三浦しをん『舟を編む』(光文社)は、辞書づくりの世界を描いた題材そのものが新鮮で、面白かった。
読後感もすがすがしい。
世間では頼りないと思われるであろう主人公も、辞書づくりの責任者としては大いに頼もしく、やがて妻となる女性の登場の仕方も鮮やかで、お互いをリスペクトしあう結婚後の二人がカッコいい。
辞書づくりという目的に向かって、それぞれがそれぞれの個性とやり方で貢献し、悪い人が一人も登場しないのも良い。
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宮本輝『約束の冬』(文春文庫)は、芸術選奨文部科学大臣賞を受賞した作品のようだが、ちょっと冗長な感じ。登場人物も類型的かな。
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紅山雪夫『魅惑のスペイン』(新潮文庫)を、他のものと並行して読んでいる。
サブタイトルに「添乗員‥ヒミツの参考書」とあるが、この人のヨーロッパ旅行ガイドは、本当にすごいと思う。
その博識ぶりに感動するが、そればかりでなく、例えばスペインの歴史といった込み入った話を、わかりやすく、かつ面白く、かつ要領よく叙述する力量に感心する。
博識といっても、枝葉の細切れ知識ではなく、かなり本質的なところで知識欲を満足させられるから、読んでいてわくわくする。