ドナウ川の白い雲

ヨーロッパの旅の思い出、国内旅行で感じたこと、読んだ本の感想、日々の所感や意見など。

遥かなる歴史の旅・トルコ(その1) … トルコ紀行(ダイジェスト版①)

2018年10月20日 | 西欧旅行…トルコ紀行

 ( ダータネルス海峡からエーゲ海を望む )

ダータネルス海峡を渡ってエーゲ海地方へ

   トルコ共和国は中東の国々の一つに分類されるが、国土の北の一部はヨーロッパにある。

 アジア側とヨーロッパ側との境には、黒海、トルコの内海といわれるマルマラ海、そして二つの海峡がある。

 ボスポラス海峡は、黒海の西南端から流れ出る。「流れ出る」というのはおかしいが、黒海にはドナウ川をはじめ大河が流れ込んでいるから、黒海から地中海(エーゲ海)へ向けて、川のような流れがあるらしい。

 ボスポラス海峡はマルマラ海の東に流れ込み、マルマラ海の西から再びダータネルス海峡となってエーゲ海に出る。

 古来から、ボスポラス海峡→マルマラ海→ダータネルス海峡が、アジアとヨーロッパを分ける境とされてきた。

 旅の2日目の朝、ヨーロッパとアジアにまたがる大都市イスタンブールの郊外のホテルを出て、マルマラ海の北岸、続いてダータネルス海峡の北岸(ヨーロッパ側)をひたすら走った。そして、もうすぐ大地が終わってエーゲ海になるという手前でフェリーに乗った。バスごと乗船したが、要するにダータネルス海峡をアジア側に渡る渡し船である。

 船上から望むと、対岸のアジア側の街は遠くに見えるが、来し方のマルマラ海の方も、反対のエーゲ海の方も、ただ茫々と広がる海だった。

 狭い海峡だから、約1時間で対岸に着く。

 対岸へ渡ると、南へ南へと、エーゲ海地方を南下する。ここは、ヨーロッパ文明の発祥の地である。陽光輝く太陽の下、これから3日間は古代都市遺跡をめぐる旅となる。

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今は何もない廃墟のトロイ >

 そのとっかかりはダータネルス海峡がエーゲ海に出たすぐの地。古代海上交通の要衝の地に、遥かに遠い昔に栄えて滅びたトロイの遺跡がある。

  ( トロイの城塞の廃墟 )

 シュリーマン(1822~1890)がトロイの発掘をして、すでに相当の歳月が過ぎた。

 シュリーマンの死後も引き継がれている発掘調査によると、トロイには9層にも渡る遺跡が重なっていた。

 シュリーマンが「ついに発見した」と思って発掘したのはその第2層で、「BC2500年~BC2200年ごろのトロイ」だった。

 彼が目ざしていた「ホメロスのトロイ」は第7層のもので、BC1200年代のものだった。その第7層は、2層まで掘り進める過程で、シュリーマンによって破壊されてしまっていた。シュリーマンの想像をも超える茫々たる人間の歴史である。

 発掘された「トロイの財宝」はシュリーマンによって持ち出され、今、ここで見ることができるのはトロイの城塞の廃墟の一部だけである。

 古びた瓦礫の石の間に赤い野の花が咲いていた。

 それでも、ここがあの「トロイのヘレン」のトロイかと、歴史のかなたに思いを馳せることはできた。

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古代都市遺跡エフェソスを歩く >

 旅の3日目は、ヘレニズム時代~ローマ時代の遺跡であるベルガマを見学し、午後は同じ時代に栄えたエーゲ海地方の最大の古代都市遺跡エフェソスへ行く。

 エフェソスの遺跡に入る前に、その郊外の山中に、「聖母マリアの家」を訪ねた。 

 エーゲ海沿岸の地は早くからキリスト教が伝えられ、使徒時代のキリスト教会の動向を知るうえで必須の地である。そのなかでも、古代都市エフェソスは、12弟子の一人である使徒ヨハネが担当した教区とされる。イエスに最も愛された弟子ヨハネのそばには、イオスの母マリアもいたはず、…  と福音書からは読み取れる。

 バチカンから贈られた「聖夜」の像の横の石段を上がれば、聖母マリアが晩年を過ごしたという小さな石造りの家があって、「聖地」の一つに指定されている。

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  ( エフェソスの都市遺跡 )

 石造りの建物の廃墟が並ぶクレテス通りを下っていく。やがて、ケルスス図書館の廃墟に出会った。

 ローマ帝国のアジア州の執政官だったケルススの死後、その息子が父の墓室の上に記念に築いた図書館だという。12000冊の蔵書があり、当時、アレキサンドリア、ベルガモンと並ぶ3大図書館の1つとされた。

 「廃墟の美」という言葉がある。壮麗な古代建築が今は廃墟となって、古びた大理石のやわらかい色合いと、その陰影が、圧倒的に迫ってくる。

 正面の大理石の柱の間に、知恵、運命、学問、美徳を象徴する女性像が置かれて、美しい。

 図書館からまた少し歩くと、古代の大劇場があった。

 直径154m、高さ38mで、2万4千人を収容できた。演劇の上演のほか、全市民集会にも利用されたらしい。

 エーゲ海の青空の下、しばらく石の席に座り、古代の夢でも見ていたい気分だった。

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古代都市アフロディシアスを歩く >

 旅の4日目に訪ねたアフロディシアスも、BC2世紀~AD6世紀に栄えた古代都市だ。名のとおり愛と美の女神アフロディーテ(ヴィーナス)に捧げられた町である。

 遺跡は広々とした野っ原の中にあった。昨日のエフェソス遺跡のように古代都市遺跡として凝縮しておらず、広々として、のどかで、気持ちが良い。

 今日もエーゲ海地方は晴天で、湿度は低いが、日差しは日本の真夏のようだ。さえぎる木陰も建物もない。

 昔、このあたりには壮麗なアフロディーテ神殿があった。今は、神殿の庭の入口の門・テトラビロンが残るのみ。

   気持のよい野原の小道をたどって行くと、野の花が咲く草むらのそこここに遺跡や遺構が残っている。まだまだ発掘中で、いつまでかかるか、わからないという。

 やがて、古代の競技場の遺跡に出た。ローマ式のスタジアムである。長さ262m、幅59m、3万人の観客を収容する階段状の客席が残っている。

 現代のローマにもフォロ・ロマーノの向こう側に広大な馬蹄形の競技場が残っていて、映画『ベン・ハー』を思わせるが、この競技場のように客席まできちんと残っているのは珍しいそうだ。

 競技場を飾っていた数々の彫像も付属の博物館にあり、整備し直せば古代ローマ式スタジアムが再現できるほどに、全体の保存状態は良いそうだ。

 ただし、再現するより、今のままの方がいい。再現したら、ディズニーランドか、ハリウッド映画のセットのようになってしまう。それは興覚めだ。 

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トルコの田園風景 >

 3日間、エーゲ海地方のヘレニズム時代からローマ時代の遺跡を見て回った。基盤が遊牧民文化である現代のトルコ共和国とは、直接にはつながらない文化である。現実世界とはかけ離れた、遠い古代都市の廃墟を見てまわって、堪能した。エーゲ海地方の青空も、古代遺跡も、心に残った。

 旅の5日目。エーゲ海地方を後にして、豊かなアナトリア地方の高速道路を、東へ東へと、丘を越え野を越えて走った。

 トルコの国土について触れる。

 最盛期のオスマン帝国(スレイマン大帝時代)の領土は、昔日の東ローマ帝国の領土に重なるほどに広がっていた。

 その後、第2次ウイーン包囲の大敗北の後、ハプスブルグに押し戻され、ロシアに圧迫され、第一次世界大戦において決定的な敗戦国となり、その都度、領土を失っていった。

 それでも、今、日本の国土の約2倍の広さがある。

 現在のトルコ共和国は、イスタンブールを中心とした小さなヨーロッパ側と、その南に広がる広大なアジア側に分けられる。

 トルコの国土の大部分を占めるアジア側は、東西に長い四角形の形をしたアナトリア半島である。古くは「アジア」と呼ばれていたが、アジアはさらに東へと広大な大地が広がることがわかり、「小アジア」と呼ばれるようになった。

 「アナトリア」とも呼ばれるが、これは、東ローマ帝国時代に、エーゲ海に面した西岸地方に軍管区が置かれ、「アナトリコン」と名付けられたことに由来する。「アナトリコン」とは、日出る所という意味だそうだ。

 このアナトリア半島は、北を黒海とマルマラ海(二つの海峡によって結ばれている)、西をエーゲ海、南西は地中海に囲まれていて、地続きは南東と東だけである。 

 これを更に分ければ、6つの地域になる。

 ①エーゲ海地方と、その南の②地中海地方は、風土も文明も想像がつく。ヨーロッパ的だ。

 それに、③中央アナトリア地方、④イラク、シリアと国境を接する南東アナトリア地方、⑤ジョージア(グルジア)、アルメニア、イランと国境を接する東アナトリア地方、⑥緑豊かな黒海の南岸地方 となる。

 このツアーは、①→③→⑥の一部、そしてイスタンブールを回る。④⑤、特に④は、外務省が危険レベル4(退去してください)や3(渡航はやめてください)としている地域を含んで、ふつう、旅行社の企画するツアーは行かない。

 イスタンブールも安全というわけではない。レベル1(十分注意してください)である。日本のツアーは、レベル1なら、注意しながら行く。

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 車窓の景色は豊かな田園風景で、緑が目にやわらかく、見飽きることがない。 

 ケシの花畑がある。一面に白いケシの花が咲く光景は清楚で、ピンクの花の咲くケシ畑はロマンチックである。

 途中の休憩では、蜂蜜入りのヤギのヨーグルトを食べてみた。チャイとよく合って、とても美味であった。

(「遥かなる歴史の旅・トルコ(その2)」に続く)

 

 

 

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