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肥満となる過程をシミュレートする

2021-01-17 08:34:32 | ブログ
 参考文献を読んで、人が肥満する過程をシミュレートする数学モデルに興味をもった。我々が食べた食物のエネルギーは、有効に使われずに排泄されるわずかなものを除けば、燃焼されるか蓄えられるかのいずれかしかない。そこで、燃焼分のエネルギーと蓄積されるエネルギーを定量化できれば、食物の摂取量とエネルギー消費量の変化に応じて体重がどれだけ変化するかを示す数学モデルを作ることができる。

 食物や人体の主な含有成分は主要栄養素である脂肪、たんぱく質、炭水化物である。エネルギーのバランスがとれているなら、食べたもののすべては燃焼されるか排泄されるかのどちらかになる。しかし、バランスが崩れていれば、余分なエネルギーとして蓄えられるか、不足分を何らかの組織の燃焼によって補うことになる。

 数学モデルは、非線形の連立微分方程式の形で書ける。しかし、この連立方程式は次の線形微分方程式
   rdM/dt=I-e(M-M0)
で近似できるので、こちらの式を使うことにする。

 ここで、Mは現在の体重(kg単位)、M0は基準となる体重の初期値とされているが、その意味は以下検討の対象とする。r(ロウ)は体組織の有効なエネルギー密度で、kj(キロジュール)/kgの単位で与えられる。Iは単位時間あたりの食物の有効な全摂取量であり、kjで与えられる。e(イプシロン)は体重の1kgあたり消費されるエネルギー量である。

 式の左辺は、人体がもつエネルギーの時間変化率を表す。右辺は、摂取したエネルギーから消費したエネルギーを引く式であり、エネルギー収支のバランス状態を示している。

 M0は、全体重Mのうちエネルギー収支に関与しない部分であり、水分や骨などを含む。体重の約70%は水分なので、これに骨部分などを加え、体重が60kgであればM0は50kgとみてよいだろう。M-M0がエネルギー収支に関与する部分、e(M-M0)がエネルギー消費量である。

 参考文献では、平均的な人ではe=100kj/kgとしているが、この値では、エネルギー摂取量Iまたは体重Mが現実的な値にならない。e=1000kj/kgと仮定した。

 エネルギー収支に関与する人体部分が10kgとするとき、この部分の10%が脂肪で残りが非脂肪とすると、脂肪成分の含有エネルギー(1gあたり約38kj)と非脂肪成分の含有エネルギー(1gあたり約17kj)からこの部分のエネルギー量を計算できる。その値を体重60kgで割ると、エネルギー密度rを計算でき、3183kj/kgを得る。

  ここでdM/dt=0と置くと、定常状態になるM、すなわちM=M0+I/eが得られる。M=60kg,M0=50kg,e=1000kj/kgとすると、毎日の食物摂取量I=10,000kj(約2,400kcal)を得る。

  上記微分方程式の解は、M=exp(-et/r)+cの形をしている。tにかかる係数e/rは、時定数と呼ばれ、Mが収束する速度を決めるパラメータである。

  M=60kgの定常状態にあった人が1kg増量して61kgになるまでのMの時間発展の解は、M=61-exp(-et/r)とすればよい。この解をI=11,000にした方程式に代入すると、t=0におけるMの初期値Mi=60となり、最初の定常値に一致する。また、Excelを用いて計算するとt=39でMの最終値Mf=61となり、Mは新しい定常状態になる。Mfの収束は速いがその終端になって時間が延びるので、増量目標の95%達成時点を事実上の到達時点とみなすと、その時点はt=10である。すなわち、毎日の食物摂取量Iを1,000kj(約240kcal)増量すると、39時間単位で61kgとなり体重は安定する。

  この計算の時間スケールを現実のスケールに変換するために、参考文献の計算結果をスケールの基準とする。参考文献は、e=100kj/kgで1kg増量するには3年ほどかかるとしている。仮にr=3183kj/kg,M=60kg,M0=50kg,I=1,100kjとして計算すると、t=96でM=60.95(増量の95%)に収束する。10倍の時間がかかるので、e=1000kj/kgの場合のt=10は3.6ヶ月に相当する(精度の低い数値ではあるが)。

  M=60kgから70kgに増量するときのMの解は、M=70-10exp(-et/r)とすればよい。このときIは10,000kj増量して20,000kj(約4,800kcal)になる。この場合、Mが69.5kgに達するときのtはt=10になる。1kg増量の場合の所要時間と同じである。時定数e/rは変わっていないにもかかわらずMの増量が速くなるのは、10,000kjもの余剰エネルギーが体重増加を加速するためだろう。

 下図は、60kgから10kg増量するまでの体重の時間変化を示すグラフである。



  食物摂取エネルギーより消費エネルギーが上回れば、体重は減少する。60kgから1kg減量して59kgになるまでのMの解は、M=59+exp(-et/r)とすればよい。このときI=9,000kjであればM=59kgで定常状態になる。計算結果は、t=9でM=59.05kgとなる最終到達時は1kg増量の場合とほぼ同じであり、予想通りの結果である。

  体重60kgの人が、水分は摂取するが食物エネルギーを一切摂取しない(I=0)で何日か過ごしたらどうなるか。生存できるぎりぎりの体重が52kgと仮定したとき、Mの解をM=52+8exp(-et/r)にすればよい。このとき体重52kg以下で死亡という状態が定常状態なのだろうか。Mが52.4kg(減量の95%)に達するときのtはt=9になる。

  絶食状態の人が何の運動もしなくても基礎代謝分のエネルギーが消費されるので、その分のエネルギーが体内に残っていないと生存できない。もし60kgの人が絶食状態で生きていられる期間が20日間くらいであるとしたら、体重限界52kgの仮定を置いたこのシミュレーション結果のt=9はこの期間に相当するのかも知れない。

 参考文献
 サム・パーク編「数学、それは宇宙の言葉」(岩波書店)

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