★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
SF、ミステリーから現代物まで何でも書いてます。
良かったら感想をお聞かせください。

彗星の時(68)

2012年04月28日 | 短編小説「彗星の時」
 ズームアップすると、『地の国』の軍隊が見えた。数千と言う本隊とその先頭を進む戦鉄牛、そして動く針山と呼ばれた巨大な物体がまさに国境を超えようとしていた。
「あれは、、、陸上自走型移動基地RKBⅧ・サブネーム「ギガベース」・」
その時、「ギガベース」の上に生えている針の一本がカッと輝き、一筋の閃光が走った。
閃光の先には、国境警備軍の師団が防御壁を築いていたが、閃光が当たった瞬間、爆音と供に砕け散り、兵士達が吹き飛ばされていった。
「むぅぅ・・なんてことを・・、くそっ」
「早まってはいけません」
突然ケインの頭の中に声が響いてきた。
「?・・シャインさん」
「そうです。・・『地の国』にはやっかいな物が残っていたようだ。」
「ああ、超時空通信ですね。今どこにいるのですか」
「敵を少しでも食い止めようと、ヤーコン殿と一緒に、走鳥にのって王都を出て前線へ向かっています。あれは確かに「ギガベース」です。装甲が厚くて今の時代の武器では全く歯が立ちません。確かに[イオノスⅢ]の遠距離ビーム砲であればかなりのダメージを与えられるでしょうが、あの「ギガベース」は、超小型反応炉を搭載し稼動しています。万一反応炉が暴走したら、『天の国』の大半が壊滅するでしょう。迂闊に破壊することは危険です」
「じゃあ、どうしたらいいの」
「・・・私に考えがあります。今しばらくデータを解析しますので時間をいただけませんか・・」
「うん、判った」
[イオノスⅢ]と超時空通信で繋がったシャインは、[イオノスⅣ]のデータベースにアクセスし、「ギガベース」の詳細データの分析を始めた。

彗星の時(67)

2012年04月14日 | 短編小説「彗星の時」
 ケインは空を飛んでいた。
 体調が優れないせいか、繋がるまでかなりの時間がかかったが、前回の接続と違って大量な情報の流入がない分ストレスはあまり感じなかった。
 戦略軌道衛星[イオノスⅢ]のカメラやセンサー等はケインの眼や耳など五感と直結しており、ケイン自身が衛星軌道を飛んでいる感じがする。
「ああ、僕らの『チキュウ』はきれいだなぁ」
眼下に見える惑星は、大地の部分と青い海原の部分に分かれ、さらに大地は茶色や緑色に色分けされている。太陽に照らされた星面は鮮やかに輝き、星自体の生命の息吹が聞こえてくるようだった。
「『チキュウ』って本当に丸かったんだ」
 ケインたちの世界では、自分達の星を『チキュウ』と呼んでいた。[イオノスⅣ]からの知識で、『チキュウ』とは、超古代の銀河連邦という組織の本部がある別の星の名前だと知った。だが、ケインにとってそんなことはどうでもよかった。どういう名前でも、今この星は間違いなくケインたちの星なのだ。
 真下にはケインが実際にいる『天の国』の王宮が見える。さらに王宮を中心とした王都が見える。もっとズームアウトしていくと『天の国』全体が見渡せる。そして、北の辺境地域、南の『地の国』さらに『海の国』も見える。全世界が掌中に収まる感じがする。
「これが、世界なんだ・・」
 しばらくの間、母国の危機などすっかり忘れ、母なる星の美しさに見とれていた。
 しかし、『天の国』の国境あたりで異様な動きが見えた時、ケインは『天の国』の大帝としての自分の立場を思い出した。

彗星の時(66)

2012年04月10日 | 短編小説「彗星の時」
 小さめのホールぐらいの広さであろうか、天井はさほど高くはないが、ほとんど物がないガランとした殺風景な部屋だった。
「何もないのう・これが宝物庫か・・」
 女王は扉が開いた喜びの反面、宝物庫の寂しさに落胆が隠せなかった。それでも部屋の片隅には、見たこともない機械が数台置いてある。
「・・使えるか?」
 シャインはそう呟きながらその機械に近づき手に取った。
「・・ブラスター・キャノンTZ554型・・未使用・・エネルギーは空だがチャージすれば・・3台・・か・」
 機械を手に持ったまま、女王に聞いた。
「女王様、この機械を1台お借りしてもよろしいですか」
 ライラ女王は、部屋の中を見渡しながらシャインに許しを出した。
「古き言い伝えによると、宝物庫の宝物は、特別の者だけの宝であるとなっておる。特別の者とは王家の人間と思っていたが、どうやら違うらしいのう。持っていくが良い。そしてケインと『天の国』を救っておくれ」
「ありがとうございます」
 女王は軽くうなずき、部屋の中を再度見渡しながら言った。
「古き言い伝えといえば、ケインは群集の前で『大帝』と名乗ったそうだが、ヤーコンよ、それは誠であるか?」
 ヤーコンは、どきりとしながら弱弱しく答えた。
「・・はい。そのように聞いておりますが・・」
「さようか。別に責めるつもりではない。王室に伝わる言い伝えでは、天神の力を手に入れた者は、すでに王がいようが、『大帝』と名乗ってよいことになっておる。ただ、すでにいる王は、退位する必要はない、とも伝わっておる。それはな、『大帝』は短命であり長生きできないからじゃそうな。ヤーコン、それにシャインとやら。ケイン大帝のこと、くれぐれもお体に気をつけるよう、頼みましたよ」
「はは~。恐れ入ります」
 ヤーコンは床に頭をこすりつけ、女王の懐の深さに改めて感銘した。

彗星の時(65)

2012年04月06日 | 短編小説「彗星の時」
 しばらく歩き大きな扉の前に辿り着くと、女王は振り向いて言った。
「さあ、ここが宝物庫じゃ。じゃが残念なことがある。そなたらは中を見たいと申したが、それはできぬ。なぜなら、この扉は誰も開けることが出来ないのだ。もう何世代にも渡って開いておらぬ。シャインよ。そなた、超古代から来たと申したの。そなたの力で開けられるものであれば開けて見せよ。鍵はそれじゃ」
 女王の言葉にあわせ、ジュンサイが大きな金色の鍵をシャインの前に提示した。
「言い伝えによれば、その鍵は光り輝いていたと言うが、今では金色ではあるものの輝いてはおらぬ。鍵穴に差し込んでも何も起きず回りもしない。扉を壊そうとしてもまさに超古代から伝わるもの、傷ひとつつけられぬ」
 ジュンサイが寂しげに言った。
 鍵を受け取ったシャインは、鍵の細部を調べていたが「・・KP327型識別機能付PWキーか・・」と呟くと、バックパックに手を突っ込み、ケーブルを1本引っ張り出すと、鍵の後部に繋ぎこんだ。
「おお、、」
 シャイン以外の3人が同じような驚きの声を上げた。
「鍵が光っている・・」
 シャインは、そのまま光る鍵を扉の鍵穴に差し込み、鍵穴の横にある四角い模様に手をかざすとどこからともなく女性の声が
「・・PX2008型SP、シリアルナンバーBG281と識別。扉を開放します・・」
と響いたと同時に長年閉じきったままの扉が、積もり積もった埃や塵などを振り落としながらゴリゴリと音を立てゆっくりと左右に開き始めた。
「な、なんと宝物庫が開く・・」
 女王はごみが降りかかるのも忘れ扉が開く様を見つめていた。
 扉が開ききると、シャインは部屋の中に進みこんだ。他の者達もそれにつられ入っていく。
 部屋の中は真っ暗だったが、シャイン達が入室すると徐々に明るくなっていき、部屋の中の全貌が明らかになった。

彗星の時(64)

2012年04月03日 | 短編小説「彗星の時」
「ケインのために宝物庫を見たいそうな。どういうことじゃ」
「はい、私の役目はケイン殿の安全を確保することです。ケイン殿は今[イオノスⅣ]・・・『天神の力』を使おうとしておられますが、これはケイン様にかなりの負担がかかるものです。ですので、私はその負担を少しでも楽にしなくてはなりません。先程調べたところによりますと、このセンター・・王宮には超古代の武器がまだ残っているように見えましたので、武器庫を調べさせていただきたい。ヤーコン殿の話では、その武器庫は今は宝物庫になっているとのこと」
 そこでヤーコンが口を挟んだ。
「このシャインと申す者は、ケイン様の命を救った超戦士であり、ケイン様からも絶対の信頼を置くようにとのご命令もございます。言っていることに相違はございませぬ」
 ライラ女王が、傍らにいるジュンサイに小声で何かを呟くと、ジュンサイは軽くうなずいて席をはずした。女王は再び正面を向くとそのまま立ち上がり、列席している重臣たちにも聞こえるように言った。
「よかろう。今この緊急時じゃ。天の国を救うためにできることは全て行う。ただ、王家伝来の宝物庫じゃ、わらわも立ち会わねばなるまい。大臣の方々、会議は一旦中止じゃ。」
 女王の言葉に併せ、大臣達はゾロゾロと王の間から出て行った。
 大臣達がいなくなったのを見計らって、女王はシャインたちに話しかけた。
「宝物庫はこちらじゃ。付いてくるがよい」
 女王はすそを翻して王の座の後ろに歩いていった。遅れないようにシャイン達もそれに続く。
 いつの間にかジュンサイが一行に加わっていた。