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伊豆の城ヶ崎海岸を歩く

2017-02-19 07:55:49 | ブログ
 城ヶ崎海岸には、2つのウォーキング・コースがある。ピクニカルコース(約3km・90分)と自然研究路(約6km・3時間)である。

 若い頃は、自然研究路を歩くか、あるいはピクニカルコースを歩いたその足で大室山まで歩き、リフトで頂上に上がったものであるが、年をとると、ピクニカルコースだけで充分という状態である。

 遊歩道に沿って点在する黒松の巨木が見事である。また、黒松を近景として眼下の岩に衝突して砕け飛ぶ波の景観とその響きも豪快である。

 流れ出た溶岩が海と出あってそのまま固まったと思われる場所がある一方、柱状に切り立った岩で構成される崖は溶岩をベースとする変成岩か。

 城ヶ崎海岸は、大室山の噴火の際の溶岩が流出してできた典型的なリアス式海岸と言われるが、そのような単純な説明では納得できないような歴史を秘めているようだ。

 海を隔てて伊豆の大島の島影がごく近くに見える。

 多くの人々の興味は揺れる吊り橋から数十メートル下の岩礁と海を見下ろすスリルにあるようで、その近辺に人が集まる。

 地図で自然研究路の海岸線をながめていて、フラクタルの数理を用いてこの海岸線のことを語れるのではないか、と考えた。

 このような不規則に出入りする海岸線は、自己相似性をもつフラクタル図形の例として挙げられる。自己相似性とは、地図の縮尺を変えても同じように複雑な変化をする性質のことを言う。

 この自己相似性を特徴量として表現するものがフラクタル次元である。一次元や二次元の通常の図形とフラクタル図形を含めて、図形の次元は、次のように定義される。

 「全体をa分の1に縮小したとき、全体は縮小された図形b個からなるならば、b=a^d(^はべき乗を表す)を満たすdが、その図形の次元である。」

 人工的につくられたフラクタル図形として、コッホ曲線やカントル集合が知られている。これらの図形は、目で見て自己相似性を確認できるし、フラクタル次元を計算することもできる。因みに、コッホ曲線のフラクタル次元dは1.26程度、カントル集合のdは0.63程度である。これらの図形は、数学的な規則によってつくられたものであり、幾何的な自己相似性をもつフラクタル図形とよばれる。

 自然の風景として見られる海岸線のような図形は、統計的な自己相似性をもつフラクタル図形とよばれるが、図形の何分の1かを取り出しても全体と相似になっているかどうか明らかではない。そこで、上記定義に従ってフラクタル次元を求めてみることにした。

 手持ちの自然研究路の地図は、縮尺2万分の1である。まず、その海岸線の地図上に、長さ4mmの単体の線分の始点と終点が海岸線に乗るようにつないだ折れ線を書き込み、海岸線の第1近似とした。このコース全体の単体線分の数を計数すると、45個であった。

 次に、地図上の海岸線に沿って、長さ2mmの線分が海岸線に乗るような折れ線を書き込み、海岸線の第2近似とした。このコース全体の単体線分の数を計数すると、101個であった。

 そうすると、定義に従ってこの海岸線のフラクタル次元を計算できる。海岸線の測定結果は、全体を2分の1に縮小したとき、全体は縮小された図形101/45=2.24個からなることになるので、フラクタル次元dを計算すると、1.17程度となる。

 海岸線のフラクタル次元は1.1~1.4と報告されているので、計算した数値は予想される範囲に入っている。

 しかし、第2近似の計数をやり直してみると、130個とでた。累積誤差が60mmにも及ぶとは信じられない。いかに測定結果に信頼性をおけないかに愕然とする。

 そこで、きわめてシンプルなモデルによって、フラクタル次元が自己相似性を反映しているのか否か、調べてみることにした。このモデルは、単純図形を自己相似になるように増殖した幾何的なフラクタル次元ではなく、海岸線を単純化したものであるから、統計的な自己相似性に分類されるものである(統計的と言っても、統計的な処理を何もしていないが)。

 一辺の長さを1とする正方形を内接する円を考える。この正方形の4つの辺は、この円の円周に乗るような折れ線の第1近似と考えることができる。この円に内接する正8角形の8つの辺は、この円周に乗る折れ線の第2近似である。

 この正8角形の各辺の長さを計算し、正方形の辺の長さ1との比は線分の縮尺比率aに相当する。縮小された図形は8/4=2個からなるので、フラクタル次元dを計算すると、1.125程度となる。円周の全体ではなく、半円あるいは1/4円の円弧についても同じ値である。

 次に、この円に内接する正16角形の16個の辺は、この円周に乗る折れ線の第3近似である。

 この正16角形の各辺の長さを計算し、正8角形の各辺の長さとの縮小比率aを計算し、フラクタル次元dを計算すると、1.033程度となる。

 さらに、この円に内接する正32角形の32個の辺は、この円周に乗る折れ線の第4近似である。

 この正32角形の各辺の長さを計算し、正16角形の各辺の長さとの縮小比率aを計算し、フラクタル次元dを計算すると、1.009程度となる。

 ここで、以上の結果が、参考文献にある記述「代表点の数を2倍にするごとに、全体の長さはほぼ一定の倍率で増大する」に合っているのか否か確認する。

 第1近似を第2近似、第2近似を第3近似、第3近似を第4近似に拡大するときのフラクタル次元は、各々1.125,1.033,1.009であった。第1近似の全長と第2近似の全長の倍率を計算すると、1.08となる。第2近似と第3近似、第3近似と第4近似についても同じ計算をすると、各々1.02と1.007となる。

 したがって、計算結果は参考文献の記述とほぼ合っていることがわかる。しかし、この結果は「一定の倍率で増大する」と言えるのだろうかという疑問が生じる。

 フラクタル図形で言う相似性は、相似な図形として小学校などで習う線形な相似とは異なり、べき乗則にしたがった非線形の相似である。従って、これをより正確に表現すれば、「代表点の数を2倍にするごとに、全体の長さはべき乗則にしたがって長くなる」ということになる。

 上記フラクタル次元の計算例では3つのフラクタル次元が現れた。べき乗則のパラメータとして、1つの代表的なフラクタル次元に集約できないのだろうか。

 第1近似、第2近似、第3近似、第4近似の単体線分の長さを各々S1,S2,S3,S4とし、上記近似間のフラクタル次元を順にd1,d2,d3とすると、
   2=(S1/S2)^d1=(S2/S3)^d2=(S3/S4)^d3
が成り立つ。従って、理論的にはd1さえ計算できれば、d2,d3を従属変数として計算できる。

 そこで、この例では、フラクタル図形の特徴量として、d=1.125程度と考えてよいだろう。ただし、海岸線の単体線分とは同じ基準ではないので、海岸線のフラクタル次元との比較に意味はない。

 nを無限大にもっていく操作をlimで表現すると、
   lim(Sn-1/Sn)=2
であるから、
   limdn=lim(2Sn/Sn-1)=1
となる。dnが1に近くなれば、これを2Sn/Sn-1で近似できることが分かる。

 そうすると、海岸線のような任意の曲線についても、より小さい単体線分よりなる折れ線で近似していくと、そのフラクタル次元は直線の次元である1に収束していくことに他ならない。

 海岸線のフラクタル次元を同じ基準で測定し、同じ基準で計算しても、1.1~1.4と幅があり、一意に定まらないということは、各海岸線に個性があるということである。そして、近似の精度を上げていくにつれて、この個性が消失していき、最終的にはすべて同じ1に収束していくのだろう。

 参考文献
 杉原厚吉著「形と動きの数理」(東京大学出版会)
 蔵本由紀著「非線形科学」(集英社新書)