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生物進化は学習によって加速されるか?

2018-03-18 08:38:09 | ブログ
 参考文献を読んでいて、生物進化にとって「学習」という認知活動が不可欠なのではないか、と思えてきた。以下、この結論に達するまでの思考の道筋について順を追って説明する。

 例えば、クモは、ハエなどの小虫を効率よく捕るための巣を上手につくることができる。ダーウィン説によれば、クモが多くの世代を重ねて進化し、効率のよい巣をつくる個体のみが環境に適応できるため自然選択されて今日生き残っているとする。

 クモの巣を進化させるコンピュータ・シミュレーションの例が知られている。多世代に亘ってダーウィン説に基づく遺伝的アルゴリズムを適用することによって、クモの巣は進化していき、およそ200世代ほどで糸の密度と巣の大きさが最適に近いものができるという。

 また、眼について進化論的に考えたとき、「眼のような複雑な器官が果たして突然変異で生じるのか?」という疑問が生じ、ダーウィンを悩ませたようだ。

 近年になって、この問題に対して進化のシミュレーションによる解明が行われ、突然変異と自然選択だけで眼の進化を説明できることが明らかになった。シミュレーションは、透明な保護層と平らな感光細胞からなる原始的な眼からスタートし、40万世代もかからない内に光学的に性能のよい眼をつくり上げた。

 多くの生物は、眼を獲得したが、獲物となる生物、仲間の個体、天敵となる生物などを識別するためには、認知機能をもつ脳が発達する必要があった。特に、複雑に変化する環境の中に住む陸上哺乳類にとって、脳の発達は生存を左右するものであったはずである。それは、ヒトが地球上のヒト以外の生物の生死をも支配できる存在となったことからも理解できる。

 脳が外界の事物を認知するということは、個体が一世代の間に認知能力を学習することを意味する。哺乳類の中でヒトの脳が急激に進化したことから、脳の学習能力は多世代に亘って遺伝するのではないかという疑問が常にあったと思われる。

 しかし、ダーウィン説が広く信じられることになった結果、「獲得形質が遺伝する」とするラマルク説が否定されてきたこと、遺伝学の進歩にもかかわらず「学習能力をつかさどる遺伝子」のようなものを特定できないこと、そもそも「学習」とは何なのか科学的に定義できないことなどにより、生物進化は学習によって加速されるのか否かという問題は、容易には統一的な解答に到達できなかった。

 最近の脳科学の進歩と、人工知能に関する技術、特に画像認識や音声認識に関する技術の急速な進歩とによって、脳が外界の事物を認知し学習するとはどういうことか、いかに高度な能力なのかが、ようやく広く理解されるようになってきた。

 ヒントンらが行った脳のニューロンに関するシミュレーションがある。ある行動をとるときには、関与するニューロンのスイッチが正しく設定されていなくてはならない。このスイッチは、遺伝的にも、あるいは学習によっても設定できる。遺伝のみに頼っていると、ランダムな突然変異で正しい設定が出てくる可能性は極めてまれである。一方、個体が一生のあいだに学習できるとするとき、遺伝的に設定されていないスイッチに対しては、多数の試みを試すことができる。すると、一生の早い時期に(生殖可能な時期に)、正しい組合せを学習した個体ほど次の世代に多くの個体を残すであろう(適合度が高い)。

 人間界に広く見られる卑近な例も、この事実をよく説明している。一般的に言えば、多くの学習経験のある人は、学習経験の少ない人に比べてより多くの収入を得ることができるだろう。これによって学習経験の多い人は、より多く結婚の機会に恵まれ、より多くの子供を残すであろう(昔は貧乏人の子だくさんなどと言われたものだが、今の時代にはほとんど当てはまらないだろう)。また、高収入の親は、その子供に多くの教育費をかけることができ、子供も多くの学習機会というアドバンテージを得る可能性が高いだろう。すなわち、親の学習経験という獲得形質があたかも子供に遺伝したかのような結末となるであろう。

 ビッグデータが投入されて学習を行い、与えられた範囲の環境に対して頑強なものに最適化された人工知能のように、目まぐるしい環境の変化に適応するための生存技術と集団の中でコミュニケーションするための言語を操る能力を発達させ、学習能力によって、突然変異に依存するだけでは遅々とした進化しかしない生命体が格段の能力を備えるようになったのがヒトということになるのであろう。

 この機会を利用し、遺伝的アルゴリズムの応用について考えてみたい。ここで言う遺伝的アルゴリズムとは、生物の進化をシミュレーションするときに用いられるものに限定されず、目的に応じてその遺伝子型の遺伝子コードと表現型を自由に設定できるが、進化計算の手順が「遺伝的」なアルゴリズムに準拠しているものを指す。

 現在の人工知能を実装するための技術として、勾配降下法という技法が主流となっているようである。この方法は、しばしば局所解に陥るという欠点があることが指摘されている。最適解の探索のために遺伝的アルゴリズムを利用すれば、広域の探索が可能であるとされる。素人にとって、人工知能にビッグデータを投入して学習させ、充分に頑強な人工知能を構築することは無理であるが、少量の入力データを用いて、遺伝的アルゴリズムを適用する人工知能の技法を体験するのは有益かも知れない。

 遺伝的アルゴリズムは、すでに図形のデザインやロボットの行動制御などの分野にも利用されている。

 そこで、例えば図形のデザインに遺伝的アルゴリズムを利用するような体験ができないものかと考える。この分野の進化計算をするには、遺伝子コードを設定し、各遺伝子コードに対応して表現型となる図形を設定する必要がある。進化計算は、色々な遺伝子コードをもつ個体(図形)の集団に対して、遺伝子コードの変異を起こさせ、生成される個体を何らかの尺度をもつ適合度に従って人間が評価し、望ましい個体を選択するという手順になる。遺伝子コードと対応する表現型に関するアーキテクチャを構築するのは難しいが、集団の個体数は比較的少量で、入力データの量はビッグデータにならないのではないか。

 参考文献
 伊庭斉志著「進化計算と深層学習」(オーム社)
 レスリー・ヴァリアント著「生命を進化させる究極のアルゴリズム」(青土社)

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