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ブラックホールに投げ込まれた本の情報の再現

2024-06-16 08:15:38 | ブログ
 参考文献「重力とは何か」は、ブラックホールに投げ込まれた本の情報を再現できるか否かを議論し、その結論として、「技術的に計算が難しい問題はあるものの、原理的には情報が失われないことが証明されています。」と結んでいる。そこで、量子力学、統計力学および量子コンピューティングの系統をつないで、この結論を説明しようと考えた。

 量子力学において、定常状態にある力学系は、時間を含まないシュレーディンガー方程式で表現できる。この方程式は、波動関数にハミルトニアン(ハミルトン演算子)Hを作用させたものがエネルギーeに波動関数を掛けたものに等しいことを示している。波動関数は、この方程式の解である。一般にエネルギー・レベルは無数に存在すると考えるので、eの値にe1,e2,…のように添字をつけて区別し、これらそれぞれに対応する解にも同じ添字を付して区別する。時間を含まないシュレーディンガー方程式を解くことは、ハミルトニアンHの固有値(エネルギー固有値)e1,e2,…と対応する固有関数を求める問題となる。

 ブラックホールは、ホーキング放射と呼ばれる熱放射によって、たえずエントロピーを生成しては外部に排出する散逸力学系に属する。したがって、ブラックホールに投げ込まれた本とその情報は、時間の経過とともに、いつかは外部に排出される運命にある。しかし、ブラックホールの寿命に比べて本とその情報を内部で処理する時間が充分に短い場合には、まずはブラックホールを定常状態にある保存力学系とみなしてよいだろう。

 量子統計力学において、定常状態にある力学系は、上記の時間を含まないシュレーディンガー方程式を使うことができる。ここで、エネルギーeiに対応する波動関数は、その量子状態iを示す。量子状態iは、1と0の並びで計数できると仮定されている。量子状態iは、本という物質の状態だけでなく、それに含まれる情報も包含していると考える。よって、エネルギーeiが決まれば、対応する量子状態iが決まり、それに含まれる情報も特定できるのである。

 量子状態iを表す2進数をベクトルの形式で表したものを状態ベクトルiと呼ぶことにする。ブラックホールに本を投げ込む場合には、投入直前の状態i、投入直後の状態jおよび一定時間経過後の状態kの少なくとも3つの状態が存在すると考えられる。状態i,j,k間の状態遷移を遷移行列を用いて表すことができる。そうすると、数学的には状態ベクトルiに遷移行列ijを作用させると、状態ベクトルjに移行し、状態ベクトルjに遷移行列jkを作用させると、状態ベクトルkに移行する。

 量子コンピュータを用いてブラックホールに投げ込まれた本の状態遷移をシミュレーションするものとする。このとき、遷移行列としてユニタリ行列という形式の行列を用いる。ユニタリ行列とは、元の行列とその転置行列を掛けた行列が単位行列になるという性質をもつ行列のことである。転置行列とは、元の行列に対して、その行と列を入れ換えた行列のことである。ユニタリ行列の転置行列をとると、それは元の行列の逆行列になっている。ユニタリ行列の逆行列は、元の行列の行と列を入れ換えただけのものであるから、必ず逆行列が存在する。つまり可逆計算が可能になる。

 このようにして、本の投入直後の状態から一定時間経過後の状態を計算し、後者の状態から前者の状態を計算すると、原理的にはブラックホールに投げ込まれた本の情報を再現できることになる。

 仮にホーキング放射によって本の情報が外部に流出することがあっても、上記の計算手順が適用できる限り、本の情報を再現できると考えるが、異論があるかも知れない。

 参考文献
 大栗博司著「重力とは何か」(幻冬舎新書)
 西野哲郎著「量子コンピュータ入門」(東京電機大学出版局)