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「量子もつれ」から何を学ぶか

2019-11-17 08:22:36 | ブログ
 量子力学は難解であるが、「量子もつれ」となると複数の量子が係わる力学系となるので、さらに難易度が高くなる。よって、量子もつれをサイエンス・コミュニケーションのテーマとして扱うのは難しい。

 10月20日付のブログ「マクロな世界における「もつれ」について検証する」を書いた後、「量子もつれ」がどのようにして「ベルの不等式」の不成立に導くのか、ベルの不等式は量子もつれについて何を語っているのかについて解明したいと考えていた。しかし、何度か試行錯誤を繰り返していたが容易には納得できるような説明にたどりつけなかった。

 量子もつれを中心テーマとして扱う参考文献1を読んだが、「ベルの不等式」について何も言及していない。しかし、量子もつれ状態にある2個の光子についての状態式が挙げられていたので、これを出発点とすることにした。

 光ビームとして、量子もつれの状態にある2つの光子が飛んできたとき、光子の個数を物理量とする最も簡単な状態式は、次のように表記できる。
   c(|0A>・|0U>+|1B>・|1V>)  (1)

 ここで、部分系の状態は、|0A>・|0U>と|1B>・|1V>であり、両者は重ね合わせ状態にあることを示している。・はアンド記号である。cは定数である。

 二つの粒子が相関関係をもつ「量子もつれ」について、量子もつれ生成器から左右など別々の方向に走行する量子の物理量を測定する。左の測定器は、量子の物理量Aとして光子の個数が0であること、または物理量Bとして光子の個数が1であることを測定する。右の測定器は、量子の物理量Uとして光子の個数が0であること、または物理量Vとして光子の個数が1であることを測定する。

 ここで光子0個が物理量なのか否か議論があるかも知れない。参考文献1では、光子がない場合でも電場が零点エネルギーを有するので、物理量が存在するものと見なしている。

 A,U,B,Vとして光ビームそれぞれで光子数を測定すると、Aとして光子が0個であれば、Uとしても光子が0個となっており、Bとして光子が1個であれば、Vとしても光子が1個となっている。このような状況を相関があるという。つまり、片方を決めれば自動的にもう片方も決まる関係になっている。(1)式は前者と後者の状態が重ね合わせになっていることを示している。

 (1)式は、物理量の種類を変えても成立可能のはずである。そこで、光子0個の代わりに量子の位置xに置き換え、光子1個の代わりに量子の運動量pに置き換えると、次の式になる。
   c(|xA>・|xU>+|pB>・|pV>)  (2)

 ただし、量子もつれの状態にある2つの量子には、xA-xU=0,pB+pV=0の相関関係があるとする。つまり、Aとして粒子の位置がxAであれば、UとしてそれがxU=xAとなる。また、Bとして粒子の運動量がpBであれば、VとしてそれがpV=-pBとなる。

 式(2)は、以下のように変形できる。
   c’{(|xA>+|pB>)・(|xU>+|pV>)+(|xA>-|pB>)・(|xU>-|pV>)}  (3)

 式(3)の{}内を展開すると次のようになる。
   2|xA>・|xU>+|xA>・|pV>+|xA>・|-pV>+|pB>・|xU>+|-pB>・|xU>+2|pB>・|pV>  (4)

 ここで、-|pB>を+|-pB>、-|pV>を+|-pV>に置き換えた。

 (4)式のA,U,B,Vが測定対象とするどの物理量であるか分かっているから、xとpを削除すると、AU,AV,BU,BVは、ベルの不等式に使われるsの計算式
   s=AU+AV+BU-BV  (5)
の対応する項と同じであることが分かる。

 すなわち、AUとBVは相関関係が明確であるから、理論的にも予想できる。位置xを1とみなせば、AU=1×1=1である。また、運動量pを1とみなせば、BV=-1である。よって、AU-BV=2と計算できる。

 しかし、AVとBUの相関数値を理論的に予想することは難しい。AVとBUは、少なくとも2つの量子の相互作用の大きさを反映しているものと考える。AVとBUは主として実験データから得られると想像する。実験には、量子もつれ状態にある2量子のペアが少なくとも2組は必要である。実際には、量子の位置と運動量がバラつくので、AV,BUの平均値<AV>,<BU>を求めるために大量のペアが必要である。また実験技術としても、AU単独またはBV単独の測定に比べて難易度が高くなるものと想像する。

 参考文献1は、AU単独の測定データおよびBV単独の測定データを提示するが、AVとBUに関する実験データはない。

 なお、参考文献1は、光子に関する量子もつれを扱っており、位置xに対応する物理量として波動のcos成分、運動量pに対応する物理量として波動のsin成分を測定している。

 先のブログでも書いたが、公表されているsの平均値は2.42などであり、ベルの不等式が成立しないことを示している。

 参考文献2は、スピンをもつ2個の粒子の量子もつれについて説明するとともに、ベルの不等式についても言及する。理論的に導いたsの計算式を提示するが、ベルの不等式を破るようなsはピンポイントなデータを与えた場合に限られる。

 そのデータによれば、sが2×ルート2=2.828となり、ベルの不等式の不成立を示す。このデータは、実験的にも検証されていると考える。それにしても、ベルの不等式の検証は、実験技術に負うところが大きいことが分かる。

 参考文献
 1.古澤明著「量子もつれとは何か」(ブルーバックス)
 2.倉本義夫など著「量子力学」(朝倉書店)