プリミティヴクール

シーカヤック海洋冒険家で、アイランドストリーム代表である、平田 毅(ひらた つよし)のブログ。海、自然、旅の話満載。

ムサンダム半島4 プラネット感覚

2009-04-21 12:21:18 | オマーン&UAE編(南アジア&アラビア半

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※オマーン、UAE編(南アジア、アラビア半島カヤックトリップ)の続き記事。

 ペルシャ湾というとまず湾岸戦争を思い出すが、当時テレビのニュースなんかでロケット弾が花火のように行きかう夜空の映像が頻繁に映し出されたりすればするほど、まるで現実感がなかったことを覚えている。またここホルムズ海峡も、きなくさい国際情勢と絡めて知識として知ることはできるが、リアルにイメージすることなど困難だ。

 ペルシャ湾とアラビア海とを結ぶ海域の中でも、最も海が狭くなるここホルムズ海峡。マス・メディアで触れる知識とは裏腹に、というかそんな世界情勢などどこか別の惑星での出来事にすら思えるような、この沿岸べりに生活する庶民の、の~んびりゆったり流れる平和な日常。その、たぶん1000年ほど大昔からさほど変わらぬ、悠久の時間を垣間見ることができて面白かった(詳しくは前記事参照)。そしてむき出しの身ひとつでカヤックに乗り海上に出るとさらに、万年とか億年単位もの悠久の時間を生きるイルカ、ウミガメ、サメ、マグロなどさまざまなダイナミックな海洋生物に出会い、その生々しい躍動感に肉薄することができて、ワンダフルだった。

 カヤックに乗ってトリップしてると自分もだんだん海洋生物になったみたいな感覚になってくるけれど、そんな中で彼らのような野生の海洋生物に出会うと不思議な親近感が湧く。といってもこっちが勝手にそう思い込んでいるだけなんだろうけどね。でも、連中の生命の躍動感というのか、そのエネルギッシュなビート、鼓動とこちらのハートとがシンクロするようなリアルな瞬間ってものがやはり、ある。で、ぼくはそんな感覚に浸りつつ、同時に湾岸戦争のロケット映像のような非現実感のことに想いを巡らせたりもした。

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↑ ホルムズ海峡にはイルカが多い。徐々に観光に門戸を開き始めているここムサンダム半島では、ドルフィンウォッチングがひとつの観光の売りともなっている。背後から突然現れ、カヤックの周りを飛んだり跳ねたりして遊んでしばらくすると、またどこかに消えてゆく気ままな連中。なお彼らはカメラを向けると姿を消すという性質も持っているようだ。

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↑ クムザール沖で見かけた鳥山。でっかいキハダマグロに追われて逃げまとうイワシの群れがこの下にいる。また何度も何度もカヤックの周りでキハダマグロがジャンプするエネルギッシュな姿を見ることができて興奮した。こういう水面の状態を「ボイル」というが、ぼくの心の中でもその躍動感が吹きこぼれるようだった。この写真、クリックしてよく見るとマグロが身体を翻してる姿映っているので見てみてください。

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↑ 特にオマーンの軍事基地近くには 物凄い浅瀬までサンゴが展開されている場所が続いていた。

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↑ ウミガメにもしょっちゅう出くわした。目があったりもするけれどたいてい「なんなんだこいつ」みたいな顔してノッソリ海の中に帰っていく。

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↑ こいつはサメ。と言っても人食いではなく、小魚などを食べて生きているスポテッド・シャーク。海岸ギリギリのきわで、エサをあさっていた。こんなところにサメがいるなんて・・・、「気に入った!!! 」ということでこの浜に上陸し、テントを張って一夜を過ごすことにした。

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↑ いろんな荷物が微妙に濡れていたので乾かす。

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↑ 砂漠の砂嵐から3,4日たってもまだモヤが消えない。たぶんアラビア海からの海風が入らないとしばらく消えないのだろう。

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↑ 広い空間にたったひとり。よく「さみしくないの?」と聞かれるけれど、自然の中にいると、孤独感はあるけれど寂しさ感はほとんどない。それより夜空は凄いし、潮騒はじぶんを包み込んでくれるように気持ちいいし、ウミガメやサメもいるし、うれしいような心地よいような高揚した気分がずっと続く。また夜になるとテントの周りにキツネが寄ってくるのだが、ヘッドライトを照らすと暗闇の中に赤い小さな目が二つ光り、こちらをじーっと見つめる。 そいつを見ているとなんともいえない感情が交錯して、胸がキューンとしてくるのだった。

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↑ カヤックで4日も5日も連続して海を旅し、大地で眠っているとやがて、無生物である岩山も生きたもののような存在感を持って感じられ始める。いわゆるひとつのプラネット感覚。


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ムサンダム半島3 クムザール

2009-04-21 08:46:04 | オマーン&UAE編(南アジア&アラビア半

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 ※オマーン、UAE編(南アジア、アラビア半島カヤックトリップ)の続き記事。

 ペルシャ湾からアラビア海に抜ける際に最もせまくなるホルムズ海峡に面したムサンダム半島。岩山の断崖絶壁がひたすら続いていく海岸線だけに一度荒れるとえぐいクラポチス(返し波)がガンガンに発生しドエライことになるのでいつまた強風が吹きだすか常に恐れながらも、入り組んだ深い湾にはいり込んだり途中でシュノーケリングしたり色々遊びつつ、3日がかりでようやく最果ての村・クムザールにたどり着いた。ちなみにこの海岸線は近くにオマーンの軍事基地がありまた潮の流れが速い場所で、それゆえ手つかずのシュノーケリングスポットが多く、特に半島の最先端周辺は浅い場所まで生き生きしたサンゴ礁が展開されていて凄いことになっていた。

 さらにホルムズ海峡を40キロほど漕いで渡るとイランに行きつく。ちょうど紀伊水道を和歌山から徳島まで渡るよりも短い距離なのでカヤックでも渡ろうと思えば全然渡れる。もちろんそんなことするとさすがにヤバいので渡らないけれど地元の商売人たちは毎日のようにパスポートなしでイランとこのムサンダム半島とを往復して取引している。一応密貿易にあたるけれど誰もそんなこと気にしない、もちろんオマーン軍も警察も知っているけれど全く意に介さない。おそらく1000年以上前から続く、まるで日本人が毎朝味噌汁を吸うようなのと同じノリの、平々凡々たる日常の風景なのである。そういう連中はハッサブの港でも見たし、海上でも頻繁にすれ違った。ここですれ違う連中はイラン人だろうとオマーン人だろうと漁師だろうと商売人だろうとみんなフレンドリーで、こちらを見ると必ず手を振ってくる。近寄ってきて魚をくれた人もいたし、イランまで乗せってってやるからカヤックごと乗って行け、なんて普通に言ってくるおっさんもいた。非常に面白いなと思った。

 日本で「ホルムズ海峡」って聞くと、ほとんどきなくさい話しか耳にしない。反米のイラン政府あたりが怒って海峡封鎖するとペルシャ湾を行き来する原油タンカーが行き来することができなくなる。で色々状況が連鎖的に巡り巡ると、最悪第三次大戦の火種になるとか、核戦争がもし起こるとすれば突端はこのホルムズ海峡に端を発することになるだろうとかいろいろ恐ろしげな話もしばし耳にする。しかしそこに住む普通の庶民の日常はの~んびりゆったり流れていてなかなか他の場所では見ることのできない平和感が漂っていた。ソマリアやマラッカ海峡のように海賊も出ないしね。

 ムサンダム半島の再果て、陸の孤島・クムザールに無事たどり着くと、ガキどもが珍しそうにぞろぞろ集まってきた。次に若者、次に中年、つぎにジイサンと寄ってきた。確かに陸の孤島だけれど英語がある程度分かる人も多い。日本から来た、ハッサブからこのカヤックで漕いできたというと、「まあまあお疲れ様でした、こちらへどうぞ」という感じで浜の横の村人寄り合い所みたいなところに案内され、おまけにご飯まで出してくれた。カレー味に焼いたアジのような魚が乗ったビリヤニ(焼き飯)にサラダ、腹が減っていたのでものすごくうれしかった。

 で、その一連のホスピタリティの流れがすごくナチュラルで、前々回の記事でも書いたようにやはりここは大昔の海のシルクロードにおける道の駅のようなところでかつ陸の孤島なだけに、その時代のエッセンスの断片みたいなものが未だにどこか残っているのかなあと思ったりした。もっとも、これがカヤックのような個人的な手漕ぎ舟だからそうなるのである。観光船やクルーザーで行ってもよそよそしいだけなのにカヤックならば不思議な親近感を生みだすことができたりする、というのは日本の海岸線で数々経験づみだ。カヤックという古くて新しい舟が生みだすマジックフィーリング、おおげさに言うとその土地の精霊を呼び覚ますフィーリングだ。ぼくの心の中で1000年前のこの「海の道の駅」を行きかう人々の活況がパンパンパ~ンとフラッシュバックした。ああ、カヤックトリップほど面白いものはない。

 さて、さまざまな出自の人たちが往来した名残が真空パックされたクムザール語・・・、英語、ヒンドゥー語、スワヒリ語、アラビア語、ペルシャ語、ウルドゥー語など多言語のミックスしたこの地独自の言語というのは、そもそもぼくがアラビア語が全く分からないので比較しようがないけれど、確かにニュアンスが違う不思議な響きのする言葉だった。一瞬英語に聞こえる単語、フレーズなども耳についた。なお、顔つきも普通のオマーン人やアラブ人とちょっと違うというか、南アジア系が入っている面構えの人が目についた。日本人みたいな顔したガキもいたし、「ドラゴンボール、スーパーサイヤ人」と日本語で書かれたTシャツを着たガキもいた。それらガキどもと仲良くなり、指を組み合わせて作る猿とかサメの形を教えたり、日本の名曲「カエルの歌」を教えたり、カヤック遊びしたりしながら2時間ほど遊んだあと、再びクムザールを後にした。あんまり長居せずそれゆえ自分の胸に刻んだイメージをそのまま真空パックして持って帰ることができたのだった。

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ムサンダム半島2 砂漠の嵐あと

2009-04-21 01:30:14 | オマーン&UAE編(南アジア&アラビア半

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※オマーン、UAE編(南アジア、アラビア半島カヤックトリップ)の続き記事。

 丸一日中、陸風つまり砂漠からの強風が吹き続けたあと翌日は一転、ほとんど風のない穏やかな日になった。大気中に砂の粒子が溜まり、モヤがかったような景色の日がしばらく続いた。

 オマーンの飛び地、ムサンダム半島は複雑に入り組んだリアス式海岸になっていて岩山、断崖絶壁が次から次へと出現する。で、その出現の仕方がちょうどモヤの中からいきなりヌーっと現れ出てくる感じなので、なにか超巨大な恐竜とか巨人とかそんなようなとてつもない存在を連想させたのだった。写真では迫力や臨場感が出ないけれど、現場では実際すごかったぜ。

 岩山のような巨大無生物のみが放つ、生命感。

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 ↑ 砂塵という幻想的なベールをまとうことによって、岩だらけで無生物的な感じの山々が、まるで巨大な生き物のように見えたのだった。

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↑ 800m級の岩山のすぐふもとにある村。

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↑ そこに上陸して休憩。切り立った岩山の真下にある遠近感というか臨場感がぶっとんでいた。

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↑ ハッサブから出艇して複雑な湾になったシム・ガルフの中まで入っていきあちこち漕ぎまわったあと、最先端の村・クムザールを目指しつつ途中にあった広い浜に上陸し、テントをたてた。

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↑ モヤの中の夕陽。

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↑ 貴重な流木でたき火をする。

P1010367 夜、月がでた。


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