★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
SF、ミステリーから現代物まで何でも書いてます。
良かったら感想をお聞かせください。

義腕の男2(72)

2017年02月21日 | 短編小説「義腕の男2」
 早速、コンテナの前に立っている白い服の男に照準を合わせ、引き金を引いた。
「キン!」
とほとんど無音に近い音と少ない反動とともに、銀色のニードルが弾跡を銀糸のように輝かせて白い服の男の胸辺りに突き刺さった..と思ったが、刺さる直前に見えない壁に当たったかのように突然止まり、そのまま白服の足元に落下した。
 白服の男には全く影響がなく、新型の白いバトルスーツには傷一つついていない。
「なに?なんだ?針が落ちたぞ!」
 新兵器のふがいなさに俺は思わず声を上げた。
 俺の不満に呼応したようにMr.Bの声が聞こえた。
「パーソナルバリアだ!そんなものまで搭載しているのか。銃弾のような一定以上のスピードで接近する金属を防御するシステムだ。しかし、かなりの電力が必要なはずだが・・そうか、ヤツのどこかにケーブルのようなものは繋がっていないか?」
 どうやら、Mr.Bの位置からは白い服の男の全身は見えないようだ。俺のところからも全て見えるわけではないが、注意して見てみると確かに腰あたりから結構太いケーブルのようなものが延びてコンテナの奥に続いている。
「ああ、背中辺りにケーブルが繋がっている」
「やっぱりそうか、、そうなると、ヤツのあの電磁波の武器は充電時間なしに連続で使えるということだ。無闇に突っ込めない・・」
 Mr.Bがそこまで言った時、白服の男は俺の存在に気が付いたらしく、Mr.Jを指していた指先を俺のほうに向け直した。と、同時に白い服に虹色の模様が流れ俺に向けた指先に集中した。 
 次の瞬間、表現のしょうがない空気が裂ける音と、空間にゆがみが生じているのが目視できるような衝撃が俺を襲う。

義腕の男2(71)

2017年02月19日 | 短編小説「義腕の男2」
 たとえ、人間離れした獣人でも、まともに食らったらひとたまりもなさそうだ。
 ところが、Mr.Jはふらふらしながらも、意識的になのか、それとも本能なのか、波動が発射された瞬間、すっと身体を傾け衝撃波の直撃を間一髪でかわした。それでも獣人をかすめた波動の威力は、2メートルもある獣人の身体をまた数メートル吹き飛ばし、さらに直撃した後ろの地面に、膨大な砂埃を巻き上げながら大きな穴を穿った。
 衝撃波がかすっただけで吹き飛ばされたMr.Jは、確かに致命傷ではなかったようだが、さすがにすぐには立ち上がれない。倒れたままで身動きもしない。
 見たこともない新兵器を前に、どう対処したらいいのか躊躇している俺の耳に無線機からMr.Bの声が聞こえてきた。
「あれは、開発中のバトルスーツだ。特殊な電磁波を使った強力な武器が特徴だが、かなり電力を喰う。一度使用すると二発目を撃つまで数分間チャージ時間が必要なはずだから、やるなら今だ」
 どうやらMr.Bの位置からも白服の男の姿は見えているようだがやつらと遣りあう気はないらしい。
 まあ仕方ない。確かに体力勝負なら、Mr.Jに間違って飛ばされて気絶したMr.Bより絶対俺のほうが向いている。
 そのMr.Bの声が続いた。
「そういえば、あんたが着ているそのツナギだって我が国の開発中の兵器の一種だ。素材は一見普通の生地だが、最新のポリマーでできている、一種のバトルスーツだ。それと右胸のポケットにカード型拳銃が入っているはずだ」
 えっ?拳銃?・・・全く重さを感じない。試しに指定された胸ポケットを探ってみると確かに1枚のちょっと厚めのカードが出てきた。
「真ん中のボタンを押すと変形してニードルガンになる。リニアで飛ばすタイプで直径5mmのニードル弾を10発発射できる。殺傷力は低いが、結構相手にダメージを与えられる」
 なるほど、確かにボタンを押してみると手のひらの中で器用に変形して、超小型で薄型の拳銃になった。薄くて少々持ち辛いが、使えなくは無い。

義腕の男2(70)

2017年02月16日 | 短編小説「義腕の男2」
鉄の扉と一緒に飛ばされたMr.Jが砂の中からふらふらと立ち上がった。
 結構激しくやりあったのか、ダメージが大きそうだ。あの獣人がこれほどやられるとはあの白い服の男はいったい何者だ?。
 あの時のクリス博士の雰囲気からすると、同じ科学者のような感じだったが、獣人相手に怯むことなく戦っているとは並みの人間ではない。歴戦の兵士でさえ獣人相手では平常心は保てないはずだ。それが、全くおびえもせず戦っているように見える。
 立ち上がったMr.Jを見つけたその男は、肩から手を離し、人差し指を立てゆっくりとMr.Jを指差した。まるで指で拳銃を作って人差し指の銃身がMr.Jを狙っているように構えた。
「屋外だからもう手加減する必要もないな・・」
 男がそう呟くと、身につけている白色の服が、不思議な虹色の光沢を帯び始め、その色がMr.Jを指差した右手の方に流れ出し、そのまま指先の一点に集中した。
 一瞬、空気が裂けるような強烈な音と波動が周囲を揺らすのと同時に、空気のゆがみが肉眼で見えるような衝撃波が男の指先から放たれ、Mr.Jに襲い掛かった。
 何なのだろう。今まで見たこともない、電気でもなくプラズマでもないようだが、見るからに強力な破壊力を持った何かに違いない。俺の戦闘員としての感覚の非常ベルが一斉に鳴り響くような危険な波動だ。

義腕の男2(69)

2017年02月15日 | 短編小説「義腕の男2」
そんなことを考えながらMr.Jが乗り込んでいる薄汚れた赤いコンテナを見てみると、四隅の銀色の突起物は相変わらず輝きを放っており、ザビ軍とノスリル軍の新兵器同士の戦いが地味だが続けているようだ。
 突然、「ゴン」というくぐもった低い音が数回聞こえてきた。内部で何かが暴れているような雰囲気がする。Mr.Jが獣人化したのだろうか。
 その度コンテナが揺れた。エアマスターで押さえつけられているが、コンテナの新型エンジンも稼動しているようで、良く見るとコンテナは数センチ荷台から浮いている。
 そのため、中の騒動が直接コンテナに響いてくるようだ。
 その騒動の元は、間違いなくMr.Jに違いない。
 あの「獣人」のことだから、コンテナの中で大暴れしているのか・・
 中にいるはずのクリス博士は大丈夫だろうか。
そう思った瞬間、側面にあるコンテナの鉄製の扉がぶっ飛んだ。
 本来、横にスライドするはずの重い扉が、構造を無視して紙の様に空中を舞っている。
 空中を飛んでいるのは、扉だけではない。扉の陰に隠れて人陰のようなものも飛んでいる。
 上半身がヒョウ柄の獣人、Mr.Jだ。
 あの超人的な強さのMr.Jがいとも簡単に鉄の扉と一緒に吹き飛ばされている。
何が起きているんだ。
 扉が無くなったコンテナの入り口には、顔まで隠れるヘルメットを被った白っぽい服装の男が立っていた。
 あいつは、Dビルの実験室で情け容赦のない攻撃をする兵士とともに現れ、クリス博士を連れて行ったやつだ。
 やはりクリス博士はこのコンテナの中にいるのは間違いなさそうだ。だが、Mr.Jがコンテナからたたき出されたということは、救出はまだということか。
 白い服の男は、首が凝ったかのように右手を左肩に乗せ、首をゆっくり廻し呟いている。
「・・ふん、獣人のサンプルとしては超一級品だが、さすがにおとなしく連れて帰ることはできんな・・」
どうやら、Mr.Jと一戦交えたらしい。
 良く見ると、白い服装のあちこちにMr.Jがつけたものと思われる爪あとが刻まれている。それでも、どこも破れていないところを見ると、単なる服ではなく、何か特殊素材のアーマースーツなのだろう。

義腕の男2(68)

2017年02月11日 | 短編小説「義腕の男2」
 俺は、頃合を見計らって、車の下から再びコンテナの方へ身体を移動させていったが、運転席から身を乗り出すサングラスの男の姿は見えない。
 スピードが落ち、風の抵抗が少なくなった分、素早く動くことができるようになった俺は、博士にもらった新しい足をコンテナの横に引っ掛け思い切りジャンプした。
 一息に運転席のドアのところまで辿りつく。
 運転席にはさっき撃ってきたサングラス男がいた。
 懸命にハンドルを操作している。スピードが落ちている原因が判らないのだろう。
 俺は、戦闘モードの右腕でおもむろにドアを引きちぎると、そのドアごと運転席の中に押し込み、サングラス男を反対側のドアから押し出してやった。
 サングラス越しでも十分判る引きつった表情が、スピードが落ちたとはいえ50km/s位の車からドアとともに落下した恐怖を物語っていた。
 運転席を占拠した俺は、放っておいても止まるトレーラーをブレーキをかけて止まらせた。
 場所はいつの間にか町をはずれ、砂漠の中の一本道に止まっている。周りには何もない。
 すかさず耳につけた無線機にMr.Bの声が響く。
「コンテナに行ってMr.Jの援護をしてくれ。Jと連絡が付かない」
 やはり、向こうのほうがやばかったか。運転席から降りてコンテナの様子を見に行った。
 なにしろ、Mr.Jは「獣人」だ。
 しかも、完全に獣人化してしまうと理性も吹き飛んでしまう。つまり、敵味方の区別がつかなくなり、本能の赴くままにあばれるただの獣になってしまうというのだ。そのおかげで、味方であるはずのMr.Bは、先日、砂漠のオアシスで獣人化したMr.Jに投げ飛ばされ、死にかけた。
 だが、クリス博士に対しては、なぜか攻撃は加えないような気がする。
 Mr.Jとクリス博士の間には、人質と救出者の関係だけではない何か特別な繋がりがあるような気がしてならない。

義腕の男2(67)

2017年02月05日 | 短編小説「義腕の男2」
「屋根に出入り口がある。俺はそこから侵入する。Kは運転席を占拠してくれ」
 無線機からMr.Jの声が聞こえた。
 親指を立てて、「OK」の合図をMr.Jに送ると、俺はコンテナの脇に少しだけある隙間に足を掛け、コンテナの側面にしがみつきながら運転席に向かった。
 100km/sのスピードの風は結構応える。
 中ほどまで行った時、運転席の窓から半身を乗り出す黒のサングラスを掛けた男の姿が見えた。手には拳銃を持っている。
 振り返りざま俺に向かって数発撃ってきた。
 身体をひねって無理な体勢で撃っているので、普通は当たるはずがないのだが、偶然とは恐ろしいものだ。2発目の弾丸が俺の目の前のコンテナの壁に当たり火花を発した。
 たかを括っていた俺はバランスを崩し狭い足元を滑らせ、トレーラーから落下した、いや、落下しそうになった。
 戦闘モードになっていた俺の右腕は、咄嗟にトレーラーの横に出ていたパイプを掴み、辛うじて時速100Km/Sで走行中の車からの墜落死から救ってくれた。
 だが、それを見ていた運転席の男は、執拗に撃ってくる。
 今度は、全く当たる気配はないが、また偶然が起きてもつまらないので、そのまま運転席から死角となるトレーラーの下に身体を移動させた。大型車両なので、俺一人ぐらい難なく隠れることができる。
 さて、ここからどうやって運転席を襲うか・・いろいろと考えているうち、目の前で黄色いプロペラシャフトが廻っていることに気がついた。エンジンの回転を後輪に伝える金属製の太い部品だ。
 何のことはない。要するにトレーラーを止めれば良いのだ。
 俺は、左手と両足の引っ掛かりを確認し、右腕をフリーにした。
 「ブゥ・・ン」という戦闘モード特有の唸りを耳に、頼りの右腕で力いっぱいプロペラシャフトを殴りつけた。
 「ゴン!!」
 重い金属同士がぶつかり合う低く鈍い音が響いた次の瞬間「ギャリギャリーーー」という金属の擦りあう不快な音が響き渡り、どこから出ているのかよく判らない火花が舞い散った。
 殴られたプロペラシャフトは、変な形にひしゃげ「ガコンガコン・・」と異音を発しながら廻り続けている。
 だが、その回転はみるみるうちに遅くなっていき、それに合わせトレーラーのスピードも落ちていった。

義腕の男2(66)

2017年02月04日 | 短編小説「義腕の男2」
 100km/h近いスピードで走っている車外は、かなりの風圧があるが、ちょうど巨大なトレーラーの陰にすっぽり隠れていて、思った程動きづらくはない。
 赤と青の光りに照らされたコンテナは、近くで見るとかなりでかい。横に扉があるタイプだ。
 博士を救出するには、コンテナに入り込んで戦闘する前に、まずトレーラーを止めることが先決だろう。
 Mr.J達も同じ事を考えているようだ。
 耳に取り付けた無線機からMr.kの声が聞こえてきた。
「エアマスターがコンテナの動きを止めている間に、トレーラーの運転席を占拠しろ」
「了解」
Mr.Jの声も聞こえる。強風の中でもきれいに聞こえるとは地味だがさすが技術立国の製品だ。
 強風に目を細めながら、改めてコンテナを見てみると、微妙に空中に浮いているが、何か見えない鎖で引きとめられている不思議な感じがする。
「なるほど、これが新兵器同士のせめぎ合いということか・・」
 画面的に動きが少なく、とても最新技術ががっぷり四つに組み合っているようには見えない。だが、このチャンスを逃したら博士の救出は極めて困難になる。
 先に出たMR.Jはコンテナの右側に向かっている。
 俺は、コンテナの左側に運転席へのルートを探そうと視線をおくった。
 その時、視界の上部に黒い影が映ったかと思うと「パパパ・・」と乾いた音が上方から聞こえた。
 サブマシンガンの音だ。あの情け容赦のない重装備兵士が持っていたやつだ。
 長年この手の仕事を続けていると、第六感的な感覚が生まれてくる。
 今、確実に「撃たれる」という感覚もそのひとつだ。
 完全に不意をつかれ、相手の弾道に自分の体がモロに乗っているという全身の非常ベルが突然全開で鳴り響く感覚、まさにその感覚が俺を襲った。
 もちろん、反射的に体を縮ませ弾道から身体をはずす行為はとったものの、引き金を引いた後の銃弾のスピードにかなうわけはない。撃たれてもよけられるのは、映画か漫画ぐらいのもので現実には人間の反射スピードでは間に合わない。
 あとは、どこに当たるか、致命傷にならない部分に被弾するのを祈るしかない・・
 と、覚悟を決めたが、いつまで経ってもどこにも痛みがこない。
 不思議に思った俺は、恐る恐る見上げてみた。
 サブマシンガンの弾は、空中で止まっていた。
 2色の光が交差している紫色の領域で全弾がまるで見えない糸で釣っているかのように浮かんでいる。
 「すごい・・」思わず感嘆の言葉が漏れた。ノスリルの最新技術エアマスターの威力が身にしみた。ゲル状になった空気が弾丸を空中で止めているのだ。
 紫色の空間を透してコンテナの屋根にいる兵士の姿が見えた。状況が理解できないようで明らかに動揺している。
 「パパパパ・・」
 懲りずに兵士は、またマシンガンをぶっ放した。
 反射的に俺は身をすくめたが、弾は同じように空中で止まった。
 俺は思わずニヤリとほくそ笑んで兵士を見上げてやった。
明らかに逆上した兵士が、三度マシンガンを撃とうと構えた瞬間、いつの間に登ったのかMr.Jが横から兵士に襲い掛かった。
 俺だけに気をとられていた兵士は不意をつかれ、派手な立ち回りをすることもなく100KM/hで走行中のトレーラーから道路に叩き落された。重歩兵の装備をフルで装着しているようだから命は大丈夫かもしれないが重症は免れないだろう。