最近、新聞の訃報欄に「葬儀は近親者だけで済ませた。後日お別れ会を開く」などと書いてあるのをよく見かける。親類や友人、同僚、近所の人たちが式場に集まって故人を送る一般葬から、家族だけで営む家族葬へ、
葬儀は簡素化の流れが止まらない。葬儀を省いて火葬場に直行する「直葬」を選ぶ人も多いようだ。かつて白洲次郎(1902-85年)が遺言に書いた「葬式無用、戒名不要」の世界観が、今になって浸透しているのだろうか。葬儀会社に長く勤め、現在は終活相談や葬儀の施行を手がける特定非営利活動(NPO)法人「葬儀を考えるNPO東京」の代表理事を務める高橋進さんに、葬儀に対する考え方がどう変わってきたのかを聞いた。
簡素化が進む四つの理由
増加傾向にある葬儀の種類は「家族葬」「直葬」「一日葬」で、減少傾向にあるのは「一般葬」「社葬」と答えた業者が多かった
家族葬、直葬といった簡素化葬儀が増えているという流れは実感としてあります。「葬儀を考えるNPO東京」(東京・平河町)ができてから15年になりますが、当初から直葬はありました。ただ、その頃は「直火葬」という言葉を使っていました。
扱うお客さんの層によって違いがありますが、業者の中には簡素な葬儀が半分というところもありますし、「いや、そんなにはいないよ」という業者もいます。ただ、増えていることは確かです。
簡素化葬儀が増えている背景には、四つの理由があります。一つは高齢化、二つめは葬儀費用やお布施といったお金の問題、三つめは儀式やしきたりといったものに対する考え方の変化、四つめが明確なポリシーを持って葬儀に臨む人が増えてきていることです。
高齢化について言うと、亡くなった方が高齢なら、友人や知人も高齢ということです。家族が心配して「もう年なのだから、弔問はいいよ」と言って止めるでしょう。また、高齢者の多くは、会社を辞めてからだいぶ月日がたっています。(遺族の多くは)あえて会社に知らせる必要もないし、周りにもあまり知らせたくないと思っているから、一般葬から家族葬に変わってきたのです。
葬儀費用は高いという捉え方は、今までにもありました。葬儀費の問題がマスコミなどに取り上げられるようになると、みなさんが認識を改め、何とかならないのかと思い始めました。高齢になると、高い葬儀費用やお布施はなかなか出せません。これも簡素化葬儀が増えた要因の一つでしょう。
従来のしきたりも簡略化が進んでいます。初七日を火葬の後に行う「繰り上げ初七日」は、前からありました。遠くから集まってくる親族のために、便宜を図るものです。ところが今は、葬儀・告別式の式中に続けて初七日を行ういわゆる「繰り込み(繰り繰り)初七日」が普通になりました。
このほかに、“即日返し”というのもあります。これはお通夜、葬儀に来られた方にはその日のうちに、香典返しをしてしまう行為です。これによって、四十九日の忌明けに用意するはずの「忌明け礼状」は、印刷物としても言葉としても風化するだろうと思っています。出すチャンスがなくなるからです。
最近は、白木の位牌に俗名を書いて葬儀をする方もいらっしゃいます。位牌にはお坊さんがつけてくれた戒名を書くのが当たり前だった昔なら、考えられないことでした。