世相を斬る あいば達也

民主主義、資本主義とグローバル経済や金融資本主義の異様な違いについて

●対岸の火事で済むのか? ならず者国家の罵り合い、米国vs北朝鮮

2017年03月26日 | 日記
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●対岸の火事で済むのか? ならず者国家の罵り合い、米国vs北朝鮮

 以下は、「ならず者国家」の罵り合いだから、対岸の火事と言いたいところだが、どうもそう云うわけには行かないのが、我が国の置かれている立場と云うことになる。

 実際問題、北朝鮮が腹立ちまぎれにぶっ放しているミサイルの確実な射程距離は、日本本土だと云うことが判っている。上手く行けば、グアム米軍基地に到達するかもしれないが、極めて不確定である。つまり、現状で、米国対北朝鮮が、国内的ガス抜きを必要とした場合、「ならず者国家」である二国は、日本海を挟んだ範囲で、軽くドンパチしましょうかと云う流れになっても不思議ではない。

 なぜならば、トランプ大統領にしてみれば、前大統領オバマとの大いなる違いを、世界的に知らしめたい思惑がある。北朝鮮の軍事力から推定すると、実戦力のあるミサイルは、スカッドとノドンと思われる。スカッドは韓国向けのミサイルで、ノドンは日本向けのミサイルだと言える。北極星2と云うミサイルもあるようだが、不確実なミサイルと考えられている。大陸間弾道弾(ICBM)クラス(ムスダン、テポドン)になると、その完成度は未知数なので、スカッド、ノドンが直近の脅威である。

 北朝鮮の核保有は、未公認ではあるが、既に数十発から百発程度保有していると推定できるようである。小型化に時間がかかるので、ミサイル搭載には、まだ時間がかかると云う説もあるようだが、核の小型化ナレッジは、闇市場に出回っているのが現実なのだから、北朝鮮の核は既に小型化されていると考えるのが妥当なのだろう。

 今現在において、北朝鮮(金正恩(キムジョンウン)・朝鮮労働党委員長)が自暴自棄になって、核搭載のミサイルをぶっ放そうとした場合、最も確率が高い標的は、おそらく、日本の米軍基地周辺と云うのが、一つの選択になる。北朝鮮の同胞でもある韓国の領土に撃つと云う発想は、現時点では想定しがたい。しかし、それでも撃つ場合、標的が日本である確率は、90%と考えられる。最近の北朝鮮ミサイルの攻撃目標から類推すると、日本海・秋田だが、その延長線から見て、米軍三沢基地が、確率的に一番高い。

 三沢の住民が、そのような類推で、騒ぎ立てていることは、話題になっていないので、杞憂の範囲かもしれない。しかし、筆者であれば、疑う。米空軍三沢基地は、米軍の耳である「Xバンドレーダー」があり、弾道ミサイル防衛の要だと言われる施設が存在する。ミサイル防衛や通信傍受の施設が集中する三沢基地はアメリカ軍にとっては戦略上の重要性であり、インテリジェンスな神経戦の要と言って過言ではない。 敢えて言うなら、六ヶ所村の核施設も周辺として存在しているだけに、ゾッとする位置関係だ。

 その意味で、三沢基地が狙われることは、米国にとっても相当なダメージを蒙る筈だから、オバマ政権では、内心ヒヤヒヤしながら、金正恩が正気を失わないことに期待をかけていたと云うのが今までだ。しかし、ここに来て、実兄である金正男を暗殺するに至っては、金正恩の必死さと異様さが際立つて来ただけに、米国トランプ大統領の何らかの予兆を察した事前防衛先制攻撃と云う手段も視野に入ってきた。

 しかし、この米軍の作戦が、一気に北朝鮮壊滅と云うシナリオは考え難く、日本領土も、それなりの被害を蒙る可能性は大いにある。この件に関した話題が少ないのが嫌に気になる。知っているが、口に出すと現実化しそうで怖い。そんな雰囲気で、一部関係者たちの間で共有しているのかもしれない。しかし、それでは、国民は寝耳に水で、その対処の選択肢さえ与えられない。この国は最重要課題ほど、表沙汰にならない、歪んだ民主国家である。以下は、上述コラムに関わる情報の一部である。


≪北朝鮮、月内に核実験か=トンネル追加掘削が完了-米報道
【ワシントン時事】米FOXニュースは23日、米当局者の話として、北朝鮮が新たな核実験に向けた準備の最終段階に入っていると報じた。当局者の一人は「今月末にも実験に踏み切る可能性がある」と話したという。
 この当局者は、北朝鮮北東部・豊渓里の核実験場で、新たなトンネルの掘削工事が完了したと米国防当局がみていることを明らかにした。実験にはさらに機材を搬入する必要がある。
 FOXによれば、米空軍の気象観測機WC135が日本に到着。数日中に朝鮮半島周辺の上空を飛行し、放射性物質の観測態勢を強化する。
 米シンクタンクの米韓研究所は先に、北朝鮮が豊渓里の実験場でトンネルの追加掘削を進めていると指摘。その結果、従来の十数倍に相当する「最大282キロトン規模の実験が可能かもしれない」との見解を示していた。 ≫(時事通信)

 ≪北朝鮮、弾道ミサイル4発を発射 飛距離1千キロ
 韓国軍合同参謀本部は6日、北朝鮮が同日午前7時36分ごろ、北西部の平安北道(ピョンアンプクト)東倉里(トンチャンリ)から日本海に向かって弾道ミサイル数発を発射したと発表した。飛距離は約1千キロという。米韓がミサイルの種類などについて分析を続けている。北朝鮮は2月12日、新型の中長距離弾道ミサイル「北極星2」を発射している。
 北朝鮮は今月1日から始まった米韓合同軍事演習に反発しており、朝鮮労働党の機関紙「労働新聞」(電子版)は3日付の記事で、「新型の戦略兵器」の発射を示唆していた。(ソウル=東岡徹)
 ◇  
防衛省は、6日午前7時34分ごろ、北朝鮮西岸より4発の弾道ミサイルが発射され、そのうち3発が日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下した模様、と発表した。  これを受け、稲田防衛相は「引き続き、情報収集・警戒監視に万全を期せ」との指示を出した。 ≫(朝日新聞デジタル)


 



≪トランプ氏「極めて悪い振る舞い」 金正恩氏を強く批判

 トランプ米大統領は19日、核・ミサイル開発で挑発を強める北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)・朝鮮労働党委員長について「極めて悪い振る舞いをしている」と強く批判した。週末を過ごした南部フロリダ州パームビーチの別荘から大統領専用機で首都ワシントンに戻る際、記者団に語った。
 ホワイトハウスによると、トランプ氏は18、19の両日、フロリダ州でマクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)らと北朝鮮問題について話し合った。今後、日中韓3カ国を歴訪したティラーソン国務長官から報告を受けた上で、政権として検討している新たな北朝鮮政策について詰めの協議をするとみられる。
 北朝鮮は19日に大陸間弾道弾(ICBM)に使うとみられる大出力エンジンの地上燃焼実験をしたと発表するなど、挑発を続けている。トランプ政権として、米軍が北朝鮮の関連施設を先制攻撃する「軍事手段」を含めて圧力を強める考えを示した発言とみられる。  ≫(朝日新聞デジタル:北京=峯村健司)


 ≪北朝鮮、米朝関係にいらだち 「最悪のならず者国家だ」
 朝鮮中央通信は20日、米中央情報局(CIA)が盗聴をしているとして、「米国は最悪のならず者国家だ」と非難した。北朝鮮はかつてジョージ・W・ブッシュ米政権から「ならず者国家」と呼ばれたことがある。最近、トランプ米大統領の名指しこそ避けているが、進展しない米朝関係にいらだちを強めている。
 18日付の労働新聞(電子版)では、米政府の北朝鮮政策の見直しについて論評し、「米国の(北朝鮮)体制転覆案は悪の帝国の終末案」と非難した。朝鮮中央通信も19日、「米国の対テロ戦争は国家テロ、反人倫戦争犯罪」などとする告発状を発表した。   ≫(朝日新聞デジタル:ソウル=牧野愛博)


≪コラム:北朝鮮の金正恩氏、隠れ見える「冷徹な計算」
Peter Apps
[8日 ロイター] -
 北朝鮮の指導者、金正恩朝鮮労働党委員長は、異母兄の正男氏暗殺容疑や一連のミサイル発射実験を活発化することで、米国のみならず、主要同盟国である中国の忍耐を試しているように見える。
  これは、地域を史上最悪の戦闘に陥らせるかもしれない、いちかばちかの大ばくちだ。正恩氏の行動の裏には、冷酷な固有の論理がある。だが同氏が計画を抱いているのに対し、それを止める明確な戦略を誰かが描いているとの兆候はない。
  中国外務省は7日、米国と北朝鮮が不必要で危険な対立に突き進んでいると警告。核実験やミサイル発射実験に対する国際社会からの非難に耳を傾けるよう北朝鮮に求めた。 しかしながら、正恩氏が米国や中国、他のいかなる国からの助言や脅しに聞く耳をもつ可能性はほとんどないように思える。
 同氏の望みは至って単純だ。彼自身と彼が率いる政権の存続を確実にすることだ。つまりそれは、自身の役割に取って代わろうとする可能性のある者を抹殺し、部外者が自身を倒そうとするのを阻止するために十分な抑止力となる核兵器を保有することを意味している。
  北朝鮮国内における権力固めは、外国への攻撃能力構築と同じくらい重要である。 2011年12月に父親の金正日総書記が死去したとき、政権を引き継いだ当時20代後半の正恩氏が、年上の重鎮たちを支配できるのかと、多くの外国の専門家は訝しんだ。
 韓国のシンクタンクは昨年12月、正恩氏が指導者となってから、300人以上が粛清されたと推計している。そのなかには幹部140人と同氏の叔父1人が含まれる。
  2月13日にマレーシアのクアラルンプール国際空港で異母兄の正男氏が死亡したことで、正恩氏は権力をいっそう強固なものにしただろう。正男氏は脅威と見られてはいなかったが、もし正恩氏がこの殺害に関与していたとすれば、北朝鮮が誇示した海外での影響力と、リスクを恐れない姿勢は、同国の指導部内から共鳴を得るだろう。
  中国による金融・軍事支援は北朝鮮の体制存続にとって長い間、不可欠な存在だった。中国当局は正恩氏の父親や他の北朝鮮幹部らと緊密な関係を維持していた。 正男氏は長い間、中国で暮らし、同国の情報当局に保護されていたとみられているが、その理由の1つに、叔父の張成沢氏とのつながりがある。
 北朝鮮で最も重要な影の実力者の1人とされていた張氏は、正恩氏が指導者となってまもなく処刑された。 正男氏殺害から5日後、そして国際制裁に違反して北朝鮮が弾道ミサイル発射実験を強行してから6日後に、中国は北朝鮮からの石炭輸入を停止すると発表。この措置は本質的に北朝鮮の数少ない外貨獲得手段の1つを封じるものであり、中国が近年最も公然と北朝鮮に対して見せた不満表明の1つである。
 北朝鮮が6日実施した弾道ミサイル4発の発射実験は、中国の全国人民代表大会(全人代)開催中に行われ、中国政府を一段といら立たせただろう。今回の行動も、正恩氏がいかなる外圧にも屈しないことの表れである。
 また、北朝鮮の兵器開発を阻止しようとする米国の企てがほとんど成功していないことも示している。 偶然かもしれないが、前週末にニューヨーク・タイムズ紙は、北朝鮮の核開発プログラムを阻止しようとする米国の対策が必ずしも効果的ではないと報じている。
 一部の北朝鮮ロケットは原因不明の失敗に陥っているが、専門家によると米国が、発射に成功したミサイル発射装置からも、科学者が有益なデータを取得できないようにしていた可能性があるという。とはいえ、北朝鮮の技術は進歩し続けている。 同紙によると、米当局は、北朝鮮の核施設に対して直接軍事攻撃したり、北朝鮮のミサイルが発射される前に無力化したりするなど、一連の新しい戦術を検討している。
  米国や他国によるそのような戦術がうまくいくかどうかは全く分からない。北朝鮮と同国が雇ったロシア人科学者たちは単に、米国やロシアや中国が1950年代あるいはその直後に完成させた技術を模倣しようとしているにすぎない。このためサイバー攻撃は効果が薄い可能性がある。
 米国の歴代政権は、中国が北朝鮮の核プログラムを減速させ、世界と打ち解けるよう、同国を説得できると期待してきた。中国当局も、北朝鮮を制御できると、とりわけ日本や韓国といった地域の主要国や米国を繰り返し安心させようとしてきた。しかし正恩氏が指導者になってからは、そうした気休めはますます説得力がなくなってきている。
  確実な核兵器プログラムは正恩氏の関心の的かもしれないが、中国にとってはもろ刃の剣である。北朝鮮が兵器開発を進めるほど、周辺国は米ミサイル防衛システムの配備をいっそう求めるようになるだろう。それこそまさに、地域内の敵を威嚇するため独自に弾道ミサイルの近代化を行う中国が絶対に避けたいことだ。 最悪の場合、北朝鮮で起きていることが、日本や韓国を独自の核兵器開発へと走らせる可能性もある。
 中国は厄介な立場に置かれていることを自覚しており、正恩氏も恐らくそれを分かっている。言うまでもなく、石炭輸入禁止以上の措置を取ることで、北朝鮮に対する経済的圧力を強化する可能性もある。 しかし中国が避けたいのは、北朝鮮の崩壊だ。中国は韓国と北朝鮮の統一を望んでおらず、特に自国の国境付近に米軍基地が配備されるような結果は避けたいと考えている。
 また、北朝鮮の経済崩壊によって難民が自国に流入してくるといった事態に対処する羽目に陥ることも望んでいない。
 正恩氏の戦略の中心には、誰も自分に向かってこようとはしないだろうとの考えがある。自分の立場を確実なものとするには、できるだけ早く兵器プログラムを推し進め、誰かの気が変わる前に北朝鮮を難攻不落にしなければならない。
 そう考えるのも、もっともなことである。イラクのフセイン元大統領やリビアの元最高指導者カダフィ大佐のように自国の兵器プログラムを放棄した独裁者は、自身の決断に高い代償を支払ったのだから。
  しかし、それはまた世界がより危険になることを意味する。混み合う空港で異母兄の殺害を命じる男ならば(韓国の情報当局が正しければ)、より多くの人々を死滅させることが自身の存続を保証すると思えば、あるいはもう失うものは何もないと感じれば、ためらうことは何もないだろう。

*筆者Peter Appsはロイターのコラムニスト。元ロイターの防衛担当記者で、現在はシンクタンク「Project for Study of the 21st Century(PS21)」を立ち上げ、理事を務める。*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。 ≫(ロイター通信)

 

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●数少ないジャーナリストが指摘 森友学園と稲田問題

2017年03月20日 | 日記
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●数少ないジャーナリストが指摘 森友学園と稲田問題

 以下引用の山田氏のコラムを読めば理解出来る“盗人に追い銭、森友学園事件”だが、財務省に言わせると、契約は合法に行われた。つまり、「裁量行政」と云う隠れた権限を有する我が国の行政システムによる、笑い話のような顛末なのである。筆者から言わせれば、財務官僚は、碌でもない政策実現の為に、碌でもない“忖度裁量行政”で、8億円を200万円に化けさせ、6000万円のお土産までつけたと云うことだ。

 山田氏のコラムの最後の文を引用すれば、『法律に違反していないから問題ない、という強弁を続ける限り、財政再建や増税の訴えは、空しく響くばかりだ。財務省は、誰を味方と考えているのか。』消費税増税の10%実現。否、財務省悲願の20%消費税に向かって、何が何でも邁進する財務官僚の浅ましい茶坊主の一幕だ。しかし、このような茶番劇が起きても、合法、合法の名の下、強盗劇は繰り返される。

 今回の財務官僚による、右翼系教育ブローカーのような人物の、国有財産詐取のような顛末に時の総理や、その女房、そして防衛大臣の名が取りざたされているわけだが、大山鳴動して鼠一匹と云うことになりそうだ。安倍首相担当だった財務省の迫田英典を証人喚問に引っ張り出せない限り、ことの顛末は判らない。都議会が、百条委員会で、浜渦証人から“しっかり質問しろ”等と諭されるようなツマラヌ証人喚問に推移すのだろう。 裁量行政がある限り、否、官僚機構がある限り、無くならない宿痾とでも言うのだろう。


≪ なぜ財務省は森友学園に通常あり得ない厚遇をしたのか
「虚偽答弁」で防衛相は辞任の瀬戸際。広告塔を務めた首相夫人は深手を負った。二人とも籠池泰典・森友学園理事長との交友がアダとなった。安倍晋三首相に馴染み深い「右派人脈」が、盤石と見られた長期政権を揺さぶっている。そしてもう一つ、森友学園によって自滅する権威がある。財務省。そもそも事件の発端は、国有財産だった。
 世間の怒りに火をつけた「タダ同然の払い下げ」を決めたのは財務官僚である。過去にも例がない奇妙な取引が実現した謎は、まだ解けていない。背後に垣間見えるのが消費増税を巡る官邸・自民党との関係だ。

 ■タダ同然の払い下げ実現に 財務省で働いた「特別の力学」
 9億5600万円と不動産鑑定士が評価した土地を、埋まっているゴミの処理費用と称して8億2200万円値引きして1憶3400万円で払い下げた。
 既に払ったゴミ処理代1億3200万円を差し引くと、森友学園は200万円で大阪の豊中市に8770平米の土地を取得した。さらに学園には国土交通省から補助金として6000万円が出た。木造体育館への助成だという。破格の優遇である。普通の学校関係者は、こんなにちやほやしてもらえない。 「特別の力学が働いたと思わざるを得ない」
 作新学院理事長でもある船田元衆議院議員はブログにそう書いた。国有地の払い下げを受け新設校を開校した自らの経験と比べ、森友学園の場合は、迅速に格安な払い下げが決まった。「安倍総理大臣や昭恵夫人との関連は、自ら明らかにされること」とやんわり首相の説明不足を突いている。
 安倍首相も稲田防衛相も「土地売買には一切関与していない」と繰り返している。
 関与とはどういうことを指すのか。財務省に電話して「籠池理事長の話を聞いてやってくれ」とでも言うことなのか。それとも「国有地を安く払い下げてやれ」と具体的に指示することか。それほど品格を欠く介入を総理大臣が直接やるとは思えない。
 財務省の役人に聞くと、首相官邸からの「要請」は珍しくない、という。高官から直接に連絡があったり、出向している財務省出身者を介しての紹介や問い合わせが来るという。
 国会議員は日常活動の一環として役所への「口利き」をしている。有権者の事情を直接行政に取り次ぐのは政治家の仕事の一部とされてきた。 「役人に、大きな声で要求をするのは、まだ力のない若手のやりかた」ともいわれている。ベテランになれば、「よろしく」「頼むよ」という穏やかな言葉に、断り切れない威圧を込める。さらに上を行くと、言葉はいらない。サインを読み取れない官僚は「×」である。
 財務省には天下の秀才が集まっている。仕事を早く、正確にこなす能力では優劣つけにくい。問われるのはセンスだ。 「ヤレと指示されて、できなければバツ。そんな役人はウチにはいない」。バブルのころよく聞かされた言葉だ。 「指示された仕事ができたからといって『○』にはならない。場合によっては、状況を読み、いま必要なことを判断して成果を示せるのが、できる役人」というのだ。
 銀行など民間ではこう言われてきた。 「調査役は課長になったつもりで。課長は部長の立場で考え、部長は役員の眼で…」  指示待ちはダメ、自分から案件を探し、リスクを取って成果を上げてこそ出世の道が開ける、という木下藤吉郎なみの「気働き」が説かれてきた。
 過労死が問題になる民間では、もうそんな元気はなくなっているかもしれない。
 しかし、政府中枢で局長・次官を目指すなら「気働き」「先読み」のセンスは必須だ。

 ■財務省は政治家らに「番記者」 ならぬ「番官僚」をつける
「財務省には『番官僚』がいますよ」  教えてくれたのは閣僚経験のある学者だ。六本木の事務所で会った時、傍らに財務官僚がいた。その人が帰った後、「彼は私を担当する連絡係です。政治家でもない私にまで担当者をつけ、情報を届けてくれる。さすが財務省です」。
 構造改革の旗を振るこの学者は、財務省には目障りな存在だが、「御用聞き」を張り付けて、動きをマークする。有力な政治家には『番』を貼り付け、関係を保ちつつ、取り込んでゆくというのが財務省の戦略だ。釣り針につけるエサは役所が握る権限や情報だ。 「番官僚」には、担当の政治家が何を欲しがっているのかを嗅ぎつける嗅覚が求められる。情報、許認可、国有財産。裁量が及ぶ範囲で対応すれば「違法」にはならない。常日頃から「便宜供与」を続けることで、いざ国会対策という時に、財務省ネットワークが生きる。
 閣僚経験に乏しい安倍首相には、財務省との接点が希薄だ。父親の安倍慎太郎(晋太郎の間違いー筆者訂正)氏は外相・通産相が長く、秘書だった晋三氏は経産・外務の若手と交わり、当時の人脈が今も生きている。財務省にはそうしたつながりがない。パイプがないことで、政策的にも疎遠になりがちだ。
 そうした中で、第一次安倍内閣の時、首相秘書官として仕えた田中一穂氏は、貴重なパイプ役だった。  第二次安倍内閣が発足した時、田中氏は理財局長で、事務次官は同期の木下康弘。安倍首相の政権復帰で、田中氏は2014年7月、主計局長になる。
 この時、次官になったのはやはり同期の香川俊介氏。予算配分を仕切る重要なポストに首相と親しい局長を充てることで、官邸との円滑な関係を保とうとした。
 翌年7月、「安倍番」の田中氏が次官に昇格する。
 異例の人事だった。79年入省の同期三人、木下、香川、田中が、たらい回しで次官になる。それほど、安倍官邸との接点を財務省は大事にした。

 ■田中・迫田コンビの時代と 消費増税、森友学園の符合
 田中一穂氏が主計局長・事務次官を務めた2014年7月から2016年7月までの2年間は、消費税増税を先送りしようとする安倍首相を、財務省が必死で引き留めようとする、壮絶なバトルが展開された時期だ。そしてこの時期に、大阪で森友学園が急展開する。
 首相夫人の昭恵さんが森友学園の幼稚園で「ファーストレディーとして」と題する講演をしたのが2014年4月。前年に籠池泰典理事長が用地取得に名乗りを上げた。
 14年は、小学校の設立認可、国有地の払い下げへ準備作業が進んでいた。
 資金が潤沢ではない森友学園が認可を取り、国有地を取得することは極めて難しい。府の私学審議会や国有財産地方協議会では「財務基盤の弱さ」が指摘された。門前払いもおかしくない案件が、スンナリ通り、短期間に決まった背景には、船田議員が指摘するように「大きな力」が働いた、と見るのが普通の感覚だ。
 この時期、財務省は防戦に必死だった。2014年4月、消費税が8%に引き上げられた。景気にブレーキが掛かる。官邸では首相が「財務省に騙された」と周辺に語る険悪な空気が広がった。2015年10月に予定される「10%引き上げ」に否定的な意見が持ち上がり、財務省は首相をなだめようと必死になった。
 森友学園が計画する新設小学校は「安倍晋三記念小学校」の名で寄付を募った。名誉校長に安倍昭恵さんが就任、講演には政府職員が同行し、教育方針を称賛する。どこから見ても「首相肝煎り」の小学校である。こうしたサインを財務省が見過ごすことはない。 「主計局長になった田中さんの一番の仕事は、首相を怒らせない、機嫌をとることでした」と財務官僚は言う。
 首相は11月、「消費増税を1年半延期」を打ち出し、総選挙の焦点にした。「憲法改正を争点から隠した」と言われた総選挙で、与党は安定多数を確保、「増税先送り」の味を占める。
 安倍首相に近いとされる人物がもう一人いる。首相の地元である山口県下関市出身の迫田英典・国税庁長官だ。伊藤博文以来、数多くの首相を輩出してきた旧長州藩の分厚い保守人脈は、官界人事にも影響力がある、とされている。
 迫田氏は「山口人脈」で首相と知り合い、「安倍番」に加えられた。
 田中主計局長が次官に就任した時、迫田氏は理財局長に抜擢、田中・迫田コンビで「安倍対策」を担うかたちになった。理財局長は、国有財産の管理の元締めである。
 迫田局長の下で、「8億円の値引き」が決まり、「タダ同然の払い下げ」が進んだ。

 ■“虚偽答弁”稲田防衛相にも 財務官僚が「家庭教師役」
 森友騒動にはもう一人大事な脇役がいる。稲田朋美防衛大臣。答弁が一日でひっくり返るなど「虚偽答弁」が国会で問題になっているが、財務省にとって、「重要な工作対象」になっている、という。2014年9月に自民党政務調査会長になったことで「番官僚」が張りついている。自民党政調は党の政策を決める機関だが、経済政策に疎い。情報不足を補うのが財務官僚で、「家庭教師役」を務め稲田氏を取り込んだ。  政調会長時代の稲田氏に「財政再建」を重視する発言が目立ったのは、その成果だ。安倍後を見据えた財務省の布石でもある。
 森友学園の籠池理事長が自民党会館で握手した、というのは政調会長をしていた時期である。 「政治家の関与」は、財務省が記録している「対応記録」を見れば分かることだ。しかし「処分された」(佐川宣寿理財局長)という。文書管理規定が定める保管期限を超えたから、と説明する。これが建前の話であることは多くの官僚が証言している。前回書いたが、政策立案過程を記録した文書は、情報公開を避けるため保存文書から外し、個人の「私的メモ」として残している、という。これは役人の常識という。
 財務省は、交渉経過を隠しているのだ。都合の悪いことが書かれているからだろう。
  国会では佐川理財局長の鉄面皮な答弁が続いている。8億円の値引きは「法に従い、適切に処理しております」。ゴミ処理を確認したか、と問われても「契約上(状況を把握する)義務はなく、詳細は承知していない」。
 注意深い役人が、法律に触れることをするとは思えない。世間が怒っているのは、普通はありえない厚遇を財務省が行ったのではないか、ということだ。法律問題ではない。なぜ財務省はこれほど森友学園の側に立って行政をしたのか、ということだ。
 疑念を晴らさない限り、財務省は信用ならない、という世論が沸騰するだろう。
 法律に違反していないから問題ない、という強弁を続ける限り、財政再建や増税の訴えは、空しく響くばかりだ。  財務省は、誰を味方と考えているのか。
 ≫(ダイアモンドONLINE:デモクラシータイムス同人・元朝日新聞編集委員 山田厚史)



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●孫正義という男 世界一の投資家か、それともばくち打ち?

2017年03月16日 | 日記

 

「公益」資本主義 英米型資本主義の終焉 (文春新書 1104)
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●孫正義という男 世界一の投資家か、それともばくち打ち?

 21世紀、筆者の目に、最も魅力的な事業家、投資家として映る人物は、ソフトバンクの孫正義だ。無論、ザックリと彼を評した場合の印象である。ここまで山のような借金を抱えても、それに応じる、金融機関や世界にかんたる資産家が存在する以上、ただのばくち打ちと妬けな気分で言い放っているようでは、孫正義を見誤るだろう。

 彼が、韓国系の日本人であるところに、一抹の寂しさを憶えるが、そんなセコイ情緒は、この際捨ておこう。逆に言えば、飽食の名残を賤しく貪りあっている日本的既得権益にしがみついている日本のエスタブリッシュメント層には真似のできない、壮大なロマンを世界の名だたる大金持ちに語り聞かせる宣教師のような才能がある。

 世界の名だたる金満家に取って、孫正義の思いもよらない壮大なロマン的事業構築は、思いもよらないが、多くの根拠を提示するデータを駆使している。そして、筆者も何度か聞き惚れた“プレゼンテーション”が天才的に上手なのだ。英語でも日本語でも上手なのだから、やはり天才と言えるのだろう。

 もう一つ彼が、その夢を語り、その事業構築に参加することは、損得を除外しても、次世代、次々世代、否、300年先の夢に投資した先見的エスタブリッシュメントとなる。その栄誉を得、且つ、孫正義の事業計画が日の目を見た場合、事業家或いは投資家として、巨額を富を得られる。仮に、大失敗したとしても、壮大な夢に投資した実績は残るし、失う富は、総資産の十分の一、百分の一なのだから、根拠のあるドン・キホーテの話に乗りたくなるということだ。

 筆者は個人的に、彼のような事業や投資が成功する世界を望んでいるわけではない。むしろ、現代のグルーバル資本主義や機能不全な三権分立を抱えた、米英型覇権主義など、早々に野垂れ死にして、国々が孤立主義に走り、地産地消する定常的チマチマとした世界が一旦訪れる方が好ましいと思っているだけに、孫正義の成功を望んではいない。しかし、彼の世界を股に掛けた、壮大な夢物語には、百パーセント拍手喝さいを送りたい。敵乍らあっぱれ、死にざまを見守ってやりたいところだが、小生も死んでいるし、おそらく、夢の途中で、孫正義も死んでいる。日経新聞の孫正義シリーズ1~3を参考掲載する。


 ≪ 10兆円ファンド 孫氏が発明したいもの  知られざるソフトバンク(1)
 ソフトバンクグループは近く、サウジアラビアなどと共同でつくる10兆円規模の投資ファンドを発足させる。社長、孫正義は投資家か、事業家か。トランプ大統領との会談や3兆円超を投じたアームの買収、米携帯スプリント問題など、知られざるエピソードをもとに、5回連載でソフトバンクの次を読み解く。

■首相随行をドタキャン
 ファンド設立にかける孫の執念は、その足取りをたどると浮き彫りになってくる。
 昨年9月3日、東京・赤坂の迎賓館。孫はサウジの副皇太子、ムハンマド・ビン・サルマンと会談した。2人が話しあったのが、孫が提案した10兆円ファンドの構想だった。ムハンマドは初来日に合わせて数々の財界人と面会したが、孫とは特段に意気投合したようで、同行したサウジ国営通信に2人が談笑する写真を配信させている。
 実はこの日、本来なら孫はロシアのウラジオストクにいるはずだった。日ロ首脳会談に臨む首相の安倍晋三に随行し、ロシア電力大手トップと会う予定だったが、直前になってキャンセルした。首相に同行する財界人がドタキャンするのは異例中の異例だ。孫はそこまでしてムハンマドとの会談を選んだのだ。
 そして1カ月余り後の10月13日、孫はサウジの首都リヤドに飛んだ。ファンド設立の合意書にサインするためだ。孫は閣僚たちとの握手を済ませると足早に空港に向かい、プライベートジェットに乗り込んだ。向かう先の東京で待っていたのは、米アップル最高経営責任者(CEO)のティム・クックだった。  CEOとして初来日したクックは文字通り分刻みのスケジュールをこなしていたが、孫は直前になってクックに頼み込んで会食の時間をずらしてもらっていた。
 今回はドタキャンは避けたもののアップル側は突然の予定変更に慌てた。だが、食事を取りながらの会話は孫のファンド構想で盛り上がり、クックはファンドへの参加を快諾した。
 日米政財界の大物を翻弄してまで設立を急いだ10兆円ファンド。孫はなんのためにそんなものをつくったのだろうか。常々「私は事業家」と主張する孫がなぜ「投資」なのだろうか。

■ポートフォリオも作らない
 その謎を解くカギが孫が言う「群戦略」だ。孫流投資の真意が一般に理解されず「ソフトバンクは投資会社だ」と言われる理由はここに集約されると言える。
 孫流投資の特徴をまとめると次のようになる。あくまで投資であり英アーム・ホールディングスのような完全買収は別になる。
 将来有望だと見たベンチャー企業に出資を通じて資本関係をつくる。ただし、孫がより重視するのは「同志的結合」だ。経営者同士の信頼関係と言い換えられるだろう。
 信頼関係を結ぶためには長期間の資本関係が前提となる。ソフトバンクの株式保有期間は平均で13年半に及ぶ。
 少額だけ出資して事業価値が上がれば売り抜けるような手法は取らず、一般の投資ファンドのようにリスクを最小化するためのポートフォリオをつくることもない。もちろん空売りなどの投資テクニックは使わない。株の売買でキャピタルゲイン(値上がり益)を得ることが目的ではないからだ。
 孫は原則として投資先の筆頭株主になる。経営はそのまま任せるが、孫は「自分が経営するつもりで考える」。その過程で孫の言う同志的結合が生まれるというのだ。
 では、なぜ投資を通じて同志的結合をつくるのか。孫の言葉を借りれば「300年以上続く企業グループをつくるため」だ。ちなみに「300年」には、孫が尊敬する坂本龍馬など維新の志士が倒した江戸幕府より長続きする企業をつくるという野望が込められている。
 孫がフィールドにする情報産業はとにかく栄枯盛衰が激しい。ひとつの事業に頼り過ぎると時代の変化に取り残される。ならば投資を通じて緩やかな企業群をつくり、次の時代に勝ち残れる事業をつくろうという超長期の生き残り策が群戦略だ。そのための打ち出の小づちがサウジとの投資ファンドというわけだ。
 興味深い話がある。7年ほど前にソフトバンクの戦略担当チームが実際に調べて孫に報告した話だ。

■競走馬とサケ  
  「なぜ一時期、英国は競馬で勝てなくなったのか」  競走馬のサラブレッドが最初に定義されたのは1791年といわれる。英ジョッキークラブが認定した456頭で、その血統は「ジェネラル・スタッド・ブック」に記録された。20世紀初頭、英国ではこの本にすべての先祖が記録された馬しかサラブレッドと認められなくなった。その後、競馬新興国のフランスや米国の馬にどうしても勝てなくなった。
 英競馬界の衰退の原因は行き過ぎた純血主義だ――。こう結論づけた孫は、異なるDNAを取り込んでこそ馬も会社も強くなると考えた。
 かといって、勝ち残るDNAを探すのは簡単ではない。この点、孫が好んで使うのが「サケのふ化理論」だ。
 メスのサケは一度に2000~3000の卵を産むとされるが、その中で生き残るのはオスとメスの1匹ずつだと孫は考える。1匹より多すぎると川がサケであふれるし、少ないといずれ絶滅するからだ。その中で生き残る1匹を見抜けるか。いかに名伯楽の孫でも答えはノーだ。
 現代は人工知能(AI)の発達がいよいよ加速する時代に差しかかる。孫はAIが人類の知恵の総和を上回る「シンギュラリティー」が30年以内には到来すると予想する。「そうなるとあらゆる産業が再定義される」。フィールドは際限なく広がり、勝ち残るサケを見つける作業はますます困難になるだろう。

■「いずれ理解するだろう」
 孫は新ファンドを使って将来は投資先を5000社にまで増やす構想を掲げる。その5000社はいずれも孫が見込んだ起業家たちが率いる。選び抜いた起業家たちがDNAを交差させ、勝ち残る1匹のサケを見つけるのだ。
 「実は『群』がなくても30年はやっていける。30年でピークを迎えるような成功を目指すならね。でも300年を考えればそれではダメだ」
 そこで必要なのが群戦略と言う。
 「孫正義は何を発明したか。チップでもソフトでもハードでもない。たったひとつ挙げるなら300年成長し続ける組織構造を発明した。(後生の人に)そう言われるようになりたい」
 これこそが投資家・孫正義の真の狙いだ。なかなか理解されないのは本人が一番よく分かっている。
 「ソフトバンクってただの投資会社かという批判をよく受けますが、腹の中ではこう思っていますよ。いずれあなたがたも理解する時がくるでしょう。300年以内にはね」 =敬称略 (杉本貴司)
 ≫(日経新聞)


 ≪「孫さん見損なったよ」 右腕がキレた日  知られざるソフトバンク(2)
 2014年8月、東京・汐留のソフトバンク本社26階。朝8時に開かれた役員朝食会で孫正義は宮川潤一に声をかけた。
 「今日はお前が真ん中に座れ」
 長細い楕円形のテーブルで、宮川はいつも端に座っていた。最高技術責任者(CTO)ながら最年少役員のためいつもは遠慮していたという。

■米スプリント再建の任務  
「きょうはお別れ会だ」。そう切り出した孫は宮川に告げた。
「あさってから米国に行ってこい」
「俺、英語ができないんですけど」
「そんなもん行けばなんとかなる」
 宮川が大役を任された瞬間だった。使命は赤字にあえぐ米携帯子会社スプリントの再建だった。
 宮川は孫の右腕として知られる存在だ。16年前に孫が見いだしたそのキャリアは異色だ。
 本来なら愛知県犬山市にある実家の禅寺を継ぐはずだった。技術陣のトップながら実は文系。しかも仏教学科の出身だ。もちろん実家を継ぐためだが、宮川は嫌で仕方がなかったと言う。「35歳まで好きなことをやらせてほしい」と父親と掛け合い、大学を出るとゴミ焼却炉の製造、販売を始めた。
 だが時はインターネットの黎明(れいめい)期。「これからはネットの時代だ」と見た宮川は、ネット接続プロバイダーにくら替えする。社名はももたろうインターネット。全く門外漢の宮川は岐阜大学に頼み込んで学生の手を借りて事業を立ち上げた。地元名古屋でそこそこの成功を収めていた宮川に、孫は突然電話した。
 「君は名古屋で終わる気か? 俺ともっと大きなことをやらんか」。2001年6月のことだ。NTTに挑戦したブロードバンド、「泥船」とまでいわれた英ボーダフォン日本法人買収による携帯参入――。通信業界の再編の波の中で、孫とともに修羅場をくぐってきた。

■諦めようとした孫
 米カンザス州オーバーランドパーク。宮川がそこで見たものは「死んだ会社」だった。キャンパスと呼ばれるスプリント本社は全く活気がない。赤字を垂れ流すことになれてしまっているように、宮川には感じられた。
 技術統括として指示を出しても何も進まない。そう指摘すると「OKとは言ったけどやるとは言っていない」と返事が返ってくる。それに英語で言い返せない自分がもどかしかった。
 「このまま行ったらチャプター・イレブン(米連邦破産法第11条による倒産)だぞ」。スプリント最高経営責任者(CEO)のマルセロ・クラウレに忠告してもラチがあかない。
 単身赴任の寂しさから、やめていたたばこにも手を出した。気づけば体重は半年で12キロも減っていた。それでも課題のネットワーク改善は少しずつ前進していた。
 東京の同僚から妙な噂が聞こえてきたのは、そんな時だ。「もうスプリントには見切りをつけて売るらしいぞ」。しばらくすると宮川自身にもあるファンドから声がかかった。「もし当社がスプリントを買ったらあなたは残ってくれますか」。14年末のことだ。
 「冗談じゃない」。宮川は東京・汐留の本社に戻り、役員陣の前で、孫を問い詰めた。「スプリントを売却するって本当ですか?」
 場が静まりかえる中、孫ははっきりと言った。
 「失敗は失敗で認めるべきだ。俺の失敗。俺の責任だ。タダでも持って行ってくれるヤツがいたら持って行ってほしいくらいだ」
 宮川は怒りをおさえながら「それは捨てセリフだと理解してあえて言いますよ」と前置きし、言葉をつないだ。
 「孫さん、俺はあなたを見損ないました」  役員陣の視線が一斉に宮川に集まる。皆が押し黙る中で宮川が続ける。

■もう一度強気に
 「ここで売却なんてしたら俺らはもう一生、アメリカに出て行けませんよ。我々が今まで事業で成功してきたっていう看板も下ろさなければいけない。ここは苦しくてもやるべきです。俺にやらせてください」  孫は黙って腕を組んだまま聞いていた。
 しばらくしたある日、孫が会議でこう宣言した。「俺がチーフネットワークオフィサーだ。責任を持ってやる」。スプリント再建の最前線に自ら飛び込むと宣言したのだった。この日から孫はスプリントにつきっきりとなる。「何度言ったらわかるんだ」。早朝と深夜に開くスプリント幹部との電話会議では毎回のように机をたたいて怒鳴り声も上げた。
 「事業家のプライドに懸けてスプリントを再建してみせる」。孫はこんなことを公言するようになっていた。
 「これがマイ・ニュー・ワイフです」。宮川が小さな鉄塔に抱きつく写真をシカゴから送ると、孫は早速反応した。「これでやろう」。それは日本で使うような小型の鉄塔で、2006年に買収した英ボーダフォン日本法人の電波網を改善した時に使ったものとそっくりだった。
 電波網改善の方法も日本で使ったものだった。アプリなどから得られるビッグデータを解析し、地図上につながりやすさをプロットしていく。データを駆使して改善を要するエリアを見える化していくのだ。  「スプリントはもう一度攻めに出る」。16年に入ると孫の言葉にいつもの強気が戻っていた。

■再び売却報道
 今年2月、ソフトバンクがスプリント売却を検討していると、米国で報道された。今は米国で電波の入札が行われており、通信事業者間での接触が禁止されているが、それが終われば売却する可能性があるとしている。孫はこれに対して何も語ろうとしない。いつもこんな言い方をする。
 「ボクサーがリングに上がる前にどんなパンチを打ちますとか言わないでしょ」
 ヒントになるのは、孫が一度諦めかけた時の、宮川のあの言葉かもしれない。「あなたを見損ないました」。それは16年前、孫が宮川に突きつけた言葉だ。ソフトバンクに引き抜かれた宮川を待っていたのは通信会社の体を成していないブロードバンド事業の前線基地だった。まともに顧客管理もできていない。その問題点を指摘した宮川に、孫が言い放った。
 「俺はダメな理由なんか聞きたくないんだ。お前、見損なったぞ」
 宮川は改革案を提示し、「これで納得できなければ俺をクビにしてください」と言い返した。もちろん、孫も覚えている。宮川の挑発にはこんな伏線があったのだ。
 事業家としてのプライドを傷つけられた孫がどう出るか。ある別の幹部はこう話す。「これまでの孫さんとの付き合いから考えれば答えは明白だ」 =敬称略 (杉本貴司)


 ≪トランプ会談の真相、孫氏と政治との距離  知られざるソフトバンク(3)
 ソフトバンクグループ社長の孫正義は14日、来日中のサウジアラビア国王サルマンと会談した。25分の会談では孫がヒト型ロボット「ペッパー」を贈り、サルマンがペッパーに「歓迎する」と語りかけた。サルマン、トランプ、プーチン……世界の要人と事もなげに会う人脈の源泉と、その狙いはどこにあるのか。

■36歳、最初のM&A
 少し古い話になる。1993年秋、米ラスベガス。当時世界最大のコンピューター展示会だったコムデックスに、36歳の孫正義が訪れた。視察もほどほどに、孫はこの展示会の運営企業のトップに会いに行った。貧困ユダヤ人家庭に生まれ、一代で財を成したシェルドン・アデルソンという人物だ。ノーネクタイでアデルソンの前に出た孫はこう切り出した。
 「コムデックスを買いたい。いずれ僕が持つことになります」
 驚いたアデルソンは「君にそんなカネがあるのか」と聞いたが、孫はこう返した。「今はないけどいずれ作ります。それまで売らないで下さい」
 その一年後、再びアデルソンの前に現れた孫は、同席する役員たちに退室を求めた。アデルソンと一対一で話がしたいと言う。
 「僕はコムデックスを値切るつもりはない。一発勝負です。あなたが売りたい価格を一度だけ言って下さい。ダメならあきらめます」
 「8億ドルだ」
 「分かりました」
 孫が右手を差し出すと、アデルソンが握りかえした。これが、その後数々のM&A(合併・買収)を仕掛けることになる孫のデビュー戦だ。

■「トランプと会ってみないか」
 2016年冬。孫の元に突然連絡が入った。「トランプと会ってみないか」。米大統領への就任が決まっていたドナルド・トランプとの会談を仲介するという、その声の主はアデルソンだった。
 アデルソンは孫にコムデックスを売った8億ドルを元手に次々とカジノリゾートを建設し、今ではカジノ王と呼ばれるようになった。3つのビルの上に船が浮かぶ奇抜なデザインで知られるシンガポールの「マリーナベイ・サンズ」もアデルソンが建てたものだ。
 アデルソンは共和党支持者でトランプ個人にも党にも多額の献金をしている。20年以上前に見た孫の印象が残っているようで、トランプとの会談を持ちかけてきた。アデルソンにとっては、日本のカジノ解禁をにらんだ地ならしというメリットがある。
 そこで孫が急いで作った「お土産」が、北米での500億ドルの投資と、5万人の雇用創出だった。16年12月6日、ニューヨーク5番街にあるトランプタワーのロビーに現れた孫は、トランプとおそろいの赤いネクタイをつけていた。赤は共和党カラーだ。
 「マサはすばらしい男だ」。45分ほどの会談の中でトランプにニックネームで呼ぶように頼み込んだ。二人は初対面だったが、これだけで親密さをアピールするには十分だった。
 急ごしらえで作ったお土産には、社外取締役の二人がかみついた。日本電産会長兼社長の永守重信と、ファーストリテイリング会長兼社長の柳井正だ。「取締役会にひと言もなく、何事だ」。もっともな指摘にさすがの孫も平謝りだったが、トランプとの電撃会談が世界中にインパクトを与えたのは間違いない。それをどう生かすかは今後、孫自身が結果で示すしかない。

■時に対立、時に利用  いつの頃からか孫には「政商」とのイメージがつきまとうようになった。孫自身はこの呼ばれ方を嫌い、自身を政商呼ばわりしたある起業家に公衆の面前で「たいがいにせい!」と一喝したこともある。
 だが、もとは政治に無関心な経営者だった。元民主党議員で2005年から8年間、社長室長として孫に仕えた嶋聡は、「孫さんはむしろ政治音痴ですよ」と話す。
 孫は、携帯電波の割り当てを巡って監督官庁の総務省を提訴したこともある。2004年のことで当時の総務大臣は麻生太郎だった。「だんだんムカムカしてついにプッツンした。麻生さんは以前から顔見知りでなんの恨みもなかったけど」と孫は振り返る。
 孫は「天下りは今後100年受け入れない」とまで宣言している。政官界を敵に回したように見えるが、そのスタンスに固執しているわけでもない。09年に民主党が大勝して政権交代が起きると、元民主党議員の嶋が側近として仕えていたこともあり時の政権に急接近する。孫が総務大臣の原口一博(当時)にたきつけた「光の道構想」だ。孫は光ファイバー網を全国に行き渡らせるためには設備を握るNTTのアクセス部門を分離させるべきだと主張した。結果的にこの働きかけは失敗するが、孫にとって政治との距離は、目的を達成するための調整弁なのだ。

■金大中氏に訴えたブロードバンド政策
 原点は韓国での経験だ。1998年6月、孫は盟友のビル・ゲイツとともにソウルの大統領府・青瓦台を訪れた。当時の韓国経済はアジア通貨危機が飛び火してどん底だった。二人を迎えた大統領の金大中は率直に聞いた。
 「韓国経済が立ち直るには何が必要か」
 先に口を開いたのが孫だった。「三つあります。一にブロードバンド、二にブロードバンド、三にブロードバンド」。隣のゲイツも「100%賛成です」と同調した。ブロードバンドが何か知らなかった金はそれでも二人の意見を聞き入れた。韓国はその後、全国に高速通信網を整備し、ブロードバンド先進国となった。
 「俺は社長を辞める」。11年3月11日、東日本大震災が発生し、被災地を視察した孫は、脱原発に専念するため1年間、社長から降りると言い出した。柳井がいさめて撤回したが、電力事業にまい進し始めた。
 孫の電力事業は奇想天外なアイデアに行き着いた。アジア・スーパーグリッド構想だ。モンゴルの風力やインドの太陽光、ロシアの水力で得た電力をアジア中を張り巡らせた電線で供給し、日本にも持ってこようというものだ。
 電力は国家の事業だ。スーパーグリッドの手始めにロシアの水力発電をサハリンかウラジオストク経由で日本に持ち込もうと構想した孫は12年夏、ロシア大統領のウラジミール・プーチンと会うと言い始めた。

■プーチン会談実現
 この時は政商批判を警戒した柳井の反対で実現しなかったが、16年6月にサンクトペテルブルクでついに会談にこぎ着けた。それから半年後の同年12月。来日したプーチンが東京・大手町の経団連ビルを訪れた際、待ち構えた孫が話しかけて肩を組む二人の様子がテレビで中継された。孫の電力事業は「関心がなくなったのでは」とも言われるが、水面下で動きつつあるのだ。
 孫が尊敬する坂本龍馬は、暗殺するはずだった幕臣・勝海舟の門人となった。佐幕か尊皇攘夷かの二元論ではなく、龍馬はもっと遠くを見ていたはずだ、と孫は語る。志のためなら、彼我の置かれた立場の壁を無視する龍馬の生き方に打たれたのだと言う。
 今のところ政治に接近する孫の行動はこれといった実を結んでいない。だが、これからも孫は「政商」の横顔を我々に見せるだろう。政治に近づくことそれ自体が、孫の目的ではないからだ。 =敬称略 (杉本貴司) ≫(日経新聞)


 

欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃
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●大丈夫なのか? 立法・行政が不安だらけの韓国の原発

2017年03月09日 | 日記

 

超ソロ社会 「独身大国・日本」の衝撃 (PHP新書)
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●大丈夫なのか? 立法・行政が不安だらけの韓国の原発

 東京電力のフクイチ原発事故は、天災と云うよりは人災と言っても過言ではなかった。最悪の事故ではあったが、それでも偏西風の影響で、首都圏の放射能汚染の被害が相当程度軽減されたであろうことは確かだ。無論、太平洋が汚染されて結果オーライとは言えないが、直接的に首都圏が襲われなかったことは、不幸中の幸いであった。

 フクイチの原発事故の影響が落ち着いてきたと云う表現をするのは尚早だが、パニック的な状況は取りあえず脱した、そう表現しても良いのだろう。幾分、フクイチ原発事故の喧騒が一段落した今日この頃、偏西風の風上にある原発は大丈夫だろうかと日本地図を眺めてみた。新潟の柏崎刈羽原子力発電所、石川の志賀原子力発電所、福井の美浜、敦賀、高浜、大飯原子力発電所、島根のもんじゅ、島根原子力発電所等々の立地は、偏西風を背中に背負った原発であり、一旦事故が起きた場合は、首都圏及び日本全体への放射能汚染は、想像を絶するものになる可能性は大きい。

 筆者の知り限り、日本の行政や電力会社の原発運営管理統治能力は、最低限レベルをクリアしているものと思われていたが、フクイチで知ったことは、それすらも危ういという事実である。その後の、原子力規制委員会の対応をみても、原発行政の深耕ありきと云う態度なのだから、その危うさは推して知るべしと云うところだろう。そんなことを考えながら、もう少し地図を引いて眺めてみると、隣国、韓国の原発もずらりと日本海沿いに立ち並んでいた。古里原子力発電所、ハヌル原子力発電所、月城原子力発電所、ハンビッ原子力発電所の4原子力発電所に30以上の原子炉を抱えていると云う現実だ。

 原子力発電所の立地は国境に応じて、その国及び運営企業が管理しているわけだが、仮に、当該原発において事故が起きた場合、そこから発生する放射能、特に放射性物質セシウム137は、国境など人的境界線とは無関係に、拡散することは言うまでもない。そもそもの隣国韓国の科学技術を云々するつもりはないが、日本で起きたことは韓国でも起き得るわけである。ここ最近では、韓国の立法、行政機能が不全を起こしているニュースに接する機会が多いだけに、万が一に十分対応出来るのだろうか、他人事ながら不安になる。そんな折、朝日に気になる記事が載っていたので、以下、紹介しておく。


≪ 韓国の原発銀座で惨事なら 「西日本の大半避難」の推定
原発の重大事故で、西日本の大半が避難を余儀なくされる――。そんな計算結果が、ひそかに関心を集めている。日本の原発が舞台ではない。海を挟んだ隣国、韓国での原発事故を想定した話だ。

■韓国人の学者が警鐘
 シミュレーションをしたのは、韓国人の核物理学者で現在、米ワシントンのシンクタンク「天然資源防衛委員会」(NRDC)の上級研究員を務める姜政敏(カン・ジョンミン)博士(51)ら。カン博士が昨年10月末に韓国で発表し、その後も日韓での核問題関連の集会で警鐘を鳴らしている。国際会議で来日したカン博士に話を聞いた。
 カン博士らがシミュレーションの舞台に選んだのは、韓国南東部、釜山市の海沿いにある古里(コリ)原発だ。古里は、軍出身の朴正熙(パク・チョンヒ)独裁政権時代の1978年に1号機が完成した韓国最古の原発。韓国内で商業運転する25基のうち7基が海沿いに並ぶ、韓国最大規模の「原発銀座」だ。  ここでは原発の運転で生じる「使用済み核燃料」を、各原子炉に隣接する貯蔵プールで冷却、保管している。しかし、使用済み核燃料はどんどん増えており、間隔を詰めて「密集貯蔵」している。このうち古里3号機には、韓国の原子炉別では最も多い818トン分の使用済み核燃料(2015年末)が貯蔵されている、とされる。貯蔵プールが手狭になった1、2号機の使用済み核燃料も移送され、3号機で保管しているためだという。
 カン博士はこうした貯蔵方法の危険性を指摘する。もし災害やテロなど、何らかの原因で電源が喪失し、使用済み核燃料を冷やす機能が失われ、温度の急上昇で火災が起きたらどうなるのか。博士らは、この3号機の使用済み核燃料プールで冷却機能が失われ、燃料プールの水位の低下で使用済み核燃料がむき出しになって火災が起き、さらに建屋内に水素ガスが充満して爆発した事態を想定。使用済み核燃料に含まれる放射性物質セシウム137が次々と気体化して大気中に放出された場合、どのように拡散するかを検討することにした。
 15年1月1日に事故が発生したとし、それから1週間の実際の天候状況や風向き、風速などをもとにセシウム137がどのように拡散し、地表に降下するかをコンピューターで計算。放射線防護に関する国際基準などをもとに、避難を余儀なくされる地域の面積と人口、さらにセシウム137の半減期にあたる30年を超えても避難し続けなければならなくなる地域を算定した。
 その結果、明らかになったのは、最も大きな被害が予想されるのは、原発事故の当事国である韓国ではなく、日本になるということだ。韓国では最大54000平方キロメートルが避難対象地域になり、最大2430万人が避難を余儀なくされる。これに対し、日本では最大67000平方キロメートルが避難対象地域になり、最大2830万人が避難を迫られる、というシミュレーション結果が出た。被害は南北軍事境界線を挟んだ北朝鮮や中国など広範囲に及ぶ。セシウム137の半減期である30年が過ぎても引き続き避難したままとなるのは最悪の場合、韓国では1900万人、日本は1840万人、との計算結果が出た。
 このような最悪の事態を起こしてはならないが、カン博士は「これまでは幸いにもこうした事故が起きていないが、早めに対策をとる必要がある」と主張する。

■偏西風で「日本に被害」
 カン博士の今回のシミュレーションは、使用済み核燃料を想定対象としたが、古里原発を含めて韓国の原発のうち19基は、日本海側の海沿いに並んでいる。こうした原発で、放射性物質が漏れ出すような事故が起きた場合、西から東へと吹く偏西風の影響によって放射性物質は風に運ばれて海を越え、日本列島の広範囲に及ぶおそれがあるという。カン博士は「特に強い偏西風が吹く冬に事故が起きたとすれば、深刻な被害はほとんどが日本に及ぶでしょう」と指摘する。
 カン博士は、原発を動かせば必ず生じる使用済み核燃料の危険性に気づいて欲しいと、このようなシミュレーションを試みた。1986年、ソ連のチェルノブイリ原発事故に伴って大気中に放出された放射性物質の大半を占めたのがセシウム137だった。チェルノブイリ原発事故で放出されたと推定されるセシウム137の総量は約200万キュリーと推定されている。
 一方、使用済み核燃料1トン分に含まれるセシウム137は約10万キュリーという。つまり計算上は、使用済み核燃料20トン分に含まれるセシウム137が、チェルノブイリ事故に匹敵することになる。この20トンというのは、平均的規模の原発(軽水炉)を1年間運転すれば生じる使用済み核燃料の量という。つまり、原発1基を1年間稼働すれば、チェルノブイリ原発事故の被害に匹敵する放射性物質を含む「核のゴミ」を作り出していることになるのだ。
 原発推進策をとる韓国だが、使用済み核燃料の最終処分方法は定まらない一方、原子炉ごとの使用済み核燃料プールはどんどん余裕がなくなっている。カン博士によると、プールで貯蔵する使用済み核燃料棒の間隔の幅を少しでも広げることで、火災発生の危険性を下げられるという。そのため、「5年ほどは使用済み核燃料の熱をさげるために貯蔵プールで冷却し、その後は専用の密閉容器の中で空気で冷却する『乾式貯蔵』をとりいれるべきだ」と提案する。
 さらに、カン博士が何よりも訴えたいことは、核の惨事において東アジアは「運命共同体」である、という点だ。日本、中国、韓国とも国策として原発の稼働や増設を推進し、商業炉は日中韓で計約100基に達する。核実験を繰り返す北朝鮮の寧辺(ニョンビョン)にも核開発関連施設が集まる。地球儀を眺めれば、私たちが暮らす東アジアは、世界的にもまれな核施設の「密集地域」と言える、というのだ。
 もし核の惨事が起きれば、その被害は気象条件によっては東アジアの広範囲に及ぶおそれがある。韓国で起きれば日本へ、中国で起きれば韓国、日本へと、被害地域は偏西風の流れに沿って東側に広がる可能性が高い。カン博士は「だからこそ、自国だけでなく隣国の核問題にも関心を持たなければならないし、使用済み核燃料をはじめ、核施設の安全管理の面で日中韓が協力しなければならない」と指摘する。
 原発から出る使用済み核燃料をめぐっては、日本政府はこれを再処理してプルトニウムを取り出し、ウランと混ぜたMOX燃料にして再び原発の燃料にするという「核燃料サイクル」政策を維持している。だが、日本のプルトニウムの保有量は約47・9トン(2015年末、国内外)に達する半面、政府が描いた核燃料サイクルはうまく機能していない。日本のプルトニウム保有量が「核兵器約6千発分」に匹敵する膨大な量であることから、関係国の核専門家らは「日本は潜在的な核武装能力を保持しようとしているのではないか」と懸念している。
 ただ、こうした日本の核政策は、韓国の核推進論者の間で格好の「模範」とされ、「韓国でも使用済み核燃料の再処理の実施を」という主張を後押ししている。核政策も海を越えて、互いに影響を与えあっているのだ。カン博士は「日本でさらにプルトニウムの量が増えれば、地域の緊張を高め、周辺国にプルトニウム保有の口実を与えるだけだ」と警告する。
 チェルノブイリや福島の原発事故を通して、私たちは核惨事の被害に「国境」はないことを学んだ。重大な事故が起きれば、隣国や周辺国に取り返しのつかない甚大な被害を与えるおそれがある。福島の原発事故から6年。私たちはもう一度、教訓を思い起こし、日本はもちろん、近隣国の原発・核問題にも関心を持ち続けなければならない。    
  ◇  
なかの・あきら 1994年、朝日新聞社入社。東日本大震災直後の2011年4月~14年3月、ソウル支局で勤務。16年4月から現職(編集委員・中野晃)
 ≫(朝日新聞デジタル)


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●“豊洲の責任我にあり” 断言出来ない晩節汚すサムライ哀れ

2017年03月06日 | 日記

 

天下泰平 日本の歴史16 (講談社学術文庫)
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●“豊洲の責任我にあり”断言出来ない晩節汚すサムライ哀れ

 慎太郎の記者会見は案の定、言い訳に終始する不様な会見だった。築地市場の豊洲への移転問題。なぜ?毒だらけの東京ガス跡地の豊洲に決まったのか、作家とは思えないストーリーの欠片もない会見だった。目立ったのは慎太郎の無責任さだけが漂った。都知事でありながら、その職責をまっとうしていませんでした懺悔したに過ぎなかった。“オレが、オレが!”と言い触らしていた当時の都知事の影は微塵もなかった。

 豊洲市場問題は、小池百合子知事が築地からの移転を差し止めてから予想外の展開を見せてきた。建物下にあるはずの盛り土が消えていたり、きれいなはずの土壌の地下水から環境基準を超す有害物質が検出されたりと、豊洲の状況は悪化の一途をたどっている。有害物質をたっぷりと含んでいることを売主買主双方が知りながら、敢えて売主有利な売買契約を締結したと云うことは、短絡的に見た場合、都民に莫大な損害を意識的に与える悪意が存在したとしか思えない契約になっている。こう云う場合、それでも契約する然るべき事情があるわけで、それを語るのが責任者の最大の務めなわけである。

 それを、“俺は、都政の殆どを副知事や局長などに丸投げし、メクラ判を押していただけ。否、押すのも面倒なので、ハンコを預けて押させていたのだから、知るわけがない。このような発言が平気で出来る人間がいるとは思わなかったがいた。知事報酬の全額返還を都民は要求すべきである。ハッキリさせる疑問点は幾つもあるが、せめて、土壌汚染だらけの土地を、なぜ買ったのか?地権者東京ガスの免責を積極的に行ったのか?この点だけでも明確に説明もせずに、都知事報酬と利権だけを手に入れていたと白状したようなものだから、最低でも、当時東京都から得た報酬のすべてを、返還させるべきである。否、もう一つ弁償させられる費用があった。都側の無作為で損害を蒙った土壌汚染対策費、八百六十億円全額を当時の都知事、副知事に請求することも法的に可能ではないのか。

  「私一人というよりも行政全体の責任」と云う発言は、開き直りのレベルを超え、もはや政治家の責任を放棄した、一介の老いた醜い老人になり下がっていた。老醜を撒き散らしているよちよち歩きの男に記者クラブの会見など、豚に真珠だ。彼は13年間都知事の地位に居ながら、用務員以下の仕事をし、週1,2回顔を出し、事務方に海外旅行のお膳立てをさせていた道楽爺に過ぎなかったということになる。否、素人の手慰みに“新銀行東京”等と云う怪しげな銀行を創設、たった3年で1000億円の損金を叩きだしたのだから、驚きも桃の木な祖父さんと云うことだ。

 こうなると、20日から始まる都議会百条委員会の注目点は、この爺さんの態度ではなく、この爺さんを追求する都議会議員側のボンクラ議員らの力量に興味が移る。7月2日投開票が予定されている都議会議員選挙が目の前でチラつく中の百条委員会だけに、石原都政を支持してきた、自民党公明党など与党連中の追求が見ものだ。この流れ如何では、白無垢に包まれた正体不明の小池新党が都議会過半数を制する“東京都版トランプ現象”もあり得る勢いだ。

 筆者は、小池新党の勢いは、“東京都版トランプ現象”と云う、一地域の現象にとどまらず、日本の政治勢力図を書き変えてしまう可能性もあると見ている。安倍自民が一強に見えるのは錯覚で、自民党以外の政党に任せきれないので、経験を評価して自民党。それが、今の日本の国政図だとすると、自民党への期待値は、現状を酷く悪くはしないが、絶対に良くはしない、と云うのが自民党政権が選ばれる要因なのだから、自民党的だが、エスタブリッシュメント層との癒着も少ないだけに、小池新党には、安倍自民党を喰ってしまう時代の流れを感じてしまう。

 小池百合子と云う政治家は、安倍や稲田以上に右寄りのマッチョ政治家だけに、軍国的要素は強くなると睨んでいるが、戦争が起きない環境であれば、リスクは少なく、既得権をバリバリ破壊する馬力は充分にあると筆者は睨んでいる。以下に、石原会見及び参考記事を引用しておく。


≪石原会見 石原氏会見詳報(1)冒頭発言
 科学が風評に負けるのは国辱  東京都の築地市場(中央区)から豊洲市場(江東区)への移転問題を巡り、移転決定時に都知事だった石原慎太郎氏(84)の記者会見が3日、都内で開かれた。「最高責任者として裁可した責任は認めるが、やるべきことをやらずにことを看過して、豊洲への移転を混迷、迷走させた責任は小池(百合子)都知事にある」と述べ、焦点の土壌汚染対策の責任範囲を誰がどのように決めたのかについては明らかにしなかった。冒頭の発言は以下の通り。【大村健一、岡礼子、錦織祐一/デジタル報道センター】
 石原氏 皆さん、本日はこの機会を与えていただき、本当にありがとうございました。私はですね、3月19日、20日ですか、都議会の百条委員会に呼ばれているわけですが、とてもそれまで待てない心境なんです。私はね、座して死を待つつもりはございません。
 昨年の9月にですね、小池百合子知事は豊洲の問題の住民訴訟の判決をひっくり返して新しい弁護団によってもう一回、(私を)民事訴訟をするということに切りかえられたようですけども、これは論外としてですね、とにかくそれ以来ですね、私の家の前には小池さんのランニングドッグ(手下)のメディアが集結しましてね、プライバシーは侵される、近所迷惑になる、警察に来ていただくなどの混乱が続いています。生活が生活にならない状態が続いてましてね、私自身も2年前に軽い脳梗塞(こうそく)をやりまして、奇跡的に、早期発見されて一命を取りとめたんですけども、おかげさまで患部が右の上頭葉だったので、言葉もしゃべれるようになりましたし、入院中にものも書けました。
 たまたまその後に書いた田中角栄(元首相)さんの「天才」という本が評判になったんですけど、あの田中さんが脳梗塞で倒れた後、あのロッキード裁判というまったくインチキの冤罪(えんざい)の裁判と思うものに、憤懣(ふんまん)やるかたなく、一言もしゃべらずに亡くなるまで十数年過ごされた心境というのは、思えば思うほど痛ましい気がしまして、私自身はそのざまで死ぬまで生き続けるつもりはないし、そのことをはっきりさせるためにこういう機会を設けさせていただきました。
 行政の責任ってものは、2種類あると思います。作為に対する責任と、それからもう一つは不作為に対する責任です。すべきことをしなかったという責任はあると思いますね。このことは後で申しますが、小池知事に問いたいと思います。
 私はですね、当時の最高責任者として、審議会なり、専門会だったり、特別委員会だったり、議会も調査権を持っていろいろな調査をして、委員会もきわどい採決で可決されたわけですけども、それを踏まえて、とにかく豊洲の移転に裁可を願いたいということで、私は最高責任者として承諾して裁可しました。はんこを預かっている課長さんが、私のはんこを押すことが決まったわけです。
 ともかくね、行政の責任で、当然、裁可した最高責任者にあるというのは認めます。しかしですね、やるべきことをやらずにことを看過し、しかも日々、築地で働く人たちを生殺しにしたまま放ったらかしにして、しかもランニングコスト(維持費)にべらぼうなお金がかかる。あるいは築地の方に対する補償もべらぼうなお金がかかる。こうした混迷、迷走に対する責任は今の都知事、小池さんにあると思いますね。
 私はこの問題について発言された米田(稔)さんという京都大学の最高権威の(都市環境工学の)学者に話を聞きました。直に聞きました。あとは彼に紹介された中西(準子)さんという、ある組織(産業技術総合研究所)の最高権威者の女性の方に「豊洲の現状というのは全く危険がない。なんで豊洲に早く移さないのか」と。そして「豊洲が風評に負けて放置されるのは、科学が風評に負けたことになる。これはまさに国辱だ。世界に(対して)日本が恥をかくことになるという」と忠告もいただきました。ゆえに私はですね、小池さんは今、権限をもって豊洲に移転をすべきだと思いますし、しないのであれば、私は(小池さんを)告発するべきだと。要するに不作為の責任だと思います。それも含めて申し上げたいと思ってこの機会を設けました。
 それから、たまたま私のスタッフが綿密に時系列に沿って、どういう時点でどういう報告があったか。また、記者会見で私が決して豊洲への移転に全面的に賛成ではなかった音声の記録も出てきたので、それもあとでお見せします。私の思いを時系列に沿って、あるべき報告書、あるべき答申は、本来は都庁が持っているわけですから、私個人に責任を追及しなくても、都庁が調べたら分かることですから。百条委員会でも、都議会の責任でいろいろな調査権があるわけですから、それを調べれば自明に分かることもたくさんあると思いますけど。そういったこともこの機会に申し上げたいと思っております。
 すいません、口がちょっと回らないので、若いスタッフが(代読して)できるだけ早く読み上げます。皆さんに配ったもので事実関係を説明いたします。

石原氏会見詳報(2)事務所職員が主張代読 瑕疵担保責任は報告受けず  
(石原事務所の職員が石原氏の主張文面を代読)
 職員 それではこれから代読させていただきます。
 まず、築地から豊洲への移転が決まった経緯について説明いたします。私の都知事在任中に豊洲移転について、事業が大きく進んだことは間違いありません。しかしながら1999年4月に私が都知事に就任する10年以上も前の1986年に、築地市場の現地再整備の方針が決定され、90年代前半に工事に着手し、数百億円が支出されたにもかかわらず、頓挫(とんざ)したという経緯と、それによって東京都の幹部や市場関係者が築地市場の限界を認めざるを得なくなった経緯があります。すなわち、決して初めから移転ありきで話が進められたものではなく、築地市場の操業をやめずに現地再整備をすることがきわめて困難で、移転やむなしとなったわけです。
 移転先の候補地を調査する中で、1995年には有力な候補地として豊洲地区の名前が挙がるようになり、遅くとも1998年の時点では、市場関係者の団体の過半が豊洲地区を念頭に移転推進の意見をとりまとめるに至ったようです。
 その後の1999年4月、私が都知事に就任して早々に、豊洲への移転は既定の路線であるというような話を担当の福永(正通)副知事(当時)から聞いた記憶があります。
 次に土地売買の経緯について話します。ここで東京ガスとの用地取得交渉の経緯についてお話しします。報道によれば、東京都は遅くとも、私が知事に就任する前年、1998年の8月には豊洲地区の東京ガスの所有地の調査に着手しており、同年9月には東京ガス本社を訪問し、説明したようです。
 少なくとも私の記憶のかぎりでは東京都の関係部局が、豊洲地区以外の候補地の地権者と具体的な協議をした報告を受けたことはありません。つまり、私が知事に就任する以前から東京都の関係部局では「豊洲地区以外の移転先の候補地がない」との考えで一貫していたものと思われます。
 東京ガスとの具体的な交渉は私の就任直後はまず福永副知事、その後は2000年10月以降は浜渦(武生)副知事に担当してもらいました。浜渦氏から交渉の細やかな経緯について逐一、報告は受けていませんでしたから、私には詳細が分かりませんでしたが、「このような話を進めている」といったおおまかな報告は受けていたのかもしれません。
 最終的に2011年3月31日に至って、東京ガスほかとの間で土地の売買契約を締結しました。譲渡価格が妥当かどうかは、専門家に鑑定していただき、外部専門家が委員となっている都の財産価格審議会の意見も得ていたとのことですから、妥当であったと思います。
 また、売買契約の際の土壌汚染対策費用の扱いについて現在、問題提起がなされていますが、私は詳細な契約文言について法律的な判断をする知見はありませんし、具体的な記憶はありません。ただ時系列をご確認いただければ分かるように、売買契約以前に東京ガスが当時の法令に従って、必要な土壌汚染対策を実施済みであり、東京都はそれを検査、確認していました。その範囲を超えて、法令が要求する水準以上の安心のための土壌汚染対策については、東京都が相当程度の費用負担をすることも十分にあり得ることと思います。
 現に都議会にも土壌汚染対策費用の予算をお認めいただきました。その上、最近、見せてもらった契約書などの資料によれば、売買契約の際、東京ガスには78億円の追加負担をいただいていたようです。
 次に、豊洲市場の土壌汚染対策費用と、建物の下に盛り土が行われなかった経緯についてお話しします。土壌汚染対策の問題については、関係者は誰しも、その必要性を分かっていたことで、当然、用地の取得過程で協議されていたはずですが、専門的、技術的な事柄なので、それらの知見を有する都の関係部局が検討しており、私が具体的に判断した記憶はありません。確認したところによれば、都と東京ガスとの間では2002年、および05年に合意を取り交わしており、都の環境確保条例に基づく対策、さらにそれ以上の追加対策を東京ガスの責任で実施していただくことを合意しています。その後、東京ガスは07年4月までにこれらの対策を実施し、東京都の環境局においてその完了を確認しています。それでも豊洲用地の土壌汚染を懸念する声があったことから、万全を期するため、同月、土壌汚染対策等に関する専門家会議が設置され、安全性の調査、検討をしていただいたところ、一部の地点から環境基準を大幅に超える高濃度の汚染が検出されました。
 さらに同専門家会議による調査結果、報告書における土壌汚染対策追加実施の提言を受けて、08年8月、土壌汚染対策工事に関する技術会議が設置されました。同技術会議は2次にわたって報告書を公表しましたが、その結論は「一定の技術的対策を講じれば、豊洲用地の土壌汚染問題を克服できる」という内容でした。つまり、同技術会議は、その時点における土壌汚染の状況を前提としても、豊洲新市場への移転は可能であると判断したことになります。
 私は自分自身に技術的な知見はありませんし、お配りした時系列表に記載された細かな経緯についての記憶はありませんが、このような専門家会議や技術会議の判断を踏まえて、政治家として長年の築地市場問題を解決すべく、豊洲新市場への移転を政治判断し、2010年10月22日、その旨を記者会見で発表しました。
 都知事就任から、2011年3月31日に土地の売買契約を締結するまでに、関係部局の職員らから私に対する豊洲移転に対する報告の中で、土壌汚染に言及されたことは何度もあったと思いますが、基本的には「日本の技術で処理可能である」と説明を受けていたと認識しています。私は実際、「土壌汚染が処理できないということであれば、豊洲へ移転できないし、無理に土地を購入すべきではない」と認識していて、09年12月にはメディアの取材に対して、実際、そのような発言をしたこともありました。
 次に建物下に盛り土が行われなかった経緯に関しては、私には何も記憶がありません。この点は小池知事のもとで、調査特別チームが2次にわたって詳細な調査をされましたが、私が報告を受けた事実はなかったことを確認いただいたものと理解しています。私が08年5月30日に記者会見で新しい工法について指示したと発言したことについても、地下空間の問題とは無関係であったとの調査結果が公表されていますので、その資料をご確認いただきたいと思います。以上で代読の方を終わらせていただきます。

 司会の橋本五郎・読売新聞特別編集委員  今の説明だと、石原さんは「自分の代じゃなくて、豊洲は前から決まっていた路線なんだ」と。2001年7月に基本合意し、同年12月に移転を決定するのですが、その前に環境基準の1500倍の濃度のベンゼンが検出されて明らかになるんですね。そこで「なぜ、ちょっと待てよ」と踏みとどまらなかったのですか。
 石原氏 これはですね、私も専門家でありませんから、専門部局ですね。環境局もありますし、港湾局もありますし、専門家を入れた検討委員会もありますが、それに一任する以外になかったです。最終的に、その結論というものを上申してきた、たぶん知事本局長が私のところに来て「こういうことで裁可を願います」と。私はそのときに改めて「土壌の問題は大丈夫なんだろうな?」と聞いたら、「今の技術をもって、大丈夫です」ということで「分かった。裁可しよう」と。しかもその前に、議会は議会で専門委員会も構えて、調査権でいろいろな調査をしたはずですし、決算委員会でも「了」としてきたわけですから。行政の組織と、都庁全体が専門家も含めて検討し、しかも議会も了として決裁したのですから私は裁可をせざるを得ず、裁可しました。そういうことです。
 橋本氏 先ほどの報告にもあったが、問題になっているのは、瑕疵(かし)担保責任(売買された物に欠陥があった場合、売り主が責任を追う)の免責の問題ですね。これについては石原さん自身が雑誌で「自分も変だと思った」と話している。東京ガスに対してそういう約束をすることが後で変だと思うのなら、なぜ当時は思わなかったのですか。
 石原氏 これはですね、私自身が物の売買に携わったことや商売したことがございませんし、東京ガスとの交渉は福永副知事が最初に担当していて、なかなからちが開かないので、後に副知事にした辣腕(らつわん)の浜渦くんに一任したわけです。
 私が浜渦くんに任せたわけは、東京都が(財政)再建団体に転落寸前だったわけですよ。この東京を再建団体にしたら、とてもじゃないけどみっともないので「何とかしないと」ということで、会計制度も変えました。それからですね、各局の会計監査も公認会計士の方々に、年ごとに報告も受けました。
 それから一番大事なのは、何と言っても、歳出の多い、膨大な数の東京都の職員の歳費をカットしなくちゃ、とてもじゃないけど賄い切れないということで、当時の矢沢(賢・都労連)委員長という立派な委員長がいましたが、この人を説得して、個人的に話したり、ある意味で籠絡(ろうらく)もしたりして、とにかく都庁の職員の歳費の20%カットというのをやったわけですよ。
 2年の約束だったけど、うそをついて3年にしちゃったけど、5年間で4000億円の貯金ができて、そういうものを踏まえて五輪を私も言い出したんです。その点でも浜渦が活躍してくれたんで、彼に依頼しました。彼もあるところまで行った段階で、後任者にバトンタッチして実際の契約に持っていったと聞いております。その間の瑕疵責任に関する報告というのは、相談を受けていませんでした。東京ガスと都庁の当事者の間での契約交渉の間での瑕疵責任というものがどういう条件で、成就したのかは分かりませんが、私は報告を受けておりません。

石原氏会見詳報(3)「浜渦さんに任せきり」「私一人というより行政全体で責任」 
 築地市場(東京都中央区)から豊洲市場(同江東区)への移転問題を巡り、移転決定時に都知事だった石原慎太郎氏(84)が3日開いた記者会見の主な一問一答は以下の通り(司会は橋本五郎・読売新聞特別編集委員)。  
 橋本氏 途中経過は、浜渦さんはもうほとんど(報告)しなかったということか。
 石原氏 それはもう、任せきり。私はそんな小さなことにとてもかまけていられませんのでね。任せきりにしておりますし、部下を信頼しない限り。一任して、最初は福永副知事、それから浜渦(副知事)があるところまでやり、その後、後任の--。
 橋本氏 協定書に合意したご記憶はないか。
 石原氏 それはもう、ありません。当事者がしたわけですから。私自身が東京ガスとの契約書にサインした覚えはありません。それは、捺印(なついん)するような契約書だったか。少なくとも記憶はございません。担当者の誰かが、何らかのサインはしたでしょうね。その時に私のはんこが使われたということではないか。つまびらかにいたしませんけど。
 橋本氏 先ほど「自分は必ずしも豊洲に賛成じゃなかった」とおっしゃいましたが。
 石原氏 昔、パリのレストランで食事した時に、大陸の真ん中にあるパリの真ん中に大きな市場があって、魚を含めて生鮮食品を運搬してきて売っているわけですから、なるほどなと思った。冷凍技術も進んでいるんでしょうし。私は、もっと内陸でもいいんじゃないかと、環状線もそのうちできることだろうし、そのインターのどこかの近くに、内陸にもっと大規模な市場を造ったらどうかと発言したこともあります。これは、都庁の中で一笑に付されました。
 橋本氏 記者会見でも言ったのか。
 石原氏 記憶にはありませんが、いずれにせよ、都庁の会議の席で「(市場は)内陸でいいんじゃないか」と申しました。これは、既定の路線から外れるので「論外です」と却下されました。
 橋本氏 「ビデオがある」というのは?
 石原氏 豊洲の移転に疑念があるぞということは、記者会見の中でも質問に答えて言った覚えがありますし、その映像も用意してありますから、良かったらご覧になってください。

  (石原氏が都知事だった2010年10月22日の都知事会見の映像を上映。以下は映像の中での石原氏の発言)
 築地市場の移転について申し上げます。議会の議論を踏まえて、移転を進めることを決断しました。築地市場の再整備が持ち上がったのは、今から25年以上前の鈴木都政の時代で、いわば昭和からの宿題であります。かつて、現在地での再整備が頓挫して終わったわけで、その後、豊洲移転に活路を見いだして、業界と議論を重ねて、議会にも必要な予算を認めてもらってきました。
 この4月から、議会自ら現在地(での)再整備を再検討してきましたが、その中で、現在地再整備には、すべてが順調に進んでも十数年かかるという致命的な欠点が明らかになりました。にもかかわらず、議会としての結論がだらだらと先送りされて、今後の展望が示されておりません。議会が決めかねるのであれば、知事が歯車を大きく回すしかない。それがリーダーの責任だと思います。
 築地市場を取り巻く厳しさは、政治の不決断を許さないと思います。築地市場は、わずかな震度の地震でも屋根の一部が落下するほど老朽化しています。お世辞にも清潔とは言えないと思います。パリの新しい市場をみると、せりにかかるような大事な製品は、番号をふって、ガラス越しに見えるようになっていて、今の築地でやっているように、外気にさらされて、地面に転がして、それを見て値段をつけるみたいな原始的なことはやっていない。
 それも含めて、新しい市場が、新しい機能で、安全に清潔に運営されるべきだと思いますし、時代遅れの施設では、産地や顧客のニーズに対応もままなりませんし、市場整備が先に延びるほど、事業者はじり貧になると思います。遠い将来、どんな立派な施設を造っても、担い手がいなくては元も子もないわけでして、業界の大多数も豊洲移転を望んでおりました。「慎重な検討、丁寧な議論」という美名の下、現場に先も見えぬまま、不安、焦燥、混乱を強い続けるわけにはいかないと思います。(映像ここまで)     
 橋本氏 では会場からの質問を。
 石原氏 ちょっとその前に申し上げますけど、汚染対策の最高権威の中西準子先生は、産業技術総合研究所の名誉フェローでいらっしゃいます。この方も、豊洲は今のままで安全だと言っていますし、多くの科学者が「風評に科学が負けるのは国辱だ」とおっしゃっています。築地にもいろんな問題がまだ内在していますし、だいたいアスベストだって飛散すると肺気腫になりますから。しかも、開けっ放しで、周りには大きな幹線道路が走っていて、冷房装置も暖房装置もない。夏は暑い、冬は寒いところで操業しているわけですから。築地の中にも賛否両論あるようですけど、私は、知事が決心して、速やかに豊洲に市場を移すべきだと。これをしないなら、(不作為の)責任を問われて、小池知事こそ、生殺しになっている築地の今の業者たちを含めての住民訴訟の対象になるべきだと思いますね。  
 橋本氏 私から最後に。「私(石原氏)が全部しゃべると困る人がいる」とのせりふがありました。誰が困るんですか。
 石原氏 いろんな事で困る人がいるでしょうね。浜渦君の後継者で、実際の契約を結んだ人物がいます。この人も、転職せずにいきなり、東京ガスの執行役員に転出しました。都庁の中でも評判になったようだ。
 議会にもやはり責任があると思いますよ。特別委員会が、非常にきわどい形で意見が分かれた時に、委員長の民主党議員を説得して、その人の1票差で採決が決まった。その人はなぜか民主党を出て、当分の間、無派閥の議員の席に1人で座っていました。この人は後に、自民党の推薦で世田谷の区長の選挙に出まして、私も自民党に頼まれて応援に行きました。そういうきわどい議会の操作の結果、とにかく議会も承認したわけですし、しかも公明党、自民党も賛成して、議会の総意として決まったわけですから。
 私はやはり、この問題の責任は、最後に、そういうものを踏まえて裁可をした私1人の責任というよりも、行政全体が、いろんな形、部門部門で責任があると思いますし、それを検証することが、この問題の本質を明かしていく、一番大事な術(すべ)ではないかと思っている。

石原氏会見詳報(4)質疑 「審議会が決めたことに否とは言えない」
 --市場の移転は大きな予算もかかる。市民の生活にも影響する。そうした判断について、すべて下に任せていたということか。
 石原氏 これは大事な大事な政治案件ですから、各部局がありますし、港湾局も、環境局も市場局もあります。そういう方々が、専門家を含めて、委員会を含めて、そこで論議して決めたこと。それに任せざるを得ない。私は専門性はありませんし、こういった問題は、みんなが知恵を出して、力を出して決めていくことで、その総意として上がってきたものに対して、私はそれを認可したということですから。
 --ご自身は、豊洲への移転にあまり前向きではなかった。今は「移転してもいい」と思っている。判断が変わった理由は。
 石原氏 判断が変わったんじゃないです。豊洲移転は既に決まったんです。要するに、都庁の総意、議会の総意として。しかも、そこで今度は汚水の問題が出てきている。しかし、その水を市場で使うわけじゃないし、物を洗うわけでもないし、あそこにどんな地下水があろうと、今の建物で操業することに危険はないと専門家は保証しているわけですから、速やかにランニングコストも含めて、中ぶらりんになっている業者たちに対する補償も含めて、膨大なお金が税金から支出されているわけでしょ。ですから、現知事(小池知事)が自分の責任で判断して、移転を決めて、あそこ(豊洲)で築地の操業を行うべきだと思いますよ。  
 --石原さんはいろんな方々の責任を言ったが、ご自身も作為の責任があると認めた。最大のものは何か。
 石原氏 やはり都庁の中の世論をまとめて上がってきたことを裁可して承諾したことです。これは私個人の意思じゃありませんし、都庁全体の行政の結論として、議会も含めて是としたわけですから、当然認可せざるを得なかったと思います。 
 --知事本局という役職の方の名前が挙がったが、その後の経歴と、今何をされているのか説明してほしい。その方に取材したところ、「知事本局には決定権はなく、ほかの部署の長が内容を確認して判を押したものを保証するためだけのはんこだ」と言っているが。
 石原氏 こういう大きな政治マターは、各分野、各局が専門家も含めて検討して、都庁の総意としてまとめるわけですから、それを最終的に報告して取り次ぐのは、業務の形態からいって知事本局長だったと思う。その時の本局長が誰だったか記憶していません。調べたら分かることじゃないですか。たぶん前川さんじゃないかと思う。ちょっと違うという人もある。  
 --今の回答を聞くと、責任逃れの説明だと思った。民間企業の社長に当たる最高責任者の都知事がはんこを押したのに「部下の責任だ」というのは言い逃れではないか。結果的に、瑕疵担保責任を放棄し、もっと値引きしないといけない土地を値引きせずに買って、都民に莫大(ばくだい)な損害を与えている。この責任をとる考えはあるか。
 石原氏 あの土地をあのコストで買ったのは、私が決めたわけでありませんよ。そのための審議会が、専門家も含めて審議して決めたわけですから、私はそれを是(否?)とするわけにはいかない。売買の専門家ではありませんし。  
 --はんこを押したということは、最高責任者として判断したということではないか。恥さらしでは。  石原氏 恥とは思っていませんね。行政の手続きを踏んで上がってきたものを裁可したわけですから。 
 --浜渦さんが副知事の時代、おおまかな報告は受けていたかもしれないとおっしゃった。浜渦さんはテレビ番組に出演した時、「豊洲市場の護岸工事は都が担当して、中の汚染工事は東京ガスがやる」と。これが状況が変わっていったわけですが、このあたりの経緯は、どこまで聞き及んでいたか。
 石原氏 聞いていません。全部一任しておりましたし、非常に具体的で専門性があることですから。これは一任した交渉の責任者に依頼して、中間的な報告はおおまかに受けたかもしれませんけど、具体的な報告は受けたことがありませんし、相談を受けたこともありません。

石原氏会見詳報(5止)交渉担当者に「話聞く時間なかった」
 --小池(百合子)都知事に「言いたいことがある」と言っていたが、今あれば。
 石原氏 私はやっぱりね、今の責任を取るべきだと思いますよ。ランニングコストをどんどん使って、安全な市場を使わずに。しかも側聞すると、どこか外資の会社に半額で売るなんていう。これは論外な話だと思いますよ。安全と、うその安心を混同して。専門家の多くの権威が「豊洲は安全」だと言っているのに、それを信用せずに無為無策で放置して、余計なお金を税金から使うんですか。私は理解できない。この責任は彼女にあると思いますよ。
 --今、築地で働いている方々は中ぶらりんになっているが、言いたいことは。また、当時の知事本局にいた…前川(燿男・現練馬区長)さんという方を都議会や小池都知事が呼んで話を聞けば、より具体的な交渉の経緯が分かるとお考えか。
 石原氏 そうですね。前川さんは後に(東京ガスの)執行役員になった人ですし、浜渦くんの後に交渉に携わった方ですから、その人が一番精通しているんじゃないでしょうか。それと、今、豊洲で働いて中ぶらりんになって困ってる方々は、けしかけるわけではありませんが「何で豊洲で自分たちを今働かせないんだ」という訴訟を起こしたらいいと思いますよ。何の危険もないんですから。科学者が全部保証しているのに、なんで(移転用地を)使わないんですか。
 --この後に百条委員会が開かれることになっていて、委員が控室でこの会見を見ている。委員に言いたいことは。また証人喚問で必ず話したいことは。
 石原氏 百条委員会の方々は都議ですから、都議会には調査権があるわけです。それから、東京都が拒もうと拒むまいと、都が持っている資料を提出させる権利があるし、(都には提出する)義務もあります。その作業をしてもらいたいと思いますね。
 --土壌汚染対策で多額のお金がかかると分かっていながら豊洲を選んだ理由は。東京都の財政が傷む、都民の税金がかなり使われてしまうというのが分かっていて、これを無駄遣いとは感じなかったのか。
 石原氏 これはとっても大事なことです。これはやっぱり、専門家が「そのコストでもなお豊洲というものを都が購入して市場を移す必要がある」という判断を複合的に考えて裁可をしたわけでしょう。決めたわけでしょう。私はやっぱり、それについて口を挟む余地はありませんし、専門性もありませんし。専門家が専門分野の、科学者も含めて審議してきた上で決めたことですから。これはやっぱり部下を信用せざるを得ないんじゃないでしょうか。価格についても審議会をちゃんとやっているわけですからね。その答申が出ているはずです。
 --当時、都政は銀行税など多くの課題を抱えていた。豊洲移転の問題はどれほど重要と考えていたのか。優先順位はどうだったのか。浜渦さんたちは「当時は知事の関心が低かった」と話している。
 石原氏 それは、優先順位というのは何をもって基準とするのかは非常に難しい問題ですが、私にとっての当初の問題というのは財政を再建することでした。他の問題もいろいろありました。大気汚染の問題もありましたし。だから何をもって行政の案件としてプライオリティー(優先順位)をつけるかということは、ものが多すぎて一概に言えることではないと思いますよ。ただやっぱり、豊洲の移転は都民の台所にかかわる大事な機能ですから。これは鈴木(俊一・元都知事)さんの頃からも、築地の限界を考えて、ずーっと流れとして、とにかくどこかに新しい市場を造ろうというのがあったんじゃないですか。結局、豊洲をあえて選んだといういきさつは、専門家が専門性を駆使して多角的に決めたことであって、私自身がそれに関与する余地も能力も知見もありませんから、(専門家が)決めたことを私が受け入れたということです。
 --記憶にあいまいな部分が多く、関心が他のことに移っていたのではないか。
 石原氏 いや、物事にあいまいなことっていろいろあるでしょうけど、それをやっぱり審査するのが司々(つかさつかさ)のお役人の仕事じゃないんでしょうか。委員会の仕事じゃないんでしょうか。しかもそれを議会も審査するわけですからね。
 --土地売買契約を結んだ際、当時、都職員から「東京ガスからは汚染を考慮しない価格で買わなければならなかった。法的拘束力があった」との説明は受けたか。
 石原氏 いや、それは私は覚えておりません。昔のことですし、しかも専門的なことですからね、その分野の役人なり議員たちがタッチして判断したことだと思いますよ。  
 橋本氏 先ほどから「自分は専門性がない」「専門的知見はないから従うしかない」という話が多いが、なら何のために知事はいるのか。そういうものを含めて、大きな観点から判断するのが知事ではないのか。
 石原氏 それはもちろんそうですね。ですけど、いろんな分野のいろんな仕事がありますから、そのために各局があり、各部があり、議会にも専門委員会があって、それぞれの司々の人たちが自分たちの職務としての専門性を踏まえて、物事を判断して、物を束ねて上申してくる。それを受け止めて、大きな問題についての判断、裁決をするというのが私の仕事、責任だと思っています。それはね、私は専門家ではありませんし、知らないものは知りませんよ。部下に任せる以外にありません。物事の専門性について聞かされても、私は素人ですから。逃げるわけではありませんが、結局つまり、その担当の司々の職員、担当している委員会の議員諸君に判断を仰ぐしかないんじゃないでしょうか。しかもその総意として議会も承知したわけですし。  
 --瑕疵担保責任の放棄を書いた協定書に石原さんのはんこが押されているが、「誰かが使った」というのは本当か。また、石原さんの専門分野は文学だが、それ以外でも剛腕を振るってきた。「責任」という言葉は生ぬるい。ミスの連続だったとは思わないか。
 石原氏 瑕疵担保の問題は専門的すぎて、交渉の当事者に委ねる以外にないじゃないですか。私がその席で東京ガスと交渉したわけではありませんし、それを担当している浜渦くんなりその後任者に任せるしかないじゃないですか。
 --「瑕疵担保の責任の放棄」の意味は分かりますよね。
 石原氏 それは分かりますよ、当然。
 --ならば、なぜはんこを押したんですか。
 石原氏 その問題について、私は「これについてどう思うか」ということを聞かれたこともないし、「瑕疵担保」「瑕疵責任の留保」という言葉も私はこの問題が起こってから初めて聞きました。私は物事の取引に携わったこともありません。これは今になってみると、とっても大事な問題だと思います。
 --そのはんこは他の人が使ったんですか。
 石原氏 それは分かりませんね。どんな判が押してあるか。知事のはんこが押してあるとしたら。知事のはんこですか?(質問者に書類を見せられて)それ、そうですね。きっとそうなんでしょう。私が押したんじゃなしに。つまり、行政の手続きとして上がってきて、「こういうことで、これを了としてください」と説明を受けて、私が司々の専門性に任せて、部下を信頼して、言われるままにうなずいて、確認して、そのはんこを押した。それは行政の手続きの手順だと思います。
 --司々には任せていたが、最高権者として裁可を下したことの責任はあると認めたのか。もしその責任があるなら、都民が原告となって都に対し、汚染を前提としない金額で土地を買った損害の返金を求める訴訟を起こしている。損害を返金、弁済する考えは。
 石原氏 これはやっぱり裁判の問題でしょう。私は、日本は健全な法治国家だと思いますよ。そういうものがまかり通るなら、私は不当だと提訴します。だっておかしいじゃないですか。みんなで決めたことですよ。しかもそれを私はまとめた上で「こういうことで合議が決まりましたし、議会にも相談しましたから裁可願います」ということで「イエス」と言ったわけですから。これは衆知を集めて決めたことで、これに対して個人の、住民訴訟で責任を問われる筋というのは法的におかしいと思いますよ。むしろ私は繰り返し申したいけど、今とにかく、科学者が安全だと保証しているのに豊洲を使わずに、野放しにして、無駄なお金をどんどんどんどん年ごとに積み重ね、税金を払っている。これはやっぱり不作為の責任だと思いますよ。これは問われるべきだと思います。
 --瑕疵担保責任の免除を誰が、どうして決めたのか。浜渦さんに現段階で話を聞いていないんですか。  石原氏 聞いてません。これは当事者が最初から福永(正通・元副知事)さん、それから浜渦くんとわたって、誰がその後フォローしたんですか? その3者の、福永さんはそこまでタッチしていないと思いますが、後の2人がどういう判断で瑕疵担保責任の留保を認めたのかは分かりません。
 --なぜ問いたださないんですか。重要な問題です。
 石原氏 その報告を受けていないんですよ、だって。
 --自分で聞く必要があるのではないですか。これだけ石原さんが矢面に立たされて。それを説明するのが今日の記者会見の最大の話だったはずです。
 石原氏 これはね、瑕疵責任が留保されるということは、私は初めて東京都側の質問で知ったんですよ。
 --結果的に重要なことだったという認識は。
 石原氏 思います。
 --なぜそんなことをしたのか。今日の段階で事情を把握しているべきです。
 石原氏 いや、瑕疵責任が留保されていることを知ったのは東京都側からの質問で初めて知ったわけでして。私はそれまで交渉のプロセスの中でその問題が主要な案件として論じられるということはまったく聞いておりませんでした。
 --聞いていなくても、その後、今日の会見で事実関係を都民に分かりやすく説明をなぜしないのか。      
 石原氏 いや、それは分かりません。それはやっぱり交渉の当事者に聞かないと。
 --それを聞くのが石原さんの責任だったのでは。  石原氏 それは聞く時間がなかったでしょう(会場から失笑)。  --浜渦さんとは最近会っていないのか。
 石原氏 会ってません。
 --なぜ会わないんですか。昔の側近中の側近に。
 石原氏 彼もあちこちでいろんな話をしてます。そこでそういう説明をしているでしょう。私は全部それをフォローしているわけではありませんけど。任せていたわけですから。とにかく私はね、交渉の当事者じゃない。逃げるわけじゃないけど任せていたわけですからね。私は売買の契約のネゴシエーションの現場に立ち会ったことは一回もありませんしね。
 --立ち会った人に聞くのが元知事の会見の趣旨では。
 石原氏 それは今から聞こうと思ったら聞きますよ。
 --ぜひ聞いて、次の機会に事実関係を明確にしてほしい。
 石原氏 誰に聞いたら分かるんですか。やっぱり浜渦ですか。
 --そうじゃないんですか。
  橋本氏 石原さんは必ずしも体調が万全ではないので、これで記者会見を終了します。
 ≫(毎日新聞)


≪ 小池知事「人の責任と言うのは簡単」
 石原氏会見受け  東京都の豊洲市場をめぐる問題について石原慎太郎元知事が記者会見をしたことを受け、小池百合子知事は3日、都庁で報道陣に対して「都民のみなさまからすれば石原さんらしくないなあという印象だけが残ったのではないか。色々と新しいことおっしゃるのかと思っていましたが、せっかくの記者会見だったのに残念だ。明確におっしゃったほうが石原さんらしかったんじゃないか」と語った。  豊洲移転を延期したことについて石原氏が「混迷の責任は現都知事の小池さんにあると思う」などと指摘したことについては、「人の責任とおっしゃるのは簡単だ。仲卸(業者)の方々も今のままでは豊洲にうつれないと明確におっしゃっている。こういう状況をつくってこられたことについて、もう少し客観的にご自分を見つめて頂きたい」と応じた。
 石原氏が豊洲への早期移転を主張したことについては「そうおっしゃるなら、もう10年20年前に移転すべきだったんじゃないか」と反論。「きちんと都政を責任ある姿でやっていくなら、あまり人に任せることはよくなかったんじゃないか」とも語った。 ≫(朝日新聞)


 ≪ 小池知事「中身よく分からず残念 石原さんらしくない」
 石原元知事の記者会見について、小池知事は記者団に対し、「簡単にまとめを聞いたが、中身はよくわからなかった。いろいろと新しいことを言うかと思っていたが、せっかくの記者会見だったのに残念だった」と述べ、内容は不十分だったという認識を示しました。 そのうえで、石原元知事が「市場の混迷の責任は小池知事にある」と話したことについて、「人の責任と言うのは簡単だと思うが、こういう状況を作られたことについては、もう少し客観的にご自身を見つめてほしい。都政を責任ある姿でやっていくなら、あまり人に任せることは、よくなかったと思う」と述べました。 そして、石原知事は説明責任を果たしたと思うか、という問いに対しては、「都民の皆様からすれば、石原さんらしくないという印象だけが残ったのではないか。百条委員会でどういう対応をなさるのか見ていきたい」と述べました。

 元市場長「言うべきことは言った」
東京ガスとの交渉が本格化した平成11年から2年間、都の担当部局トップの中央卸売市場長を務めた大矢實氏は石原元知事の会見について、「説明責任を100%果たしたとは思えないが、言うべきことは言ったと思う。石原元知事も述べたように、行政の長としての結果責任はあると思うが、個人の責任を追及するのはいかがなものかと思う。会見を見て逃げているという印象を受ける人もいると思うが、必ずしもそうではない」と述べました。 そのうえで、豊洲への移転をめぐる石原元知事の説明について、「豊洲の移転が知事になる前から既定の路線だったという点は自分の認識とは違う、自分の考えについては、都議会の百条委員会の場で真摯(しんし)に述べていきたい」と述べました。

 都議会自民党「真摯な対応」
都議会自民党の川松真一朗議員は「みずからが理解している範囲で、真摯(しんし)な対応をされていたと思う。われわれ都議会の対応についても言及していたが、都議会としても、豊洲市場に対する都民の疑念や不安を1日も早く晴らすべく、きょうの発言を踏まえて、百条委員会などの調査にしっかり臨みたい」と話していました。

 公明党「責任回避のためだけの会見」
公明党の東村邦浩幹事長は「何の目的で記者会見を開いたのか、よくわからなかった。自分が都合のいいことだけ話して、いちばん肝心な部分は何も調べずに話していたことは、お粗末であり、自分の責任を回避するためだけの記者会見だったと受け止めている。石原元知事は都議会が決めたから、豊洲市場の移転を進めたと言っているが、移転を決めたのは知事自身だ。百条委員会では、当初、土地を売らないといっていた東京ガスが、なぜ急転直下で売ることにしたのかなどを都民にしっかり明らかにしたい」と話していました。

 東京改革議員団「失望感や喪失感」
民進党の議員が所属する東京改革議員団の酒井大史議員は「新しい真実を石原元知事が語ると期待していたが、結果から言えば、自分の責任を回避する、責任転嫁に終始し、あきれた。裁可を下したことは認めたが、都庁の職員などに責任を押しつける発言をしていて、当時、知事としての役割を果たしていなかったことが改めてわかり、失望感や喪失感を感じざるをえない。百条委員会で証人として、石原元知事が呼ばれた際には理詰めで質問し、真相を究明したい」と話していました。

 共産党「あきれ果てた」
共産党の大山とも子幹事長は「率直に言って、あきれ果てた。何を聞かれても部下や専門家のせいにして、自分の責任を逃れるための言い訳しかなかったと思う。瑕疵(かし)担保責任についても調べもしないで無責任だ。石原元知事の時代に豊洲への移転を決めたわけであり、百条委員会では、そもそも何であの土地に移転を決めたのか、石原元知事の責任について明らかにしたい」と話していました。
 ≫(NHK)


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