【写真:道路の陥没した現場で、議員や市役所、大津地方法務局の職員らに説明する杉原さん(左)(4月27日、大津市和邇北浜の住吉台地区で)】
【写真:アスファルトはひび割れ、道路の中央が大きく陥没している(昨年12月8日)=住吉台地番整理協議会提供 】
社会基盤整備が一部で進んでいないといわれる大津市和邇北浜の住吉台地区(旧志賀町)。その大きな原因の一つは、同地区が登記所の地図と実際の土地の形状や境界が大きく異なる「地図混乱地域」であることだ。土地や道路の権利関係が不明確で、行政が道路の修復や水道管工事などに着手できず、道路は陥没し、約8年半前のがけ崩れの復旧作業も行われていない状態が続いている。500人を超える住民は同市や大津地方法務局に早期の問題解決を求めている。(鷲尾龍一)
「地図混乱」が起こるのは、自然災害による地形変化のほか、地番変更を伴う宅地開発が中止され、登記の更新がなされないことも一因だ。東京の「六本木ヒルズ」建設の際、土地の境界や面積の確定などに約4年かかるなど、地図の未整備で再開発が妨げられる事例も少なくないという。
法務局などによると、住吉台地区では1960年代、宅地分譲業者が土地を買収した際、公図上の地番配列を無視して測量図を作成して分筆したため、約12万平方メートルにわたって地図混乱が生じたという。90年代前半に周辺で住宅開発が進むにつれ、問題が表面化。同局が実態調査に乗り出したものの、正確な地図作成にはいたらなかった。
旧志賀町や市は、「許可を得るべき土地の所有者もわからないのでは、整備工事に着手できない」として生活道路を市道認定せず、整備しないまま。下水道も分譲業者が一部設置したのみだ。
一方、昨年夏から今年3月の間に、老朽化した下水道管から漏水し、道路の土が流され、アスファルトの下が空洞化したことが原因で4か所が相次いで陥没した。大雨によるがけ崩れなどが起こっても放置されたまま。住民が市に対応を求めても、「税金を使うには慎重にならなければならない。まずは法務局が職権で地図を整備をするのが先だ」としている。
住民が資金を出し合い、道路の“応急処置”を施したが、本格的な下水道修理の費用を工面できずに漏水は続き、道路の下は空洞化したままのところも。それどころか、整備に入ったミキサー車の重みでさらに陥没し、トラックのタイヤが穴にはまるなど、住民は不便な暮らしを強いられている。
陥没した道路に住居が隣接する杉原達代さん(56)は、「地区には高齢者も多く、救急車など緊急車両の走行の妨げになるのではと心配」と話し、「夜間に自家用車を運転するのも不安を感じる」と涙ながらに窮状を訴える。
ただ、わずかではあるが、「光」も見えかけている。同局は2004年度に、地図作成の基礎となる基準点を設置。民主党の「地籍調査・登記所備付地図整備の促進策に関するPT(プロジェクトチーム)」も4月27日に現地視察に訪れており、5月8日の衆議院法務委員会で、法務省の倉吉敬民事局長が「住吉台の地図混乱は深刻な問題。地元と連携、協議しつつ登記所備付地図作製への環境を整えていく」と答弁している。
05年に設立された「住吉台地番整理協議会」の委員長を務める谷川柾義さん(61)は、「行政や法務局の不作為で、住民は長年苦しんできた。一刻も早く地図を整備し、普通の暮らしを取り戻させてほしい」と話している。
(5月24日付け読売新聞・電子版)
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/shiga/news/20090523-OYT8T00963.htm