★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
SF、ミステリーから現代物まで何でも書いてます。
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義腕の男2(4)

2013年06月22日 | 短編小説「義腕の男2」
 心地よい列車の振動で、今日三回目の眠気に誘われた時、通信機の呼び出し音が鳴った。俺は久しぶりの刺激に嬉々として装置のスイッチを入れた。
 画面には若い女性の姿が映った。
「ケンジ中尉、そちらはいかがですか」
 本部連絡係のマリーだ。最近彼氏と別れたらしいが、そんなことは微塵も感じさせない良い娘だ。
「やあ、マリー。こちらは順調だよ。本当に何もない。あるのは空と砂だけだ」
 まだミッションは始まったばかりだ。こんな頃から予定外の何かがあったらたまらない。
「そうですか。では、こちらの状況をお知らせします。計画通り、明後日の12:00時にイスラン公国N市Cビルに対する空爆の予告宣言が出されます」
 このイスラン公国は、我が祖国ユーリ連邦と戦争状態にある。
 戦争といっても最近の戦争は、無闇と殺し合いをする形態はとっていない。最終的な決戦や、重要な戦闘の場合は昔ながらの奇襲攻撃や大量破壊・流血を伴う攻撃を行う場合もある(めったにない)が、それ以外は、あらかじめ予告して行う。
 つまり、いつ、どこに、何で攻撃するかを事前に相手に通告し、人間が逃げる時間を与えるのだ。それにより、人命は奪わないで、建物や設備だけを破壊し敵国の国力を削ることができるという。人命を最大限尊重した人道的な戦いだ等と国際間では評判が良いらしいが、所詮は戦争である。決してほめられるものではあるまい。

義腕の男2(3)

2013年06月09日 | 短編小説「義腕の男2」
 ただ、貨車なのでエアコンも何もない。砂漠の真ん中では室内温度が100度を超える。サウナ並みだ。過去には、何の準備もなしで乗り込んで、干物になったヤツもいた。そんな訳でこの列車を使って密入国するにはそれなりの準備が必要なことから、スパイ業界では意外と利用されることが少ない一種の盲点になっている。
 今俺がいるのは、長い列車の真ん中辺りのコンテナの中のさらに小さなカプセルの中だ。
 人間が一人寝起きできる位の大きさではあるが、この列車専用に作られたもので、空調、食料はもちろん、ベッドに簡易トイレ、外部モニターに通信機まで装備されている。
 列車旅行をするには全く問題は無いが、いかんせん狭い。
 しかも今日で乗り込んでから3日目。列車に乗っている間は何もすることがなく、眠くなっては眠り、腹が減ったら食べる、という怠惰な生活パターンにはまっている。
 普通の客車のように歩き回るわけにも行かず、外部モニターを見てもアイボリー色の砂と宇宙まで突き抜けたような青い空の2色の世界しか映らないい。本当にここは地球上なのかという疑問まで沸いてくる始末だ。
 飽きを通り越して苦痛になってきた。身体も鈍ってきている。長期入院患者の気持ちがよく判る。
 まあ、予定ではあと1日でこの空間からは開放されるはずだ。