★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
SF、ミステリーから現代物まで何でも書いてます。
良かったら感想をお聞かせください。

居酒屋にて(7)了

2010年12月31日 | SS「居酒屋にて」
「てめぇのせいだぞ、このやろうぅ。けりぃつけてやる。表へ出ろ!」
「おおうぅ!いいだろう!やったろうじゃねぇの!」
 そう怒鳴り合うと、にらみ合ったままカウンターを離れ出口に向かい、縄のれんをくぐって外に出ると、扉を勢いよく閉めた。
 その直後、酔っ払い二人の叫び声が店内にも聞こえてきた。
「うおりゃー、てめぇ、前から気に食わなかったのじゃぁー」
「うるせぇ!おめぇこそなんじゃそりゃー」
(がちゃん、ぼこん)
 なにかぶつかるような音も聞こえてくる。
 今や、店内ではあっけにとられて眉までへの字に曲げた店員だけでなく、大半の客が聞き耳を立てて騒動の成り行きを聞いていた。
 しばらくすると、声も物音も聞こえなくなった。
 はっと我に帰った店員は、やっとけりがついたのかと思いつつも、怪我をされていても困ると思い、店の扉を開けて恐る恐る外に首を出してみた。
 いつもどおりの路地がある。店の看板もいつものままだ。二人の姿はどこにもない。人通りも数人だが、何事もなかったように通り過ぎていく。
 外気が顔に心地よい。
 店員の口がへの字から、アルファベットのオーの字に変わった。
 店員はひたいに手をやって叫んだ。
「あちゃー、やられたぁー、食い逃げだ~」
 

居酒屋にて(6)

2010年12月29日 | SS「居酒屋にて」
メガネ男も負けてはいない。ペイズリー男のゆるみきったネクタイとワイシャツをまとめてつかみ、怒鳴り返した。
「なにおぅ!こんにゃろー!やるのか!やるってぇのかぁ!」
 店員は、目の前で始まった酔っ払い同士のケンカに、口を「あ~あ」という形に曲げてしばし傍観している。
 ペイズリー男は、どうやらケンカは売ったものの、買ってくれるとは思っていなかったらしい。がっぷり四つに組んだ形のままちょっとの間固まってしまった。
 すると、メガネ男は、首を締め上げる手に力を込めたようで、ペイズリー男の血走った目がますます赤くなってきた。
 苦しくなったペイズリー男も手に力を込める。すると力の均衡が微妙にずれてきて、二人の体が数センチ傾いた。
 メガネ男のカウンターテーブルには、ホッピーの空瓶が数本立っている。その一本にバランスを崩したメガネ男のひじが軽く当たり、カウンターの上でカチャンと倒れた。
 それを見た店員は思わず「あっ」と叫ぶ。
 その音と声にギョッとした二人は互いに胸元から手を離したため、テーブル上ではそれ以上の被害は出なかったものの、腹の虫は収まらないらしい。

居酒屋にて(5)

2010年12月26日 | SS「居酒屋にて」
 それを見たメガネ男は、怪しげな目つきで口をへの字に曲げたまま、咥えていた串をプッと噴出した。噴出された串は、うまい具合に前に飛び、カウンターテーブルに置いたペイズリー男の手の甲にペタッと張り付いた。
 まだ手の感覚はあるらしい。ペイズリー男は手についた串をつかむと、それをメガネ男の目の前に立てて叫んだ。
「おんどりゃーぁ!!、て、手に串がささったじゃないかぁーー!!」
 突然のあまりに大きい声だったために、カウンター越しの店員もビクッと皿洗いの手を止めて二人の方を見た。
 串を目の前に突き出されたメガネ男は、酔っ払って赤くなった顔をさらにどす黒くして負けじと反論した。
「ば、ばかやろうーー!。そ、それは神様がやったんだろうがぁ。天誅である!」
「てんちゅうぅぅーぅ?て、てめぇ!ふざけるなぁ!!」
ペイズリー男はメガネ男の胸倉をつかみ上げ、血走った目でメガネ男をにらみつけた。

居酒屋にて(4)

2010年12月23日 | SS「居酒屋にて」
 メガネの奥の濁った目で、その動作を見ていたメガネ男も、くわえた串をぶらんぶらん振るわせながら中腰になりゼスチャーを交えた意見を言い始めた。
「日本の神様と言えば、なんっといっても、ベンテン様じゃろぉぉ。こぉぉんな髪型に、こうギュッとくびれた腰にだなぁ、すんげぇ色っぽい目つきで福を呼んでくれるのじゃぁ」
 メガネ男は、もう席からすっかり立ち上がり、腰をくねくね、あやしい目つきで気色悪い表情を作りペイズリー男を斜視している。色っぽいつもりなのかアルコールのせいで眼球のコントロールが効かなくなってきたのか定かではないが、その目つきがまたペイズリー男の気に障ったようだ。
「ベンテン様は、そんなおかしげなツラはしとらんぜよ。もっとこう、こうウルウルした目でだなぁ、わしらを見てくれるんじゃいぃ」
 ペイズリー男も席を立ち上がり、カウンターテーブルに手をつきながら、なぜかエセ坂本竜馬風の思い込み土佐弁で、メガネ男に向かって目に力を入れて顔を突き出した。

居酒屋にて(3)

2010年12月16日 | SS「居酒屋にて」
するとメガネ男は益々小馬鹿にしたような目つきになり、指摘した。
「あほか、ホッピーから串が生えるわけねーだろ。それは、、、神様が入れたんだぁ」
「おおぉ、か・神様かぁ。。。」
 ペイズリーネクタイ男は、そう言うとキョロキョロ周りを見渡しはじめた。
「神様は、どこにいるのかなぁ。どんな顔をしているのかなぁ」
 いつの間にか焼き鳥を食いつくし、また串をくわえているメガネ男も、一緒になって辺りを見回している。
「やっぱし、神様というくらいだから、こう、面長で、無精ひげなんかが生えていてさ、、オーマイガッてな感じやろ」
 その表現が気に入らなかったのか、ペイズリー男はゆるんでいたネクタイの首元に指を突っ込んで、ぐいぐいとさらに緩めながらメガネ男の鼻面に顔を向けた。
「いんや、ちゃうどー。日本の神様だから、そんなガリガリなビンボ臭いはずはない。もっとこう、ぷくっと福福しい姿をしててだなぁ。でかい鯛なんか持ってたりするのだ~」
と言いながら、席から腰を浮かせ、両手で空中に大きな魚の形を描いてみせた。

居酒屋にて(2)

2010年12月12日 | SS「居酒屋にて」
「へぇ?屁はくさいんだ!臭くなければ屁じゃない!臭いから屁というのだ。臭くない屁は屁じゃない。それは・・う~ん、香水だぁ、うん、そうだ。香水はいいにおいだからケツからでても屁じゃないぞ。ケツから香水、ケツから香水っとくらあ~」
 ペイズリーネクタイ男は、そういうとジョッキを口元に持って行き、グビリと一口飲み込んだ。
 メガネ男は、相変わらず串をプラ付かせながら、見下したような目つきでペイズリーネクタイ男を見ると、「けっ」と舌打ちして言った。
「香水がケツから出るわきゃねーだろ。香水は・・首から出るんだっ、ばかたれっ」
 その時、カウンター越しに二人の会話を聞いたのだろうか、若い定員が少しニヤニヤしながら「へい、お待ち」と焼き鳥が2本乗った皿を二人の前においた。
 メガネ男は、口から串を引き抜くと、ペイズリーネクタイ男のジョッキにポイと放り込み、新しい焼き鳥を口に運んだ。
 ペイズリーネクタイ男は、アルコールがかなり脳に回っているようで、自分のジョッキに串が入っているのを発見すると妙な声を出した。
「ありゃ~りゃ~、ホッピーから串が生えてきたぁ」
 どうやら、だれかが串を入れたとは思いつかないらしい。突然ジョッキに串が生えてきたように見えたようだ。

居酒屋にて(1)

2010年12月11日 | SS「居酒屋にて」
 とある居酒屋のカウンターで、二人の男が酒を飲んでいた。二人とも40歳代のサラリーマンのようだ。
 時間は夜の10時。店内は一番盛況な時間帯で混み合っている。カウンターは20席、テーブル席が10机位の普通の居酒屋であるが、料理の味の良さが評判で連日満員の繁盛振りであった。
 一人の男がジョッキを口から離してテーブルに置いた。ジョッキの中にはまだ半分くらいの黄色い液体が入っている。テーブルの上にはホッピーの空瓶が5本くらい立っていた。
「おまえさぁ、しかしあれだな。どう思うよ。あの総理大臣はよぉ」
 かなりろれつが回らなくなっているその男は、ペイズリー柄ネクタイの結び目もすっかり緩んで、ワイシャツの襟元がだらしなく半開きになっている。
 男は、机に置いたジョッキの取っ手から手を離さず、焦点が合わなくなった目つきで、隣に座ったもう一人の男のほうを見た。
「にゃにおぅ、総理大臣?おう、アイム ソウリーだなぁ?」
 こちらの男も、負けず劣らず典型的な酔っ払いオヤジのスタイルになっている。
 どちらかと言えば、アルコールに対しての耐性が低いのか、男の顔は髪の生え際まで真っ赤に染まっている。10度ほど右に傾いて鼻に引っかかっている黒ぶちのメガネからはずれた半開きの眼は、白目の部分が少し黄みがかっていた。
「おう、あいつの屁はくさいなあ、えへへ、へーい」
 総理大臣の屁を嗅いだことがあるはずもない男は、への字に曲げた口の端にヤキトリの串を咥え、プラプラ動かしながら言った。