一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

三十二たび大野教室に行く(中編)

2012-09-01 02:24:39 | 大野教室
(再掲)
上手(角落ち)・植山悦行七段:1一香、1三歩、2一桂、2三歩、3二玉、3三銀、3四歩、4二金、4三金、4四歩、5三銀、5四歩、6五飛、7四歩、8一桂、8五歩、9一香、9三歩 持駒:歩
下手・一公:1七歩、1九香、2八飛、2九桂、3六歩、4六歩、4七銀、5六歩、6七金、6九玉、7六歩、7七銀、7八金、7九角、8七歩、8九桂、9七歩、9九香 持駒:歩2
(△6五同飛まで)

以下の指し手。
▲3七桂△2四銀▲4五歩△同歩▲4六歩△6一飛▲4五歩△7三桂▲4六角△6四銀▲7九玉△1四歩▲6五歩△同桂▲6八銀△6六歩▲同金△7五歩▲同歩△7七歩▲同桂△同桂成▲同銀△6五歩▲7六金△5五歩▲同歩△6三桂▲6七桂△7一飛

私は▲3七桂と跳んだ。△6一飛なら▲4五歩と仕掛けてよし。植山七段は△2四銀と先にかわしたが、それでも▲4五歩△同歩。これに▲2五歩△3三銀▲6六歩△6一飛▲4五桂はあるが、△4四銀右▲3三桂成△同桂の結果は、上手の左桂を働かせておもしろくないと思った。▲2五歩も飛車先を重たくしている。
私は▲4六歩と合わせた。△同歩なら▲同角で、△9一香取りが受けにくい。上手は△6五飛の形が中途半端で、技を掛けづらいのだ。
やむない△6一飛に、私はゆうゆう▲4五歩。いろいろ苦労して桂馬で両取りを掛けるより、こちらのほうがよほど利いている。
上手△1四歩の手待ちに、私は決断の▲6五歩。負ければ敗着という手だが、替わる手も分からなかった。
△同桂の一手に▲6八銀。このあと▲6六歩から桂馬を取り切れば、下手十分。
それはイヤだと植山七段は△6六歩から△7五歩だが、△6六歩では△7五歩▲6六歩△7六歩▲6五歩△同銀のほうがイヤだった。下手は目論見どおりに桂が取れ、▲7三角成もできるのだが、6筋の圧迫も気持ち悪い。
本譜、私は▲7五同歩。「堂々と、か…」と植山七段がつぶやく。△7七歩にも▲同桂と自然に応じた。
桂交換後、△6五歩に▲7六金がギリギリの受け。ここ▲6七金引は△7五銀で、下手がごまかされるだろう。
植山七段は△7一飛と寄りたいが、▲4六角がいるので△6四銀を取られてしまう。そこで上手は△5五歩と突き捨てて△6三桂。▲6七桂の対抗に、ついに△7一飛と寄った。ここで私の次の一手は。

▲5六銀△7五桂▲同桂△同銀▲同金△同飛▲7六歩△7一飛▲6五銀 まで、一公の勝ち。

最初は▲8八玉を考えた。7七の地点を補強し、角を渡した際の△4六角や△5七角も消している。しかし一手の価値に乏しい気がした。そこで盤全体を見渡してみると、▲4七銀の働きがいまひとつである。
私は▲5六銀と上がった。植山七段がこちらを見て「グッ…」ともらす。こう落ち着けば上手も困るだろうとフンだが、図星だったようだ。
以下7五の地点で総交換になり、私は▲6五銀と歩を取る。駒の損得はないが、中央を制圧し、下手十分の形勢。ここから気になるのは△4七金で、▲2四角△同歩▲同飛は△4六角で下手負け。また▲6八角にも△5七歩がある。
しょうがないから、△4七金には▲2四角△同歩に▲8八玉と一息つくつもりだった。ただ、上手は△4七金などというイモ金は打たないと思った。
ところがここで、植山七段が「は、負けました」と投了してしまったので、私は驚いた。
「はあ? ここから中盤のおもしろいところじゃないですか」
私は呆気に取られる。
「全然ダメですよ。大沢さんに気持ちいい手は指させませんよ」
「はあー、そうですか。じゃあスマホでこの局面を撮らせていただきます」
と言ってスマホを持って戻ってくると、盤面は崩されていた。
「あ…。いや~、歩が5枚になったと喜んでいたら、投げられてしまいました」
「大沢さんの指したい手は分かりますよ」
日頃から植山七段は、「大沢さんは私と棋風が似ている」と語っていた。受け将棋の植山七段が意に反して攻めさせられ、下手に渋い手を連発されて、戦意が萎えてしまったのだろう。「大沢さん、全然攻めてこないんだもん」
「でも角落ちは受けの勉強ですから」
「……」
植山七段は苦笑するばかりだった。
本局、一見私の快勝のようだが、各手を細かく見てみると、△7七歩をノータイムで▲同桂と取れたのは、以前大野八一雄七段との指導対局で似たような局面になったとき、下手はこれを黙って取って手駒を増やすほうがよい、と教えられたから。
また▲5六銀とじっと上がれたのは、将棋合宿の特別講義で、遊び駒をじっと活用する感覚を、植山七段に教えられたからだ。
最後、イモ気味の△4七金とは打たないと判断できたのも、遊び駒になりそうな駒は極力打たないほうがよいと、植山・大野両七段に口を酸っぱくして教えられたからだ。
つまり本局は、おふた方との指導対局の積み重ねと、数々の講義があって、勝てたものなのである。私は改めて、植山七段と大野七段に、心の中で感謝するのだった。
(つづく)
コメント (2)
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