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数学の不定方程式と相転移

2024-09-08 09:45:27 | ブログ
 2011年7月17日に投稿したブログ「数学の組合せ論に現れる相転移」が、いまだに自身の人気ブログ・ランキングに入るのを見て、数学問題と物理学の相転移とを関連付けることに興味をもつ人が少なくないことを知った。

 NHKテレビの数学教室で、解が不定の方程式を扱うというテーマの下に、いくつかの問題が紹介されたが、その中の一つ「フロベニウスの式」を知り、相転移と関連付けて語りたくなった。

 4円玉と7円玉の硬貨の組合せのように、x円貨幣とy円貨幣を各々0,1,2…枚組み合わせて任意の金額をつくるとき、組合せできない金額と組合せできる金額とが存在する。フロベニウスの式とは、組合せ不可となる金額の最大数をMとするとき、xy-x-y=Mの式で表現できるというものである。たとえば、x=4,y=7の場合には、M=17となる。

 x=2, y=3の場合には、M=1となるので、2以上の金額数の場合には、すべての金額が組合せ可能となる。多くの整数は2または3で割り切れるし、任意の素数はより小さい素数と偶数の和で表せると予想できるので、ありうることである。

 x=13, y=17の場合はどうか。M=191となるので、191が組合せ不可となる金額の最大数である。つまり、13円貨幣がm枚、17円貨幣がn枚とするとき、不定方程式13m+17n=191に整数解がないことを表明している。192以上の金額数のいくつかについてこの方程式の整数解が存在することを確認できる。

 x,yがより大きな素数の場合にも、Mは大きくなるが、Mを越える数値について、mx+nyが整数解をもつことが予想できる。すなわち、M未満の数値については、x,yの組合せの可否が不揃いであるが、Mを越える数値については、一転してすべて組合せ可能となる。強磁性を示す物質を加熱していくと、臨界温度を越えた温度でその磁性が失われる相転移の現象に類似している。

創発について語る

2024-08-18 11:43:06 | ブログ
 自然科学ダイアログで、「創発は部分と全体の関係を埋めるのか?」をテーマとしてダイアログすることになり、この機会に自分の見解をまとめておこうと考えて筆をとった。「創発」とは、非線形科学や複雑系科学で使われる用語であり、英語のemergenceの訳語と思われる。emergeという動詞からつくられたemergenceは、ひとりでに(自然に)出現する現象を意味する。「創」は「ひとりでに」を意味し、「発」は「発現する」を意味するのであろう。

 力学系において、系の構成要素が集団をつくると、全体として単独の要素の特性からは説明できないような物性を示すことがある。よく挙げられるのが、水分子がその温度を変えることによって、気体・液体・固体のように相を変える「相転移」という現象である。また、強磁性を示す物質を加熱していくと、ある温度(キュリー温度)でその磁性が失われることが知られている。相転移の一種である。また、高温状態にある熱源と低温状態にある熱源との間にある熱平衡状態にある液体について、二つの熱源の間の温度差を大きくしていくと、対流という別の物性を示す状態になる。熱平衡状態から対流状態への相転移である。これらの例は、構成要素どうしの相互作用が生み出す非線形現象である。

 保存力学系では、エネルギー保存則が成り立つとともに、系のエントロピーは最大のままその増減はないものと理解する。系全体の物理量さえ分かればよいのであり、ミクロな部分の物理量は意味をもたないことになる。

 散逸力学系では、エネルギーの散逸があるとともに、エントロピー増大の法則が成り立つ。多くの散逸力学系は、構成要素どうしが強く関係しあう非線形システムとなり、システムが自らを組織化していく自己組織化とよばれる現象を示す。ここでいう自己組織化とは具体的にどのような現象か解析できれば、その解析結果から説明できるものと考える。

 非線形科学の研究を通じて、全く異なる現象の間に共通の不変構造を見出すようになり、数理現象学のような分野が展開されることになった。その結果、人間の社会にも数学的な法則によって説明できる現象が少なくないことが見出され、特に人間関係のネットワークやインターネットがしたがう法則として、ネットワーク理論が有効なことが知られるようになったのである。

 世界には70億人もの人間が生活しているが、一人の人間が残りのすべての人間との間に情報交換のリンクをもつということはあり得ない。しかし、一人の人間は他の任意の一人の人間との間に平均して6段階の情報交換リンクがあればつながるという。隔たり次数が6という数値で表現できる。世間は狭いという意味で、スモールワールド・ネットワークと呼ばれている。

 一人の人間は、平均すると数十人の知り合いがいて、比較的強い絆の下に情報のリンクをもつことになるだろう。この人間を中心としてリンクの「群れ」をつくっているという意味で「クラスター化」していると言える。このようなクラスターは、全世界の人間に及ぶ類のものであり、かなり普遍的なものである。したがって、このようなクラスターの平均リンク数を用いてすべてのクラスターが規則的につながるようなネットワークのモデルをつくることは容易である。しかし、そのようなモデルの隔たり次数を計算すると、予想されるように大きな数値となり、6次の隔たりという現実世界を説明できない。

 そこで、このモデルに、対象者を任意に選んで二者間のランダム・リンクを加えてみると、隔たり次数が急激に低下することが分かる。全世界の人間の間の平均の隔たり次数を6にするには何本のランダム・リンクを加えたらよいか計算できるだろう。参考文献によると、「スモールワールドを作りだすためには、つねにごく少数のランダム・リンクがあれば十分である」という。ランダム・リンクは、クラスターを構成するリンクとは別枠となり、「弱い絆」のリンクと呼ばれるが、スモールワールド・ネットワークを構成するためには、決定的に重要である。

 参考文献の文言を引用すると、「隔たり次数は、ある場所と別の場所とのあいだで情報を行き来させるのに要する一般的な時間を表しているから、スモールワールドの構造は、情報処理の能力と速さに寄与することになる。」

 脳の神経細胞(ニューロン)のネットワークも、スモールワールド構造になっている。参考文献を引用すると、「脳は一つのまとまりをもった統一体として驚くほど見事に協調した働きをしており、どんな瞬間にも、完全に統合された意識の反応を一つだけ作りだしているのである。」

 別の自然科学ダイアログで、出席者の一人が、宇宙の大規模構造と脳の神経細胞のネットワーク構造とが類似しているという研究成果を紹介したことを思い出した。宇宙の大規模構造とは、宇宙に存在する数多くの銀河が形作る空間分布パターンのことであり、銀河団は互いにフィラメント状に連なって超銀河団を形作り、銀河が比較的少ない領域(ボイド)を取り囲んでいるという構造をもつ。宇宙の大規模構造は、誕生間もない宇宙で生み出された原始密度ゆらぎがその後の宇宙膨張と重力的進化にともなって成長した結果、形成されたものと考えられている。神経ネットワークの形成に際しては、宇宙膨張と重力の影響を無視できると考えられるので、それでもなおかつ両者の構造が類似しているとなると、システムの構成要素間に働く相互作用の種類が異なっても類似したパターンになるように自己組織化されるということだろうか。素人目には、重力の大きさが及ぼす作用の大きさを決める宇宙の大規模構造と、アクセス頻度の大きさがハブの影響力の大きさを決めるインターネットのリンク構造との類似性に注目したくなる。

 企業などの組織がかかわるデジタル・トランスフォーメーション(DX)は、単にIT化やデジタル化により業務を効率化するだけでなくデジタル技術を活用して組織や企業文化・風土を変革することとされている。これは、環境変化に応じて企業の相を変えることであるから、力学系における相転移に類似していると思われる。

 参考文献によれば、人間社会のネットワークもインターネットも、「すべて、ニューロンのネットワークや生体細胞内で相互作用している分子群のネットワークともまったく同じ組織的構造をもっている」とのことである。こうなると、細胞内の分子ネットワークは、どのような構造をもっているのか探究したくなる。

 ネット情報によると、細胞内分子の相互作用ネットワークよりも、細胞間相互作用ネットワークの方が早く明らかになりつつあるようだ。ほとんどの細胞が数十種から数百種のリガンド(細胞から分泌されるホルモンや成長因子など)や受容体(細胞膜に存在するタンパク質)を発現しており、複数のリガンドー受容体経路を介した細胞間相互作用ネットワークを構築しているという。この相互作用ネットワークの全体像から、細胞間コミュニケーションのために使用するリガンドー受容体ペアの種類数の多い細胞系列がハブとなり、その種類数の少ない細胞系列を圧倒していることが読み取れる。

 生体細胞内で相互作用している分子のシミュレーションが行われており、いずれ相互作用ネットワークの構造も明らかになるだろう。このネットワーク構造と細胞内タンパク質についての要素還元的な研究成果とを合わせると、細胞内で行われる自己組織化の詳細が理解されるものと期待する。

 生命とは何かについて、シュレデインガーの著作以後にポール・ナースの「生命とは何か」が出版されたり、「動的平衡」のような哲学的概念を提唱する人も出てきた。そもそも生命というものを「自己組織化」などの自然科学の用語や数式によって記述できるものか否か根本的な疑問がある。

 「生命」は俗語であるとともに、形而上学的な言葉でもある。宇宙が物質を駆動して行っているシミュレーションのうち、我々の意識が特別な構造をもつ物質の活動と捉えているものを「生命」と呼んでいる。そうであれば、「生命」とは我々の意識がつくりだす幻想かも知れない。「生きている状態」と「死んでいる状態」との違いは、同じ物質についての相の違いを意味するだけかも知れない。

 参考文献
 蔵本由紀著「非線形科学」(集英社新書)
 マーク・ブキャナン著「複雑な世界、単純な法則」(草思社)
 清水博著「生命を捉えなおす」(中公新書)

「円周角の定理」を証明する

2024-07-28 09:58:13 | ブログ
 NHKテレビの数学講座を見ていて、「円周角の定理」を知った。図に示すように、半径rの円周上に定点A,Bと動点Pがある。このとき、円周角APBは、一定値をとるというものである。



 円の中心をOとし、線分ABの中点をMとする。円周角APBの角度をaとする。角AOMの角度をbとする。三角形OABは二等辺三角形であるから、角OABと角OBAは等しく、各々の角度をcとする。つまり、2b+2c=PI(パイ)が成り立つ。角度2bをもつ角AOBを中心角という。

 角BOPの角度をdとする。三角形OAPは二等辺三角形であるから、角OAPと角OPAは等しく、各々の角度をeとする。三角形OAPについて内角の和をとると、
   d+2(b+e)=PI
となる。

 三角形OBPも二等辺三角形である。角OBPの角度をfとする。三角形OBPについて内角の和をとると、
   d+a+e+f=PI
となる。f=a+eであるから、
   d+2(a+e)=PI
となり、
   d+2(b+e)=d+2(a+e)
が成り立つ。
 すなわち、a=bとなり、円周角APBは中心角AOBの半分に等しいことが証明された。

高校数学の問題を解きながらブログのテーマを探す

2024-07-07 08:08:50 | ブログ
 ブログのテーマは、非日常的なものになる傾向があるので、日常生活の中からテーマを見つけるのは難しい。また、新着の新聞や雑誌の記事や科学講演などから偶然にブログのテーマが思い浮かぶことが多い。それでは、日常的にどのような準備をして、偶然の機会に備えればよいのだろうか。

 思い付いたのが、毎日のように高校数学の問題集の問題を解くという方法である。もちろん、そのような問題を解くことが目的ではない。老人の脳は集中力を欠くので、数学問題を解くには適さない。目的は、標準的な論理思考能力を維持することにある。

 高校数学問題の代わりに、中学数学問題や数独のようなパズルも考えられる。しかし、数独はアルゴリズムが決まっているので、完結が容易であり、達成感が少ない。高校数学問題は、各問題ごとに解決するためのアルゴリズムを考えることから始めねばならず、相当難しいだけあってその達成感も大きいのではないかと考える。

 実際に問題に当たってみると、老人の能力の限界を感じる。思い込みや勘違いに起因する抜けやとり違いによるミスが多い。また計算ミスも多いので、若者の平均的な成績には及ばないだろう。目的は成績向上ではないのだ。論理思考の継続だけで充分なのである。ただ達成感がなければ続かないだろう。もし数学問題の中にブログのテーマにつながるものがあればラッキーであるが、期待しない方がいいだろう。老人が数学問題を考えるプロセスは、集中的とは反対で、時間制限もないため、発散的となる。

 目の健康寿命は70歳と言われる。数学問題を考えている間、目の使用を削減できる。問題によっては、寝ながらでも考えることができるだろう。しかし、ここでも限定的である。老人は、数式操作が苦手なので、複雑な数式操作にまで立ち入らない基本的な数学概念の理解と問題の全体的構造ぐらいが可能だろう。

 たとえば、高校の数学Cには、ベクトル方程式なるものが出てくる。その問題を解こうとして、ベクトルと内積の概念を理解していないがために、安易な数式操作で片付けようとして、とんでもないミスをしてしまう。

 大学数学の「代数学と幾何学」でベクトルについて習ったが、ベクトル方程式が出てくることはなく、ベクトル演算に関する演習問題を解くことは、ほとんどなかった。今はどうか知らないが、その当時の大学数学では、ベクトルは線形代数を習うための準備学習程度の扱いだったのではなかろうか。

 一方、高校数学Cでは、図形がからむようなベクトル演算をさせる演習問題が多い。しかし、そうなると、また別の大きな問題が生じるのではなかろうか。高校数学では、行列を習わないのであるから抽象的な線形代数を習うことはない。そうであれば、二次元と三次元空間についてのベクトル演算のやり過ぎは、大学で線形代数を習うときの障碍になるのではなかろうかという心配である。

 こしてみると、個々の数学問題に対して数学概念や全体的構造の把握、いわゆるメタ認知と言われるものが重要であることが分かる。これは主として瞑想的思考によって得られる。そうであれば、瞑想的思考を活性化し、主として手を使う数式操作を抑制ぎみに行えばよいのである。

 NHKテレビの数学講座を見ていて、「円周角の定理」を知った。半径rの円周上に定点A,Bと動点Pがある。このとき、円周角APBは一定値をとるというものである。この定理の証明を試みたので、次のブログでは、その証明について書くことにした。

ブラックホールに投げ込まれた本の情報の再現

2024-06-16 08:15:38 | ブログ
 参考文献「重力とは何か」は、ブラックホールに投げ込まれた本の情報を再現できるか否かを議論し、その結論として、「技術的に計算が難しい問題はあるものの、原理的には情報が失われないことが証明されています。」と結んでいる。そこで、量子力学、統計力学および量子コンピューティングの系統をつないで、この結論を説明しようと考えた。

 量子力学において、定常状態にある力学系は、時間を含まないシュレーディンガー方程式で表現できる。この方程式は、波動関数にハミルトニアン(ハミルトン演算子)Hを作用させたものがエネルギーeに波動関数を掛けたものに等しいことを示している。波動関数は、この方程式の解である。一般にエネルギー・レベルは無数に存在すると考えるので、eの値にe1,e2,…のように添字をつけて区別し、これらそれぞれに対応する解にも同じ添字を付して区別する。時間を含まないシュレーディンガー方程式を解くことは、ハミルトニアンHの固有値(エネルギー固有値)e1,e2,…と対応する固有関数を求める問題となる。

 ブラックホールは、ホーキング放射と呼ばれる熱放射によって、たえずエントロピーを生成しては外部に排出する散逸力学系に属する。したがって、ブラックホールに投げ込まれた本とその情報は、時間の経過とともに、いつかは外部に排出される運命にある。しかし、ブラックホールの寿命に比べて本とその情報を内部で処理する時間が充分に短い場合には、まずはブラックホールを定常状態にある保存力学系とみなしてよいだろう。

 量子統計力学において、定常状態にある力学系は、上記の時間を含まないシュレーディンガー方程式を使うことができる。ここで、エネルギーeiに対応する波動関数は、その量子状態iを示す。量子状態iは、1と0の並びで計数できると仮定されている。量子状態iは、本という物質の状態だけでなく、それに含まれる情報も包含していると考える。よって、エネルギーeiが決まれば、対応する量子状態iが決まり、それに含まれる情報も特定できるのである。

 量子状態iを表す2進数をベクトルの形式で表したものを状態ベクトルiと呼ぶことにする。ブラックホールに本を投げ込む場合には、投入直前の状態i、投入直後の状態jおよび一定時間経過後の状態kの少なくとも3つの状態が存在すると考えられる。状態i,j,k間の状態遷移を遷移行列を用いて表すことができる。そうすると、数学的には状態ベクトルiに遷移行列ijを作用させると、状態ベクトルjに移行し、状態ベクトルjに遷移行列jkを作用させると、状態ベクトルkに移行する。

 量子コンピュータを用いてブラックホールに投げ込まれた本の状態遷移をシミュレーションするものとする。このとき、遷移行列としてユニタリ行列という形式の行列を用いる。ユニタリ行列とは、元の行列とその転置行列を掛けた行列が単位行列になるという性質をもつ行列のことである。転置行列とは、元の行列に対して、その行と列を入れ換えた行列のことである。ユニタリ行列の転置行列をとると、それは元の行列の逆行列になっている。ユニタリ行列の逆行列は、元の行列の行と列を入れ換えただけのものであるから、必ず逆行列が存在する。つまり可逆計算が可能になる。

 このようにして、本の投入直後の状態から一定時間経過後の状態を計算し、後者の状態から前者の状態を計算すると、原理的にはブラックホールに投げ込まれた本の情報を再現できることになる。

 仮にホーキング放射によって本の情報が外部に流出することがあっても、上記の計算手順が適用できる限り、本の情報を再現できると考えるが、異論があるかも知れない。

 参考文献
 大栗博司著「重力とは何か」(幻冬舎新書)
 西野哲郎著「量子コンピュータ入門」(東京電機大学出版局)