ドナウ川の白い雲

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スポーツ界の新しい指導者……村上恭和(2回目)

2016年03月01日 | 随想…スポーツ

 讀賣新聞2月28日のスポーツ欄 「road to リオ … 導く」 に、「違う個性束ねる戦略家……卓球女子日本代表監督・村上恭和」という記事が掲載されていた。

 村上恭和監督については、以前も、取り上げた。一流の指導者の言行は、興味深い。

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━━ 記事からの引用 ━━

 「(村上監督は) 今も勉強の日々を送る。サッカー日本女子代表の佐々木則夫監督、プロ野球の野村克也元監督ら、他のスポーツの指導者の著書を読み、講演を聞く。

 最近、気付いたことがあるという。

 『成功した指導者は、みんな選手目線なんですよ。昔のような指示・命令型はもういない。(一人一人の選手の) 個性を生かし、対話重視の人が多いし、成功しています』」。

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選手の目線で

 「選手目線」とは、言うまでもなく、「上から目線」ではない、ということだ。

 記事の中に、村上監督は 「こんな人」 という福原愛選手の言葉が紹介されていたが、彼女は、「 (村上監督は) 全力で選手の相談に乗ってくださる」、「いい意味で監督っぽくないです」と語っている。

 福原愛の言う「監督っぽくない」とは、「昔のような指示・命令型」ではないということであり、それは例えば、選手一人一人の相談に「全力で乗る」という態度のことである。

 根底にあるのは、日本代表選手一人一人へのリスペクトであろう。

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一人一人に目標(課題)を持たせる

  「奇跡のレッスン」というテレビ番組があった。世界のトップレベルの指導者が、1週間だけ、日本の子どもたちのスポーツ活動を指導する。その子どもたちとのやりとりや指導の様子をカメラが追うのである。

 町の小学生のサッカークラブ、テニスクラブ。中学生の部活動では、バレーボール部、バスケットボール部、チアガール部などが取り上げられた。「選ばれたチーム」ではない。市のトーナメントで、1回戦、2回戦で敗退するようなチームばかりである。

 例えば、小学生のサッカークラブの指導にやって来たのは、フットサル日本代表チームのスペイン人コーチである。指導に当たったチームは、同じ市内の隣のサッカークラブに、一度も勝ったことがない。

 結論を言えば、1週間の指導のあと行われた隣のチームとの試合で、10対0の圧勝をした。

  しかも、チームの中で一番小柄で、一番下手くそで、存在感のなかった少年に、2点も得点させた。

 もちろん、このスペイン人コーチは、週の半ばからは、今まで一度も試合でシュートを打ったことがないというこの少年に、次の試合で1点取ろうという目標を持たせた。それは個人の目標であるが、チームの目標でもあった。今までただ一人のチームの得点源であったナンバーワンの選手は、一人で得点を取りに行くのではなく、他を生かすという選択肢もあることを教えられた。良いポジションにいるこの少年にスルーパスを出して、1点を取る楽しさだ。少年は、このパスを受けてシュートをねじ込み、ネットを揺らす練習を繰り返した。

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ポケット(引き出し)の多さ

 「世界のトップレベルの指導者」が、元名選手だったというわけではない。サッカーのザッケローニ監督は、選手としては全く芽が出なかったが、監督としては一流だった。たとえ選手時代の実績が金メダルであっても、一人の人間の「経験」など、小さくて狭いものだ。人は一人一人違うし、チームもそれぞれに特色を持つ。村上恭和監督は、成功した指導者は選手一人一人の個性を生かしている人だと言っている。  

  例えば、小学生のテニスクラブの指導にやって来たマエストロは、スペインの大学のスポーツ学の教授である。練習中も、一人一人と対話する。気が弱く、自分の意思を表現することの苦手な女子がいた。しかし、テニスはかなり上手い。テニスへの向上心も高い。彼は、その女子に近づいて聞く。「〇〇(必ず名を呼ぶ)、きみの願いは?」「サーブを上手くなりたい」。「good!! それは正しい目標だよ。きみはテニスが上手い。だが、サーブが正確に入らない。少しくせがあるせいだ。こういう練習をしなさい。( 繰り返し、やらせる )。そう、その練習を自分で繰り返しするんだ。きみは背も高いから、サーブを磨けば、すごい選手になるよ」。

 「世界のトップレベルの指導者」の特徴の一つは、どの指導者も、みんな「子ども目線」で、小学生や中学生の子どもの背丈になって子どもの目を見、一人一人の子どもの気持ちや考えをしっかり聞き、誉めて自信を持たせながら、目標 (課題) を確認し、そのために必要な練習方法を与えていることだ。誰かと比較されることはない。一人一人の性格や個性や技量に合わせてくれるから、楽しい。子どもたちは、サッカーやテニスをきっと好きになるだろうと思える。

 もちろん、勝利至上主義ではない。保護者の一人が、子どもの育て方について考えを改めさせられた、と言っていたが、親たちも、本当に教えられたと思う。

 「世界のトップレベルの指導者」のもう一つの特徴は、その子その子に何が必要かを見抜き、それを目標 (課題) とさせ、「こういう練習をしなさい」という練習メニュを示すことができるということだ。

 いろんなポケットを持っている。メニュが豊富なのである。しかし、考えてみれば、それは指導者として当たり前のことであって、上達するために必要な適切な練習方法を、一人一人に対して、また、チーム全体に対して、時宜に応じて示すことができる人が、指導者である。金メダルを取った人が指導者ではない。

 ポケットが少ないと、いつもワンパターンの一斉指導になり、ミーティングでも、練習でも、試合中でも、ただガミガミと精神論で怒鳴りつけ、選手の自信を喪失させ、やる気を失わせる。子どもがいやになって辞めていくと、「最近の子どもは、扱いが難しい」などと、子どものせいにする。

 「(村上監督は) 今も勉強の日々を送る」とは、そういうことである。

 ポケットを増やすには、一に勉強、二に研究、それしかない。

 中学校のチアガール部を指導したアフリカ系アメリカ人女性が、おとなしすぎるキャプテンに与えていた言葉は、(私の好きな)マネージメント学のF.ドラッガーの言葉だった。その種目に関することだけではない。医学、身体生理学などは言うまでもなく、スポーツはメンタリティが重要で、心理学も、また、マネージメント学までも、学ぶべきことは多い。

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指導者は勉強あるのみ

 それは、スポーツ指導者ばかりでなく、何かをやろうとしたとき、誰にでも必要なことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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