ぼけっとしていたら、唐突に、太宰治を読みたくなって、それもあの自虐的な作品群ではなく、いわゆる中期の短編を読みたくなって、取り出したのだが、よかった。高校の時に、年齢を重ねてもう一度太宰治を呼んでみてもおもしろいかもと、言ってた人がいたような、それはともかく、上手いし、何だか味があるのだ。ひしとした緊張感のようなものが文章の背後に隠れ、健全さへの願いのようなものが全体を包んでいる。富士の描写が太宰治の洒脱で軽妙な話体にのって綴られる。話の展開が短い枚数の中で躍動する。有名な「月見草」の描写だけではなく、茶店の娘さんとの会話や、見合い相手との会話、ラストの「酸漿(ほほづき)」などもいいのだ。「富士山」だけを撮られてしまった、カメラの「シャツタア」を頼んだ旅行者は、ちょっと気の毒だったかな。読点連続のだべり調が見事に削ぎおとされた文章になっているという気がした。
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