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時間の流れのない空間を量子が移動する

2020-10-11 08:15:57 | ブログ
 カルロ・ロヴェッリの唱える「時間は存在しない」という説に感銘を受け、2019年12月8日付のブログ「人間の脳が時間の流れを意識する」を書いた。

 参考文献の著者は、「私たちが思い込んでいる「時間」という存在は、物体の運動が持つ性質を説明するために導入された仮説だった、というのが事の真相です。」と述べている。

 時間が存在しないのであれば、ニュートンの運動方程式やシュレディンガーの波動方程式に従って運動する物体や量子をどうとらえたらよいのだろうか。時間がなければ、これらの方程式は成立しないようにみえる。しかもこれらの方程式を説明する物理学の教科書には、時間とは何かについて何も言及していない。これは哲学の問題であって、物理学では言及しないというのは正当な見解なのだろうか。

 まず時間の取扱いが容易な量子力学の例題から始める。二つの粒子が相関関係をもつ「量子もつれ」の例である。量子もつれとは、重ね合わせの状態にある複数の量子の間で、そのうちの1個の量子を測定すると、他の量子にも瞬時に影響が及ぶという状態のことをいう。例えば、電子Aのスピンが上向きであれば電子Bのスピンが下向きであり、Aのスピンが下向きであれば電子Bのスピンが上向きの値をとるという相関関係が付与された状態である。ただし、電子Aが上向きか下向きかは測定されるまでは不確定であり、測定されて初めて確定するとともに、電子Bの状態が測定されなくても確定することになる。電子Bが測定される場合も同様であり、この測定によって電子B,Aの状態が確定することになる。

 二つの量子が相関関係をもつ量子もつれについて、量子もつれ生成器から左右など別々の方向に走行する量子の物理量を測定するものとする。このとき、両方の量子は、各々時間の流れのない空間を移動するので、移動中は時刻0のままのはずであるが、各々の量子に時刻tを与えないと量子の速度を定義できないため、時間は流れるという人間の意識に沿った時間体系を導入する。

 両方の量子が量子もつれ生成器から飛び出す時点をt=0とし、例えば電子Aに時刻tという時間変数を与えたとすれば、電子Bには-tという時間変数を与えればよいだろう。両者の時刻を加えたものは時刻0のままである。

 そうすると、物体や量子が一個の場合にはどのような時間体系を導入すればよいのだろうか。時刻tを与えるような時間の流れと時刻-tを与えるような時間の流れとを仮定し、そのうち時刻tの時間体系の方を選択的に導入することにすればよいだろう。このような仮定を置いても運動方程式や波動方程式と矛盾はしない。

 特に一個の量子の力学系が二つの部分系の重ね合わせ状態にあるときの時間体系について検討する。射出器から放出された光の粒子(光子)がハーフミラーで反射するかそれを透過するものとする。このハーフミラーは、光子を50%の確率で反射し、50%の確率で透過する。反射光と透過光の各々を検出するための検出器を設けると、光子はいずれか一方の検出器でしか検出されない。

 ハーフミラーを通過した光子の波動関数のうち部分系1には時刻t、部分系2には時刻-tの時間体系を導入する。二つの部分系は常に同時刻のまま空間に存在すると仮定してよいだろう。

 二つの量子A,Bが量子もつれの関係にあるとき、AとBとが十分に遠く離れていても、Aの物理量の測定を行ってその値が確定すれば、Bの物理量の値が瞬時に確定する。つまり、Aの情報が光の速度を越える速さでBに伝わることになるので、非局所的長距離相関という。

 時間が存在しないのであれば、Aの情報が時間をかけてBに伝わる必要がないので、Aの情報をBに伝えるような通信手段を想定する必要はない。

 ハーフミラーを通過した1個の光子の場合も同様であり、一方の検出器が光子を検出したとしても、その検出に係わる部分系が他方の部分系に情報を伝える必要がない。

 参考文献
 松浦壮著「時間とはなんだろう」(ブルーバックス)