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量子コンピュータでシンプルな例題を解く

2016-05-29 08:01:29 | ブログ
 量子コンピュータに入門はしたが、ショアのアルゴリズムのような本堂に到達するには程遠いという気がする。

 それでも、シンプルな例題で量子コンピュータの動作を記述してみたいということで、このブログを作成することにした。

 例題は、
   F=(x or y) and (x゛ or y゛)    (1)
を計算するものである。(x,y)は、1(真)または0(偽)の値をとる変数である。x゛,y゛は、x,yのnotを表す。

 この量子コンピュータは、2キュービットの量子をもつ。量子は、核磁気共鳴法の原子スピン、イオントラップ法の電子スピンなどによって実現できる。スピンが上向き状態のとき0を表し、下向き状態のとき1を表すものとする。これらの量子に適当な磁場がかけてあれば、スピンが0状態のときを基底状態、1状態のときを励起状態とみなすことができる。

 まず、2キュービット系の量子に適当なエネルギーをもつレーザ・パルスを当てると、この系を2ビットの0が並ぶ状態に初期化することができる。

 次に、(x,y)のデータを入力する。(x,y)がとり得る値は(0,0);(0,1);(1,0);(1,1)の4通りしかないので、各々の状態に4次元空間中の独立した基底ベクトルを割り当てるのが正式な方法である。これらの基底ベクトルを、各々[00>;[01>;[10>;[11>と表現することにする。初期化された2キュービット系は[00>の状態にある。

 初期化された2キュービット系に次のユニタリ行列U;
      |1 1 1 1 |
  1/2|1 1-1-1|
      |1-1-1 1|
      |1-1 1-1|
を作用させると、これら4つの状態を重ね合わせることができる。式で書くと、
  1/2U[00>=1/2([00>+[01>+[10>+[11>)  (2)
となる。

 行列Uがユニタリであるとは、実数の行列Uにその転置行列を掛けたものが単位行列Iになるようなものをいう。ここでは、Uとその転置行列が同じ行列Uになる。すなわち、行列UはUの逆行列でもある。そこで、上式の右辺に再び行列Uを作用させると、元の初期化された状態[00>に戻る。行列Uによるこの状態遷移のプロセスが可逆的であることを示している。

 [00>;[01>;[10>;[11>は、互いに直交する基底ベクトルである。行列Uは、次のユニタリ行列U(1)とU(2);
      |1 0 1 0|;    |0 1 0 1|
  1/2|0 1 0-1| 1/2 |1 0-1 0|
      |1 0-1 0|     |0-1 0 1|
      |0-1 0-1|     |1 0 1 0|
の和でもある。

 そこで、(2)式は、U(1)とU(2)を使って次のようにも書ける。
  1/2U[00>=1/2U(1)[00>+1/2U(2)[00>
           =1/2([00>+[10>)+1/2([01>+[11>)  (2)”

 各状態ベクトルに掛けられた1/2は、その状態を独立した波束とみなすときの振幅に相当するものであり、その振幅を二乗した1/4は、その状態が確定する確率を示す。

 右辺の第1項は、ベクトル[00>と[10>を重ね合わせたベクトルであり、その方向は[00>の方向と[10>の方向との中間、45度傾いた方向にあり、その[00>成分は[00>の半分の大きさ、[10>成分は[10>の半分の大きさとなる。右辺の第2項についても、ベクトル[01>と[11>に関して同様である。つまり、4つの状態の重ね合わせは、縮退した2つの状態の重ね合わせとみることもできる。

 このことを定常状態の量子がもつ上向き、下向きのスピンの方向に読み替えると、第1キュービットと第2キュービットが共に各々重ね合わせ状態のスピンの方向は水平方向(真横の方向)となる。

 各キュービットとなる量子について、基底状態のスピンを励起状態のスピンにもっていくに必要なエネルギーの半分のエネルギーをもつレーザ光を照射すると、各量子は0状態と1状態が重ね合わされた状態になる。

 重ね合わせの不確定な状態にあるスピンの大きさが確定状態にあるスピンの大きさより縮小しているか否か不明であるが、理論通り縮小していると考えても構わないであろう。

 この結果をみると、2キュービット系の第1ビット、第2ビット各々に2行2列のユニタリ行列を作用させる計算木の結果と同じになる。各キュービットが0状態を[0>、1状態を[1>で表現し、初期化された第1ビットに次のユニタリ行列u;
  *|1 1|
    |1-1|
を作用させると、これら2つの状態を重ね合わせることができる。*は1/ルート2を示す。式で書くと、
  *u[[0>=*[0>+*[1>
となる。

 第2ビットについても同じ操作をすると、2つの状態の重ね合わせを追加でき、合計4つの状態の重ね合わせをつくることができる。しかし、この4つの状態を各々独立した基底ベクトルによって区別することはできない。

 次に、(1)式のFを計算するための関数を設定する。計算結果は分からないが、この関数は次のユニタリ行列U(f);
  |1 0 0 0|
  |0 1 0 0|
  |0 0 0 1|
  |0 0 1 0|
で表現できるものとする。

 重ね合わせの状態にある2キュービット系に行列U(f)を作用させると、
  1/2U(f)([00>+[10>+[01>+[11>)
  =1/2([00>+[11>+[01>+[10>)

 これは、[00>,[01>のデータ入力についてはそのまま計算結果になっているが、[10>として入力したデータの出力は[11>となり、[11>として入力したデータの出力は[10>となることを示している。結局、この計算結果は、基底ベクトルの読み替えを行うだけであり、計算前の重ね合わせ状態は変わらないことになる。つまり、2キュービットの量子系に何ら物理的操作を加える必要がないことになる。

 この演算は、制御NOTゲートを模していて、第1キュービットは制御スイッチの役割をすると考えられるので、計算結果は第2キュービットによって表示される。

 最後に、計算結果を読みだす操作となる。数学的には、重ね合わせ状態にある状態ベクトルと目的の基底ベクトル、例えば[01>、とのスカラー積、
  1/2([00>+[11>+[01>+[10>)・1/2[01>=1/4
をとると、どの入力データについてもその答えが真である確率が1/4であることが分かる。

 これでは、コイン投げを2回続けて行ったときに、目的の目が出る確率を求めるのと同じであり、何ら有意な結果を求めたことにはならない。

 しかし、[11>状態の2キュービット量子系に適当なエネルギーをもつレーザ光を照射したとき光子を放出して[00>状態に遷移するのを検出できれば、これら量子系は[11>状態を保持していたことを確率1で読み取れるだろう。もし量子系が[00>状態を保持していたなら、光子の放出がないので、[00>状態を保持していたことを読みとれるだろう。

 量子系が[01>または[10>状態のときには、そのいずれかが分かっても両者を識別するのは困難であろう。このとき1/4の確率が1/2に上がるだけである。

 ユニタリ・ゲートと制御NOTゲートがあれば、すべての量子回路を設計できると言われる。

 しかし、量子コンピュータでは、現行のコンピュータのようにメモリに記憶された情報を読み出し、量子ワイヤを介してこれら量子論理ゲートによって構成される演算回路に導くという操作が非常に困難である。

 そのため、当面は、nキュービットの量子系をメモリとして用いるとともに、その量子系に直接ユニタリ変換や制御NOTゲートに相当する物理的操作を加えなければならない。

 また、関数計算のユニタリ変換の結果、目的の入力データに対応する出力データをできるだけ高い確率で読み出せる必要がある。

 最近では、最新の量子コンピュータであるD-Waveも発売され、話題となっている。ここで使われている量子アニーリング法などの技術にまで深入りするのも次の課題となる。

 一方、脳の神経細胞(ニューロン)の演算動作は、ニューラルネットと呼ばれる数学的モデルによってシミュレートされている。このモデルの各ニューロンは、メモリ機能を備えた論理ゲートとして動作すると考えられている。

 そうであれば、ニューロンが一種の量子コンピュータであると考えてもよいのではなかろうか、という考えが思い浮かぶ。万能量子チューリング・マシンと呼ばれるものは、どのような計算機械もシミュレーションできるのであれば、ニューロンを量子コンピュータとしてシミュレートすることも理論上は可能なのである。

 参考文献
 ジョージ・ジョンソン著「量子コンピュータとは何か」(早川書房)
 西野哲郎著「量子コンピュータ入門」(東京電機大学出版局)
 竹内薫著「量子コンピュータが本当にすごい」(PHP新書)

「ダークマターと恐竜絶滅」を読む

2016-05-01 08:38:43 | ブログ
 リサ・ランドール著「ダークマターと恐竜絶滅」(NHK出版)を読んだ。ランドールが唱える仮説には疑問をもつ者であるが、彼女から教えられることが少なくはなく、その仮説の概略に加えて、どうしても私のコメントを記録したいと思うようになった。

 約6600万年前にK-Pg絶滅と呼ばれる生物の大量絶滅があったことがよく知られている。ここでは、恐竜の絶滅を始め、生物種の約4分の3、属の約半分が絶滅したと言われている。

 K-Pg絶滅を引き起こした主たる原因が、巨大な流星物質が地球を直撃したことにあるという説は、ほぼ定説となっている。

 ランドールは、外力の作用によってオールト雲から飛び出した彗星が地球に突入した流星物質であると仮定する。そしてオールト雲にその外力を及ぼした犯人は、天の川銀河の中心平面近くに存在するダークディスクと呼ぶ密度の高い一種のダークマターであるとする。

 太陽は、約2億4000万年かけて銀河中心のまわりをほぼ円形の軌道でぐるりと一周するが、この間、銀河平面を中心にしてわずかに上下動もしている。太陽系は、銀河平面近くの重力源の作用で、ちょうどバネや振り子の運動のように、この平面を中心として上下に振動するので、周期的に銀河平面を通過することになり、このときダークディスクがオールト雲に潮汐力を及ぼすというものである。

 銀河系の全体は、球状のダークマターでとり囲まれているとされる。ランドールの仮説によれば、これはダークマター内部で重力以外に相互作用をしないものを含めたダークマターの全体像であり、部分的に、重力を通じても相互作用するが、電磁力に似た別の力を通じても相互作用する別種のダークマターが存在すると仮定する。それがダークディスクである。

 ダークディスクは、通常の荷電物質と同じようにふるまうため、銀河内で冷えて速度を落とすとともに、円盤を形成するという。ダークディスクは、通常物質でできた銀河円盤より薄くなり、通常物質の円盤の内側にすっぽりと収まる。薄いダークディスクは密度が高い。

 ランドールの仮説には、いくつかの疑問な点があると思われる。まず、銀河系が球状のダークマターでとり囲まれていることは確かであるが、ダークディスクは観測されていない。次に、恐竜を絶滅させた巨大な流星物質がオールト雲から飛来した彗星であるか否か、確定されていない。小惑星由来の隕石である可能性もある。また、ランドールは、オールト雲に強烈なインパクトを与えるような星間物質の可能性について何も言及していない。これはランドール説に対する反論になり得るのではなかろうか。さらに、3000万年~3500万年の周期で巨大彗星が地球に突入するというのも仮説で、その実証は困難である。

 しかしながら、ランドールの今回の著作を読んで、オールト雲や銀河系中の太陽系の運動など、ランドールから教えられるものがあった。特に、今まで注目したことのなかったオールト雲に、俄然として興味がわいてきたのは、大きな収穫であった。

 オールト雲は、球状の雲であり、長周期彗星の補給所である。太陽から地球までの距離を1天文単位(AU)というが、海王星までは30AU、オールト雲までは近いところでも1000AU、遠いところでは5万AUを超えている。オールト雲が放出する彗星のうち、地球から観測されるものは毎年数個程度と考えられている。

 オールト雲はどのようにしてできたものか。3つぐらいの可能性が考えられる。一つは、太陽がそのまわりに原始惑星円盤を形成した時期に、この円盤からはじき飛ばされた天体が集まって雲をつくったというもの。二つ目は、星間物質が球状にかたまって太陽系をつくるときに、原始惑星円盤の収縮が速いため、とり残された物質が雲をつくったというもの。三つ目は、太陽系ができ上がった後、星間物質が宇宙線のフラックスに吹き寄せられて集積し、その集積が今も続いているというもの。

 オールト雲の起源は、以下の議論には関係しない。いずれの案にしても、太陽から飛来する太陽風の圧力と外部からやってくる宇宙線の圧力とが釣り合って、ほぼ現在の位置に停滞していると考えて間違いないであろう。

 オールト雲は、多少のゆらぎはあるにしても、ほぼ静止に近い状態にあるものと想定される。太陽とオールト雲中の天体とをむすぶ動径方向の天体の動きが少ないのであれば、偏角方向の動きも少ないと考えてよい。つまり、オールト雲の全体がもつ運動量の総量は小さいものと考えられる。

 オールト雲から彗星が飛び出すとき、その彗星が少なからぬ運動量をもち去るので、運動量保存則に従って、オールト雲がもつ運動量が減少する。

 このことをシンプルな一次元モデルで説明すると次のようになる。x軸に沿って静止する同じ重さの複数個のビー玉を隣のビー玉どうしが接触するように並べる。右側から同じ重さの1個のビー玉をころがして右端のビー玉にぶつけると、そのビー玉は静止状態となり、左端の1個のビー玉だけがぶつけた玉がもっていた同じ速度で左方向に運動する。すなわち、系がもつ運動量は保存される。

 左端のビー玉がオールト雲を飛び出した彗星とみなすと、オールト雲がもっていた運動量の総量が減少することが分かる。

 そうすると、オールト雲が40億年以上に亘って彗星を供給し続けるためには、外力によって彗星を飛び出させるように駆動しなければならない。

 ランドールは、その外力として、ダークディスクが及ぼす潮汐力を仮定したのであるが、外力の候補として、何らかの星間物質も考えられる。

 オールト雲の存在は確かとみられているが仮説であり、あまりにも遠いため、その実体が観測されたことはない。同様に、星間物質の観測も困難である。星間物質には、ガスのほかに固体粒子もある。いちばん多いのは直径がミクロン程度のものと考えられているが、巨大な天体も存在する可能性を除外できない。

 太陽系は外部に大きな天体を放出することがあると考えると、他の恒星も同様に大きな天体を放出することがあり得る。オールト雲の全体は、そのような天体の受け皿としては充分に巨大である。

 オールト雲は、そのような天体の直撃を受け、二次的に流星物質を放出すると考えてもおかしくはない。

 ランドールは、そのような星間物質がオールト雲に及ぼすインパクトの可能性についても言及してほしかったと思うのである。

 参考文献
 リサ・ランドール著「ダークマターと恐竜絶滅」(NHK出版)
 鈴木敬信著「天文学通論」(地人書館)