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人間の脳が時間の流れを意識する

2019-12-08 08:28:42 | ブログ
 時間について論じた参考文献を読み、時間に関する物理学の説明から始まって人の脳が意識的に行う時間認識に至るストーリーの展開の仕方に感銘を受けた。

 そこで、量子の相互作用に起因する量子変数の非可換性とか、ループ量子重力理論のような難しい話を回避しながら、物理学の基本方程式の話から始め、エントロピーを中心とする熱力学に関する説明を経由して脳で生じる「時間の意識」の話まで、参考文献の要約を中心にして自分の言葉で説明することにした。この要約には、私の補足的な記述が加わる。

 できれば本ブログの形でブログのアーカイブに残したいので、参考文献の出版社のご了解を希望します。

 物理学には、ニュートンの運動方程式、シュレディンガーの波動方程式、アインシュタインの重力場方程式などの基本方程式がある。これらの基本方程式には、過去と未来の違いは存在しない。言い換えれば、過去から未来に向かった「時間の矢」は存在しないので、基本方程式は、未来に向けた事象の時間発展を記述するとともに、過去に向けた時間発展をも記述する。

 例えば、量子スピンホール効果と呼ばれる現象では、上向きスピンの流れと下向きスピンの流れは、互いに時間反転対称性を保ったまま共存する現象であることが確認されている。つまり、一方の流れが過去の現象であるとすれば、他方の流れは未来の現象ということになる。こうなると、現在時点というものがどこにあるのか不明である。

 相対性理論によれば、宇宙には絶対時間なるものは存在しない。すなわち、宇宙全体に共通な単一の時間というものが存在しない。時間と言えば、空間の各点に存在し、「固有時間」と呼ばれるそれぞれ異なる時間があるだけである。自分のいる場所に対して相対的に速い速度で動いている物体に乗っている人の時間はゆっくり進む。また、人がいる場所で作用する重力の大きさによっても時間の進み方は異なる。重力が大きい場所ほど時間はゆっくり進む。

 大量の気体分子が集まっているような孤立系では、個々の分子が走り回り、他の分子と衝突してランダムに方向を変えており、走行する分子の位置や速度を知ることはできない。つまり、この孤立系のミクロな状態を知ることはできないということである。しかし、この系全体のマクロな状態は、温度、圧力、エネルギー、エントロピーなどの熱力学的な物理量を用いて語ることができる。特に、系のエネルギーは、ミクロな状態がどう変わってもそれ自体は変わらない。

 マクロな状態としてのみ記述される物理系では、包括的なマクロの状態が時間を決める。参考文献の著者の言葉では、マクロな状態では不鮮明な(ぼやけた)像しか得られないので、「時間が決まるのは、単に像がぼやけているからである」ということになる。

 ここでぼやけた像とは何なのかということが問題になる。普通に考えつくことは、物理系のミクロな状態は熱運動によってランダムに変化するので、マクロな状態にゆらぎが生じる。これがマクロな像がぼやける要因と考える。参考文献の著者は、問題の物理系には近隣の系あるいは属している銀河など他系からの相互作用が働くためにマクロな像にぼやけが生じる、と言う。

 著者によれば、この世界のエントロピーは、この世界の配置だけではなく、世界の像のぼやけ方、つまり相互作用の仕方によっても左右される。そして、そのぼやけ方は、自分たちがどの変数と相互作用するか、つまり我々がこの世界のどの部分に属しているかによって変わってくる。

 物理系を構成する要素が秩序正しく整列している状態を系のエントロピーが低い状態と言う。逆に系の要素の配置が混沌としている状態をエントロピーが高い状態という。

 エントロピーが低い状態の系は、熱力学の第二法則(エントロピー増大の法則)に従ってエントロピーの高い状態に移行する。この移行が時間の流れを形づくる。系が熱平衡状態にあるということは、そのエントロピーが最大になるということであるから、時間の流れはないことになる。もはや過去と未来の区別はなく、何も起こらない。

 宇宙という空間のなかに部分集合をとると、エントロピーの低い領域とエントロピーの高い領域とがあり、決して一様ではない。地球上の生物は、エントロピーの低い領域に生息していると言える。太陽という低いエントロピーの豊かな源の恩恵を受けているためである。

 生物は、低いエントロピー資源を取り込み、各種の化学反応過程を通じて系のエントロピーを増大させることによって全体が機能する。これは、過去にはエントロピーが低い状態であった系がエントロピーの高い状態に移行したということであり、ここに過去と未来の違いが生じる。これによって過去が現在のなかに痕跡を残すことになる。つまり、そこには記憶が存在し、痕跡が残り、生物の進化の跡をたどることができる。

 過去の痕跡が豊富だからこそ、「過去は定まっている」という感覚が生じる。未来に関しては、そのような痕跡が一切ないので、「未来は定まっていない」と感じる。

 人間の脳は、過去の記憶を集め、それを使って絶えず未来を予測しようとする仕組みである。我々は、進化の過程を経て、過去の出来事と未来の出来事にまたがって生きていくのであり、それが我々の精神構造の核となっている。つまり、時間が経過したという意識は、自分の内側にあるのであり、それは精神の一部であり、過去が脳の内部に残した痕跡である。

 多くの動物は、捕食者が近づくと、本能的な恐怖にかられて逃げようとするが、死の恐怖を意識することはない。しかし、前頭葉が異常に肥大した人間は、未来を予測する能力を過剰に持つに至った。その結果、人は、避けられない死という見通しを意識することになり、怯えて逃げようとする本能のスイッチが入る。

 参考文献
 カルロ・ロヴェッリ著「時間は存在しない」(NHK出版)