俳句日記/高橋正子

俳句雑誌「花冠」代表

8月27日(金)

2010-08-27 18:29:11 | Weblog
★りんりんと虫音に力のありて闇  正子
残暑厳しい中にも夜に入ると、虫の音が聞こえ、確かな秋を感じるころです。あの小さな身体であれだけ響く音色を出す、「力のありて闇」に共感いたします。 (多田有花)

○今日の俳句
秋茄子の不ぞろいなるも強靭に/多田有花
真夏の暑さが去り、朝夕が涼しくなってくると、茄子が生き生きとして美味しい実をつけるが、皮が傷んだようなのも、曲ったのも様々。「不ぞろいなるも強靭」なのである。(高橋正子)

○尾瀬初秋
8月27日金曜日、8時4分東京発の上越新幹線で尾瀬へ向かう。娘との二人行。上毛高原駅で下車。駅前から片品村戸倉行きのバスに乗る。バスはさらに峠へと2時間半走り、片品村の一番奥の戸倉に着く。到着30分前から日が照る中を雨が降り始め、レインコートをリュックから取り出すが、着いたときには雨は上がった。戸倉より、マイクロバスのようなタクシーに乗って、鳩待峠へ向かうこと30分。このあたりは芒の穂が開いたばかり。11時50分に峠に到着。鳩待峠は、尾瀬に入る最もポピュラーなところで、半分くらいの登山者がここから入るようだ。

○峠は広場となってツアーバスやマイクロバスが数台いる。売店や休憩所などをざっと見て、入山口の種子落としマットで靴裏をよくぬぐったあと、いよいよ尾瀬ヶ原の入り口の山の鼻へ向けて3,3キロの道を下る。はじめは石畳の階段、そのあと、木の階段、木道となる。1キロほど下ると、ブナ林に小鳥の声が響く。あまりに響くので、鳴き声がはっきりと聞き取れない。ブナの葉を騒がすような鳥の声に涼しさが湧く。木道がやや緩やかになると、左手に川上川の流れが見える。それからは水芭蕉の大きくなった葉を見ながら、今を盛りのハンゴンソウの黄色い花に目をやりながら、どんどんと下る。登ってくる人たちは息を弾ませている。登りは覚悟せねばなるまい。木道に沿って草を刈る人や歩荷(ぼっか)さんが、休憩場所の材木ベンチで休んだり、弁当を広げたりしている。歩荷さんとは、山小屋や売店にビールや飲み物、食べ物を背負子で運ぶ人。ツキノワグマがいるので、鐘が取り付けてあって、それを鳴らして熊に人間が通ることを知らせる。沢をいくつか見て山の鼻に着く。ここには、ビジターセンター、山小屋、売店、キャンプ場がある。予定通り、1時間で下った。木陰で休む。山鳩が近くに寄って来て逃げもしない、昼食はバスでおにぎりを食べて済ませていたので、飲み物とおやつを採る。トイレは寄付金100円を投入して使用するようになっている。手洗いの水道水の冷たいこと。

○20分ほど休憩のあと、平坦な木道を歩き出しだ。延々と続く木道が見える。尾瀬といえば、水芭蕉、ゆうすげ。その花も終わってしまった今、尾瀬になにがあるだろうかとの思いをよそに、高層湿原は、初秋の色に染まり、可憐な花や草がそよいでいた。空はやや曇り。歩くのにはほどよい。ウィークデイなので、人も多くない。洒落たハイキングウェアーの若い娘達が目立つ。木道を歩く足元には、黄色い小さな花が立ちのぼって咲くミヤマアキノキリンソウ、紫の小さな花が十花ほど咲きのぼるサワギキョウ、紅色もやさしいミヤマワレモコウ。湿原一帯には白い小さい花をのばしたイワショウブの花が今を盛りに咲いている。それに、オゼヌマアザミ。これらの花は、木道のいたるところに、アブラガヤの枯れた穂の色をアクセントに咲いている。しばらく歩いたので後を振り返ると、日本百名山の一つ至仏山が見える。湿原には「池とう」と呼ばれる、小さい池のようなのがたくさんある。幸いにことに、地とうには未草(ヒツジグザ)の花が咲いている。ちょうど未の刻(午後2時)に近い。スイレン科であるが、スイレンよりずっとずっと小さい。木道の間の池水にも咲いているのが見える。別の池とうには、ハヤのような魚がすばしこく泳いでいる。どうしてここに魚がいるのかも不思議だ。水芭蕉やゆうすげの群落のきらめくような季節は去ったが、初秋の尾瀬の細やかな花や草々の表情を満喫しつつ歩いた。サワギキョウ、ワレモコウの多いこと。ワレモコウに赤とんぼが止まる。水色の蜻蛉のつがい。ときに青紫のトリカブトもある。牛首分岐というあたりに来ると、至仏山とは反対側に、つまり行くてに燧ヶ岳の姿が素晴らしく思えるようになる。ここで休憩を入れ、竜宮というところまで歩く。この木道は尾瀬ヶ原のメインとなる道。ところどころに、タケカンバが育っている。遠くにもタケカンバの白い幹が画にみるように並んでいる。ナナカマドが紅葉し始めている。あとしばらくで、草紅葉の景色に変わるであろう。

○今夜の泊まりは、尾瀬ヶ原でも奥のほうにある赤田代の「温泉小屋」。鳩待峠から4時間、約10、8キロとある。山の日暮れはこわいので、4時か、4時半までには着きたい。竜宮を過ぎてから見晴(十字路)まで1,6キロ。そこからまだ40分は歩くので、足を速める。この道を通る人はほどんどいなくて、木道も痛みが激しく、穴があいて落ち込んでいたりしている。左手は葦が茂っているが、丈も1メートルほどと低く、紅むらさきの花もいい風情だ。ゴマナの白い花に混じり、トリカブトの紫の花が一叢。ブナには蔓紫陽花がからむ。遠くに赤い屋根が見えるが、なかなか遠い。ようやく着いたのは、見晴(十字路)である。ここで、休憩。弥太郎小屋など多くの山小屋がある。弥太郎清水が湧いていて、手を浸すと手が切れそうに冷たい。1分も手を入れておれない。小さいタオルを冷やし持ち歩くことに。帰りにはここは通らないので、急ぐ割にはここでゆっくりパノラマ地図を見たりする。いよいよ最後温泉小屋に向け、出発。葦がそよぐ山道の雰囲気のところを、木道の崩れに気をつけながら、小橋の沢を渡り、40分ほど歩いて温泉小屋に到着。午後4時。

○温泉小屋は200人収容とあるが、受付を済ませ別館に案内されると、今夜の泊まりは8人のようだ。自宅に衛星電話で到着を知らせる。部屋は二階。昭和を思い出させるような部屋。6人部屋に二人。この小屋は温泉があるので、すぐにも温泉に入りたいところだが、1回目の入浴タイムにはあと15分しかなく、夕食を先にとるように案内される。部屋の窓を開け、コンパスを出して方角を調べる。窓は北向きで、小屋の前庭というべきところに面している。

○夕食のメニュー。てんぷら、鶏肉のペッパー焼き、ひじきの煮物、ヤマゴボウのピリ辛煮、山菜煮、味噌汁、ご飯。漬物はどんぶりにラッキョウが盛って匙がつけてある。それと山菜のなにか。お茶は粉茶。耳かき2匙ほどをお湯に溶かして飲む。これを残さず食べて、翌朝は胃もたれをおこしたのだが。8人みんな揃って5時からの夕食は、食堂の前にひろがる葦原や草原、うす桃色の夕焼け雲をながめながら。私たち二人、定年過ぎの夫婦、定年後5年くらいの男性二人、若い夫婦。昔の尾瀬の話をしているのは男性二人。夕食後、入浴。荷物の管理もあるので、ひとりずつ入浴することに。風呂場にゆくと、だれも居なくて、ひとりゆっくりと入る。ときにクマザサが風に鳴る音が聞こえる。ほどよい湯加減にいつまでも入っていたいほどだ。石鹸、シャンプーは禁止。入浴後は、さほどの疲れも感じなかったので、娘と売店のあるロビーのテーブルで、尾瀬の花の図鑑などを見て知識を入れる。支配人さんが来て、家に電話が通じたかどうか確認された。顔を覚えていたようだ。(まあ、8人なので。)部屋に帰ってからも、部屋に持ち込んよい写真集など数冊を見て、俳句もそこそこで、8時過ぎ就寝。就寝時は毛布一枚、夜中に一枚増やし二枚に。涼しい。16度くらいか。

[正子作品]
尾瀬行きのバスの秋日のあたたかし  
みなかみの稲穂熟れそむ日和なり   
胡麻の花山の青さをきわだてり    
八月は水芭蕉の葉のおおいなる
ハンゴンソウの黄花真盛り触れもして
木道に沿えば風吹き吾亦紅
 イワショウブ
みはるかす湿原白き花が立ち
湿原に日はかたむかず未草
 弥太郎清水
差し入れし泉の水に手を切られ
山小屋の湯にいて秋の笹の音

生活する花たち「月見草」(横浜日吉本町)

コメント (2)
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