★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
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彗星の時(47)

2012年02月11日 | 短編小説「彗星の時」
 ケインは、案内人に促されるまま次の部屋に歩み行った。そこは部屋というよりも通路のようなもので、目の前には長い階段が上方に向かって続いていた。
「一段目の光っているところに進み、手すりにおつかまりください」
自ら案内人と名乗った女が、静かに言った。
 ケインは一瞬ためらったが、意を決したようにつばを飲み込むと、白くぼんやり光っている一段目の階段の上に立った。
「では、まいりましょう」
 女は、ケインが階段の横にある手すりを掴んだのを確認すると、やさしく微笑みながら視線を前の方に向けた。
 その女の動作に呼応するかのように、ケインの身体は音もなく何のショックもなく移動し始めた。かなりのスピードで動いているようだが、よく注意しないと判らないくらい静かだった。ぼんやり見える壁と、わずかな空気の流れで自分は運ばれているんだなと確認できるが、案内人の女が足も動かさずに傍らにいるおかげで、周囲の景色の方が動いているように錯覚してしまう。
 しばらく進むとぼんやり光る扉が近づいてきて、その前で止まった。ケインの来訪を知っていたかのように静かに扉が左右に開く。
「中へお入りください」
 案内人に促されるまま、ケインは部屋の中に歩を進めた。
 やはり薄暗い感じのする広い部屋だったが、壁一面に色鮮やかな光りが点滅していた。
「こちらへどうぞ」
 案内人は、部屋の中央にある椅子を指し示した。
 ケインは、恐る恐る部屋に進み入り、示された椅子へ向かった。数歩進んで、目が薄明かりに慣れてきた頃、部屋の隅に小さなベッドがあり誰かが横たわっているのが見えた。
「あ、あれは!」
 ケインはその横たわっている者の詳細が見えてくるにつれ、青ざめていった。