それはまた別のお話

観劇とか映画とかの感想文を少しずつ

「しあわせのパン」

2012-01-21 | 映画
東京から移り住んだ夫婦が、自然の中で生活していく姿をここちよく時にちょっぴりビターに描く。主演は、2012年にデビュー30周年を迎える原田知世と、北海道出身でTV・映画と活躍する大泉洋。監督は、NHKでドキュメンタリーを多数手がけ、長編映画初監督となる三島有紀子。(作品資料より)


なんとも、不思議な映画でした。

コーヒーのアロマと湯気が画面から匂い立つよう。
カンパーニュをはじめとして、
出てくるパンの酵母の香り、スープやポトフの温かさ、
季節ごとの風の色や、料理をするときの音。
見事に綺麗に表現されています。

しかし生活臭というのもは塵ほども感じられず、
金銭のやり取りが全くないところとか
(値段がないメニュー、切手が張られない手紙)
防寒よりもファッション性を重視した衣装とか
(北海道の冬なのにとてつもない薄着)
「夏」と「秋」のプロットのベタ具合と不自然な台詞回しとか
(あれは敢えて棒読みにした、と信じたい)
ああこれは全面的な『ファンタジー映画』として捉えればいいのね…と思っていると
突然「北海道から出られない若者」「修羅場の果てに男と出ていく母親」「阪神大震災で被災した老夫婦」と
現実味たっぷりの表現が予告もなく出てくる。
この辺りのバランスが非常に心地悪かったです。

後半になって多少盛り返しを図り、
正体を現したあがた森魚が起死回生のヒットを打ち、
渡辺美佐子がシングルホームランを打つ。
特に、渡辺美佐子演じるところの、
「死期間近い老妻がパンの香りで一瞬の生気を取り戻す」シーン。
それまでの彼女の人生が垣間見えるようで、見事でした。

そう、この映画の残念なところは、
「主人公夫婦の人生が垣間見えない」ところです。
どこで二人は出会ったのか。
なぜ北海道までやってきて、パン屋を営んでいるのか。
なぜ「水縞くん」「りえさん」と呼び合うのか。
ここを語ったら「ファンタジーが崩れる」のかもしれませんが、
そのお陰で、どうも体温が低くなっているような気がします
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「寿歌」新国立劇場・小劇場

2012-01-20 | 舞台
シス・カンパニー公演「寿歌」1/19(木)マチネ 新国立劇場・小劇場
【作】北村 想
【演出】 千葉哲也
【出演】 堤真一 / 戸田恵梨香 / 橋本じゅん

核戦争ですべてが廃墟と化した街に、
リヤカーを引いた旅芸人のゲサクとキョウコがやって来る・・・。
二人の頭上には、まばゆい光を放ちながら核ミサイルが飛び交い、
追いかけてくる低い破裂音が世界の終わりを告げていく・・・。
そこに、どこからともなく、不思議な芸をあやつるナゾの男・ヤスオが現れた。
出会った三人は、あれやこれやの"エエカゲン"な会話を繰り広げながら、
焼き尽くされた滅びの荒野を共に旅することになるのだが・・・・。”(公式HPより)


初演は1979年のこの脚本、今なお繰り返し上演されるこの作品は
「現代演劇の古典」と言われるそうです。
しかし作風はスタイリッシュで、途中挟まれるギャグが
「…すごい昔に聞いた気がするかも」と思わせる以外は、
テンポよく軽い感じで進行しました。

ゲサク(堤真一)とキョウコ(戸田恵梨香)のオーソドックスな漫才、
ゲサクが太鼓を叩きながら歌う調子のよい歌。
数々の奇跡を見せるヤスオ(橋本じゅん)は「キリスト」であり、
いくつか新約聖書からの言葉が出てくるのですが、
それらの暗喩の意味を「悩んだら終わり」…だとパンフで堤さんが言っている通り、
深い意味や繋がりを考える余裕は持てませんでした。

だから次々と展開する、ロードムービーのような筋書きをふんわりと追い続けてはみたものの、
最後に「ガレキだらけの街を歩く」「放射能の雨が降る」という台詞を聞くと、
どうしても先の震災を思い浮かべざるを得ません。
(意外だったけれど、この作品の上演は震災前から決まっていたそうです)

ラスト、結局三人はそれぞれの道を進むことになるですが、
その時、戦争の残りものである核ミサイルが爆発する光が蛍のように見え、
相まって静かに舞い降りる雪片のそれはそれは綺麗なこと。
何かが解決しているわけではないのに、話は絶望的なのに、なぜか安堵感を強く感じました。

堤さんは流石に安定していて、ご飯を炊く母親も胡散臭い芸人も、頼もしくどっしりと演じていました。
じゅんさんはカッコよく、しかし無力で何もできない悲哀がよく伝わりました。
恵梨香ちゃんは少女のようで華があったけれど、少し台詞が伝わりにくかったかな。

この日はWOWOWのカメラが入っていました。
今回はチケットが激戦でバルコニー席でしたが(でもチケ代は安くてよかったけれど)、
ぜひ正面からセットを観てみたいので、放映が楽しみ。
そして、演出の千葉さんいわく「目指すは持ち帰れる演劇」とのことなので、
もう一度噛みしめるように味わいたい作品です。
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「ロボジー」

2012-01-18 | 映画
二足歩行ロボットの開発を命じられた電器メーカー社員が、開発に行き詰まり、老人にロボットの外装を装着したことから起きる騒動を描くコメディ。出演は五十嵐信次郎こと「日輪の遺産」のミッキー・カーチス、「ゴールデンスランバー」の濱田岳、「カイジ2 人生奪回ゲーム」の吉高由里子。監督は「ハッピーフライト」の矢口史靖。

まず設定からして「ありえない」状況なんだけど、
そういう野暮なことは一切忘れて、ただただ笑える映画でした。
「ロボットの中に老人が入っている!」と奇想天外なネタを、
これでもか!とまで膨らませてかつ収束させている。
コメディ映画の見本のようでもあり、監督の職人気質を感じました。

途中まで「バレるのか?バレないのか?」というドキドキ感で引っ張り、
でもここで老人が急に物解りが良くなったり、
ダメダメ社員の頭脳が急に発達したりしたら興醒めかも…
と思っていたら、やっぱりそんなことはなかった(笑)
最後までみんなそれほど成長しないところも、好きなところです。

鈴木さんを演じたミッキー・カーチスさんの存在感、
見事な凸凹ぶりの3人組社員もそれぞれ味がありますが、
何といっても吉高由里子がハンパなく素敵でした。
彼女を起用したことで成功していると思います。

唯一のマイナスは、予告編を超えられなかったことかな(笑)
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「ボニー&クライド」青山劇場

2012-01-13 | 舞台
「ボニー&クライド」1/13(金)マチネ 青山劇場 

【作曲】フランク・ワイルドホーン
【上演台本・演出】田尾下 哲
【出演】濱田めぐみ / 田代万里生 / 岡田浩暉 / 白羽ゆり / 藤岡正明 / つのだ☆ひろ / 池田有希子 / 木場勝己

今年の初観劇。
アメリカニューシネマの代表作『俺たちに明日はない』の、BWミュージカルです。
そしてなんとこれが今年の初日記(今年もよろしくお願いします)


この古い映画を観た当時は、「体制に反発するってなんてカッコいいのっ」とワクワクしたけど、
今の時代に彼らの行動はとても共感できるものではありません。
「誰も傷つけないからオッケー」と言って強盗をはたらく、脱獄する、
そして自分たちが「新聞の一面に載った」ということを何よりも喜ぶ。
一度は改心しようとしたクライド兄(岡田浩暉)も巻き込んで逃亡する。

まあだから物語に感情移入する作品では決してない。
一番泣けたのは、家を出ていくボニーを引きとめる母親や、
犯人の家族として蔑められるクライド両親の場面かな。
青春は遠くなりにけり。

しかしそんな鬱々とした気分を吹き飛ばしたのは、
やはり楽曲の良さと、演者の歌の力量でした。
濱田めぐみさんは初見でしたが、深みのある歌声、ロックもバラードも自由自在で圧巻。
四季退団後の初出演だそうですが、これから活躍する方なんだろうな。
万里生くんは…
彼を初めて観たとき(エリザ)、「もう仔犬にしか見えん!」と思いましたが、
今回は雑種の野犬系。
新境地開拓の扉を開けた、ということなんだろうが
(自分を「俺」と言う作品は初めてらしい)
熱演でしたが、濱田さんの貫録に比べて年齢設定がちょい気になりました。

目当ての藤岡くんは「ボニーの幼馴染の警察官」というヘタレな役で、あれ~また丸くなっちゃった?と思いましたが、彼らを追いつめる決心をした二幕ではキリッとして素敵でした。
きっと幕間で5kgぐらい減量したに違いない…

他に、白羽ゆりさんの良妻っぷりとか、木場勝己さんのダンディっぷりが印象的でした。
場面転換が多かったけれど、その都度客席にライトを当ててその間にさくさくとセットチェンジする…という「目くらまし場面転換法」(←勝手に命名)を多用。
全体的に平板な演出でしたが、ラストの銃撃シーンがよかったかな。

今回のチケは、加入している生協の斡旋で入手しました。
S席11000円が8800円になり、前方列(ディレクターズシート列の前)でど真ん中。
おまけに、お土産として『俺たちに明日はない』DVD(帯に1500円と記載)と、
ピエール・エルメのマカロン3個も貰いました。
なんてお得なの~!と思いましたが、
要するに、まあ、そういうランクの演目でした。
以上!
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