感染症診療の原則

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出産と感染症

2010-08-01 | 非・悲・否・避「常識」
医療がいまほど発達していなかった頃、妊娠出産で命を落とす女性・赤ちゃんがたくさんいましたし、子どもも死んでいました。

感染症の検査や治療・対策が進んだことは、その改善に大きく影響していますが、それでもなお「ゼロリスク」ではありえません。

ときに、人為的に感染症リスクが高まることがあります。
その例をいくつかみてみましょう。

お産を水中(水ではなくお湯ですが)の中でする人達がいるそうです。
それを勧めたり絶賛する人もいます。

これに関連してレジオネラでの死亡例の報告があります。ERで、「この子はどうやって生まれたんですか?」と確認をしないといけないですね。

「24時間風呂は生物浄化を導入しているので、風呂水からは相当数の細菌が検出されることが多い。24時間風呂での水中分娩にはレジオネラ感染症に限らず、細菌感染症を引き起こす危険性がある。」
24時間風呂での水中分娩後発症した新生児レジオネラ肺炎の1例 (IASR)

これについて、助産師の意見の例。

開業助産婦日記
トピック 24時間風呂での出産をめぐって

確率の数字をみて、私はどっちにはいるかなー、入ったらヤダナー、と思うかはその人個人のリスク検討ではありますが、説明する側には責任が伴います。

なかには水中出産以前に別のリスクがあっても、なおチャレンジする人もいるそうです。

「低置胎盤・切迫早産でも助産院で水中出産」
体験談

このようなお産のスタイルのリスクを重視している医療機関もあります。
青木編集長が定期的にでかけているチガトク。

「自然分娩のひとつの方法として広まっているような面もありますが、人間は陸生動物であり水中で出産することは「自然」ではありません。水中出産は自然分娩ではありません。」
茅ヶ崎徳洲会病院ホームページ

(そうよね。カバじゃないし。)

水中出産は自然・・・というのはどこからくるのか?

「自然」の定義は使う人によって異なりますが、感染症やお産で考えると、何も先進技術や情報を使わず昔ながらのリスクを伴うスタイルがよいということになりかねません。

「化学的なものは使わないで、なるべく自然のものでという方針」
「自宅は妊婦が住んでいるところなので常在菌がいるから安全」
というような説明の仕方を国家資格をもった専門職がしているのか、信じがたいエピソードが・・。
blog 天漢日乗 産科崩壊 に紹介されています。

自然志向の人は助産院を好む傾向があるときいていますが、「助産院でいろいろなものを買うように勧められる。」ということもあるそうです。

(ここから、情報検索が暗闇にはまって行きますのでご注意)

「・・・院長(助産師)がまず試し、波動を確認し、妊婦についてO(オー)リングで確認して勧める。」
http://www.original-style.com/homepage/tami011.htm

うー。感染症で調べ始めたのですが、最後「波動」「Oリング」にたどり着いてしまいました。

行きがかり上、お産と「波動」について調べてみましたが、
神様にお祈りレメディとか遠隔セラピー
別の埼玉県のクリニックで波動療法を受けた人の記事では、こどもの「肺と皮膚に有害金属とピロリ菌がたまっている」という診断だそうです。

Oリングの再試を試みたひとたちの報告もありました。

感染症や予防接種の説明はフツーに入っていかないだろうなー。もっと前に教えないと。
適切な情報が不足しているので、不安なひとたちがいろいろなところにハマっていっちゃう現状をみました。
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2 コメント

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感染症ではありませんが・・・ (一徹者)
2010-08-01 14:05:22
10数年前,某大学NICUに勤務していた時に,水中分娩でいわゆる「溺水」になってしまった新生児を担当をしたことがあります.循環・呼吸管理がとても大変で,本当に苦労しました.当時,「分娩方法の選択は個人の自由だけど,自分の子供と医療従事者に迷惑かけるなよ!」と思っていました.
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びっくり! (編集部)
2010-08-02 08:26:40
ただでさえ大変な小児科の医療に負担がかかるとは・・・世の中の多くの人は知らないかもしれませんね。
個人ブログには「もともと羊水の中にいたんだから赤ちゃんは水に強い!」という記載がけっこうありました。「強い」ってナンダロウ? このようにアバウトな表記がとても多いのが「自然」派の語りです。
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