★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
SF、ミステリーから現代物まで何でも書いてます。
良かったら感想をお聞かせください。

義腕の男2(22)

2014年06月29日 | 短編小説「義腕の男2」
俺たちは、アイコンタクトで進む方向を確認し、下りの階段に向かった。ターゲットは地下5階に軟禁され、強制的に研究をさせられていることになっている。
 普段なら人っ子一人いない非常階段だが、まさに非常事態なのか、様々な人が大きな物を抱えて右往左往している中を通り抜け、地下5階まで辿り着いた。
 このフロアも他の階と同じだ。普通ならば締め切って特殊なIDカードが無ければ入れない扉がすっかり開放され、沢山の人間が荷物や書類を持って走り回っている。
 博士のラボは、情報によればこの廊下の一番奥の部屋のはずだ。
 俺たちは、博士を探して廊下を進み始めたが、一番奥まで着く途中で思いがけなく目標を発見した。
 いた!クリス博士だ。
 廊下で研究所の所員と思われる人たちに、物品の搬出を指示している。赤毛の熟女、間違いなくクリス博士だ。
  Mr.Jも博士を認識したらしく、イヤホンからMr.Jの声が聞こえてきた。
「ターゲットのクリス博士を発見、これよりコンタクトを開始する」
「了解」
Mr.Bの声も聞こえてきた。我々のやり取りは、全て三者同時通信になっていて情報の共有を図っている。手っ取り早くお互いの状況が確認できるのは確かに有効だが、仲間の悪口が言えないのが難点だ。
 Mr.Jは人ごみを縫って博士に近づいていき、博士の前に立つと敬礼をしながら言った。
「博士、お迎えに上がりました」
そう、俺たちは、イスラン軍の兵士として接触し、博士を別の場所へ護送する役目を担って来たという設定で博士を連れ出す作戦だ。

義腕の男2(21)

2014年06月29日 | 短編小説「義腕の男2」
 発表を聞きながら、モニターに映ったCビルのゲートを監視していると、ものの数分のうちに、まばらだった通行が一気に増え出し、それまで全ての通過する車両をチェックしていたガードマンはとても対処しきれなくなり、ゲートが開放され、ノーチェックで素通りし始めた。
「よし、作戦開始だ」
 Mr.Bがアクセルを踏んだ。俺たちが乗ったいのししマークのトラックは、Cビルのゲートを難なく通過し建物の影に横付けにした。
 Cビルの敷地は、研究所の所員から警備員・警察官・運送会社・軍の兵士まで、様々な職種の人間がわさわさと動き回っている。人間の避難が最優先だが、攻撃が始まる3時間後まで動かせるものは全て運び出そうとしているのだ。
 俺とMr.Jは、モニターで車外の様子を確認し、トラックの外へ飛び出した。博士を救出してくるのは俺たち二人で、Mr.Bはトラックに残り、我々との連絡や博士とすれ違いにならないよう監視する役割になっている。
 俺たちは、正面玄関から堂々と入っていった。
 一階のフロントもごった返している。軍の兵士の格好をしているせいか、呼び止められることや、身分証の提示を求められることもなくビルの内部へ入り込んだ。
 人ごみの中を真っ直ぐ非常階段へ向かった。
 こんな時はエレベーターは使わない。これだけ混乱しているとエレベーターはまともに動かなくなる。もちろん、階段も混雑していたが、普通ならば狭く急な造りになっている非常階段が、幸いこのビルは大型物品の搬入が多い研究所用として初めから設計されていたのか、かなり広く取ってあり、エレベーターを待っているよりはるかに早い。
「ただいまより、地下へ浸入する」
 耳にセットしたイヤホンにMr.Jの声が聞こえてくる。
「了解」
 俺の声は、喉の近くに取り付けたマイクを通してMr.Jの耳に聞こえているはずだ。

義腕の男2(20)

2014年06月16日 | 短編小説「義腕の男2」
「全世界の皆様へ発表します。我がユーリ連邦は、大統領の名において、今から3時間後に、イスラン公国N市の研究施設Cビルを攻撃します。現在Cビルでは、国際条例に違反した大量破壊兵器の開発が行われているからです。我々は正義の名において、これに断固立ち向かい、世界平和を勝ち取るためにやむを得ず攻撃を実行するものです。Cビルにいる関係者の皆様は、建物から早急に退去してください。我々は人的被害を望むものではありません。繰り返します・・・」
 予告空爆の宣言はいつ聞いても不思議な感じが消えない。ボクサーがこれから右の頬を殴りますよ、と言っているようなものだが、その拳がよけ切れないほど強力なものだから効果があるということか。

義腕の男(19)

2014年06月11日 | 短編小説「義腕の男2」
予告空爆は発表されてから3時間後に実施される。
もちろんイスラン国の制空権はイスラン公国にあるため、通常の爆撃機による空爆は不可能だが、今回のような予告空爆の場合、ユーリ連邦の爆撃機は高度20万メートルの衛星軌道を飛んで爆撃してくる。
地上からの迎撃は不可能だ。攻撃衛星でもあれば話は別だが、今のところ衛星軌道を含む外気圏を自由に活動できる兵器を所持しているのは、我がユーリ連邦とライバルのザビ共和国ぐらいなものだ。
 さらに、その超高高度から寸分たがわぬピンポイント攻撃ができる機体を持っているのは、世界の警察と異名をとるユーリ連邦だけなのだ。
 ユーリ連邦の国営放送を映しているモニターに、スポークスマンの姿が映った。
 ユーリ連邦政府が重要発表をする時は、最近はこの人が出てくる、なじみの顔だ。
 いよいよ発表の時だ。

義腕の男2(18)

2014年06月07日 | 短編小説「義腕の男2」
「もうすぐ空爆予告が発表されるぞ」
 Mr.Bが言った。
 俺とMr.Jはイスラン軍の軍服、Mr.Bは運送会社の制服を着て運送会社マークの入ったトラックに乗り込み、Cビル近くの路上で待機していた。
 見かけは地元で有名な運送会社の「いのしし」マークの入ったトラックだが、荷台の中は貨物ではなく最新の機器が装備され、複数のモニターにはCビルの様子が写っている。様々な方向からCビルの様子が監視できるようになっている。
 Cビルは、かなり広い敷地に建っている白い外壁の研究施設だ。
 地上20階、地下5階とさほど高層ではないが横に広い。敷地の周りはぐるりとフェンスで囲われており、出入りできるゲートは南北2箇所しかない。
 ゲートにはガードマンが常駐しており、研究所に訪れる全員を厳しくチェックしている。
 モニターに映るCビルは、まだ、発表前なのでいつもと変わらぬ平穏な風景だ。

義腕の男2(17)

2014年06月05日 | 短編小説「義腕の男2」
 キラリと輝く特殊素材の機体、目標を破壊すると自身も灰塵に帰する無機質な形状、真っ青な空を轟音とともに切り裂きながら進むミサイルが、砂漠の真ん中を走る列車に突き刺さる。
 紅蓮の炎が上がり、列車を二つに切り分ける。
 俺の視線は、ミサイルからの視線になった。
 青い空と砂しかない光景の中を猛スピードでぶっ飛んでいく。目指すは砂漠の中にある一本の線の上を走っている細長い虫の様な列車。
 見る見る近づいていき破壊される車両は・・・・俺が乗っているカプセルが積んであるコンテナだ!・・・・
 ふっと目が覚めた。義碗の右腕以外の身体から汗が噴き出していた。
 いつものくせで、目が覚めると本能的に周りの気配を探ってみたが、特に異常はない。ふーーっと大きくため息をついた。
 アジトがある倉庫の一角でシュラフにくるまって寝ていたのだが、夢見が悪かったようだ。

 まだ起きるには早い時間だが、寝付けない。
 列車の中で変な時間に寝ていたせいかもしれない。
 しかしあのミサイルは何の目的で撃たれたものだったのか。俺を狙ったのか。
 いや、俺の目的阻止のためだけでミサイルによる列車攻撃は代償が大きすぎる。
 では一体何のために・・・・積荷のリストを思い出しても何も思いつかない。
 とりあえず博士の救出とは関係なさそうだ。
 気持ちを切り替え作戦に集中するため、日頃のメンタルトレーニングで会得した、どんな状況でも瞬時に睡眠できるヨガの技で、再び夢も見ないような深い眠りについた。