それはまた別のお話

観劇とか映画とかの感想文を少しずつ

「あの頃。」

2021-02-25 | 映画
劔樹人の自伝的青春コミックエッセイ「あの頃。男子かしまし物語」を原作にしたドラマ。さえない日々を送る青年が、アイドルにハマり、オタクたちと出会い、青春を謳歌(おうか)する。監督は『mellow メロウ』などの今泉力哉。『娼年』などの松坂桃李、『生きちゃった』などの仲野太賀、『燕 Yan』などの山中崇のほか、若葉竜也、芹澤興人、コカドケンタロウ、大下ヒロト、木口健太らが出演する。

「推し」に出会った瞬間を覚えていますか?
私ははっきりと覚えています(日生劇場2階C列7番でした)。
みるみる引きまれていく高揚感、取る物も取り敢えずCDショップへなだれ込み、同じ推しを持つ仲間と出会ったときのふわふわした感覚。
「わかるぅぅぅ!」と何度スクリーンに向かって(心の中で)叫んだことか。

その推し仲間のキャラが強烈でとっても面白かったんだけど、こちらはハロプロには興味がないので途中からなんだかはぐらかされた気持ちに。
ガチオタならツアー追っかけ遠征やグッズ大人買いの苦労とかがもっと前面に出てくると思うんだよね…
ハロプロに繋がらないエピソードが次々に出てくるので、テンポが合わず少し集中力が削がれることも。
(他の人のレビュー見たら「映画に退屈があってもよい」というスタンスなんですね。納得)
ああ、これは内輪ネタが元になった原作があるんだろうなーとこの時点で理解しました。

そして後半は主役がコズミン(仲野太賀)に移るんだけど、これがソーゼツだった…
とことん嫌味なキャラなので涙も出なかったし、在り来たりな運びにもっていかない意地を感じました。
期待が大きかっただけになんとも言えない気持ちで映画館を出ましたが、単館系で上演してくれればこちらの身構えも違ったのかもしれない。
2月は「花束」「ヤクザ」「すばらしき」と立て続けに本年ベスト作品を観たので、上演時期も悪かったのかもしれないですね。
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「すばらしき世界」

2021-02-18 | 映画
『ゆれる』『永い言い訳』などの西川美和が脚本と監督を手掛け、佐木隆三の小説「身分帳」を原案に描く人間ドラマ。原案の舞台を約35年後の現代に設定し、13年の刑期を終えた元殺人犯の出所後の日々を描く。『孤狼の血』などの役所広司が主演を務め、テレビディレクターを『静かな雨』などの仲野太賀、テレビプロデューサーを『MOTHER マザー』などの長澤まさみが演じている。橋爪功、梶芽衣子、六角精児らも名を連ねる。

偶然だと思うけど、同時期に「ヤクザと家族」が公開されているのは本当に奇遇。
元ヤクザの生きづらさを描くというテーマは同じなのに、視点が違います。
「ヤクザと家族」は主人公の過去から出所後までを大局的にクールに語るのに対して、この映画はドメスティックで笑えて、主人公を思わず応援したくなります。

刑務所から出所した「反社」の人たちの苦労は「ヤクザと家族」で学習したから理解できていたけど、真面目で正義感があるのに自分の粗暴性をコントロールできない人間は戸惑うばかり。
ただ、周りの人たちは温かい。
最初は取材ネタのつもりで接したテレビマン、身元引受人の弁護士やケースワーカー、万引きと誤解したスーパーの店長も、距離を取りつつ力を貸します。
彼らは差別もしないが贔屓もせず、「今度こそカタギになる」という彼の背中をそっと押すだけ。

それでも差し伸べられた手はもうひとつ届かず、ついカッとなって食べかけのカップ麺を投げつける…カメラに向かって、つまりスクリーンのこちら側にいる私たちに向かって(あれは熱かった)。
一転して世界は東京の夜景に変わり、贅沢な待遇でヤクザ時代の仲間に迎えられ、(そりゃ仕方ないよねやっぱ極道は極道に戻るよね)って思っていたところに、元仲間の極妻に励まされる言葉が秀逸。
西川監督の映画はマトモには見てないけど「うまいなー」って思いました。

やっと見つけた新しい職場ではやり過ごすことを覚え(その是非は別として)、希望に満ちて新しい自転車を乗りこなす姿がなんとカッコイイことか。

報われないという意味でラストシーンにモヤモヤする人もいるだろうけれど、そして最後に初めて示されるタイトルに皮肉や諦観を覚えることもあるだろうけれど、わたしはあの空の色を信じたいと思うのです。
この世界は曖昧で行きつ戻りつするけれど。
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「中川晃教コンサート at 東京文化会館2021」 2/6

2021-02-11 | ライブ
中川晃教コンサート at 東京文化会館2021

2/6(土) 18:00 東京文化会館小ホール C列センター
【出演】中川晃教 / 園田涼(piano)

東京文化会館小ホールのコンサートは、2010年・2011年・2012年に「ポピュラーウイーク」のシリーズとして開催され、その後は単独で2017年と2019年に開催。(過去の記録は、2019年開催の記録にまとめています)
去年2020年も例年通り冬に予定されていましたが、春に延期されたもののいったん中止され、今年2021年に一年越しで開催されることになりました。
独特の座席配置を持つこの会場は「聖なる場所」のような雰囲気を持ちます。

それまでは旭純さんのピアノでしたが、2019年からは「ずっ友」の名に相応しい(?)園田涼さんと。
良い意味で前面に出されるピアノと園田さんを信頼しきっているあっきーとのコンビネーション。
園田さんとは夏のツアーやテレビ番組、いまやあらゆる機会でご一緒してますが、あっきー曲の魅力を存分に引き出してくれて…今回もその魅力いっぱいのライブになりました。
今回は園田さんのお衣装も攻めててよかった!
(アシンメトリーなジャケットが素敵でした)

曲数がちょーっと少なめかな…でしたが(園田さんソロピアノを除くとアンコール曲入れて11曲)、今回のベスト曲は「粒子」。
途中まで曲名さえもわからず、ゴスペルのようで天国と対峙しているよう。
久しぶりの「Oh,People」はその前の「ツァラトゥストラはかく語りき」と呼応していて、歌詞の持つ荘厳なイメージが伝わってくる。
ピアノ一本の底力を感じました。

MCは特に台本を持たず自由におしゃべり。
話しているうちにだんだんと園田さんの方向に体が向くので、客席から見るとほぼ真横向き状態に。これもまた良きかな。
去年のリベンジ公演なのでスケジュール調整が大変だったとは思いますが、毎年この時期恒例のライブ、いつまでも大切にしてほしいです。

【セットリスト】
1.Happy Tears
2.砂のロープ
3.粒子
4.ファイト!
5.そして僕は魚になる
6.Save Our Souls
7.相対性理論
8.ツァラトゥストラはかく語りき(園田ピアノ)
9.Oh,People
10.ボヘミアンラプソディー
11.Family
En.ユーアー・ザ・スーパースター(弾き語り)
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「花束みたいな恋をした」

2021-02-05 | 映画
『コーヒーが冷めないうちに』などの有村架純と『帝一の國』などの菅田将暉を主演に迎えた恋愛物語。東京・井の頭線の明大前駅で終電を逃してたまたま出会った男女と、全ての事柄が絡み合いながらリンクしていく様子を描写する。有村が主演を務めた『映画 ビリギャル』などの土井裕泰が監督を務め、ドラマ「東京ラブストーリー」「カルテット」などの脚本家・坂元裕二が脚本を書き下ろした。

タイトルが全てを語っている作品でした。
語呂がよく声に出して読んでも気持ちがよくて、これほど内容に合致するタイトルの映画って本当に珍しいのではないのかな。

そのタイトルが「恋をした」と過去形であること、冒頭に結末のシーンが出てくることで、わたしたちは行く末を知りつつ二人の5年間をノスタルジックに見守ることができます。
イマドキの固有名詞が矢継ぎ早に登場して、それを体現したことがないわたしのような世代でも体感できる高揚感。
前半の信号待ちで佇むシーンまでをエンドレスで観ていたい…とまで思いました。
フード付きのコート男子とモフモフマフラー女子ってサイコーだよ!

夢を半ば諦め就職し社会の厳しさに晒されるあたりから、すれ違っていく二人の心の叫びも切ない。
菅田くんは自身の持つオーラの量をミリ単位で変化させる能力を持っているのだと思ってますが、スーツの着こなしのダサさなどのリアリティが凄い。
本棚の並べ方、ふたりで作る食事のメニュー、海に行ったときの服装の色合い、トイレットペーパーでさえ、なにもかもがリアルでかつキラキラ。
そしてラストのファミレスの場面が秀逸。
結論が転換することはないのがわかっていても、まるで自分のことのように泣けてしまう。
青春映画の括りではあるだろうけれど、ひとを好きになった経験あれば、あどんな世代でも必ず入り込める傑作作品である所以です。

映画館を出た後、本屋さんに寄ってから、缶ビールを飲みながらぶらぶらと帰宅するときに、今までで一番好きになったひとを思い浮かべてちょっとキュンとする。
そんな映画でした。
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