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意識について語る

2021-09-19 08:48:54 | ブログ
 自然科学ダイアログで意識について討論することになったので、この際、今までに得た意識についての知識を統合的にまとめてみることにした。

 まず、さまざまな神経細胞集団で情報交換が行われ、情報が統合されることで意識が生じるとする統合情報理論について語る。

 脳科学者トノーニは、情報の統合度合いを示す指標phi(ファイはギリシャ文字)を定義し、これをもとに脳の意識の度合いを測ろうとした。phiは、「情報量」と、その情報量が「統合」されているか否かという2つのファクターによって決まる。意識の度合いphiと、統合の度合いとはどう違うのか疑問が生じ、この定義は分かりにくい。

 情報理論によれば、システムを構成する要素の状態数が少ない場合には、システムがとりうるパターンの数が少ないということであり、規則性が高いということであり、情報を少量のビット数で表現できるので、情報量が小さい。逆にシステムの状態数が多い場合には、ランダム性が高いということであり、情報を表現するには多量のビット数が必要になるので、情報量が大きい。

 「情報量」と「統合」の有意な組合せは、両者が大きいケースと、いずれか一方が大きく他方が小さいケースの3通りある。情報量が大きくても、要素間の情報交換のためのリンクが少ない(統合の度合いが小さい)ケースでは、phiの値は低くなる。また個々の要素が他のすべての要素との間にリンクをもつような統合の度合いが大きいケースでは、リンク接続が規則的になるため情報量が小さくなり、phiの値は低くなる。両者ともに大きいケースでは、phiの値が高くなる。人間の脳は、このケースに相当する。

 統合情報理論は、スモールワールド・ネットワークと呼ばれるネットワーク理論を考慮すると、さらに理解が深まるだろう。

 世界には70億人もの人間が生活しているが、一人の人間が残りのすべての人間との間に情報交換のリンクをもつということはあり得ない。しかし、一人の人間は他の任意の一人の人間との間に平均して6段階の情報交換リンクがあればつながるという。隔たり次数が6という数値で表現できる。世間は狭いという意味で、スモールワールド・ネットワークと呼ばれている。

 一人の人間は、平均すると数十人の知り合いがいて、比較的強い絆の下に情報のリンクをもつことになるだろう。この人間を中心としてリンクの「群れ」をつくっているという意味で「クラスター化」していると言える。このようなクラスターは、全世界の人間に及ぶ類のものであり、かなり普遍的なものである。したがつて、このようなクラスターの平均リンク数を用いてすべてのクラスターが規則的につながるようなネットワークのモデルをつくることは容易である。しかし、そのようなモデルの隔たり次数を計算すると、予想されるように大きな数値となり、6次の隔たりという現実世界を説明できない。

 そこで、このモデルに、対象者を任意に選んで二者間のランダム・リンクを加えてみると、隔たり次数が急激に低下することが分かる。全世界の人間の間の平均の隔たり次数を6にするには何本のランダム・リンクを加えたらよいか計算できるだろう。参考文献によると、「スモールワールドを作りだすためには、つねにごく少数のランダム・リンクがあれば十分である」という。ランダム・リンクは、クラスターを構成するリンクとは別枠となり、「弱い絆」のリンクと呼ばれるが、スモールワールド・ネットワークを構成するためには、決定的に重要である。

 参考文献の文言を引用すると、「隔たり次数は、ある場所と別の場所とのあいだで情報を行き来させるのに要する一般的な時間を表しているから、スモールワールドの構造は、情報処理の能力と速さに寄与することになる。」

 脳の神経細胞(ニューロン)のネットワークも、スモールワールド構造になっている。参考文献を引用すると、「脳は一つのまとまりをもった統一体として驚くほど見事に協調した働きをしており、どんな瞬間にも、完全に統合された意識の反応を一つだけ作りだしているのである。」ニューロンのネットワークは、高い情報の統合度合い(phi)もつことが納得できる。

 パプア・ニューギニアに生息するホタルの集団は、多数のホタルが同期して一斉に光を明滅させることで知られる。一匹のホタルが光を放ったとき、その光を見た他のホタルが発光を促され、ホタルの集団がほぼ同期して発光しているように見えるようだ。そのとき、光を放つホタルとその光を見るホタルとの通信リンクは、集団全体ではネットワークを構成する。そのネットワークは、スモールワールド構造になっていると解釈できる。脳に意識が生じるとき、ニューロン集団中の多数のニューロンがほぼ同期して発火しているものとみられる。ホタルが集団発光する現象は、脳に意識が生じるときの活動するニューロンのネットワークの状態とネットワーク構造として類似していることを示唆しているのかも知れない。

 統合情報理論は、意識の数学的構造を説明するものであり、意識の生物学的側面からの説明に欠ける。こちらの側面は、脳の「自律性」と「自己組織化」のキーワードをもって語られる。

 脳が行っている学習は、3つのタイプの方式に分類できる。「教師あり学習」、「教師なし学習」および「強化学習」である。「教師あり学習」は、「回路の出力を担うニューロンにどういう動作をすればよかったのか、正解が教師信号として与えられる。」「教師なし学習」は、「外界から信号が多数与えられるだけで、何をすべきかの指示はない。回路網は外界にどのような信号があるかを会得し、それに備える。」「強化学習」は、「どのニューロンにも動作を指示する教師信号は与えられないが、動作の結果の良否は、報酬や罰として与えられる。」

 人工知能(AI)が行う機械学習においては、教師あり学習が普及し、画像認識など広範囲の分野で実施されている。このようなAIは、自律性がないとみられるので、多くの人は、「AIにはまだ意識がない」と思っているであろう。囲碁や将棋などゲームの分野でもAIが利用されているが、このAIは、次の一手には複数の選択肢があり、想定される選択肢の各々に評価点をつける。高い評価点をもつ一手は報酬に相当するので、このようなAIが行っている学習は、強化学習に相当するが、同じく自律性がないので、意識がないものとみなされているのであろう。

 教師なし学習の場合には、「ニューロンは、与えられた情報を処理する中で、自分でシナプスの効率を変えていかなければならない」ので、ネットワークの自己組織化が必要である。「その結果、外界の情報構造にうまくあった処理機能を獲得し、外界によく現れる信号に対してはこれを素早く的確に処理できるようになる。」

 教師なし学習の場合には、自律的に自己組織化する仕組みが備わっていると考えてよいだろう。実験的には、ニューラルネットワークのモデルを使ったコンピュータ・シミュレーションによって、現実の脳と同じようにニューロンが生まれたり、脳の領域別に起きている情報処理の役割分担が出現したという。このような仮想的なモデルによる実験によって、自律的な自己組織化が起きることが数学的に示され、意識が生まれる土壌を再現できたという。自律性の度合いを数学的に定義することが可能になったのだろうか。ただ、そのニューラルネットワークのモデルは、階層型のネットワークではなく、人間の脳に近いスモールワールド・ネットワークの構成をもつのではなかろうか。

 なお、インターネットもスモールワールド構造をもっているので、そのphiの値は高くなるはずだが、自律性や自己組織化の機能がないので意識をもたないネットワークとみなしてよいだろう(統合情報理論の欠陥だろうか)。

 自己組織化の実験の様子からみて将来的には、自分自身を複製したり、修理したり、リフォームしたりするロボットが出現することが予想される。

 「意識」とは何かについて、参考文献は、「私がいま何を考え、何をしようとしているのか、これを知ることが「意識」である」と述べる。つまり、自分自身の脳の状態を知るという局面であり、「自己言及」に他ならない。

 計算理論によれば、コンピュータが実行するプログラムにおいて、そのプログラムのアルゴリズムが想定していないような事態が生じた場合、コンピュータが計算結果を出力することができず、無限ループになることがある。コンピュータが自分の状態を知ることができないという意味で、「自己言及のパラドックス」とも呼ばれる。

 教師なし学習を行うAIまたはロボットにこのような不測の事態が生じ、コンピュータがハングアップ状態になったとき、マシンは意識のない状態に陥ったとみなしてよいだろう。

 例えば、AIを搭載した自動運転車がこのようなハングアップ状態になって事故を起こしたとき、だれが法的責任をとるのか議論となるだろう。

 参考文献
 インターネット記事「統合情報理論を何となくで良いから理解したい」のほかに、
 マーク・ブキャナン著「複雑な世界、単純な法則」(草思社)
 甘利俊一著「脳・心・人工知能」(ブルーバックス)

将棋盤上の迷路をたどる

2021-09-05 06:32:35 | ブログ
 6月の朝日新聞beパズルに、将棋盤上に設定された迷路をたどる問題(ニコリ制作)が掲載されていたので、挑戦した。

 9×9マスをもつ盤上の1-マスにはプレイヤーの飛車が配置され、他の13個のマスには各々相手の駒が固定的に配置されている。プレイヤーは、飛車を最初の位置から指定された矢印の向きに出てタテヨコに進め、相手の駒がない67マス全部を1度ずつ通って指定された矢印に従って元の場所に戻る。斜めには進めず、同じマスは2度と通れない。掲載されたものとは相手駒の数や配置が異なるが、本ブログの後方で将棋盤の例を図示した。

 移動する飛車は、67個のマス(都市)を巡って元のマスに戻るいわば巡回セールスマンの役をする。もちろん、正解の順路はただ一つしかなく、この順路が最適解に他ならない。

 この問題を解くに当り、まず出発した飛車が盤周辺のマスを巡って元の位置に戻るような順路を想定する。この巡回路のどこかで順路の切れ目があり、飛車は盤中心部に分け入って進み、再び元の巡回路に戻る必要があるだろう。試行錯誤によって不完全ながら巡回路ができれば、完成度が60%~80%と言ってよいだろう。不完全とは、通過していないマスが残っているという意味である。再び残っているマスを通過するように順路を更新していけば、完成度が100%の最適解に到達できるだろう。

 このように、順路の近似解から出発して、順次予測誤差を小さくしていくアクションは、人間の認知機能が無意識に行っているプロセスである。

 次に、このパズルの作成者のアイデアをお借りして、自分なりの問題を作成する。

 最初に順路を設定していき、その順路から外れたマスに相手駒を配置していけば、容易に問題を作成できる。いくつかの案を作ってみたが、シンプルすぎてつまらないという感想となる。改めてパズル作成者が作られた盤中心部の順路はよくできていると思う。まず、盤周辺部の1ヶ所の切れ目から盤中心部に移行する部分の順路が予想外である。また、盤中心部の順路には、斜め方向に5段の階段を登っていくギザギザした部分が含まれていて、プレイヤーを困惑させる。

 そこで、周辺部を巡る巡回路の2ヶ所の切れ目から各々盤中心部に移動する順路とした。特に盤の左下部分の順路がプレイヤーを困惑させるだろう。相手の駒数は13個に抑えた。

 以下にでき上った将棋盤を図示する。



 最後に、最適解は一意に決まり、代替路はないことを確認する。