★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
SF、ミステリーから現代物まで何でも書いてます。
良かったら感想をお聞かせください。

義腕の男(32)

2010年04月27日 | 短編小説「義腕の男」
 現場を混乱させて脱出を図る。こういう場合の常套手段だが助かる可能性は意外と高い。
 しかも、さっき見渡したところでは、後は拳銃と自動小銃ぐらいしか装備していないようだった。俺が着ているこの清掃作業員の作業服は一見何の変哲もないが、裏地にケプラー繊維を編みこんだ簡易防弾仕様になっているので、銃弾でもある程度まで耐えられる。
 俺は、ポケットから閃光棒を取り出し指に挟んで折り曲げた。これは結構便利な品だ。
 一見、短い鉛筆のようなプラスチックの棒に見えるが、折り曲げると1秒間だけ太陽並みの光を発する。熱も音もない。単なる目くらましだ。ただ強烈に光るだけなのだが、まともに見ると数秒間目がくらんで何も見えなくなる。折り曲げる俺は、1秒間だけしっかり目をつぶっていれば良い。
ぎゃー・・うおおおぉ・・・

義腕の男(31)

2010年04月24日 | 短編小説「義腕の男」
 俺は、右腕の威力を発揮した。
 常人の目には見えないようなスピードで拳を繰り出した。ちょうど訓練所のテニスルームのようなものだ。
 さっきまで俺の左腕をつかんでいたMr.Rの右腕は、「ぼこっ」という音とともに変な形に曲がりMr.Rの背中のほうへ回っていった。ほぼ同時に、Mr.Rは顔面が3箇所ほど いやな音とともにへこんで、白目をむいて気絶した。
 俺は、すぐさまMr.Rの白衣の襟首を右手で掴み、「ブラッディスパイダー」を構えた男めがけ、Mr.Rをそのまま投げつけた。怪力の右義腕のなせる技である。
「ブラッディスパイダー」を構えた男は、突然Mr.Rが飛んでくるものだからそのまま引き金を絞った。炸裂音とともにきらきら輝く蜘蛛の巣状のネットがきれいに開いて俺のほうに飛んできた。しかし、ネットは俺に届く前にMr.Rを包み込んでしまった。そしてMr.Rは気絶したまま特殊鋼線のネットにまみれながら「ブラッディスパイダー」を撃った男に圧し掛かっていった。
 うわああああぉ・・場が騒然となった。

義腕の男(30)

2010年04月23日 | 短編小説「義腕の男」
 俺は、右腕の腕時計の文字盤を、力いっぱい右膝に押し付けた。ジャックが作ってくれた戦闘モード直結のスイッチである。腕時計がカチッと小さく鳴ると、ブゥーーン・・とかすかなうなり声が右肩から伝わってきた。この音を聞くと安心感が広がっていく。
「俺の腕の話は誰に聞いた?」
 俺はMr.Rに向かって小さくつぶやいた。
「ふん、誰でもよかろう。おまえはこのまま捕まって一生監獄暮らしになるんだからな」
「それはちょっとやだなぁ」
 俺は、そう言いながら周りの銃を構えている連中を観察した。
 一人の男が今にも発射しそうな構えで狙いを定めている。あの銃は、捕獲用ネットランチャーだ。
 極細の超硬質繊維を使ったネットを対象物に覆いかぶせ捕らえるための銃で、繊維があまりにも細いせいで、捕まった人間が暴れれば暴れるほど肉が切れて血だらけになってしまうという別名「ブラッディスパイダー」という代物だ。
 あんなものを掛けられたらたまったものではない。

義腕の男(29)

2010年04月22日 | 短編小説「義腕の男」
「ごくろうさん、ケンジ中尉」
「やっぱり!!!!ばれてる!」
 俺は、紙ナプキンを握ったまま、左腕を振りほどこうとしたが、びくともしない。まるで万力ででも固定されているようだ。
「どうだい。君の腕もすごいらしいが、このパワースーツもいいだろう。まだ試作品だがね」
 Mr.Rはそう言うと、空いている手で、白衣の胸元を広げて見せた。渋い銀色の胸当てが見える。
 なるほど、俺の左腕をつかんでいる白い手袋はパワースーツの一部だったのだ。
「君の腕は、まだ通常モードなんだろう?さっきから見ていたよ。戦闘モードに切り替えるにはこの左手で操作するんだよねぇ」
 Mr.Rは俺の左腕をさらに締め上げ、勝ち誇ったようにニヤついている。
(やたらと詳しいな。いったいどこからこんな情報まで漏れたんだ)
 俺の頭の中は疑惑でぐるぐる回っていた。
 それに、周りを見れば、銃を構えた二十人位の人間が俺たちを取り囲んでいた。白衣を着たヤツや作業服の技術者、それにウェイトレスのお姉ちゃんまで小銃を構えて俺を狙っている。
 万事休すか。それにしてもこのMr.Rはやけに気に障る笑い方をする。どうせ捕まるんだったらせめてコイツだけでもなんとかしてやりたい。

義腕の男(28)

2010年04月21日 | 短編小説「義腕の男」
 白衣を着た金髪の男だ。俺が作戦前にミッションカードで記憶したMr.Rの顔写真と一致しているが、体がやけにごつい。プロレスラーが白衣をきるとこんな感じかと思われるように盛り上がっている。たしかデータでは、身長170センチ、体重55キロのはずだが。身長は確かに170センチくらいだが、体重55キロということはあるまい。最近ボディビルでもはじめたのか。
 俺の頭の中の警報は、ちょっとだけ大きくなった。
 Mr.Rと思われる男が白い手袋をつけたまま、紙ナプキンで口を拭きながらダストボックスの前に立った。
「あ、ゴミ箱いっぱいだなぁ」
 やけにでかい声で言って、わざとらしく俺のほうを振り返った。
 俺の体内警報は一気に高レベルまで達した。
《やばい・やばい・やばい》
 しかしこの状況では、とりあえず紙ナプキンを受け取るしかない。
「・・・私が捨てておきます・・」
 俺はそう言って右手でモップを持ち、左手を差し出した。
「あぁ、わるいなぁ」
 そう言うと、Mr.Rは丸めた紙ナプキンを俺の左手の掌に置いた。と、次の瞬間、俺の左手首をすごい力でつかみ、にやりと笑いながら言った。

義腕の男(27)

2010年04月20日 | 短編小説「義腕の男」
 Mr.Rは、昼食をとった後、紙ナプキンで口を拭きながらダストボックスに近づき、口を拭き終わった紙ナプキンを丸め、ダストボックスに捨てようとして「あ、ゴミ箱いっぱいだなぁ」と言う。
 俺は、「あ、私が捨てときますよ」といって紙ナプキンを受け取る。その紙ナプキンに設計図のマイクロチップが包まれているので、俺はそれを持って脱出する・・という段取りになっている。

 一人の男が近づいてきた。

義腕の男(26)

2010年04月16日 | 短編小説「義腕の男」
 もうひとつは、各研究部門の特別IDと生体認識装置をクリアしないと入れない本当の研究施設ブロックで、警備も非常に厳重になっている。もっとも今回、Mr.Rとは、サービス棟にある食堂で接触する手はずになっているので研究施設まで入り込む必要はない。

 俺は、あやしまれないよう清掃員の仕事をしながら食堂に入っていった。
 職員数は1000人近くいる施設なので、食堂も広い。もう午後1時近い時間なので、利用者のピークは過ぎているようだったが、それでも半分ぐらいの席は埋まっていた。研究者が多いせいか、白衣の人間が結構いるし、技術者の作業服姿の人も多い。
 モップを持って食堂に入った俺を、数人の白衣姿の人間が食事をしながらチラッと見た。
 別に不自然なことではないが、俺のスパイとしての本能が頭の中にかすかな警報を鳴らし始めた。
 なんとんなく不具合さを感じながら、俺は作業用帽子を目深にかぶり、ダストボックス付近の床をモップでふきながらMr.Rが来るのを待った。

義腕の男(25)

2010年04月14日 | 短編小説「義腕の男」
 計画通り、俺は薄緑色をした清掃作業員の服装をして研究所に乗り込んだ。当日急に休んだ作業員の代替ということで派遣社員の一人として、サヤカが用意してくれたIDカードで難なく検問を通過した。当日急に休んだ作業員は、前日の夜、サヤカと合コンしている。多分今日一日立ち上がることが出来なくらい飲まされたのだろう。
 研究所はさまざまなプロジェクトが行われているため、建物はかなり大きい。敷地的には野球場3・4個分はありそうだ。
 研究所内は、大きく2つのブロックに別れている。ひとつのブロックは、食堂やスーパー・簡易な娯楽施設などがあるサービス棟で、俺が持っているIDカードで入れるエリアだ。警備も比較的甘く今回のように意外と簡単に潜入できる。

義腕の男(24)

2010年04月13日 | 短編小説「義腕の男」
 俺の泊まるホテルは、近代都市側にある。宿泊するには快適な建物だ。これから潜入する科学研究所は、文字通り近代都市の象徴のようなところで、近代都市側の中心の位置しているためこのホテルを選んだようだ。
 部屋には現地の工作員が待っていた。サヤカという名の美人さんだ。一見おっとりしているように見えるが、格闘技、特にナイフ術の使い手で、さらに底なしの酒豪だそうだ。噂によると、何人もの敵の男達が酔っ払ったままのど笛をかっ切られたらしい。
「ケンジ中尉、お待ちしていました。予定通りですね。」
「ああ、よろしく頼むよ」
 軽く握手すると、俺は持ってきた荷物を部屋の真ん中にあるガラステーブルの上に置きながら聞いた。
「計画に変更はないか」
「ええ、特に変更はありません」
 サヤカはいつの間にか携帯端末を左手に持ち右手でタッチパネルを操作しながら確認しているようだ。
「ということは、あさってが決行日だな。スケジュールの確認をしておこうか」
「はい、あさっての12日火曜日、0800時、清掃作業員の格好で清祥会社のバンに乗車し研究所に潜入します。・・・」

義腕の男(23)

2010年04月12日 | 短編小説「義腕の男」
 世界に産業革命が訪れた約200年前、賢帝と称される当時の皇帝ルルゼフ3世が、伝統を壊すことなく新しい科学文化を取り入れるため、鉄道の線路を起点とした大胆な都市計画を打ち出した。伝統と科学を融合させるのではなくきっぱりと分けたのである。
 当時のザビ国内では、新しい化学文明に対するさまざまな意見が飛び交い、収集がつかなくなりつつあった。その時、普段はあまり表舞台に出ない皇帝の鶴の一声で、この形の原型が決まったのである。
 俺達の歴史の浅い連邦国では考えられないことだ。多分、連邦国で同じようなことがあればもめにもめて結局折衷案のようになり、いいかげんな都市の姿になっているか、一旦都市を捨てて別のところに新都市を建設しているかもしれない。

義腕の男(22)

2010年04月11日 | 短編小説「義腕の男」
「滞在期間は?」
「1週間です」
 俺の翻訳機のマイクは実に流暢なザビ語を話した。
「OKです。よい旅を」
 ちょび髭小太りの審査官は、思いがけない良い笑顔と俺のカードを返してくれた。
 さっきの審査官の表情の変化がほんの少し気になったが、なにか機械の操作ミスだったのだろうと軽く流してしまった。この時もう少し重要に考えていれば、後の顛末も少しは変わったのかも知れない。

 入国審査を終えると、空港のロビーに下りたった。さすが首都の空港である。人でごった返している。ここから汽車に乗り、一旦指定されたホテルに入る。そこで現地の連絡員と接触し、科学研究所潜入の準備をする段取りになっている。
 車窓から見えるザビ国の景色は、意外と美しい。それにとても判りやすい。鉄道をはさんで右側が伝統の街、左側が近代科学の町になっている。ザビ国の歴史は古い。さまざまな戦争や内紛があったものの、建国してから2千年が経過しており、その間石造りの伝統的な建物が建築されてきた。
 元来ザビ国は地盤が固いらしく、大規模な地震被害が起こったことは無い。そのせいか、石造りの建物の中には、建国以来2千年間建設当時のままの重厚なデザインの姿で、いまだに現役で使われている建物も少なくない。プライベートで来たならば、そういう史跡を巡るような観光をゆっくりとしたいと思えてくる。
 反面、左側は伝統的な建物はほとんどなく、近代的な高層建築が連立している。建替えの工事中もところどころに見える。実にきれいに分かれている。これには、ザビ国の大胆な都市計画が反映している。

義腕の男(21)

2010年04月08日 | 短編小説「義腕の男」
 俺の番が来た。俺は、パスポートと入国ビザのカードを差し出した。
 審査官はパスポートとカードを手元の装置にセットし、映し出された情報をモニターでチェックしている。
 一瞬、審査官の顔に緊張が走ったように見えたが手元のキーボードの操作ですぐに元に戻った。
「ザビ国での目的は?」
 ちょび髭小太りの審査官は、事務的に聞いた。一日何十回へたをすると何百回も同じ質問をしているのだろう。
「観光です」
 俺は、ユーリ語で翻訳機のマイクに話し掛けた。するとヘッドホンについているスピーカーから、ザビ語で「観光です」と流れた。
 ちょび髭の審査官は、その音声に全く動じることなく続けて質問しながら、モニターに映っているはずの俺の立体顔写真と実物の俺を見比べた。

義腕の男(20)

2010年04月07日 | 短編小説「義腕の男」
 ザビ共和国はわが祖国ユーリ連邦より北に位置しているため幾分寒い。ザビ共和国の首都、モスク市ケベ空港にコートの襟を立て降り立った俺は、他の客の流れに乗りながら身体検査のための透過検査を受けた。
 テロ防止や武器の持ち込み防止のための衣服を透過できるスキャナーでの検査だ。普通の義手ならば一発でばれるが、俺の右腕はそんなスキャナーにひっかかるような安物ではない。何の問題も無く通貨し、次の入国審査の列に並んだ。
 入国審査の審査官はちょび髭をはやした小太りな男だった。
 俺は翻訳機内臓型のヘッドホンマイクを右耳につけて順番を待った。ライバル国のザビ語は訓練で叩き込まれており、翻訳機など無くても自国民のように十分話せるが、こうした方がより観光客らしく見えて警戒感を持たれない。実際、入国審査のため並んでいる列の三人に一人は同じような翻訳機をつけている。

義腕の男(19)

2010年04月06日 | 短編小説「義腕の男」
 その後、ジャックは小声で付け加えた。
「それと、人差し指通信機を最近開発した超時空通信機に変えておいた。1分間だけだがどんな遠隔地でもどんな場所でも盗聴されずに通信できる。とりあえず僕としか通信できないけど、使ってみてくれ」
 人差し指通信機とは、右腕の人差し指に内蔵された通信機のことで、人差し指を耳に突っ込んでそのまま通話できる通信機のことだ。今までは普通の携帯電話並みだったのだが、高性能なヤツに変えてくれたらしい。
 俺は、ジャックに心から礼を言って、任務の実行を開始した。

 任務の計画は大まかに言えば次のとおりだ。
 まずザビ共和国に観光客を装って入国し、普通に鉄道を使い移動。途中で現地の仲間と合流し、科学研究所に潜入してMr.Rと接触。そこでデータの入ったメモリーチップを入手し帰国する。
 順調にいけば、この右腕は使わなくてもよさそうだが、毎回筋書き通りにいったためしがない。大体は、この腕のパワーに助けられて生き延びてきている。今回もどうなることやら。

義腕の男(18)

2010年04月01日 | 短編小説「義腕の男」
 翌日、朝6時に起床し、一番に兵器開発センターへ行った。ジャックは、昨日は徹夜したのであろうと思われるような目の下のクマのまま、俺の右腕を持って部屋から出てきた。
「だめだ、時間が足りない。なぜ戦闘モードが自動的に解除されるのかどうしてもわからない。プログラムのバグなのか、ハード的な問題なのか・・・」
「・・・・そうか・・・おまえが判らないんじゃ仕方ないな・・・」
「とりあえず、直結のラインを引いておいた。」
 そう言って、俺の右腕の手首を指さした。そこには、普通の腕時計が巻いてある。
「一見腕時計だが、戦闘モードのスイッチに直結になっている。使い方は、文字盤を強く押すと、それまで入力されたコマンドを全てクリアして直接戦闘モードがスイッチオンになる。解除するには、腕を分解しないとできない。つまり、ここに戻ってこないと解除できないわけだ。もちろん最初は普通にコマンドを入力して戦闘モードにするんだが、何もしないで戦闘モードが解除になった時のための緊急応急措置だ」
 さすがジャックである。命を無くすより、回りに少しばかり迷惑をかけることのほうがよっぽど良い。