漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

「壺コ・つぼ」 と 「壱[壹]イチ・イツ」「懿イ」「饐イ」「噎エツ」

2018年04月09日 | 漢字の音符
壺[壷] コ・つぼ  士部     

解字 甲骨文から篆文まで、蓋(ふた)のついた酒壺の象形。現代字の上部の士はフタを表し、その下はふくらんだつぼの本体を表す。酒壺だけでなく広く「つぼ」の意味を表す。壷は異体字で、壺と同じく使われている。
意味 (1)つぼ(壺)。口がすぼんだ容器。酒つぼ。「壺中コチュウ」(つぼの中)「壺觴コショウ」(酒つぼとさかずき) (2)深くくぼんだところ。「滝壺たきつぼ」 (3)お灸や指圧で効き目があるところ。「壺を押す」


    壱[壹] イチ・イツ <みちる気をとじこめる>
[壹] イチ・イツ・ひとつ   士部

解字 篆文は、壺の中に吉(とじこめる意)を書いて、中に満ちる気をとじこめている形。壺の中のものが発酵して中にみちる状態をいう。旧字は壹に作り、壺の上部と豆(たかつき)が合わさった形をしている。イチ・イツの発音から、数字の一に仮借カシャ(当て字)された。新字体の壱は、旧字の豆がヒに変化した。
意味 (1)ひとつ(壱つ)。(2)もっぱら。ひとたび。みな。ひとえに。「壱意イチイ」(その事だけに心を注ぐ)「壱食イツショク」(会食)(3)地名。「壱岐いき」(もと壱岐国。現在、長崎県壱岐市。九州と朝鮮半島との間に対馬とともに飛び石状にある島)
※金銭の証書などでは、間違いを防ぐために「一」の代わりに「壱」を用いる。

イメージ 
 壺の中に気が「みちる」(壱・懿)
 壺の中に気を「とじこめる」(饐・噎)
音の変化  イチ:壱  イ:懿・饐  エツ:噎

みちる
 イ・よい  心部
解字 「次(吐息をもらす)+心(こころ)+壹(みちる)」の会意形声。壺の中にみちる香気に感動して心からため息をもらすこと。よい。りっぱな意となる。次はため息をもらす形、音符「次ジ」を参照。
意味 (1)よい(懿い)。立派な。「懿徳イトク」(すぐれた徳)「懿風イフウ」(立派な風習)「懿績イセキ」(立派な功績) (2)人名。「司馬 懿シバ イ」(後漢末期から三国 時代曹魏にかけての武将・政治家)

とじこめる
 イ・エツ・すえる  食部
解字 「𩙿(食べ物)+壹(とじこめる)」の会意形声。食べ物を壺のなかに閉じ込めた結果、食べ物がくさること。日本語の「すえる」はご飯がすっぱくなることから。
意味 (1)すえる(饐える)。食べ物がくさること。「冷や飯も饐(す)える頃」 (2)むせぶ。(=噎)
 エツ・イツ・むせぶ  口部
解字 「口(くち)+壹(とじこめる)」の会意形声。口から入った食べ物が、のどでつまって、むせぶこと。
意味 (1)むせぶ(噎ぶ)。=咽(むせ)ぶ。「噎噎エツエツ」(むせぶ)「噎嘔エツオウ」(むせて口の物を吐く)「煙噎エンエツ」(けむりにむせぶ)
<紫色は常用漢字>


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする