鴨着く島

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糸島で象嵌入り鍔(つば)を確認

2024-01-05 09:35:32 | 古日向の謎

今朝のNHK7時台後半で、福岡県立糸島高校の全国的にも唯一という高校付属の「郷土資料館」を扱っていた。

その中で郷土資料にあった古墳時代の「鉄の鍔(つば)」から、CTスキャンによって鍔には象眼が施されていたことが判明したという。

サブタイトルに「お宝発見」とあったが、たしかにお宝には違いないが、その象嵌の文様を見て思い当たるものがあった。

鍔の表と裏では文様が違うのだが、表(向かって左)のは「ハート型」である。ハートの中に幾重にもハートを彫り込んでいる(専門的には「心葉文」という)。そして裏だが、これは俗に言う「蕨手(わらびて)文」ではないか。

表のハート紋の間にも向かい合った蕨手文が見える。

これらからこのハート紋の象形の意味は「植物の芽生え」を示していると思われる。裏は出たばかりの幼葉であり、表のは幼葉から本葉に進んで力強く伸びて行く姿だろう。

この鉄の鍔が発見されたのは50年も前らしく、単なる鉄の塊と思われていたようだ。しかし鍔に似ているということでCTスキャンにかけたら、鉄製の刀の鍔だったことが分かったという。

ただし、古墳時代の墓から出土したことは分かっているが、時代(前期・中期・後期の特定)は正確には分からないようだ。

だが、鉄製の鍔にハート型文様があるのが、平成16(2004)年に発掘調査された鹿屋市吾平町の「中尾地下式横穴墓」(6世紀後半)からも見つかっている。

中尾遺跡の中の地下式横穴8号墓の中で見つかった太刀(長さ72センチ)に銀象嵌で施されていたもので、鍔とそれを固定する鎺(はばき)と柄頭(つかがしら)にハート型文様が多数象嵌されていた。

当時の市教育委員会の説明資料によると、心葉文のある象嵌太刀が発見されたのは九州では福岡県で2例、大分県で1例あるだけという。今度の糸島高校は福岡県なので福岡県は3例目となるようだ。

また当時行われたシンポジウムでは、このハート型文様(心葉文)は「羽を広げた想像上の鳥鳳凰の簡略化されたもの」という見解が出されていた。

しかし私は「羽ばかりがなぜ鍔に8つも並べて彫られているのか。鳳凰だったら頭と尾羽・足なども簡略化して彫り込むのはさほど難しくはないだろうに」と首を傾げた。

だが、今度の糸島高校所蔵の郷土資料の発見によって心葉文は文字通り植物の葉の象形であり、「芽を出したばかりの葉のハート型の文様」から来たネーミングは正しかったことが判明したと思う。

生命力あふれる植物の芽出し・芽吹きの象形を彫り込むことで、太刀に「敵を打ち凝らす力」と「使う者の身を守る力」を込めた象嵌に違いない。

※古墳からの出土であれば被葬者の黄泉路への副葬であり、生前の被葬者の所有物ではなく、あくまでも迷いなき死出の旅路への副葬であった可能性も考えられる。

ただ今度の象嵌が金なのか銀なのかについては報告されていなかったが、いずれにしても中尾遺跡の「銀象嵌太刀」は南九州では唯一の事例であり、古日向域(南九州の鹿児島・宮崎)つまり隼人以前の先進性を示すものだ。