータなのですか」
「はい。その資料の15ページ目に詳しく記載されています」
根が素直なのか、ジェファーソン博士の不満そうな表情はすっかり消えうせ、研究者の目つきになっていた。
「で、このクリス博士の理論で作った義足をつけたこの験体は、そんな心配はないということですな」
「はい、私の研究では、切断面との接合がうまくいけば特に問題はありません」
「なるほど・・なるほど・・・」
ジェファーソン博士は、腕組みをし資料を見つめたまま、ぶつぶつ呟きながら俺のベッドから遠ざかっていき、部屋の反対側にあるドアから出て行った。