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情報とはなにか?

2024-03-24 08:56:45 | ブログ
 自然科学ダイアログで「あらためて問う「情報とはなにか?」-自然科学の新たな情報の捉え方」と題するダイアログをすることになった機会に、私が発表した見解について、ブログに記録を残すことにした。

 数学でいう位相幾何学は、図形を自由にのばしたり、ちぢめたり、曲げたり、まっすぐにしたりしても変わらない性質(位相不変性)を研究する分野であり、そのような幾何学的な変形によって変わらない数学的な量を一般に不変量と呼んでいる。

 また、物理学では、物体が運動することによって変わらない物理量や、分子集団の中で個々の分子がランダムに運動しても分子集団全体として保存される物理量、すなわち保存量が存在し、これは数学でいう不変量に相当する。物理学には、様々の対称性が存在し、対称性はあまねく物理量の保存則に従うことが証明されている。すなわち、力学系に対称性があれば、何らかの不変量が存在するのである。ただしこの仮説にも例外はあるようだ。

 保存量または不変量がそのまま情報として扱える例をいくつか挙げる。

 例1: 江戸時代に書かれた古文書の手書き文字が現在でも読めるのは、書かれた文字および単語が不変量であり、時代を超えて共通の認識をもてる情報だからである。

 例2: 生命体がもつDNA上に記録された遺伝コードは、基本的には世代を越えて伝達され、生命体を形づくるための設計図になるという観点からみれば、同じ生物種についてほぼ不変量であり、情報に他ならない。ただ、生物進化の過程を通じて遺伝コードに生じる突然変異が自然淘汰によって世代を越えて保存されると、別の生物種が誕生することがあり、それが生物多様性をさらに拡大させることになる。

 例3: 物質が拡散してもその量は保存される。仮想的な面Sを通して、単位時間、単位面積あたりに移動する物質の量が保存されるという保存則を用いれば、拡散方程式および熱伝導の方程式を導くことができる。熱量は、物質の量に付随する数量である。

 例4: 保存力学系は、たとえば分子集団の運動を記述する力学系であり、エントロピー生成をともなわない過程を特徴とする。n個の分子から成る集団の中で、各々の分子がランダムな方向と速度を伴って移動しても、力学系全体のエネルギーは保存される。各分子は、相空間とよばれる6n次元空間内の一定なエネルギーの曲面上をあたかも流体の流線を描くように動く。系のエネルギーが保存されるとは、このエネルギー曲面上の単位球面の体積が保存されることを意味する。つまり系の全エネルギーは、位相幾何学でいう位相不変量に相当するのである。

 散逸力学系は、熱対流のような現象の状態を表す力学モデルであり、たえずエントロピーを生成しては外部に排出する非平衡開放系である。以下、散逸力学系において、どのように情報が取り扱われるのかについて例示する。

 情報理論でいう情報という概念は、人間の価値観がともなっている。しかし、そのような価値観を無視して物理的媒体に格納された情報を一括して物理的に操作する場合には、情報がもつエントロピーにマイナス符号をつけて負のエントロピーで表現するだけで、物理的なエントロピーに変換できる。すなわち、1と0がランダムに並んでいるような情報のエントロピーが最も小さく、すべてのビット列が0であるような情報のエントロピーが最大となると考える。そのように考えてよい理由は、力学系を構成する個々の分子が、1と0の並びで計数できると仮定される「状態」という情報をもっているからである。

 コンピュータのメモリ上の情報を消去し、すべてのビット列が0になるようにリセットすると、物理的なエントロピー増大となるので、外部からもらう熱エネルギーが消去動作に使われるとともにその一部エネルギーが外部に散逸する。

 逆に、情報0にリセットしたメモリをエネルギー源として利用することができる。「情報エンジン」と呼ばれる。情報エンジンを利用すると、放出されたエネルギーによって何らかの仕事ができるとともに、メモリ上の秩序あるビット列0をランダムに1と0が並ぶビット列に変換する。すなわち物理的エントロピーは減少するが、情報としてのエントロピーは増大する。
  
 
 
 人間の価値観によれば、規則正しいパターンをもつ情報が頻度高く現れてほしく、ランダム・データはサプライズである。一方、力学系においては、ランダム・データに近いパターンをもつ情報が頻度高く現れ、規則正しいパターンをもつ情報が現れることは稀な現象であり、サプライズである。物理的なエントロピー量と、情報理論のエントロピー量とが反対符号の同一量となっているのは、まことにシンプルかつ合理的な体系である。

 私がこのシンプルな見解をダイアログの場で発表したとき、情報工学を専攻したというメンバーから異議ありと思われるコメントをいただいた。私の見解に対してご批判をいただきたいです。

 自由エネルギー原理に基づく脳理論では、脳は、感覚器官から入力された感覚信号から「隠れ状態」を能動的に推論するプロセスを実行する。熱力学で脳の内部エネルギーからそのエントロピーが決まり、エントロピーから状態が決まると仮定されている。

 意識の分野では、さまざまな神経細胞集団で情報交換が行われ、情報が統合されることで意識が生じるとする統合情報理論が提唱されている。この理論は、情報の統合度合いを示す指標を定義し、これをもとに脳の意識の度合を測ろうとする。この指標は、「情報量」と、その情報量が「統合」されているか否かという二つのファクターによって決まる。

 情報理論によれば、システムを構成する要素の状態数が少ない場合には、システムがとりうるパターンの数が少ないということであり、規則性が高いということであり、情報を少量のビット数で表現できるので情報量が小さい。逆にシステムの状態数が多い場合には、ランダム性が高いということであり、情報を表現するには多量のビット数が必要になるので、情報量が大きい。

 「情報量」と「統合」の有意な組合せは、両者が大きいケースと、いずれか一方が大きく他方が小さいケースの3通りある。情報量が大きくても、要素間の情報交換のためのリンクが少ない(統合の度合が小さい)ケースでは、統合指標は低くなる。また個々の要素が他のすべての要素との間にリンクをもつような統合の度合が大きいケースでは、リンク接続が規則的になるため、リンク間でやりとりされる平均情報量が小さくなり、指標は低くなる。人間の脳のように両者ともに大きいケースでは、指標の値が高くなる。

 参考文献
 乾敏郎他著「脳の大統一理論」(岩波科学ライブラリ)


自然数全体の和をとる無限級数

2024-03-03 08:53:30 | ブログ
 11月のNHKテレビの番組「笑わない数学」で、自然数全体の和の公式
   1+2+3+…=-1/12   (1)
が正しいか否かをめぐって展開された歴史的経緯といくつかの総和法についての説明があった。左辺の無限級数はどう見ても無限大になるとしか考えられないのに、右辺が-1/12に収束することを示しているから、この式は間違いであるで終わってしまいそうである。

 50年ほど前に習った無限級数についての定理:
「正項級数a1+a2+a3+…は、その部分和Snが有界なるとき、すなわち
   Sn=a1+a2+…+an<=K (an>0; n=1,2,3,…)
なるnに無関係な定数Kが存在するとき収束し、有界でないとき+無限大に発散する。」に照らすと、(1)式の左辺は無限大に発散するはずである。

 しかし、(1)式のように発散してしまう無限級数も、ゼータ関数表示にして繰り込み操作をすると収束することが知られている。ゼータ関数とは、
   Z(s)=1^(-s)+2^(-s)+3^(-s)+4^(-s)+… (2)
で表現できるsの関数である。(1)式はZ(-1)の場合に相当し、その計算結果はZ(-1)=-1/12となって、(1)式右辺に一致する。また、Z(-2)=0, Z(-3)=1/120の結果が得られる。

 物理学の場の理論によると、真空も電磁場として取り扱われる。真空は、エネルギー的には基底状態にあり、零点エネルギーをもって零点振動を行っている状態とされる。真空中に、薄い金属膜を2面、接近するように向かい合わせておく。2つの膜の間には電気的クローン力が存在しないにもかかわらず、膜の間には弱い引力が働き、膜が互いに引き合うことが確かめられる(カシミール効果と呼ばれている)。

 金属膜の間の狭い空間に閉じ込められている電磁場の零点エネルギーと、金属膜がないときの同一空間内の零点エネルギーとの間には差分が生じるので、その差分を計算することによって、膜の間に生じる引力の大きさを算出することができる。その計算式に基づいて計算するプロセスの途中に、次の無限級数:
   1^3+2^3+3^3+4^3+…
を計算する場面が出てくる。この無限級数をゼータ関数とみなせば、Z(-3)=1/120に相当する。この数値を用いた理論値は、実測値と一致することが確かめられている。そうすると、ゼータ関数の少なくともZ(-3)が、間接的に確認されたことになる。

 無限級数を扱う「笑わない数学」では、「カシミール効果」のほかに、超弦理論の10次元時空についても言及していた。この理論では、(1)式を用いることにより、10次元時空が予言できるとのことである。

 そこで、「無限大に発散する無限級数の計算において、繰り込み操作をすると収束する例について教えてほしい。」とネット検索すると、リーマンのゼータ関数として(2)式を挙げ、「実数sに対してs>1のとき収束し、s<=1のとき発散する。s<=1のとき、繰り込み操作により収束することが知られている。」との回答を得た。

 無限集合に関する「部分無限集合の濃度は全体集合の濃度に等しい」という命題は、直感に反する。上記の定理に反し、直感にも反する(1)式を前にして、まだ無限大というものを理解するに至っていないのではないかと思う。

 数学好きの知人にこの問題を投げると、「「無限大の不思議」というよりは「解析接続の不思議」というものでしょう」というコメントが返ってきた。(2)式は、実はオイラーのゼータ関数であり、sは実数である。これを複素数の世界にまで拡張したものが、リーマンのゼータ関数である。リーマンのゼータ関数は、(2)式を包含していることと、解析接続は、複素関数に対しても矛盾なく成立することを確認したい。

 参考文献
 中村亨著「リーマン予想とはなにか」(ブルーバックス)