新しい才能・佐藤レオさんの映画「ビリン・闘いの村」は、ドキュメンタリーに無限の可能性を予感させる

2008年04月04日 16時47分40秒 | 演劇・映画
◆ドキュメンタリー映画「ビリン・闘いの村―パレスチナの非暴力抵抗」(監督・撮影・編集:佐藤レオ、製作・配給:HAMSAFilms)の試写会(4月3日)に招待され、東京都渋谷区宇田川町37―18 トツネビル2階「アップリンクX」に鑑賞に行ってきました。

私は今年2月22日、大手民放テレビの編集主幹・Tさんと懇談した際、「是非、イスラエル・パレスチナを訪問してみてください。世界観が変わりますよ」と言われていました。Tさんは、かつてロンドン特派員時代、湾岸戦争取材のため、イスラエル・パレスチナにも入り、ユダヤ人とも激論を交わした経験があります。Tさんの言葉が脳裏から離れないなか、試写会の案内を受けたのです。
◆ビリンというのは、パレスチナ暫定自治区・ヨルダン川西岸にある人口1800人の小さな村です。監督の佐藤レオさんが、2006年5月から6月にかけて現地で取材・撮影したドキュメンタリー作品です。イスラエル軍とパレスチナ人との武力闘争が続いているなかで、このビリン村では、若者たちが「非暴力の闘い」を行っているのが特徴です。映画は、わずか「61分」の短編で、ストーリーは、以下のように構成されています。
「パレスチナ暫定自治区・ヨルダン川西岸にあるビリン村では毎週金曜日、イスラエル政府の建設した分離フェンスに対するデモが繰り広げられる。強大な軍事力を持つイスラエル軍に対し、ビリン村の民衆委員会はパレスチナ人、イスラエル人そして外国人の活動家たちを率いて、非暴力を掲げ闘う。
分離フェンスにより生まれているのが経済格差。グリーンラインと分離フェンスの間の土地にはイスラエルの高層マンションが次々に建ち並ぶというのに、パレスチナ側ではヤギを追う生活なのだ。その差たるや、東西ドイツの場合の比ではない。そして、パレスチナ側には水さえも十分に送られない。イスラエル兵による検問や尋問は日常茶飯事に行われ、人々の暮らしに支障をきたしている。あらゆる面で“兵糧攻め”にされた村は、ますます窮地に追い込まれていく。
長く続くが故に、人々の心深くまで侵すこの問題。『解決には、イスラエルへの外からの圧力が必要だ』(イスラエル人ドキュメンタリー作家のシャイ・ポラック)だからこそ若者たちも、非暴力のデモで状況を世界にアピールしようとする。そして、『デモは、カメラがないとデモにならない』(イスラエル人活動家・ヤ―リ)
カメラとはつまり私たちの目であり耳。彼らが闘いを通して伝えてくるメッセージを、まず受け止めなければ―。この作品は、遠く離れたビリン村と私たちの対話の場でもある」
 第二次世界大戦の最中、ユダヤ人は「民族浄化」を掲げたヒトラー率いる第3帝国により約600万人が虐殺されるという酷い目にあいました。いわゆる「ホロコースト」ですところが、いまユダヤ人国家・イスラエルは、パレスチナ人に対して「民族浄化」を進めているというのは、何とも皮肉なことです。中国で生まれた漢字である「正義」の「正」という文字がその成り立ちから、「侵略者である勝者」を意味しているということからすれば、「正義」が、「イスラエル」にあると考える人が少なくないのかも知れません。しかし、「バレスチナ人」が、「不正義」
であるとは、とても考えられないことです。
◆佐藤レオさんは、東京芸術大学美術学部デザイン科を卒業し、CGデザイナー、ノンリニアエディターを経て、映像ディレクションを手がけ、2002年より、見聞を広めるため、タイ、台湾、アメリカ、ヨーロッパ各地、中東など、40カ国以上を歴訪。2004年6月に帰国し、イスラエル/パレスチナで知り合った写真家・八木健次氏と共にドキュメンタリー「THE WALL」を編集、助監督を務めています。2006年にイスラエル/パレスチナを再訪問して、ビリン村を取材して製作したのが、初監督作品「ビリン村・闘いの村」です。
近年、テレビでも映画でも、社会派はもとより国際派の「告発型」のドキュメンタリー作品が少なくなっています。イスラエル/パレスチナ問題では、エンドレスな「武力攻撃とテロの応酬」が報道されていますが、この激闘のなかで「非暴力闘争」が生まれているのは特筆すべきであり、日本の若者の多くが、政治的「無関心層」「無関係層」と言われているなかで、この新しい動きに心を動かされた佐藤レオさんの感性には、感服させられます。ユダヤ人国家・イスラエルに対する抗議デモに飛び込み、イスラエル兵が発射する催涙ガス弾を浴びながら危険をも顧みず、カメラを向け続けるのは、大変勇気のいることです。佐藤レオさんは、次のようにコメントしています。
「イスラエル政府は、国際社会が決めたグリーンラインを無視し、パレスチナに与えられたはずの西岸の土地に120以上の入植地を建設し、主な入植地を分離壁・フェンスでさらに囲み、チェックポイントを設けてパレスチナ人たちの行動を制限しています。この政策は、国際司法裁判所から停止勧告を受けています。そういった見えにくい土地収奪、水資源の確保などが民族浄化の一手段として継続的に行われており、そういった日常が、パレスチナ人の困難をさらに難しいものとしているということを、この映像を通して広く理解されるきっかけになればと思います」
◆ビデオ・カメラの発達など取材のための機器が、ますます小型化し携行しやすくなってきているという、まさに「映像技術の進歩」は、ドキュメンタリー作品をよりつくりやすくしています。佐藤レオさんは、この映像機器の発達によるメリットをいかんな活用し、単なる映像文化の世界に止まらず、ドキュメンタリー手法を通して「国際報道」にさらに新境地を切り拓いていくのではないかと楽しみです。
佐藤レオさんは、カンヌ映画祭で「新人賞」と「グランプリ」を受賞した女流監督・川瀬直美さんに続く、無限の可能性を予感させてくれています。この若くて新しい才能の登場に期待したい。なお、この映画は、「2008年初夏」、アップリンクXで公開されます。


にほんブログ村 政治ブログへ

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 映画「チャ―リー・ウィルソン... | トップ | 靖国神社は戦死者の御霊を祭... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

演劇・映画」カテゴリの最新記事