★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
SF、ミステリーから現代物まで何でも書いてます。
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義腕の男2(9)

2014年01月01日 | 短編小説「義腕の男2」
 一週間前、久しぶりの長期休暇をとって旅行の準備をしていた朝、いやな電話がかかってきた。
「ケンジ様あてにヤマト様よりレベルAの電話がかかってきております」
 ホームAIのやさしい女性の声が、超指向性スピーカのおかげで耳元でささやくように聞こえた時、俺は苦労してトランクに詰めた着替えや旅行セットを全部床に撒き散らした。
 ホームAIの声は、俺の好みの癒し系の女優の声を基に設定しているのだが、仕事の電話の案内じゃ癒しもへったくれもない。
「はいはい、画像モードででますよ・・」
 俺は旅行をすっかり諦め、誰もいない空間に向かって呟いた。
「判りました。画像モードで受信します。お近くのモニターでどうぞ」
 ホームAIの癒し系美声は、俺の諦めムード満天の呟きに反応し間近のモニターを起動させた。
 緊急ミッションに決まっている。今回の休暇もこれでパーだ。
 モニターの前に立つと、いつもの見慣れた顔が映った。俺の上司ヤマト准将だ。
 相変わらずジャガイモのようにごつごつした顔に青かびが生えたような薄い頭髪だが、目つきだけは鋭い。
「ケンジ中尉、休暇中申し訳ない。仕事が入った。今日13:00時に私のオフィスに来てくれるか」
「わかりました」
「うむ。では頼んだぞ」
 基本的に断ることはない。ミッション毎に誰にやらせるかは部隊の「マザーAI」が候補者を選び、准将が最終的に決める。「マザーAI」とは、この特殊工作部隊のほぼ全てを管理しているメインコンピュータで、隊員全員の能力・性格は勿論、プライベートなスケジュールから身体的・精神的な健康状態まで全て把握している。その「マザーAI」が、ミッションの内容と比較し、もっとも最適な者を数名選びだし、その中からヤマト准将が最終選考する。体調が悪いとか精神的に参っているなど物理的な条件からメンタル面まで全ての要素を加味して選定されている訳だから、断る気持ちすら起きてこない。
 俺は、仕方なく床に広げてしまった旅行の支度を再度拾い上げ、とりあえずベッドの上に積み上げた。作戦の内容によっては、またすぐに使えるかもしれない・・などと儚い希望を持ってみたのだが、やはり甘かったようだ。