それはまた別のお話

観劇とか映画とかの感想文を少しずつ

「罪の声」

2020-11-03 | 映画
かつて日本を震撼(しんかん)させた事件をモチーフにした塩田武士の小説を映画化。昭和の未解決事件をめぐる二人の男の運命を映し出す。『ミュージアム』や『銀魂』シリーズなどの小栗旬と、『引っ越し大名!』などの星野源が主人公を演じる。星野が出演したドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」の演出と脚本を担当した土井裕泰と野木亜紀子が監督と脚本を務めた。

グリコ森永事件やキツネ目のの男についてはもちろんよく覚えていますが、犯行の手口から「愉快犯」的なイメージを持っていました。
それゆえ、事件の脅迫テープに自分の声を使われたことから良心の呵責を感じ真相を追及するテーラー(星野源)はまだしも、事件を追う新聞記者(小栗旬)には「そこまでやるのかなー」と少しナナメな印象。

前半は事件に関わった人々の雑多な証言を矢継ぎ早に辿ってゆくので、やや混乱するところも。
連ドラだったらここを一人一話で書いてくれるだろうに…
と若干引き気味だった私にカツを入れたのは、脅迫テープに声を使われた姉弟のかっての同級生の証言。
高田聖子さん演じるその女性が涙ながらに切々と「今まで言えなかった」事実を語るシーンは時間にして数分だと思われますが、その熱演がぐっと私をひきつけました。

新聞記者は「事件をエンタメとして消費する」ことに疑問を持ちます。
この台詞は本当にズシンと突き刺さった。
主人公の二人は曲がりなりにもいまは幸せに暮らしているから外野といえば外野なんだけれど、それでもこの事件は他人事ではないこと、子供が巻き込むことがどれほど大きい罪なのかを、切々と積み上げる後半の運びは感動を通り越して「私には何ができたか」と自分を問い詰める気持ちにもなりました。

昔のあのとき、私は経営難に陥った菓子メーカーに寄付もしたし、事件の詳細を新聞などで読んで心を震わせもしたけれど、それっきり。
事件を伝える新聞ではきっと数行だったろうから、子供の声が脅迫に使われたなんて知りもしなかった。
そうだよね、今日テレビで見たあの事件も、語られない部分で誰かが苦しんでいるんだよね…

二代目テーラー役の源ちゃんが静かにアイロンをかけるときの背筋の美しさ。
ロンドンで小栗旬が物語の鍵を握る人物を一喝するときの声の強さ。
証言者や回想場面で有名俳優を使わないのは敢えてなのか。
場面場面の照明が綺麗で(特にロンドン場面)、丁寧な演出が素晴らしかったと思います。
わたし的には今年一番の作品でした。
コメント
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