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物理学に現れる対称性と保存則

2023-07-16 08:39:59 | ブログ
 参考文献1を読んでいて、量子力学に出てくる対称性と保存則には密接な関係があることを知った。保存則については教科書に記載してあるが、読んでもすぐ忘れるし、両者の関係となると、明確な記載のある教科書があるのだろうか。そこで、この際、両者の関係を整理してみることにした。

 物理学には、様々の種類の対称性が存在する。たとえば、CPTの略号で呼ばれる荷電共役対称性(正負の電荷の変換に伴う対称性)、パリティ対称性(鏡像対称性)および時間反転対称性がある。CPT定理とは、荷電とパリティ、時間を同時に変換しても1つの絶対的不変量が存在するという定理である。これらの対称性に対して、並進対称性や回転対称性はあまりにも当たり前過ぎていて、そう言われるまでは対称性と気付かないほどである。しかし、他の対称性と同様に、これらの対称性も、保存則とは切っても切り離せない関係をもつ。

 量子力学において、エネルギー保存則は、主量子数が不変量であることを意味し、対象を平行移動させてもエネルギーが変わらない並進対称性と結びついている。(線形)運動量は、エネルギーを記述する式の一部または全部として現れるので、運動量保存則は、主量子数に反映されるとともに、並進対称性と結びつく。電子の軌道運動による角運動量については、(軌道)角運動量保存則が成り立ち、方位量子数と磁気量子数が不変量となる。方位量子数は角運動量の大きさを表すと考えられる数であり、磁気量子数は角運動量ベクトルのz成分を示す数である。角運動量保存則は、回転対称性が前提となっている。

 軌道角運動量とは別に、電子はスピン角運動量とよばれるそれ自身の角運動量をもつので、その量を表すスピン(磁気)量子数が不変量である。スピン量子数は、上向きスピンまたは下向きスピンを示す値をとる。原子内で等しいエネルギー準位に入る2つの電子が同じ軌道角運動量をもつ場合、スピンについては別々の値をとる。ペアとなる2つの量子がもつ対称性は、鏡像対称性に属する。

 数学者ネーターは、対称性はあまねく保存則に従うことを証明した。ネーターの定理とよばれる。

 「量子もつれ」とは、重ね合わせの状態にある複数の量子の間で、そのうちの1個の量子の状態を測定すると、他の量子にも瞬時に影響が及ぶという状態のことをいう。たとえば、ペアとなる2つの電子が量子もつれの状態にあるとき、一方の電子のスピンが上向きであれば他方の電子のスピンが下向きの値を取るという相関関係が付与された状態である。この相関関係は、2つの電子が遠く離れていたとしても保持されるので、「非局所的長距離相関」という。対称性に基づく保存則は、他の事象の介入がない限り破られることはないのである。

 量子もつれが示す長距離相関と因果律とを混同してはならない。因果律とは、すべての事象は、必ずある原因によって起こり、原因なしには何ごとも起こらないという原理のことである。参考文献1は、「量子もつれは、相互作用ではなく、粒子間の相関である。そのため、因果律に厳格に則った伝播(一連の相互作用が光速以下で連鎖する伝わり方)より速く結果を伝えることができる。」とし、「一般空間で因果律の伝わる速さは光速が上限である。つまり、ある原因による結果は、原因からの作用が光速で伝達こそすれ、それより早く発現することはないのだ」と説く。因果律の下では、過去の事象が原因となって将来の結果に影響を及ぼすことはあっても、将来の事象が原因となって過去の結果に影響を及ぼす逆因果律はないのである。

 量子もつれ以前の話として、量子がもつ「粒子と波動の二重性」というボーアの相補性は、時間反転対称性をもつので、時間の流れを逆にしても成り立つ。ホイーラーは、これを検証するために、「遅延選択実験」という思考実験を提唱した。通常の量子干渉実験のときのように、一度に一個の光子を放出して二重スリットを通過させる。二重スリットの後ろには、光子がつくる明暗の干渉縞を受けるためのスクリーンを置くか、光子を検出するための2つの検出器を置くかを選択できるとする。しかも、光子の検出を遅らせ、実験者は、光子がスリットを通過した後に、スクリーンを入れるか外すかを決められる。それぞれの光子検出器は、二つのスリットの延長線上に当たる場所に設置されるので、光子がどちらのスリットを通過したかを判別できる。「光子はスクリーンに当たったときは波として振る舞い、検出器に当たったときは粒子として振る舞うが、どちらとして振る舞うかはスリットを通過した時点ではなく、スクリーンを出し入れしたときから時間をさかのぼって、スリットを通過する光子に影響を与えると考えられる(参考文献2)。」「遅延選択実験に従えば、現在の観測者が観測を実施すると、過去において量子崩壊が発生する。つまりは、過去を操作することができるのである(参考文献1)。」

 量子の世界の逆因果律が本当であるとしても、それはミクロの世界で閉じる現象であり、その作用がマクロの世界の事象に及ぶものではないと考えられる。しかし、一般相対性理論に基づく時空間も、特定の環境下において、逆因果律の成立する可能性が指摘されている。すなわち、マクロの世界の事象間の相互作用にも逆因果律が成り立つ可能性である。事の発端は、アインシュタインとローゼンが1935年に発表した論文「一般相対性理論における粒子問題」をもとに示した2つの離れた領域を結ぶ時空構造である。この構造は、のちにホイーラーによって「ワームホール」と名づけられた。キップ・ソーンの研究チームは、さらに、特別な条件のもとで構築したワームホールが、時間の逆行を許容する時空間となる可能性を示した。

 「ライファーとピュゼーは2017年、逆因果律に立脚しながらも実在性を担保する手法を見いだし、その中で量子もつれを説明した。異なる量子状態が瞬間的に非局所的な相関を示すのではなく、観測という作用に応じて、未来もしくは過去に情報が伝達されるとの趣旨である(参考文献1)。」

 「マルダセナとサスキンドは2013年、量子もつれを、ワームホールを介した現象として説明した。宇宙空間には、観測できないほど非常に小さなワームホールが無数に散りばめられており、それらのワームホールを介した相関によって量子現象が現れると考えたのである(参考文献1)。」

 ワームホールは仮説であり、いまだに観測されていない。もっとも、因果律自体はマクロの世界で得られた経験則であり、時間は過去から未来に向かって流れるという経験則と同様に、因果律が特殊な時空間環境下で破られても驚くほどのことではないかも知れない。その点、フィクションの世界が先行しており、SF映画「インターステラー」では、過去に起こった出来事を未来から修正しようとする場面が出てくる。また、テレビドラマでは、現代に生きる日本の少女が戦国時代にタイムスリップし、戦闘に加わったりして活躍する。

 参考文献
1. ポール・ハルパーン著「シンクロニシティ 科学と非科学の間に」(あさ出版)
2. マルセロ・グライサー著「物理学は世界をどこまで解明できるか」(白揚社)