★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
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彗星の時(86)了

2012年12月08日 | 短編小説「彗星の時」
「・・・このアンドロイドとは、機械だと言ってました。つまり「物」なのです。しかしシャイン殿は、あの霊魂を見ても判るように、人間ではないが「生き物」です。その違いが問題なのではありませんか」
「ほう、そういうことか。・・では、「物」を霊魂の力で動かせれば良い訳じゃな。それならば話は簡単じゃ。何も100番台の難しい技を使う必要は無い。覇道の基本中の基本、霊魂の霊力の増加、気の注入じゃ」
 ジュンサイはそう言うと杖の動きを変化させ、より大きく動かした。銀輪の響きも大きくなる。
 新たな呪文が遺体安置所に響き渡った。
 間もなく銀色ののっぺりしたアンドロイドの身体が、薄ぼんやりと光り始め、表面が変化しみるみるうちに黒色のシャインの身体に変わっていった。
 さらに、その数十秒後には、新しいシャインが台の上に起き上がりジュンサイに話しかけた。
「急ごう、操りの間へ、ケイン様が危ない」

 数時間後、ケインは自室の寝具の上で目を覚ました。まだ治りきっていないのだろう、天井がぐるぐる回って見える。
 はっきり覚えているのは、ギガベースの遠隔操作アクセス権を取り戻し、レマ湖へ向かわせることに成功した辺りまでで、その後のことは、朦朧とした記憶の中でシャインに抱きかかえられイオノスとの接続が切れたこと等がぼんやりと浮かんでは消える。
「どうなったんだろう・・」
 漠然とした思いが頭を横切るが、何をどうしたら良いのか判らないし、身体も言うことをきかない。そう感じているうちにケインはまた深い眠りについた。

 ヤーコンは荒野の丘の上で意識を取り戻した。意識を取り戻したと言っても、今まで気絶でもしていたわけではなく、魂が離れていたので肉体が今目覚めたということで、ヤーコンの記憶は王宮へ飛んだ時から、帰ってくるまで全て残っている。
 肉体の眼を開けたヤーコンは、魂が離れていたのは1時間くらいだったはずだが、いつの間にかすっかり夜になっていたことに気が付いた。そういえば、霊魂となって王宮に飛んだときはもう夕方だった。
 傍らを見ると、シャインが横たわっていた。胸に開いた傷は乾ききり、ピンク色の液体を流していた口元はカサカサに固まっていた。

 シャインの霊魂は、アンドロイドに乗り移ってケインを抱きかかえ、操りの間から出てきたすぐ後、荒野に横たわっている本来の自分の身体が全機能停止したことを感じ取っていた。シャインの姿のアンドロイドは、ヤーコン達にケインを渡すと、ふっと笑って言った。
「皆さん、ありがとう。これで私も仲間のところへ帰れる・・」
シャインの魂は、その言葉が終わるか終わらないかのうちに、アンドロイドの頭部から蒸気のように抜け出し、そのまま空中に霧散し消えていったのだった。

「・・シャイン殿・・」
ヤーコンは、涙をこらえて空を見上げた。
夜空には、一筋の大きなほうき星が輝いていた。