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「原爆の図」 丸木美術館 東松山市

2011年08月04日 07時51分13秒 | 文化・美術・文学・音楽


広島市生まれながら、その時は満州の大連にいて、難を逃れた。広島駅近くの何も残っていない元の社宅跡や、原爆記念碑は学生時代以来、何度も訪ねた。

長崎も同様で、永井隆博士の家では、余りの小ささに涙を禁じ得なかった。

このため、「丸木美術館も訪ねなければならない」という義務感に駆られていた。それでもこの年まで行かなかったのは、その悲惨さに耐えられないと気が重かったからだ。

それが、思い切って行く気になったのは11年。8月6日が近づいてきたのと、福島第一原発の暴発のためだった。

「原発と原爆は、何が変わろう」。同じではないか、人間は原爆を動力とする原発を制御できるのか、という思いである。

広島の太田川近くの農家に生まれ、前衛的な水墨画家だった丸木位里(いり)は投下の数日後、原爆の悲惨さを目撃、洋画家の俊(とし)夫人もその一週間後合流した。

「原爆の図」は夫妻の共同制作で、30年以上にわたって描かれ、全部で15部からなる。縦1.8m,横7.2mの大きな屏風絵で、水墨や日本画の顔料が使われている。

描かれているのは、原爆で死んでいった人間たちの姿である。これが「人道に対する罪」でなくて何であろう。体験者からは「この絵はきれいすぎる」との批判もあったという。

夫妻は、反原爆とともに反原発を唱え続けた。広島、長崎の被曝者がつくる日本原水爆被害者団体協議会が、明確な「脱原発」方針を決めたのは11年夏だから、その先見の明が分かる。

反原発の具体的な行動もした。1989年、福島第二原発のポンプ損傷事故をきっかけに、電気料金の原発分24%支払い拒否のため丸木美術館ヘの送電を一年以上停止された。その翌年、太陽光発電コージェネレーションシステムを設置したのは、よく知られた話である。

俊は89年の「丸木美術館ニュース」に、「原発止めないと原発に殺される」を連載するなど、原発を「ゆっくり燃える原爆」だとして、事故の不安や放射能の恐ろしさを訴えていた。

1967年にオープンしたこの美術館は、二階の展示室には天窓があり、自然光が入る。最初から電気をできるだけ使わない設計になっている。電気使用量をなるべく抑えるため、夏場は扇風機で、エアコンを設置する予定は無いという(埼玉新聞11年5月26日付による)。

夫妻は21世紀を待たず、高齢で死亡した。福島第一で起きたことを知ったら何と言うだろうか。

夏場、扇風機なしでもしのげるのは、都幾川のほとりにあるこの美術館の立地のためである。さわやかな川風が吹きこんでくる。

美術館のミニ・ガイドブックによると、水俣病で知られる作家の石牟礼道子さんは「ここは、むかしむかしの国ではあるまいか。万葉あたりの郎女(いらつめ=若い女性)たちの住むところ」と賞賛した。

一羽や二羽ではない。ウグイスの声がしきりに林の中から響く。他の鳥の声も聞こえるのだが、何の鳥なのか同定できないのがもどかしい。

「まわりの豊かな環境は、丸木夫妻の残したもう一つの、とても重要な“作品”でもあるのです」と、このミニガイドは結ばれている。

訪ねると、まさにそのとおり。埼玉県内、いろいろ訪ねた中でこれほど素晴らしいところは初めてだった。(写真は二階からみた周囲の風景)

丸木夫妻が知人に教えられ、初めてこの地を訪れた時、眼下に流れる都幾川を見て、「広島の太田川上流に似ている」と思って、住居と美術館を建てようと決めたという。

原爆の図は、単に被害者の立場から描かれたものではない。「戦争の加害性」にも目を向け、原爆投下後の広島で起きた米兵捕虜虐殺事件や日本に強制連行されてきた朝鮮人の被曝問題もテーマとして扱っている。

広島でそんな事件があったことはこれまで知らなかった。広い美術館の敷地の隅に、関東大震災の歳、東京から埼玉に逃れてきた朝鮮人が流言飛語に基づき虐殺された事件を悼み、「痛恨の碑」が建てられている。

熊谷の70~80人を筆頭に本庄、神保原など県内全体で虐殺されたのは220~240人と推定されている(11年9月2日 埼玉新聞)。

この他、位里の広島の実家の一部を移築した「原爆観音堂」、晩年の夫妻のアトリエ「流々庵」、美術館の入口の向かいにある「八怪堂」、二人の遺骨の一部も埋葬されている「宋銭堂」なども興味をひく。

訪れた7月末、二人の絵本原画展も開かれていた。生涯に2百点以上の絵本や挿絵を残した俊夫人の作品の素晴らしさに驚いた。

「ひろしま忌」の8月6日は、入場料無料。

原発事故による放射能放出の実態が明らかにされていく中で

 原発が原爆になる地震国

という最近の川柳が頭にこびりついて離れない。

「原爆の図 丸木美術館 ミニ ガイドブック」参照







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