一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

米長邦雄会長の思いやり

2012-09-11 00:07:27 | 男性棋士
第6期マイナビ女子オープンは、来週17日(月・祝)、本戦1回戦6局が一斉に行われる。選手に懸賞金を懸けた個人スポンサーも6倍になり、控室もにぎやかになると思われる。
私は4年前の第2期、挑戦者決定戦の中村真梨花女流二段と岩根忍女流初段(当時)戦に懸賞金を懸け、その日…2009年3月9日は、会社を休んで東京・将棋会館に赴いた。
担当氏の配慮か、そもそもの権利だったのかは分からぬが、当日は控室に入ることが許された。しかし、「スポンサー」の名札は付けているものの、ここでの私は、完全な門外漢である。同じく懸賞金を懸けた人はもうひとりいて、その人はテレビの前にかじりついていたが、私は部屋の隅で小さくなっていた。
やがて中井広恵女流六段と石橋幸緒女流四段が入室し、私に挨拶をしてくれた。中井女流六段はつねに周りの状況を気に掛ける人で、LPSAの懇親会などで手持ち無沙汰にしている客がいると、ほかの女流棋士に「あの人に声を掛けてきて」と指示を出す。
しかし中井女流六段はLPSA所属。いったん嫁に出たようなもので、ここでは出しゃばったマネはできない。あとは斎田晴子女流五段が私に丁重な挨拶をくれた気もするのだが、ほかの女流棋士の記憶はない。
先のスポンサー氏は仕事があるとかで中座。私も席を外してもよかったのだが、ここにいれば将棋の進行を逐一確認できるのに、それを放棄するのもおかしな話だ。
結局私は、図々しくも控室に居座ることになった。昼休みに、たまたまこの日対局の植山悦行七段に会い、控室で軽くおしゃべりをしたが、やがて植山七段が対局に戻ると、私はまた「孤独」となった。
加賀さやかさんが缶コーヒーの差し入れをくれたが、あとは午前中と変わらない。控室の面々は、私がスポンサーということは認識しているが、どことなく声を掛けそびれているふうだ。まあ、私のようなヌボーッとした男が不気味に畏まっていれば、警戒するのも無理からぬことだった。
局面が終盤にさしかかったころ、近藤正和六段が山口恵梨子女流初段に将棋を教えていたからそれを眺めていたら、米長邦雄会長(永世棋聖)が訪れた。そして私(の名札)を見ると、
「これはこれはスポンサー様!」
と大仰に叫んだ。米長会長はさらに、「ああ、ありがとうございます。スポンサー様なんだからそんなところにいないで! ささ、こちらへ。あ、指導対局はいかがですか。え? いい? じゃあこちらへ回って、山口さんの隣に…」
と、厚遇してくれたのだった。
はっきり書けば、米長会長が言葉どおりに私を歓待してくれたとは思えない。他者を意識しての、会長特有のショーマンシップだったと見るべきだろう。ただ、米長会長のこの言葉に、私の緊張がほぐれたのもまた事実である。一瞬だけれど、私にスポットライトが当たって、すこぶる気持ちがよかった。
そして控室の空気が、明らかに変わった。「この部屋にスポンサーがいる」という事実を、棋士の面々が再認識したのである。
終局後、私は対局室に入り、感想戦を観戦。気持ちよく将棋会館を後にしたのだった。
あれから3年半。女流棋士会は「駒桜」を創設し、ファンとの交流にいっそう力を入れることになった。マイナビの懸賞金スポンサー特典も整備され、いまどきのスポンサーは以前と違って、控室で歓待されていることだろう。しかしその嚆矢は、米長会長の、私への一言からだったと思っている。
コメント (3)
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