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近藤先生の講演を聴いて考えること

2022-04-10 08:04:54 | ブログ
 今年3月に大阪大学の近藤滋先生の貝殻の形の生成とチューリングの反応拡散モデルに関する講演を聴いた。

 話は先生が作られた貝殻の形態モデルから始まる。インターネット記事によれば、先生の貝殻形態モデルは、そのパラメータの値を変えるだけで、現実に存在する貝の95%くらいをシミュレートできるとのことである。この貝類には、巻貝や二枚貝ばかりでなく、ミミズがとぐろをまいたようなコケミミズガイのような貝も含まれる。プロの仕事の完成度の高さにショックを受けている。

 私も先生の講演の前から貝殻の形態モデルをつくる準備をしていた。先生のように多数種の貝類を網羅するような形態モデルをつくることは到底できそうもないので、シンプルな巻貝の一種類に絞ったモデルを目標とすることにした。

 出発点は、らせん曲線である。対数らせんは、極座標表示(r,t)で
   r=aexp(bt)
と表される。tは角度シーターである。a,bは定数である。対数らせんは、自己相似の曲線である。つまり、r(t+2パイ)はr(t)のらせん曲線に一致する。また、r1=a1exp(bt)とr2=a2exp(bt)とは、任意の角度tについてr1/r2=a1/a2が成り立つ。らせん曲線のピッチは、bの値によって決まる。

 (x,y)直交座標では、tを媒介変数として、
   x(t)=aexp(bt)cos(t)
   y(t)=aexp(bt)sin(t)
と表される。

 3次元空間では、一般に、らせん曲線のz成分のピッチがx,y成分のピッチと異なるので、少なくともbは異なり、
   z(t)=cexp(dt)
と表される。c,dは定数である。

 貝殻の円錐管の中心線が上記のらせん曲線になっていると想定される。円錐管の開口部の拡大率は、らせん曲線のピッチに依存していると考えて円錐管をつくろうとして失敗した。開口部の拡大率は、らせん曲線の拡大率とは独立して設定する必要がある。貝殻の形態モデルは、3DCGの分野になるので、支援ツールなしでは難しいと考えていた。しかし、その後、円錐管は、らせん曲線によって誘導されるので、この特性を生かして、らせん曲線の全体のうち、円錐管を表示するのに必要な部分だけ、らせん曲線にリンクさせれば、計算ステップを節約できるのではないかと考え、詳細設計を検討中である。

 近藤先生の貝殻形態モデルの話に戻る。貝殻の形態と言えば、同じ種類の貝であっても個体によってその形態がばらつくはずであり、個体の寸法を計測し、統計処理をして、らせん曲線のパラメータと開口部の拡大率を求めるのではないかと想定していた。しかし、この考えは見当違いであった。先生の貝殻形態の数理モデルは、そのパラメータを変えるだけでいくらでもモデルを実際の貝殻の形態に近づけることができるようだ。

 先生の講演が終わった後、先生の貝殻数理モデルが教えるものは何かについて考えていた。そこで、以前「教養教育の再構築」というシンポジウムで、元三菱マテリアルにおられた桜井宏さんが言われた言葉: 「身につけるべきは概念であり、(頭の)スキルである、事実のほうは適当なものを使えばよい」を思い出した。

 そう言えば、近藤先生は、魚や動物の模様がチューリングの波であることを実証した業績で有名になられた。こちらの分野でも、コンピュータ・シミュレーションの結果が決め手になったのであるから、概念志向ということになる。貝殻形態モデルとともに、いくらなんでも生物学の分野で概念志向、スキル志向は無理でしょうという思い込みを覆したのではなかろうか。

 こうなると、生物学の分野には、ほかにも数理モデルを作成できるような対象があるのではなかろうかという方向に興味が向く。

 ここでまた別のことを思い出した。モノの長さや重さなどを計測するときの基準となる世界標準のものさし(度量衡)は、今やモノではなく概念の規定になっているということを。

 参考文献
 近藤滋著「すべての貝の形は、同じ「法則」で作られているのをご存じか?-実は2枚貝も巻貝も「同じ形」」(インターネット)