漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「離リ」<はなれる>「璃リ」と「离チ」「禽キン」

2021年03月01日 | 漢字の音符
  解字をやり直しました。
 リ・はなれる・はなす  隹部

  上は離、下は离
解字 離の甲骨文は取っ手のついた鳥網で上の鳥を捕獲したかたち。春秋戦国時代になると鳥が隹となって分離し、鳥網は上に山のような形が付き、下部も網の取っ手が禸の初形に変形した。篆文の鳥網は上部が屮になり、楷書は亠となった离となり、これに隹がついた離となった。楷書の离のうち、亠を除いた部分が甲骨文字の「柄の付いた鳥網」である。
 この字は本来、鳥網で鳥を捕獲する意味であるから網に「かかる」意味をもつ。しかし、後に「はなれる」意で使われるようになった。なぜ離れる意になったかは定かでないが、捕獲した鳥を網から「はなす」意からと思われる。
意味 (1)はなれる(離れる)。はなす(離す)。「分離ブンリ」「別離ベツリ」「離宮リキュウ」「隔離カクリ」「離婚リコン」 (2)かかる(離かる)。つく(離く)。とりつく。「離殃リオウ」(わざわいに取りつかれる)「離騒リソウ」(騒=憂いに取りつかれる。屈原クツゲンの叙事詩の題名)

イメージ
 「はなれる」
(離・籬)
  意味(2)の「かかる・つく」(黐)
 「リの音」(璃)
音の変化 リ:離・籬・璃  チ:黐

はなれる
 リ・まがき  竹部
解字 「竹(たけ)+離(はなれる)」 の会意形声。竹と竹の間隔が離れている垣根。
意味 まがき(籬)。竹や柴をあらく編んだ垣根。「籬垣ませがき」「籬下リカ」(まがきのそば)
 リ・したたる  氵部
解字 「氵(みず)+离(離の略体。はなれる)」の会意形声。水がはなれて(分かれて)水滴となって、したたること。また、离という名の川。
意味 (1)したたる(漓る)。ながれる(漓れる)。しみこむ。「淋漓リンリ」(淋も漓も、したたる意。)「墨痕淋漓ボッコンリンリ」(筆で書いたものが、生き生きとしてみずみずしいさま。また、筆の勢いが盛んなさま。「墨痕」は墨のあと。)「流汗淋漓リュウカンリンリ」(流れる汗がしたたる) (2)川の名。「漓江リコウ」(中国南部、広西チワン族自治区東北部を南流する潯江ジンコウの支流。=漓水リスイ) (2)うすい。

かかる・つく
 チ・もち・とりもち  黍部
解字 「黍(もちきび)+离(離の略体。かかる・つく)」の会意。黍はここで「もちきび」で粘る意。ねばる「もちきび」に鳥がくっつくこと。鳥を捕らえる粘っこいもちをいう。
意味 もち(黐)。とりもち(黐)。ねばる。「黐竿チカン」(とりもち竿)「黐樹チジュ」(もちの木。樹皮から鳥黐(とりもち)を作ることができ、これが名前の由来となった。)

リの音
 リ  玉部
解字 「王(玉)+离(リ。離から独立した字体)」の形声。リと呼ばれる宝玉。
意味 (1)玉の名。「瑠璃ルリ」(青色の宝石。また、ガラスの古名)「玻璃ハリ」(仏教用語で七宝の一つ。水晶) (2)「浄瑠璃ジョウルリ」に使われる字。仏教用語で、清らかで透明な瑠璃の意。また、三味線伴奏の語り物音楽のひとつ。


    チ <山の神獣> 
 チ・リ  禸部ぐうのあし

解字 春秋戦国文は「林+鳥あみを手でもつかたち)」 の会意。林の中で鳥網を使う形だが、どんな意味で用いられたか不明。篆文に至り、後漢の許慎は「獣の形をした山の神なり」とした。楷書は離の偏とまったく同じ形になった。単独で用いられることなく「獣の形の山の神」のイメージとなる。
意味 (1)山の神獣。魑と同じ。 (2)はなれる。離の左辺と同形なので、単独で離れる意で使うことがある(現在は中国簡体字がこの用法)。本稿で、この用法は離に含めた。

イメージ   
 「獣の形の山の神」(魑・螭)
音の変化  チ:魑・螭

獣形の山の神
 チ  鬼部
解字 「鬼(おに)+离(獣形の山の神)」 の会意形声。鬼のような獣形の山の神。
意味 すだま。ばけもの。もののけ。山の精。「魑魅チミ」(山林の気から発する怪物)「魑魅魍魎チミモウリョウ」(さまざまなばけもの)
 チ・みずち  虫部
解字 「虫(へび)+离(獣形の山の神)」 の会意形声。大蛇と獣形の山の神を合わせた伝説上の猛獣。
意味 みずち(螭)。あまりょう(雨竜)。黄色い竜。角のない竜。「螭虎チコ」(みずちと虎。勇猛の士)「螭首チシュ」(みずちの頭の飾り」「螭魅チミ」(=魑魅)

     
    キン <とり>
 キン・とり  禸部 ぐうのあし

解字 甲骨文第1字は、取っ手のついた網のかたち。第2字はさらに狩猟の対象である隹(とり)を加えた字[甲骨文字辞典]。金文は発音を表す今キンが追加され、この字の発音がキンであることを示している。特に金文第2字は横線の先を又(手)にして手でもつ意を加えた。篆文は金文第2字が変化したかたちで、上から「今キン+鳥あみ+手の変化した形」となり、楷書の禽キンとなった。禽の上から4画目までが今を表している。
 本来の意味は鳥あみだが、この字が「とり」の意を表すのは甲骨文第2字で分かるように、鳥を捕まえることを前提とした網だからと思われる。なお、禽と离の両者が似ているのは、字のなかに「取っ手のついた鳥網」が含まれているためである。「人やね+离=禽」と覚えると書きやすい。
意味 (1)とり(禽)。鳥類の総称。「家禽カキン」(家で飼う鳥。ニワトリ・アヒルなど)「猛禽モウキン」(性質が荒い肉食の鳥)「禽獣キンジュウ」(鳥とけもの) (2)とらえる。いけどる。(=擒キン)「禽獲キンカク

イメージ  「とり・とりあみ」(禽・擒・檎)
音の変化  キン:禽・擒  ゴ:檎

とり・とりあみ
 キン・とらえる・とりこ  扌部
解字 「扌(手)+禽(とりあみ)」 の会意形声。手で禽(とりあみ)をもち、鳥を捕まえること。
意味 とらえる(擒える)。とりこ(擒)。いけどりにする。「擒縦キンショウ」(捕えたり放したり、自在にあつかうこと)「擒獲キンカク」(生けどりする)「生擒セイキン」(生けどり)「縛擒バクキン」(とらえ縛る)
 ゴ・キン  木部
解字 「木+禽(とり)」の会意形声。禽(とり)が来る木の意。
意味 「林檎リンゴ・(リンキン)」に使われる字。林檎とはバラ科リンゴ属の果樹、およびその果実。名前の由来は「林檎リンキンの果実は味が甘く、能く多くの禽(とり)をその林に来らしむ[本草綱目]」からとされる。つまりリンゴの実は甘く多くの禽(とり)がその林に来るから禽(とり)の来る木の林の意。
<紫色は常用漢字>

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