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重力波の発生源は超高エネルギーの散逸機構である

2019-02-17 08:31:51 | ブログ
 ブラックホールや中性子星などの巨大な質量の天体が動くとき、その周囲の時空のゆがみが重力波として伝播する。そして、2015年にその重力波が初めて観測されたというニュースが2016年2月に発表された。

 それから2年経つが、その間、理論的に予言されていた重力波がついに検出されたかという程度の関心しかもち得なかった。

 重力波初観測の何年か前に、重力波観測についての講演を聴く機会を得たが、なぜ講演者が話すような超精密な観測を敢えて行おうとするのか、その真意が聴講者に伝わらなかったように思う。

 しかし、最近になって、新聞記事で「2015年の重力波観測によって、太陽の36倍と29倍の質量をもつ2つのブラックホールが衝突・合体し、質量は62倍になったことが分かったこと」と、「失われた太陽の3倍の質量分のエネルギーが重力波として放出されたこと」を知り、これはただごとではないぞという気になった。

 そこで、この際、後ればせながら、そのような超高エネルギーを放出する重力波の発生源はどうなっているのかに焦点を当てて、ブログの記事を書くことにした。

 観測された重力波の発生源は、連星ブラックホールと呼ばれる二つの近接ブラックホールであることが分かった。この連星について議論する前に、予行演習をしておこう。

 想定する装置は、ダンベルの回転モデルである。重さ100トンの鉄球2つを長さ10mの棒でつないでダンベル状の物体をつくり、それを水平面内で1秒間に10回転させるという装置を考える。

 この際に観測される重力波の振幅hがどのくらいかを計算すると、参考文献によればおよそ10^-42くらいになるという。また、1秒間に放射される重力波のエネルギーは10^-29W程度になるという。

 鉄球の質量をM、棒の長さをl、回転するダンベルの角速度をwとすると、1秒間に放出される重力波のエネルギーPは、次の計算式で計算できる。
   P=(8G/5c^5)M^2l^4w^6
Gは重力定数、cは光速度である。

 より詳細には、物体の質量四重極モーメントというものの時間変化率を計算することによってこの計算式が出てくるとされるが、話が難しくなるので、この式から出発することにしよう。

 電磁波のエネルギーを計算する式には電磁波の振幅に相当する電界強度Eが必要であるが、重力波の場合にはその振幅hは必要ないのである。

 鉄球の位置は固定されているので、ダンベル回転の全エネルギーはその運動エネルギーに等しい。従って、重力波エネルギーは、運動エネルギーの微小部分を削り取ったものと考えられる。

 重力波源を中心にして距離rだけ離れた地点において、単位面積あたりを通過するエネルギーの流れは1/r^2に比例することになる。なお、重力波は指向性をもつため、距離rが充分離れていないと平均的なエネルギーの流れを観測できない。参考文献によれば、rとして少なくとも15000kmが必要という。

 上記の式に従って、このダンベル回転モデルが放出する重力波のエネルギーを計算してみると、10^-28Wくらいになる。この計算式に従って以下の計算を進めてよいだろう。

 次に、それぞれ太陽と同じ質量=2×10^30kgをもった連星が直径1000kmの円軌道(周期0.4秒)を回っている場合に発生する重力波のエネルギーを計算してみよう。この場合には、上記式がそのまま使える。

 計算結果は、2.4×10^39W/秒である。

 この連星の運動は、地球に対する落体の運動そのものと言っても過言ではないだろう。地球に向かって落下する物体は、ただ地球の周囲を回るに必要な初速度がなかったというだけの違いであるから。落体が落下に伴って失った位置エネルギーは、エネルギー保存則に基づきその運動エネルギーに転換される。

 重力波を放出しながら回転する連星は、ダンベルの回転運動のように、連星の運動エネルギーの一部を重力波エネルギーに転換すると考えることができる。しかし、連星の運動エネルギーが減少すると重力と遠心力とのバランスが崩れ、連星は落体の運動のように落下状態になると考える。この結果、連星の位置エネルギーの一部が重力波によって失ったエネルギーを補って余りある運動エネルギーに転換され、連星の運動エネルギーはかえって増大する。

 ここでは、敢えて重力波放出によって失った分のエネルギーが位置エネルギーの減少分になると仮定してみよう。上記連星間の位置エネルギーは、-GM^2/lであるから、重力波放出によって1秒間に失った位置エネルギーを引いたときの軌道直径を計算すると、結果は9m短縮となる。

 連星の軌道直径が短縮すると、角運動量保存則により回転の角速度は加速度的に増大する。そうすると、放出される重力波のエネルギーは角速度の6乗に比例して増大し、二つの星は急激に接近して、ついには衝突・合体する。参考文献によれば、上記連星は11.4時間後には衝突するという。

 なお、連星の公転周期が少しずつ短くなっていくことは、今回の重力波観測以前に連星パルサーの観測によって確認されている。連星パルサーとは、中性子星特有のパルス状の電波信号を放出している連星中性子星のことである。

 このようにして次第に近づいた連星は、合体の直前になると、光速に対しても無視できないほどの速度で運動する。この段階では相対論的効果をきちんと加味した計算をする必要がある。

 連星の二つの星の質量が異なっている場合も同様である。回転周期が短くかつ質量の大きな連星ほど早く衝突する。

 重力波観測の対象となった太陽の36倍と29倍の質量をもつ連星ブラックホールの場合について両ブラックホール間の距離が上記連星と同じ1000kmとする。この二体問題についてもケプラーの法則が成り立つとすれば、このときの連星ブラックホールの回転周期は0.4秒より小さくなければならない。従って、その後衝突するまでの時間は11.4時間より短くなる。

 連星ブラックホールが衝突する直前から衝突した後までに観測された重力波の波形については、参考文献の説明が詳しい。

 連星ブラックホールが衝突・合体する合体期では、大規模な重力崩壊によって生じるあり余るエネルギーがブラックホール自体を食いつぶして超高エネルギーの重力波を散逸させたものと考える。重力波発生のピークに達したのである。ここでは、E=mc^2の法則に従って、質量を電磁波ではなく重力波のエネルギーに転換する以外の選択肢はないようだ。

 最後に、連星ブラックホールの合体によって新しくできたブラックホールが振動し、重力波を放射してエネルギーを失いながら落ち着いていく段階について記述しておこう。このとき、観測される重力波は、一定の周波数の信号の振幅が次第に小さくなっていくような減衰振動の波形になっていた。この信号波形からブラックホールが合体したあとの質量(太陽質量の62倍)が計算された。

 お寺の鐘を打つと鐘が振動し、音波となって伝播するが、そのときの音の周波数から鐘の質量を推測できるという。ブラックホール合体後の段階をリングダウン期と呼ぶのもよくその状態を表現しており、それにふさわしい命名である。

 参考文献
 安東正樹著「重力波とはなにか」(ブルーバックス)
 坪野公夫著「時空のさざ波」(丸善)