※オマーン、UAE編(南アジア、アラビア半島カヤックトリップ)の続き記事。
アラビア半島最東端に位置しウミガメ(グリーンタートル)の産卵で有名なRas Al Jinzの近くの、Ras Al Hadd周辺でカヤッキングした。もちろん産卵保護区は外している。
↑ 道端に車を止め、フォールディングカヤックを組み立てて出艇。
↑ 何度か海上でウミガメに出くわした。
↑ なかなか絵になる砂浜が次々出てくる。マスカット周辺の海もなかなかだが、遠く離れると海水の質もさらに素晴らしくなる。
↑ 荒涼とした大地と青い海。この子犬は上陸して散歩しているとずっとついてきたやつ。かわいいけれど狂犬病を持っている可能性があり、海外ではむやみに動物に手を出さない方がよい。
心地よいワンデイ・カヤッキングを終えた後、夜のウミガメの産卵観察ツアーに参加するためにRas Al Jinzのサンクチュアリに向かった。途中で道が分からなくなったので大衆レストランに入り従業員のニイチャンに行き方を教えてもらう。ついでにビリヤニという焼き飯を注文して色々話をしているとどうやら彼はインド、パキスタン、中国の国境をまたぐカシミール地方からの亡命者であることがわかった。UAE(アラブ首長国連邦)やオマーンにはインド、パキスタン、バングラデッシュ系の移民や出稼ぎ人がたくさんいるけれど、カシミール地方出身者に出会ったのは初めてだった。ジェントルな物腰で、やさしげな笑みをたたえた感じのいいアニキだったが、それゆえにカシミール紛争で親・兄弟を殺された話をする時にも絶やさないその達観したような微笑みが一層悲しく映り、ぼくはとても胸が痛んだ。さっきまで道が分からないくらいで少々いらついていたぼくの、その下らなさを恥じた。そして気ままにどこへでも旅することのできる恵まれた日本人であることにかたじけなさを覚えた。しかしだからといってカヤックトリップのモチベーションは揺らぐことなく、一瞬一瞬をもっと大事にしながら、さらによりよいカヤックトリップをこれからも続けていこうと思った。そしてアイランドストリームのカヤックツアーをもっといいものにしようと思ったのだった。
Ras Al Jinzのウミガメ産卵観察ツアーは夜9時半から始まる。年間二万頭ものグリーン・タートルが産卵しにくる浜で、環境意識の高いオマーン政府が守っているサンクチュアリである。日中は立ち入り可能だが、産卵が行われる夜間はガイド同行でなければ入ることができない。産卵時のウミガメは神経質なのである。ぼくのほかにオランダ人、ベルギー人、カナダ人、ドイツ人、スウェーデン人計9名の参加者を、サイードさんという巻き舌英語が耳に残る35歳くらいのごついアンチャンのガイドさんが案内してくれた。満天の美しい星空の下、潮風を浴び波の音を聞きながら、甲長1mちょっとあるグリーンタートルの産卵を観察した。気付かれないように背後にまわり、産み落とされた十数個の卵に赤外線ライトを当て、サイードさんのひそひそ声の解説を聞き、ぼくらはひそひそ声の質問をした。潮騒の間から立ち上がってくるようなみんなのひそひそ声が不思議にチームワークというのか、バラバラの国籍の者同士の一体感のようなものを作り出していた。和やかで、なかなかいい夜だった。
ここのグリーン・タートルはアラビア海からインド洋、アフリカ、南極・・・、全世界のウォータープラネットを旅し、数十年後再びこの浜に戻ってくる。人間が生まれるはるか昔、アンモナイトや三葉虫が海底を這いまわっていた二億年も前から、このプラネットアースを旅し続けているわけだ。昔、スティングに「ブルー・タートルの夢」という、凄腕ジャズマンが多数参加したなかなかの傑作アルバムがあって、ぼくはよく聴いたものだった。で、それを意識してかせずしてかぼくはカヤックを漕ぎながら海上でウミガメに出会うと、その生々しさと非現実な感じとののギャップを覚えつつ、「いったいウミガメってどんな夢を見るのだろうか」とよく連想したりするようになった。トリップフィールドであるプラネットアースのとてつもない空間的広がりと、先祖代々生き続けてきた長い長い時間軸、その思い出が見させる夢。ウミガメの身体そのものがいつも何か夢見てるようなドリーミーなシェイプをしているともいえるわけだし、シーラカンスや首長竜、ブロントザウルスとかネッシー、ゴンドワナ大陸とか超パンゲア大陸、人をおちょくったように発光するイカやファンキーな色彩を放つエビ、満月の夜に妖しく光る穏やかな海面とかクジラが奏でる音楽など、いろいろカラフルな夢を見るんだろうなと思う。
↑ グリーン・タートルがやってくるRas Al Jinの海岸線。
↑ このキャタピラのような模様は、産卵を終え海に帰っていく母ウミガメが手足をパタつかせてできた足跡。
↑ この穴ぼこも産卵の際に作られたもの。卵はさらに2mほど地下に埋められているので日中は浜を歩いても大丈夫。
↑ 長い長いぼくの足。
↑ アラビア海は魚の宝庫であり、オマーンでは漁業が非常に大切にされている。早朝のフィッシュマーケットをのぞいたりするのもとても楽しい。けっこう日本でもよく見るような魚種が大半を占めている。