gooブログはじめました!

写真付きで日記や趣味を書くならgooブログ

保存力学系と散逸力学系

2023-06-25 08:13:13 | ブログ
 保存力学系は、たとえば分子集団の運動を記述する力学系であり、エントロピー生成をともなわない過程を特徴とする。散逸力学系は、熱対流のような現象の状態を表す力学モデルをもち、たえずエントロピーを生成しては外部に排出する非平衡開放系である。

 保存力学系においては、たとえばn個の分子集団の中で各々の分子がランダムな方向と速度を伴って移動しても、力学系全体のエネルギーは保存される。各分子は、相空間とよばれる6n次元空間内の一定なエネルギーの曲面上をあたかも流体の流線を描くように動く。系のエネルギーが保存されるとは、このエネルギー曲面上の単位球面の体積が保存されることを意味する。一般にエネルギー曲面は高次元空間内にあるから、エネルギー曲面Eは面積ではなく、体積を伴う空間である。また、高次元空間では単位立方体の体積は拡大し、単位球面の体積は縮小するのであるから、保存される方が特殊なのである。Eの形状が定常流の流線で構成されるためである。

 エネルギー曲面上の代表点pは、時間経過とともに、エネルギー曲面上のすべての点を通るわけではない。点pの軌道は、空間EからEの上、すなわちE全体に亘る変換Tとなり、p,T(p),T2(p),…のような点列をつくる。代表点pは、E上の任意に与えられた点の任意の近傍を通るとされる。言い換えれば、上記の点列は、この集合の中で「稠密」であるべきだという仮定である。点の数nが無限と言えるほど多いか、あるいは代表点pが十分長い時間に亘って動くとき、この仮定が成立するのかも知れない。

 上記の点列の集合が稠密であるか否か推測することは難しい。それでも簡単なモデルについては、この変換反復の像がどうなるか調べることができる。例えば、(0,1)区間からその上へ、x’=f(x)=4x(1-x)で定義される変換の計算を行ってみる。関数の形から、この変換を繰り返し行うと、次数がどんどん高くなる多項関数が得られ、そのグラフは極大値と極小値の数がどんどん増えることが分かる。この例の場合には、ほとんどすべての点を出発点にした反復の像の列が全区間で稠密であることが証明されている。

 ベナール対流のような散逸力学系では、ローレンツ・モデルのように流体の運動状態を記述する微分方程式を介してその力学系の振る舞いを解析するのが便利である。この方程式は、三次元の状態空間の中で、流体の速度や温度に関する状態変数X,Y,Zの時間発展を表現している。ローレンツ・モデルの詳細については、参考文献や私の2017.8.13付のブログ「カオスの世界をのぞく」などを参照されたい。

 ローレンツ・モデルでは、流体をはさむ上下面の温度差を十分大きくすると、対流は乱流になり、ついにはカオスと言われる状態に至る。変数X,Y,ZのうちXとYは温度の波に関係し、Zは流速の上向き成分の波に関係すると言われる。たとえば変数Zの時間変化をグラフにプロットすると、不規則に変動する波動が現れる。この波動は、目まぐるしく振幅の極大値から極小値へ極小値から極大値へと変化する波になっていることが分かる。

 参考文献に習って、ある時刻のピーク値がZ1、次のピークがZ2、・・・、n番目のピークがZnになるというように、数列Z1,Z2,…,Znをとってみる。この数列は、変換Tにより、Z1,T(Z1)=Z2,T(Z2)=Z3,…のような点列をつくっていると見ることができる。このようにして得られたZnの関数f(Zn)=Zn+1をプロットすると、グラフは曲線になることが分かる。

 このようにして得られる写像曲線は、ある点Ziにおける接線の傾きが45度より大きければ、その点のまわりの小さな誤差は、変換によって拡大される。すなわち、この曲線は、実現される状態点の軌道が不安定な非周期軌道であることを示している。

 関数f(Zn)は、近似的に一次元写像であるので、パイこね変換とよばれるより単純な一次元モデルに置き換えると、その数学的取扱いが容易になる。この変換は、(0,1)を区間内の任意の実数を同じ区間内の別の実数に変換するものであり、0<x=<1/2の区間ではy=2x、1/2<x<1の区間ではy=-2x+2という形をしている。そうすると、たとえばx=0.4を出発点にすると、変換後の点列は0.4,0.8,0.4,0.8,…のように周期軌道になる。しかし、x=0.4は数学的な値であり、実際には正確にこの値を指定できる確率はゼロと言ってよい。一般には初期値の指定誤差が各変換ごとに2倍に拡大し、軌道は非周期となる。その結果をまとめると、ほとんどすべての点を出発点にした変換反復の像の列が全区間で稠密であることが証明されている。

 この変換モデルをパイこね変換とよぶ理由は、区間(0,1)上の指定された点の位置を区間(0,2)に引き伸ばした後、x=1を折り目にして折りたたむ操作がパイ生地をこねる操作と類似しているためである。変換を繰り返していくと、区間(0,1)内の微小な区間に含まれる点の塊が全区間に広がり、その密度分布は一様な分布に近づく。

 散逸力学系においては、状態空間中のあらゆる状態点を引き付けるアトラクターが存在する。つまり、アトラクターは、状態点の集まりであり、アトラクターから離れていった状態点を再びアトラクターに引き寄せる。状態空間中に単位球面をとってみる。この単位球面は、十分密に分布した多数の代表点を含んでいるものとする。これら代表点が時間の経過とともにどのように変形していくかを調べると、その体積が縮小していくことが分かる。体積が変化しない保存力学系とは対照的である。

 参考文献
 マーク・カチ他著「数学の展開」(エンサイクロペディア ブリタニカ)
 蔵本由紀著「非線形科学」(集英社新書)

数学問題集をやってみて

2023-06-04 08:00:46 | ブログ
 23題の数学問題を提供する参考文献の問題集をやってみた。その結果は、正解としたものが18件、正解に近いが問題集の解説にあるようなシンプルでスマートな解答に至らないもの(80点程度か)が3件、誤答と認めたもの(0点)が2件であった。正解率を(18+3×0.8)/23で計算するとすれば、89%程度になる。

 誤答2件のうちの1件は、問題を充分読み込んでないための失敗であった。もう1件は、知識は幅広いが、思い込みにはまってしまって、他のアイデアに関心が向かないための失敗であった。たとえば、人が数十人集まると、各人の身長はほぼ正規分布に従って確率的に分布するのような余計なことばかり考えすぎる。このような知識のない子供の方がかえって問題に秘められたシンプルなポイントに気づきやすいのではなかろうか。正規分布をあきらめることによって、次第に問題がもつポイントに近づいたが、答が白か黒か確定したものであるにもかかわらず確率的な考え方を捨てることができなかった。

 80点をつけた上記3件についても、思い込みにはまってしまって、他のアイデアに関心が向かない事例である。どろくさい考え方によってなんとか答に到達したが、解説にあるようなシンプルでスマートな考え方には至っていない。

 23件の問題の中で、これは難問だと知った問題が1つあった。自分には数学的センスがないためか、この問題の解答を得るまでに3日間ぐらいかかった。数学の分野としては、数論幾何学の分野に属する問題だろうか。この間、方眼紙にいくつものサンプル図形を描いては、統一的なパターンを探した。最もシンプルなサンプルを描いたとき、やっと規則的なパターンが読めてきたので、解答に到達することができた。このような問題に強い人は、データ分析一般にも強いと考える。データ分析とは、何の数学的構造も見えないデータから数学的構造を探索する作業である。

 なぜこのような難問に惹かれるのだろうか。他の多くの趣味のように実行する前からルールやアルゴリズムが想像できるものとは異なり、どのように思考を進めていけばよいのか想像できないパズルのようなものであり、いくつものサンプル図形を描いているうちにシンプルなサンプルを描いたとき、問題の本質が分かってきたのである。解答が見えてきたときのサプライズの大きいのが魅力である。

 参考文献の問題は、12年の歳月をかけてつくり上げられたものとのことで、よく洗練されている。しかもその多くは、日常生活で見かける物品や人々から題材がとられており、親しみやすい。さらに、本全体は、絵本のように装丁されており、いわば「数学の国のアリス」のようなワンダーランドを体験できるのではなかろうか。

 参考文献
 佐藤雅彦ほか著「解きたくなる数学」(岩波書店)