★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
SF、ミステリーから現代物まで何でも書いてます。
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彗星の時(70)

2012年05月18日 | 短編小説「彗星の時」
 そんな息子にかまわず王は命令を出した。
「歩兵部隊に伝えよ。先程破壊した防御壁に部隊を進軍させ制圧せよ。けが人は、敵味方問わず救護し、投降者は捕虜とし殺生すること許さず、とな」
 一人の側近が、仰せの通りに、と言いながら命令を伝えるため司令室を出て行くのを見ると、ガーゼル王は椅子に再び深々と腰を下ろし、壁面の様々な画面を見て言った。
「しかしこの『動く砦』はおもしろいのう。あんなに遠いはずの景色が、まるで手に取るように判る。遠眼鏡でさえこんなにきれいに見ることはできないというにのう」
 しょげ返っている王子を見かねてか、王は和らいだ声だった。
 その言葉に顔を上げた王子は、困ったような嬉しいような微妙な表情で応えた。
「・・・はい、超古代の技術とは恐るべきものです。使い方を誤れば大変なことになること肝に命じておきます」
「うむ。それでよい」
 王は満足げに王子を見返し頷いた。



「ケイン様、本来であれば「ギガベース」は「イオノスⅢ」の管理下にあるものです。ケイン様からコントロールできませんか?」
 シャインは超時空通信でケインに尋ねた。
「うん、僕もそれに気がついてやってるんだけど、「ギガベース」に接続できないんだ」
「となると、やはり「ギガベース」側で独立マニュアルモードになっているんです。であれば、直接乗り込んで強制的にモードを変更するしかありません」
 ケインは上空から「ギガベース」を監視しながら聞いた。
「でも、どうやってあれに乗り込むの?」
「私には、『天の国』の宝物庫で見つけたブラスター・キャノンがあります。とりあえずこれを使って進入し、遠隔操作モードに変更してきますので、ケイン様は、その後ギガベースを誘導し、一番近い湖、「レマ湖」に沈めてください。ギガベースは耐水仕様にはなっていません。湖に沈めれば反応炉も冷温停止状態になり、全機能が停止します」
「判った。じゃあシャインさんお願いするよ。気をつけてね」
 ケインとの通信を終えたシャインは、改めて眼下に広がる『地の国』の軍を見渡した。
シャインとヤーコンは、足の一番早い走鳥ですでに最前線まで到達し、『地の国』の軍が通るすぐ傍の高台に潜んでいた。

彗星の時(69)

2012年05月11日 | 短編小説「彗星の時」
「もうすぐ国境を超えます」
 ジーザ王子が司令室中央の椅子に座ったガーゼル王に伝えた。
「うむ。『天の国』の国境軍はかなり手薄じゃな。ほとんど抵抗がないのう」
 ガーゼル王は様々な映像が映っている壁面を眺め、あごひげを掻きながら言った。
 司令室では、数十人の学者達が古代から伝わる書物を解読しながら、操作盤を操り『動く砦』を動かしていた。
「我が軍の兵の数と、戦鉄牛80騎、それにこの『動く砦』ですから、戦意も喪失するでしょう。試しにあの丘にある天の国の国境警備軍を攻撃してみましょう」
 そう言うと、ジーザ王子は手前にいる学者に指示を出した。
「なにか武器は無いのか」
 命令された学者は、書物をめくりながら
「では、このイオン砲というのをやってみましょう」
と言って、盤を操作する別の学者に本を見ながら手順を伝えた。
やり方を教えられた学者は、その通りに手元の操作盤に打ち込んでいく。
 すると、その操作に呼応し『動く砦』の上に生えている針の一本がカッと輝き、一筋の閃光が走った。
 閃光は狙い通り天の国の国境警備軍の防御壁を直撃し、爆音と供に壁を破壊、兵士達を吹き飛ばした。
「わっはっはっは・・すばらしい武器だ。敵が紙のように燃えている!」
 攻撃を指示したジーザ王子は、天の国の兵士達が吹き飛ばされ、倒れていく姿をモニターで見ながら笑い声を上げた。
「いいぞ、いいぞ、もっと撃て、もっとだ」
 ジーザ王子が攻撃継続の指示を出した直後、
「やめんか。ばか者!これ以上撃ってはならぬ!」
とガーゼル王が席を立って大声で止めさせた。
「我々は、国同士の戦争をしているのじゃ。殺戮をしているのではない。これはまさに悪魔の武器。これ以使ってはならぬ」
 怪訝な表情でジーザ王子はガーゼル王の顔を見た。
「判らぬかジーザよ。『天の国』に攻め込んだのは、この国を破壊するためではない。『天の国』を我らの新たな領地とし、『地の国』がさらに大きくなって、より繁栄するための戦いなのだ。無闇と民の命を奪ってはならぬ」
 部下達の面前で罵倒された王子は、顔色無くうつむいたままとなった。