東京から移り住んだ夫婦が、自然の中で生活していく姿をここちよく時にちょっぴりビターに描く。主演は、2012年にデビュー30周年を迎える原田知世と、北海道出身でTV・映画と活躍する大泉洋。監督は、NHKでドキュメンタリーを多数手がけ、長編映画初監督となる三島有紀子。(作品資料より)
なんとも、不思議な映画でした。
コーヒーのアロマと湯気が画面から匂い立つよう。
カンパーニュをはじめとして、
出てくるパンの酵母の香り、スープやポトフの温かさ、
季節ごとの風の色や、料理をするときの音。
見事に綺麗に表現されています。
しかし生活臭というのもは塵ほども感じられず、
金銭のやり取りが全くないところとか
(値段がないメニュー、切手が張られない手紙)
防寒よりもファッション性を重視した衣装とか
(北海道の冬なのにとてつもない薄着)
「夏」と「秋」のプロットのベタ具合と不自然な台詞回しとか
(あれは敢えて棒読みにした、と信じたい)
ああこれは全面的な『ファンタジー映画』として捉えればいいのね…と思っていると
突然「北海道から出られない若者」「修羅場の果てに男と出ていく母親」「阪神大震災で被災した老夫婦」と
現実味たっぷりの表現が予告もなく出てくる。
この辺りのバランスが非常に心地悪かったです。
後半になって多少盛り返しを図り、
正体を現したあがた森魚が起死回生のヒットを打ち、
渡辺美佐子がシングルホームランを打つ。
特に、渡辺美佐子演じるところの、
「死期間近い老妻がパンの香りで一瞬の生気を取り戻す」シーン。
それまでの彼女の人生が垣間見えるようで、見事でした。
そう、この映画の残念なところは、
「主人公夫婦の人生が垣間見えない」ところです。
どこで二人は出会ったのか。
なぜ北海道までやってきて、パン屋を営んでいるのか。
なぜ「水縞くん」「りえさん」と呼び合うのか。
ここを語ったら「ファンタジーが崩れる」のかもしれませんが、
そのお陰で、どうも体温が低くなっているような気がします