★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
SF、ミステリーから現代物まで何でも書いてます。
良かったら感想をお聞かせください。

義腕の男2(97)了

2018年04月11日 | 短編小説「義腕の男2」
 なにがおもしろいだ!完全に人の体を実験用としか思ってないようだ。
もともと、天才技術者のジャックにはそういう傾向があったが、それに付き合ってきた俺の身体はだんだん人間離れが激しくなってきた。
これから、どうなるんだろう・・
不安に暗くなった俺の顔色を尻目に、ベッドの横では目をキラキラ輝かせた天才少女博士が声を弾ませて微笑みかけてきた。
「大丈夫よ。しばらく私がついていてあげるわ」
とりあえず、今回のミッションである天才博士の確保は成功したようだ。


義腕の男2(96)

2018年03月08日 | 短編小説「義腕の男2」
 それにしても、二人とも俺は瀕死の重体だったと言っているが、いったいどこがどうなっているんだ?俺の体は?
「そうね」
クリス博士が、ちょっと困ったような顔で話し始めた。
「細かいところは、あとでカルテでも見て頂戴ね。ざっくり言えば、内臓はとりあえず再生できて前のまま、生身だった左腕と右足は、爆発に巻き込まれて使い物にならなくなったので有機型義足に取り替え、あとは、爆発の破片が刺さって右目は摘出・・」
その後をジャックが引き継ぎ言った。
「後には僕が作った義眼を入れておいた。全く違和感ないだろ?」
えっ?右目が義眼?全く気が付かなかった。
「しかも、もちろんただの眼じゃない。左目をつぶって右目だけで見てみろ」
言われた通り左目をつぶってみると・・右目の視界の中に様々な数値やマークが見えてきた。まるで戦闘機か何かのターゲットスコープのようだ。
「どうだ?慣れてくれば目の動きだけでスイッチを切り替えられるようになる。ズームやミクロ、熱線やX線など色々な機能がある。おもしろいだろう?」

義腕の男2(96)

2018年01月03日 | 短編小説「義腕の男2」
 俺はしどろもどろになりながらも
「え、、まあ、助けてくれてありがとう。クリス博士」
というしかなかった。
「それから、あなたが助かった経緯は、ジャックさんが説明してくれるわ」
クリス博士がそう言うと、ベッドの反対側にジャックが現れ説明し始めた。
なぜ現場にいなかったジャックが説明するのか不思議に思っていたのだが話を聞いて納得した。
「ケンジ、お前がまだ機内にいるとき、人差し指通信を使おうとしただろ?あの時、僕も超空間通信に接続してたんだ。そしてそのまま繋がりっぱなしで音声でお前の動きが分かったんだよ。お前の右腕が外れたのは、僕が遠隔操作したからなんだ。もう少し早くできればよかったんだけどな。あの腕の遠隔操作は結構面倒なんだよ。爆発のあとは、あの輸送機に積んであったプライベートジェットを使ってノスリルのエージェントが空中でお前を回収した。空中だったから爆発の影響も最小限ですんだようだ。でも、爆発の規模がかなり大きかったんで瀕死の重傷だったんだぜ。本当によかったよ。クリス博士がいてくれて。もしいなかったらとっくに死んでいる」
 なるほど。プライベートジェットが搭載されていたのか。気が付かなかった。確かにそれがあれば俺を空中でキャッチできる。

義腕の男2(95)

2018年01月01日 | 短編小説「義腕の男2」
 体の各部をチェックしながら、飛行機からパラシュートなしで飛び降り、ロボットの自爆に巻き込まれたにもかかわらず、ほとんどケガもなく、いったいどうやって帰還できたのだろうか。
 様々考えてみたものの、あの状況ではどう考えても生き延びられる可能性は限りなく「0」だ。
 だが、実際俺はここで生きている。
 いったいどうやって生き延びたのだろうか・・等と考えているうちに、ふと気が付いた。
 自前であるはずの右足がなにか変だ。
 見慣れた古い傷跡が全くなく、やけにきれいだ。それにこの感覚は・・
「あっ・・」
 俺は思わず小さく叫んだ。
 そう、この感触は間違いなく少女博士が作ってくれた左足と同じなのだ。
 しかも、その感触は右足から胴体の真ん中あたりまで続いている。
 どういうことなのか・・・
 自分の体を触りながら混乱していると、博士が近づいてきて心配そうな微笑みを浮かべ言った。
「気がついたわね。どう、体の具合は?」
「この足は・・それに俺はどうやって生き延びたんだ?」
クリス博士は、俺の右足を触ってチェックしながら
「そう、あの爆発であなたの体はかなりの損傷を受けたのよ。生きているのが不思議なくらいね。それで私が開発している高速再生クローン技術を適用して内臓部分は前と同じように再生できたんだけど、右足は、骨の再生は時間がかかるし左足の前例もあったので、左足と同じように有機型義足をつけたの・・いけなかった?」
 ここまで出来上がった体を見て、今更いけなかった?と言われても文句も言えない。

義腕の男2(94)

2017年12月11日 | 短編小説「義腕の男2」
 その時、白色だけの視界に黒い影が現れた。
 顔だ。どこかで見たことがあるかわいい顔だ。
「あ、気が付いたのね。よかったわ。ジャックさ~ん、ケンジさんが気が付いたわよ」
 そうだ・・俺はこの娘達を助けるためロボットを腕に絡めたまま、飛行機から飛び降りたのだ。
 そして、落下途中にロボットの自爆に巻き込まれ・・
「ケンジ、よかったなぁ。大丈夫か?具合はどうだ?」
 親友のジャックの懐かしい顔が寄ってきた。
 爆発以降の記憶がないが、どうやらなんとか帰ってこられたらしい。
 体の具合を聞かれ、改めて心配になった。確かにあの爆発に巻き込まれて、今生きてはいるものの俺の体はどうなったのか。
 とりあえず痛みはないようだ。
 用心しながらゆっくりと手足など各部を動かしてみる。 
 俺がモゾモゾ動き始めたのを見たジャックは
「新しい右腕はまた作ってやるから、とりあえずその汎用タイプを使っていてくれ」
と言った。
 確かに、見慣れない右腕がついている。1年に1回の右腕のオーバーホールの時に代腕で借りるタイプのものだ。
いつもの腕とは比べ物にならないが通常の生活には支障はないはずだ。
他も動かしてみる。
 博士に作ってもらった左足は全く問題がない。痛みもなくちゃんと動く。
 自前の右足、それに胴体など他の部分も怪我も痛みもなく、全く異常がないように思える。

義腕の男2(93)

2017年11月26日 | 短編小説「義腕の男2」
 もうすぐ始まるのかな・・と思ったが、全く出てこない。
 なぁんだ。やっぱり単なる迷信なんだな・・と妙に納得していると、突然、ガクンと右肩に衝撃が走った。
 見ると、ロボットが絡まった右腕が、腕の付け根の部分からはずれ、強風にあおられな
がら俺から離れていく。
もちろん、自爆する予定のロボットを付けたままだ。
 俺の義腕は特注品で、そんなに簡単に外れるものではない。このタイミングで外れるなんて全く意味が分からない。
 だが、事実は事実。
 目の前で俺の一番大事な体の一部が銀色のロボットを付けたまま離れていく。
 と、その時、なぜかロボットの赤く輝くLEDの目と強風で細めた俺の目が合った。
 銀色ののっぺりした顔は何の表情もないはずだが、一瞬にやっと笑ったように見えた後、赤い目が点滅し始め、すぐに消えた。
 次の瞬間、爆音と白い閃光に包まれたところで俺の記憶は途切れた。
 
 次の記憶は、清潔な白い天井だった。
 どこかで見たことがあるような模様があるパネルで作られている天井だ。
 どこだったかな。何度も見たことがある・・・
 そうだ、この天井はユーリ連邦の軍病院の病室のものだ。 
 ミッションで負傷して帰還した時には、必ずこの柄の天井の病室に入院していた。
 まだ朦朧としている意識で、どうやってここまで帰って来たのか思い出そうと試みたがどうしても無理だった。

義腕の男2(92)

2017年11月22日 | 短編小説「義腕の男2」
 俺は一瞬博士と視線を合わせると、ニッと笑い大声で叫んだ。
「キャプテン!こいつ爆発するぞ!ハッチを開けてくれ!」
 さっきから操縦に手こずっていたパイロットは、さらなるアクシデントに悲鳴を上げた。
「なに---っ!」
 だが、やはり軍人であるパイロットは対応が早い。驚愕しながらもすかさず後部ハッチの開閉スイッチを操作した。
 途端に機内は暴風が荒れ狂い、何かに捕まっていないと機外に吸い出される状態になった。
 いつ爆発するかわからないロボットを右腕に絡めた俺は、ハッチの先端が通れる程開くまで待たずに、わずかにあいた隙間目掛けて突っ込み、博士につけてもらった強力な左足をぶち込んだ。
 「ガッ」という鈍い音とともにぐっと開いた隙間から、俺は自爆するロボットとともに機外に飛び出した。
 何の準備もしていないスカイダイビングだ。
 眼も開けられない程風圧がすごい。
 耐え切れずくるりと上向きになった。
 空が青い。
 パラシュートもなく、この高度から落ちたら間違いなく命はない。それどころか、多分途中でこのロボットが爆発し、痛みも感じずあの世に行けるだろう。
 まあ、それも悪くない。
 すっかり覚悟を決めた俺は、右腕に元凶のロボットを付けたまま、飛び出してきた飛行機を見上げた。
 見る見るうちに遠ざかっていく。
 これだけ離れれば今爆発しても皆には影響はないだろう。
 ふと、人間、死ぬ直前には、それまで生きてきた記憶が走馬灯のように蘇るという言い伝えを思い出した。

義腕の男2(91)

2017年11月21日 | 短編小説「義腕の男2」
 俺は、咄嗟に右手を手刀の形にし戦闘用フルパワーでロボットの胴体に叩きこんだ。
「ボシュ」
鈍い音とともに、俺の義腕は銀色の胴体に突き刺さり、勢い余って反対側から手が飛び出した。
 博士に迫っていたロボットは、自分の体から飛び出た俺の手をじっと見つめた後、はみ出ている俺の手を握りしめ、銀色でのっぺりし表情がないはずなのになぜか悲しい雰囲気を感じさせる頭部を俺の方に向けた。
 頭部で光っている緑色のLEDがゆっくりと点滅し始めた。
 何か聞こえる。
 さっき博士に向かってしゃべった音声と同じトーンだが、雑音が多く内容がよく聞き取れない。
 だが、一部聞き取ることができた。
「・・・・・・ザッ・・・自爆モードセット・・・・」
 博士にも聞こえたのだろう、恐怖から驚愕に変わった表情で俺を見つめた。
 俺は、ロボットに刺さった右腕を引き抜こうとしたが、反対側に飛び出した手をロボットに掴まれているため離れることができない。
 ロボットのLEDの点滅が徐々に早くなっていく。
 もう一度ロボットを腕から離そうと試みたが、頼りの義腕にまとわりついたロボットは俺の手を握りしめたまま固まっている。
 ここまでか。
 俺は瞬時に腹をくくった。
 特殊情報部員の宿命か、軍に入った時からこの判断に躊躇しない覚悟はできていた。

義腕の男2(90)

2017年11月19日 | 短編小説「義腕の男2」
 Mr.Jがロボットの腕にベルトをひっかけようとした時、銀色の胴体に何か光る文字が浮き出し始めた。
 まるで、パソコンの画面にコマンドが表示されるように次々と文字が流れていく。
 その文字に気が付いた博士はじっとその文字を凝視し、突然叫んだ。
「このロボット、AIも搭載しているわ!遠隔操作しなくても単独行動できるタイプよ!」
博士が言い終わると同時に、ロボットの頭部の赤いLEDが緑色に変わり、再び動き出した。
 その動きは、超空間通信による遠隔操作の時よりもかえって滑らかで人間っぽい。
 銀色のロボットは、頭部と思われる三角の部分で周りをぐるりと見渡し、少女博士を見つけるとすっと前に立ち、静かな声で淡々と言った。
「クリス博士ですね。わたくしとご同行願います。もし従っていただけない場合は、強制的に連行いたします」
 ロボットの姿を見ないで声だけ聴けば全く人間と変わらない。ちょっと抑揚が少ない感じがするだけだ。
 あっけにとられていたMr.Jは、はっと我に返ると持っていたベルトを握り直し、後ろからロボットを縛り上げようとした。
しかし、AI自立行動に切り替わったロボットは、後ろにも目が付いているかのように的確にしかも瞬時に手を回しMr.Jの顔面をを強打した。
 すごいパワーだ。
 2メートル近い獣人の巨体が、ロボットの片手の一振りで吹き飛び、また壁に激突し機体が大きく揺れた。
「なんだ?今度は何があったんだ?」
パイロットは、また機体の維持に全力をかけながら叫んでいる。
ロボットは何事もなかったかのように、博士に向かって手を伸ばした。
いつも年齢にそぐわない冷静な顔を崩さない少女が、真の恐怖を感じた瞳を震わせて身を縮めている。

義腕の男2(89)

2017年09月25日 | 短編小説「義腕の男2」
 組み合っていた獣人は、拍子抜けしたように組み手をほどくと、ロボットに掴まてれいた部分をもみほぐしながら動きが止まったロボットを見下ろした。
「ふー、、危なかった、なんだ?これは?」
「やったわね、J。ザビ共和国の新兵器よ。いいお土産ができたわ」
いまいち腑に落ちないような表情をしたMr.Jだったが、とりあえず自分の席に座り直し、壁面にたたきつけられた時に受けた痛む箇所をなでまわした。
 俺はかねてからの疑問だった謎をクリス博士に問いかけた。
「ああ、超空間通信ね。あなたが気絶して足を手術している時に、あなたの体を調べさせてもらったの。あれはすごい技術ね。意外と単純な仕組みなんだけど、距離に全く関係ない通信が可能になるのね。まさか、ザビ共和国も開発しているとは思わなかったわ。でも咄嗟に考えた妨害波がこんなに効くなんて、よかったわね」
なるほど、それでジャックとの通信に割り込んできたきたわけだ。さすが、天才のなせる業だ。
 目の前で前衛的な彫刻のように立っているロボットを見て、Mr.Bが言った。
「こいつ、このままにしておく?けっこう邪魔だし・・」
「・・そうね。なにかの拍子に通信が復活してまた動き出しても困るから、とりあえず再起動しても動けないようにしておきましょう」
 博士の提案に、Mr.Jが立ち上がると機内の隅にあった荷物梱包用のベルトをひっぱりだし固まった銀色のロボットに近づいていった。
 

義腕の男2(88)

2017年09月21日 | 短編小説「義腕の男2」
 獣人は、体制を立て直し、咆哮をあげると再び銀色の魔物と組み合った。
 そんな時に俺の指先が赤く光りはじめた。
「!なんだ?人差し指通信!ジャックか!」
なんという酷いタイミングなんだ?と悪態をつこうかと思ったが、なにかいつもと違う。
そう、光り方がいつもの規則正しい光り方ではなく、なにかこう飛び跳ねているような人間の動きのような光り方をしている。
 どういうことか理解できないまま、とりあえず光る指先を耳につっこんでみた。だが、案の定聞こえたのはジャックの声ではなく、ピーピピピーーというような雑音だけだった。
 指を耳から抜きもう一度見つめなおしてみると、とあることに気が付いた。
 灯りの点き方が、Mr.Jが組み合っているロボットの動きに連動しているのだ。
「そうよ!あのロボットは超空間通信でつながっているのよ!」
 俺が人差し指の灯りを不審そうに見ていたのに博士が気付き、そう叫ぶと、自分の胸ポケットからスマートフォンのような端末を取り出した。
「・・・ということは・・これをこう設定すれば・・」
小さな天才科学者は、ぶつぶつ言いながら片手で持てるほどの小さな端末の画面を驚異的なスピードで操作し、間もなく
「よし、これでどうかしら?」
と言って、なにかのキーを押した。
すると、俺の人差し指通信の点滅がロボットの動きに合わせた躍るような間隔から、震えるような短い周期の点滅に変わり、それと同時に獣人のMr.Jと互角に組み合っていた銀色のロボットは、表情のないつるっとした銀色の頭部をゆっくりと博士の方に向けた。
 その頭部で輝いている赤いLEDのような二つの目は、なんの表情もないはずなのに、なぜか悲しげに俺の指と同じような細かい点滅を始めると、かすかに首をひねりそのままの形で全身が固まったように動かなくなった。

義腕の男2(87)

2017年08月20日 | 短編小説「義腕の男2」
その姿を見てMr.Bがつぶやいた。
「これは・・情報部データベースで見たことがある・・、ザビ共和国が開発中の兵器だ。確か、脳波直結型遠隔操作ロボット・・」
そのロボットは、目の前の異様な物体に見とれていた俺たちに無造作に近づいてきて、ゆっくりと一人づつ品定めするように覗き込んだ。
 よく見ると、頭部と思われる部位の奥に、赤いLEDライトのような小さな点が2個見える。まるで眼のようだ。
 博士の前まで来ると、そこで一旦止まり、首をかしげるようにすると、いきなり手を伸ばし博士を掴もうとした。
だが、間髪を入れず、隣に座っているMR.Jがそのロボットの動きより早く腕を回し、ロボットを殴りつけた。
 獣人のパワーとスピードで殴られたのだからモロ吹っ飛ばされると思ったが、銀色のロボットは少々ぐらついた程度で持ちこたえ、ゆっくりとMR.Jを見据え博士に伸ばした手を獣人の方に方向を変えた。
 獣人の野生の本能が目覚めたのか、MR.Jは銀色のロボットを見据えたままシートベルトをゆっくり外すと、低い戦闘態勢に構えた。
 本気だ。
 銀色のロボットは、そんなMr.Jの思惑など全く関係なく、何かにはじかれたようにすごいスピードでMr.Jに襲い掛かった。
 常人なら自分の身に何が起こったのか判らないうちに打ちのめされてしまうような速さだったが、獣人は滑りやすそうなメタルのロボットとがっちり組合い、明らかに互角に渡り合っている。
 だが、ロボットのパワーは獣人をも凌ぐのか、Mr.Jは徐々に押され始めている。
 いきなり均衡が破れた。
 見かけが小さい銀色のロボットが、図体のでかいMr.Jを軽々と振り回し、反対側の壁に投げ飛ばした。
当然、飛行中の輸送機にとっては狭い機体の中でMr.Jが壁面に激突したショックは大きく、乱気流に突入したように大きく揺れる。
パイロットはたまったものではない。
「今度はなんだ?何が起きている?」
機体の維持に精いっぱいの機長は怒鳴りながらもなんとか飛行を維持している。

義腕の男2(86)

2017年08月17日 | 短編小説「義腕の男2」
 離陸してから数分しか経っていないが、もう雲のなかにいるとは、かなりのスピードで高度を上げているのだろう。このまま飛行できれば1時間もしないうちにノスリルの領空内に入ることができる。
 そうなれば、さすがのザビ共和国もあきらめるはずだ。
 ちょっと安心して、何気なく小さい窓から外を見ていると、一瞬何かの影が通ったのが見えた。錯覚か?
そう思った刹那、「ごん」という衝撃が響いたか思うと、俺たちが入ってきた後部ハッチがミシミシと鳴り始めた。
「なんだ?何が起こっている?」
 Mr.Bがこう叫ぶと、その言葉に反応するように、飛行中は絶対開くはずのないハッチがギリギリと少しずつ開き始めた。乗員全員があっけにとられて見ていると、ハッチはいきなりガバッと開き、そこから機内の空気が物凄い勢いで吸い出され、機内は嵐のような状態になった。
 機内の人間は、空気の奔流のなか、シートベルトにしがみつき飛ばされないようもがいている。パイロットも例外ではない。
「うおお、なんだ、どうしたんだ?」
 操縦席のパイロットが叫んだ。突然のアクシデントに飛行を維持するのに精一杯のようだ。
 やがて、突然嵐が止まった。
 いつの間にかハッチが閉じられていた。
 が、目の前には、見たことのない物体が立っている。
 一見、人型ロボットのようだが、大きさは子供位か。普通のロボットと違うのは、全身が銀色のメタリック製でのっぺりとしており、頭部はあるものの顔もない。形も人間とは違い、三角形を基調とした部品を繋げて人の形を作っているような感じだ。
 こいつが、飛行中のジェット機のハッチをこじ開けて入ってきたというのか?

義腕の男2(85)

2017年08月08日 | 短編小説「義腕の男2」
 間もなくその迷彩色の機体が頭上に近づくと、翼下にあるジェットエンジンが器用に向きを変え、滑らかに水平移動から垂直移動に移りそのままヘリポートに着床した。
 「ほう、なかなかいい腕のパイロットだな」
 Mr.Bが感心していると、機体の後部のハッチが下に開いて搬入口が開き、中からパイロットヘルメットを被った男が顔を出し、早く乗り込むよう合図をした。
 エンジン出力を最低まで絞っているのだろうが、かなりの風が渦巻く中を4人揃ってオリバー20に乗り込んだ。
 中は輸送機なのに何も積んでいないせいか見た目よりかなり広い。
 4人は足早に機内の搭乗員シートに座り、シートベルトを締めた。
 搭乗員シートといっても、機体の壁面に沿って取り付けられたアルミパイプ製の簡易型ベンチのようなもので、座り心地など全く無視しており、単に飛行中に動かないように人間を固定しておくためだけのものだ。
 運転席も見えるところにあり、パイロットがどんな操縦をしているのかまで丸見えになっている。さっき搬出口から顔を出したのはこのパイロットだ。
 我々がベルトをロックすると、待ちかねたようにパイロットがこちらを振り向いて親指を挙げた。
 発信の合図だ。
 「キーーンーー」
さっきまで絞っていたジェットエンジンが轟音をあげ始めると同時に、乗り込んできた後部ハッチが閉まり、機体が浮き始めた。
 着陸した時と同じように、滑らかに上昇しスーッと水平飛行に移行していく。やはり一流のパイロットだ。
 大抵の輸送機は軽量化のため防音設備がなく、エンジン音がうるさくて耳栓をしたりするものだが、さすが最新型。
 機内は意外と静かでちょっと大きな声を出せば会話もできる、しかし窓はほとんどない。幸い、俺が座ったちょうど後頭部のあたりに、点検口のような小さな薄汚れた窓があり、かろうじて外の景色が覗けたが、雲の中に入ったせいか、薄いグレー一色の世界だ。

義腕の男2(84)

2017年06月13日 | 短編小説「義腕の男2」
その辺りまで説明を聞いていると、突然警報聞きなれない警報音が鳴りだした。
Mr.Bが携帯電話を取り出した。警報音はその携帯電話から響いている。
Mr.Bは携帯電話のディスプレイを見た後すぐに通話し始めた。
「・・・・えっ?空飛ぶコンテナ?・・ああ・・わかった」
通話が終わると注目している俺たちに顔を引きつらせながら言った。
「我々が乗ってきた停泊中の潜水艦からの連絡です。ザビ国の潜水艦が領海を無視し追跡してきたそうです。その後沖合10Km付近で停船、浮上。そして甲板から四角形のコンテナ状の物体が1個飛び出し、超低空飛行でこちらに向かっているとのことです」
「空飛ぶコンテナ!やつらの仲間ね。どのくらいでここに?」
「約10分後です」
クリス博士は、ちょっと考えた後、部屋の片隅にある金属製の棚から黄色のチューブを取り出し、俺に手渡した。
色違いだが、やばい薬「加速剤」と同じチューブだ。
「危ない時に使って」
「これは?」
「そうね、あなた専用のパワーアップ剤ってとこかな。加速剤よりは安全なはずよ」
俺がチューブを受け取っていると、Mr.Bが再び携帯電話でどこかと話をし終わり、皆に向かって強い口調で言った。
「ここからは、飛行機で移動する。10分後にオリバー20が来る。すぐに着替えるんだ。時間がないぞ」
 オリバー20とは、最近配備された垂直離着陸小型輸送機で、20人乗りの最新型機だ。
 俺は、ベッドから降り用意してあった戦闘服に着替えた。あらためて体をチェックしてみると義腕の右腕と新しい左足は当然全く無傷。生身の部分も所々細かい傷があるがたいしたことはない。
 他の3人も戦闘服に着替えると病院の屋上に向かった。
 屋上にはドクターヘリ用のヘリポートがある。オリバー20はここを目指して飛行してくるがまだ姿はない。
 Mr.Bは、腕時計を見ながら西の方向を見ている。
「来た」
 こちらに向かってくる豆粒のような機影が見えたかと思うと、見る見るうちに大きくなってきた。
かなりのスピードだ。